昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


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第1部 昭和45年度の日本経済

第3章 引締めから緩和への財政金融政策の展開

1. 景気調整局面の財政金融政策

44年9月に開始された景気調整策のもとで,45年度前半において財政金融政策は景気抑制の機能を果たした。

(1) 財政面からの抑制効果

景気上昇がつづいた45年度前年において,財政面からは次のような抑制効果が働いた。

第27図 財政収支の推移

第1に,45年度予算が景気を刺激することのない程度の規模であつたことに加えて,景気にあたえる影響の大きい公共事業費について,45年度上期中慎重な支出態度がつづけられたことである。今回の景気調整にあたつては,社会資本充実の緊要性が強いなど資源配分上の要請が大きかつたこともあつて,支出繰延べなど本格的な景気抑制措置は講じられなかつたが,45年度上期中は暫定予算による遅れをとりもどさない程度の慎重な財政運営が行なわれ,景気抑制を助ける結果となつた。

第2に,税収が高い伸びを示し,財政収支(国民所得ベース)の黒字化の傾向がつづいたことである。 第27図 にみるように財政総支出はかなりの伸びをつづけたにもかかわらず,租税を中心に経常収入がいつそう高い伸びを示したため,政府バランスは景気抑制的な動きを示した。こうした経常収入の高い伸びは,景気拡大下の税収増という自動安定機能(ビルト・イン・スタビライザー)による面が強いが,45年度については法人税率が引上げられ法人税収の伸びが若干高まつたことも影響している。

なお,45年度には米の生産調整が行なわれ,食管在庫による需要の拡大が抑制され,また,金融面でも食管会計の散超額が縮小して経済拡大要因が小さくなつたと考えられる( 第28表 )。

(2) 金融引締めと企業金融

金融引締め政策のもとで,企業の資金繰りは,44年末から45年にはいつてしだいに悪化し,45年4~6月期,7~9月期にはさらにひつ迫の度を加えた。10~12月期になつて引締め政策は解除されたが,46年1~3月にいたるまで企業金融にはかなりの消費ひつ迫がつづいた。( 第29図 )。

(銀行貸出の抑制)

金融機関の貸出が抑制ぎみであつたことがこうした企業金融引締まりの第1の原因であつた。引締め期間中における金融機関の貸出は従来の引締め期に比べればかなりの高水準であつたが,全体としてみれば旺盛な資金需要に対して相対的に抑制ぎみであつた。全金融機関(信託・政府系金融機関を含む)の貸出増加額の前年同月比をみると,44年10~12月期の64.3%増をピークに増勢はしだいに鈍化し,引締めが解除された45年10~12月期には3.1%増となつている。さらに解除後は都市銀行を中心に銀行貸出は急増したものの,これまで繰延べられてきた資本需要への対応が大きかつたこと,滞貨減産資金が増大したことなどから,しばらくは企業金融を緩和させるまでにはいたらなかつた。とくに大企業向け貸出の抑制がかなりみられたが,これには都市銀行がポジション指導下にあつたこと,しかも銀行が配当自由化などから収益マインドを高め,融資態度が従来に比べ優良中堅中小企業貸出を重視する傾向にあつたことなどが影響している。

第30表 主要企業の資金需給表(全産業)

(高水準の設備資金需要)

しかし,企業金融引締まりのより基本的な要因として資金需要がきわめて高水準であつたことが指摘されなければならない。 第30表 にみるように,主要企業の外部調達必要額は45年度中を通じて高水準に推移した。

資金需要が高水準であつた要因としてまず設備支払いが高水準に推移したことがあげられる。企業の設備投資意欲はすでに45年春ごろから鎮静化しつつあり,発注ベースの設備投資は機械受注の動きなどから推して45年2月にピークに達したとみられるが,大企業についてみるかぎり,過去に発注,着工した設備の完工,ひき渡しが45年度いつぱいつづき,資金負担の大きな原因となつた。近年,設備投資の大型化と機械メーカーの受注累増によつて発注と設備工事完工とのずれが大きくなる傾向にあつたことも景気と資金需要のずれを大きくする原因になつている。

第2は,在庫増大にともなう資金需要が大きかつたことである。45年夏ごろまでは生産が比較的高水準であつたことや,その後は生産抑制にもかかわらず出荷の落込みが著しかつたことなどから在庫率が上昇して大きな資金負担要因となつた。かりに在庫率の過去のすう勢を上回る部分を過剰在庫とみなすと,45年10~12月期には約9,000億円(資本金2百万円以上の製造業)が過剰在庫に見合う後向き資金需要であつたと考えられる( 第31図① )。

資金需要が高水準であつたもうひとつの要因は45年秋ごろから売上高や受注が急速に鈍化し,現金の流れが大きく変化したことである。これは売上げ鈍化によつて利潤や各種引当金に相当する部分が少なくなる一方,過去の好況の余波で決算支出が大きくなつていたこと,受注減少により前受金などその他債務による資金流入がみられなくなつたことなどが資金繰りを圧迫する要因となつた( 第31図② )。

以上のような要因を背景に主要企業の資金繰りが悪化し,支払条件繰延べの動きがしだいに広がつていつた。 第32図 にみるように大企業の支払条件は42年引締め時と異なり,かなり多くの業種で悪化している。とくに,鉄鋼,非鉄,紙パルプ,繊維などでの支払条件悪化目立つているが,こうした動きがその他の主要企業や中小企業への資金繰りひつ迫を波及させる結果となつた。


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