昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


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第1部 昭和45年度の日本経済

第5章 景気の現局面と今後の課題

2. 国際収支黒字下の政策課題

わが国の経済政策の運営に対し,従来と大きく異つた影響をあたえている問題は,国際収支基調の変化である。昭和42,43年ごろまでは,赤字克服を念頭においた国際収支節度が景気政策の基準であつたが,現在は,国際収支黒字を小幅にする方向で景気政策や資源配分のあり方を考えることが重要となつている。

同時に,国際収支黒字下で起こつた物価上昇にどう対処するかという難問が生じ,44年9月から約1年間,金融引締め策がとられた。この引締めは,国際収支黒字への配慮もあつて直接的にはそれほど強い抑制効果を意図したものでなかつたが,民間設備投資や耐久消費財などの面に景気の自律的変動要因が重なりあつて作用したこともあつて,景気後退が生じた。この間,世界インフレの基調が根強かつたことや昨年11月以来のアメリカの急速な金利引下げとマルク投機の影響が加わつたこともあつて,45年度下期以降のわが国の国際収支黒字と外貨準備高の増大がつづいてきた。

こうしたなかで,国際収支の黒字幅拡大が国内金融に及ぼす影響も軽視できなくなつてきた。外為資金散超額は45年1~6月の1,800億円から,46年1~6月には日銀券増発額3,700億円(季節調整値)を大幅に上回り,1兆4,000億円に達するにいたつた。また,国際収支黒字のもとで,西欧通貨不安の余波が貿易経済面にも影響し,輸出前受金などの流入を通じて企業金融の緩和を促進することにもなつた。

これら国際収支黒字の国内金融への影響は,景気が後退している局面では,金融緩和を補完的に促進する効果をもち,海外からの通貨増発要因が直ちに国内物価高の要因にはね返る懸念は少ない。しかし,もし外貨準備の増加テンポがさらに著しくなるようであれば,景気が停滞的であても政策的に過剰流動性を吸収していくことが必要となり,また景気が上昇して資金需要が活発化する局面では,金融調節のあり方が新しい問題となろう。今後は,国際収支黒字下で海外資金の大幅な流出入が起こり,国内金融の流れが攪乱されることのないよう,機動的な金融調節手段を準備していくことが必要であろう。

いつそう基本的な課題は,内外均衡をめざし,国際収支黒字を積極的に小幅化していくことである。現在の国際収支黒字にはいろいろな要因が重なりあつているが,とくに45年度下期以降の黒字拡大には,国内景気が後退したため,輸入が沈滞し輸出の増勢が加速したという面での,循環的黒字要因が多く影響している。この面からすれば,国内景気が先行き円滑な回復軌道にのり,日本経済は生産力が適切な方向で活用されていくことが循環的黒字増大要因を排除していく道にもつながるわけである。

しかし,真の内外均衡達成には,景気回復によつて循環的な黒字増大要因が取除がれるだけでは十分ではない。開発途上昇国への援助を積極化していくことはもちろん必要であるが,同時に,内外均衡を可能とする基礎的諸条件の確立を急がなければならない。すなわち,わが国の国際収支黒字には,経済体質の転換や制度の変革が円滑に進まないために,資源の適切な内外配分が制約されるという面で構造的要因が働いている。政府は,さきに総合的な対外経済政策に関する8項目を決定したが,これを早急に実行しつつ,真に内外均衡を達成するための問題解決をはからなければならない。

景気は先行き底入れから回復に向かつていくものとみられるが,日本経済は大きな変革の時期を迎えている。これまでの高輸出と高民間設備投資に主導された高度成長から,いまや,高度福祉の実現と社会資本の拡充を積極化しつつ,公共部門主導型の経済発展に移行することによつて,持続的安定成長を確保していく必要がある。財政,金融はそれを可能とする方向で適切な政策の組合わせをはかる必要があろう。


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