昭和43年
年次経済報告
国際化のなかの日本経済
昭和43年7月23日
経済企画庁
第2部 国際化の進展と日本経済
4. 経済の発展と国民生活の向上
経済の発展は,所得水準の上昇をもたらすが,それとともに消費構造も変化する。低所得の段階では生きるための最低の消費しかできないが,所得が上昇するにつれてより生理的に快適なもの,より物理的に便利なものへの支出がふえる。さらに所得が高まればより心理的に快適なもの,より文化的に高度なものへと支出の重点が移つていく。第1の段階から第2の段階ヘ移ることは,エンゲル係数の低下,主要食料の澱粉性食品から動物性食品への移行(日本の場合穀類の都市消費水準は30年に対し40年には0.86になつている),衣服の多様化,住居の改善,家庭電化品,乗用車など耐久消費財の普及,レジャーの増大などによつて示される。第3段階ではステイタス・シンボルとしての最新流行の衣服やデラックスな乗用車,豪華な家具や住宅を求め,2台目,3台目の耐久消費財を持ち,あるいはレジャー活動の内容が個性化し独創化していくような現象がみられる。
わが国の消費構造の推移をみても, 第81表 のとおりおよそこのような変化の跡をたどつてきた。しかしながら,エンゲル係数は低下しても,たん白質などの摂取量は少なく,乗用車の普及も欧米に比して低く,住生活の改善も未だしという段階で,第3の段階にはいたつていない。
こうして消費構造の変化に対応して産業構造も変化する。第1の段階では,生活必需品的な消費物資を供給する農業や繊維工業が主導的な産業であつた。第2の段階では家庭電化品,乗用車等の耐久消費財産業の拡大がみられる。第3の段階では,耐久消費財産業も拡大をつづけるが,情報産業など高度に専門的,文化的な第3次産業が登場しよう。第1の段階から第2の段階にかけては,一方において発展する消費財産業の生産手段を供給するという意味で,他方においては成長する経済のもとで労働から資本への代替を進めるという意味で,投資財産業の伸びも大きい。しかし,消費需要の内容がサービス部門に傾斜していくにつれて,前にのべたように消費財産業および第3次産業の伸び方が相対的に高まつていく。
このような産業構造の変化を製造業について国際的にみると, 第65図 のとおりである。わが国の産業構造はかなり高度化したが,高度工業部門の構成比からみて,まだアメリカ,イギリス,西ドイツより遅れていることがわかる。
ところで,貿易および資本の自由化という国際化の中で消費は輸入に対していかなるかかわりあいをもつのであろうか。まず第1に,3-(4)-イでものべたように,バナナ,コーヒー等,生活必需品ではないが,わが国の自然条件から供給できないものの輸入が消費需要の増大(第2段階)に応じてふえる。ついで玩具,雑貨,衣料品等わが国でも供給可能であるが,国際競争力が低下した一部の労働集約商品の輸入がふえる。さらには,わが国にも相応した価格で同様のものがあるか,あるいは国産品はなくても非必需品であるウイスキー,時計,自動車,ミンクの毛皮,ダイヤモンドなどの舶来品がステイタス・シンボルとして求められ輸入が増加するという現象がつづくが,わが国では,いわゆる奢侈的な商品の輸入金額はまだそれほど多くない( 第82表 )。
経済水準として第3の段階に達していないわが国において,もしぜいたくな舶来品の輸入が多くなるとすれば消費のアンバランスという点で好ましくないし国際収支上も問題である。しかしそれ以外の品物が輸入されることは,安価かつ良質な消費財の供給と国内産業の効率化への刺激,あるいは消費生活の豊かさをもたらす1つの条件として評価すべきであろう。