昭和49年

年次経済報告

成長経済を超えて

昭和49年8月9日

経済企画庁


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第2部 調和のとれた成長をめざして

第3章 福祉充実と公共財の供給

2. 財政の所得再分配機能

(福祉と財政の機能)

福祉充実に公共部門が果たす役割は,通常租税や移転的支出などによる所得再分配機能と,財政支出による公共財の供給という資源配分機能の2つに分けて論じられることが多かつた。しかし,現実にこれらの政策の効果は両方の機能をもつていると考えられる。たとえば,租税についても,その徴収対象によつて投資と消費の間の資源配分に影響を与えることが可能である。また,公共財の提供は所得に関係なく必需的性格のものが多いから,その供給が増大すれば,とくに低所得層のうける便益は相対的に大きくなる。

したがつて,福祉充実に対する財政の役割を検討するには,財政収支全体のもつ資源配分機能,所得再分配機能を同時にとりあげる必要がある。とくに,所得再分配機能については,公共財を供給する財政支出の効果が大きいと考えられるので,以下ではこの側面を検討することとしたい。

(財政支出の内容の変化)

まず,財政支出が有する所得再分配効果についてみよう。財政支出は移転的支出と非移転的支出に分けることができる。移転的支出は,本来所得再分配を大きな目的としているものであるのに対し,非移転的支出は個別の財やサービスの提供が主目標であることが多い。したがつて,非移転的支出については,支出内容によつて副次的に生ずる再分配効果が異なつてくる。費目別にみた場合,どのような費目への支出が増大しているのだろうか。

第II-3-9図 目的別財政支出の弾力性

まず,財政支出の性格付けのために地方財政支出の費目別に人口,県民所得総額,面積に対する弾性値を求めてみると, 第II-3-9図 のようになつている。これから,支出をいくつかのグループに分けることができる。第1は,人口弾性値が大きく他は小さいもので,教育費,民生費,衛生費,労働費などが含まれる。これは人口に比例するという意味で,生活関連の公共財(サービス)の提供に対応していると考えてもよい。

第II-3-10図 目的別財政支出の変化

第2は,商工費に典型的にみられるように所得弾性値が高いものであり,産業関連の公共財(サービス)の提供といえよう。国のみが支出している科学技術振興費や産業振興費などもこれにあたる。農林水産業費は本来の性格は,産業基盤関連であるが所得弾性値がマイナス,人口弾性値が大きいという事実は,第1のグループ以上に所得再分配効果をもつと考えられ,機能的には第1グループに近い。

第3は,土木費や警察費など所得弾性値,人口弾性値がほぼ同じような大きさのものである。これには生活関連と産業基盤の両方の性格を有するという側面と都市の過密から生じるコスト上昇の影響という側面が考えられる。

以上のような性格付けとの関連で費目別の財政支出の伸びをみると,福祉施設費,土木費,科学技術振興費,農林水産業費,消防費などが高く一部を除けば第1あるいは第3のグループに属しているものである。このことは,財政支出の所得再分配効果が高まつていることを推測させる( 第II-3-10図 )。

第II-3-11図 所得階層別財政便益率

(財政支出の再分配効果)

次に,財政支出による便益率を移転的支出と非移転的支出に分けて所得階層別にみてみよう。このような計測は一つの見方を紹介したものであつて,いくつかの仮定に基づくものであり(たとえば,河川,下水道費については世帯割によつて,義務教育費については生徒数によつて配分している),便益の評価,所得階層別の配分など難しい問題があることはいうまでもない。

この結果をみると,移転的支出は年収百万円以下の階層が主たる対象となつており,42年度から47年度にかけて便益率はかなり上昇している。また,非移転的支出の便益率についてみると,非移転的支出も低所得層により大きな便益率を与えるという構造を示しており,42年度から47年度へかけての上昇も大きい( 第II-3-11図 )。こうした便益効果をジニ係数による是正率でまとめてみると,非移転的支出の再分配効果の著しく大きいことが目立つており,また,その前進のあとがうかがわれる。こうした非移転的支出の再分配効果を費目別にみると,都市計画や住宅,街路などの土木費や教育費の効果が大きい( 第II-3-12図 )。これには,土木費や教育費の財政支出に占める比率が高いことも影響している。

(財政負担を含めた再分配効果)

次に,財政負担を含めた再分配効果についてみよう。財政負担のうち,大きな比重を占める給与所得に対する所得税について,その再分配効果をみると, 第II-3-13図 のように,税引前所得と税引後所得の分布に関するローレンツ曲線のカーブは,42年度,47年度とも税引後所得の方が45度線に近づいており,所得税による再分配効果がみられる。しかも,それぞれの年度における課税によるジニ係数の是正率をみると,42年度の4.8%から47年度の5.1%へと上昇しており,再分配効果が強まつていることがわかる。また,所得税以外についても,制度が所得税に類似している地方税の個人住民税は,再分配効果を強めているものと推測される。

一方,間接税については転嫁の問題等正確な測定は困難な面が大きいが,一般には負担率でみれば逆進的であると思われ,再分配効果を弱めていることとなろう。

このように財政支出,租税負担の両面において,所得再分配効果は強まつているが,これらを総合的,定量的に把握することが必要である。このため財政支出の便益率とともに,財政負担の階層別負担状況についても今後の検討が必要とされよう。以上に述べてきたように,わが国の所得再分配効果は強まつているものの,国際的にみれば依然次のような問題が指摘できる。第一に,租税及び社会保険負担率や財政支出のGNEに占める比率が低いことは,税体系や支出内容にもよるが財政による再分配効果を低めていると考えられる。第2に,財政支出のうち移転支出の割合が小さいこともまた再分配機能を弱めていると考えられる。

最近における減税や社会保障の充実,福祉関連部門の支出拡大は,再分配面における財政の役割を強化しているが,物価急騰は所得分配の平準化に対する欲求を強めており,今後とも一層の努力が必要である。


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