昭和45年
年次経済報告
日本経済の新しい次元
昭和45年7月17日
経済企画庁
第1部 昭和44年度の景気動向
第2章 長期繁栄の迎えた試練
海外経済がインフレ的拡大をつづけ,わが国経済に各種の影響を及ぼすようになつたのも44年度の日本経済が迎えた大きな試練のひとつであつた。すなわち,1969年のOECD諸国の名目国民総生産(主要7ヵ国)は約9%増(43年は9.9%増),輸入(21ヵ国)は15.4%増(同12.8%増)といずれも著しい拡大を示した( 第45図 )。
しかしこうした拡大は物価上昇の加速化をともない,OECD諸国のGNPデフレーター(主要7ヵ国)は約5.5%の上昇と前年(約4.5%)をさらに上回る騰勢を示した。
こうした海外経済の動向についてみると,アメリカ景気は財政・金融両面からの引締めが強化されたこともあつてしだいに鎮静化し,69年10~12月期,70年1~3月期の実質国民総生産の増加率は連続してマイナスとなつた。一方,西ドイツ,フランス,イタリアは設備投資ブームを背景に景気上昇をつづけ,ヨーロッパ諸国の経済拡大テンポは著しく高まり,69年のOECDヨーロッパ諸国の実質国民総生産の成長率は,67年(3.2%),68年(5.0%)をしのぐ6.1%(OECD見通し)となつた。
このように69年の海外経済は,西欧先進諸国の経済拡大が速まつたものの,アメリカ景気が鎮静化したため,OECD諸国の実質成長率は前年に比べ若干鈍化することとなつたが,物価の上昇テンポは多くの主要国で速まる動きをみせた。
第46図 にみるように,欧米先進5ヵ国(アメリカ,イギリス,西ドイツ,フランス,イタリア)の消費者物価,卸売物価は,68年以降伸び率を高め,69年に入つてからも物価上昇の加速化傾向をつづけた。とくにアメリカにおいては物価問題は深刻であり,さきにみたように,強い引締め政策によつて実体面での経済活動がかなり鈍化したにもかかわらず,物価の上昇は衰えをみせず,69年(年平均)の卸売物価は4.0%(68年は2.5%),消費者物価は5.4%(68年は4.2%)の上昇となり,むしろ上昇率は高まつている。
こうした世界的インフレを反映して,各国の金利も高水準となつた。68年末のアメリカの公定歩合引上げをはじめとして,あいついで各国の公定歩合が引き上げられ,さらにこうした金融引締め政策とインフレ下での強い資金需要を反映して,ユーロダラー金利をはじめ各種の市場金利は異例の高水準に推移した。
以上のような海外経済のインフレ的拡大もあつて,わが国には強い輸出需要圧力と輸入原料コスト上昇が生じ,わが国の物価上昇の重要な要因となるとともに,後にみるように景気調整策の実施にあたつてもいくつかの問題をなげかけるなど,長期繁栄は新しい試練を迎えることとなつた。