昭和43年

年次経済報告

国際化のなかの日本経済

昭和43年7月23日

経済企画庁


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第2部 国際化の進展と日本経済

3. 産業構造高度化の新展開

(5) 流通部門の近代化

ア. わが国の流通と流通経費の現状

流通部門は,生産された財貨を最終的には消費者の手にとどける機能をもち,経済の近代化に大きな役割をもつているにもかかわらず,日本ではそれがいちじるしく立遅れてきた。そこには,とくに卸売業・小売業がともに零細で,数が多いという基本的な事情に加え,取引の錯綜,大量取引体制の未成熟,非合理的な取引慣行,消費者主権の軽視などがみられる。

運輸経済懇談会の資料によれば( 第76表 ),昭和40年で物的流通経費は3兆9,420億円,非物的流通経費(商業マージン)は4兆8,557億円であつたから,流通経費全体でみると国民総生産の30%弱を占め,各種例示品目についての調査から推察すると,最終需要者価格の50%内外を占めると思われる。生産と消費が距離的に離れているかぎり,大量生産体制への移行によつて流通経費が膨張するのは避け難いが,それを近代化,合理化すれば国民経済的に大きな貢献となろう。30年代以降のメーカーの流通活動への参加,35年ごろからのスーパー・マーケットやディスカウント・ハウスの進出,あるいは40年代に入つてからコールドチェーン,物資別適合輸送,流通団地などが出現した。これらは大量生産,大量消費を背景にした近代化の前進であるが,今後国際化や労働力不足進行でどうなつていくであろうか。

その点を明らかにするため,わが国の流通機構にはどのような特色があり,どのように変化しているかをまずみてみよう。

イ. 卸売業の変化

昭和41年(40年7月~41年6月)の産業間の商品流出入は 第61図 のとおりである。

ここから第1に気がつくことは,卸売業内部の取引がきわめて大きいことである。卸売業の販売金額のうち40%が同業種の卸売業者が相手であり,これが小売業,産業用使用者への販売額とほぼ匹敵している。これは卸売内部の流通段階が多く,簡素化がのぞまれることを示している。約20年前のアメリカでもその割合は23%にすぎず,日本と大きな違いをみせている( 第62図 )。つぎに,卸売業の仕入先をみると,生産者からと卸売業者からとがほぼ半々となつている。アメリカでは生産者からの仕入金額が70%以上で,卸売業からは25%にすぎず,日本ときわめて対照的である。

そこで卸売業について最近10年間の推移をやや詳しくみてみよう。 第77表 は昭和31年からの10年間の卸売業の販売先をみたものであるが,これによると販売金額は経済成長とともに増勢を示しているが,構成比に若干の変化がみられる。すなわち,上昇をつづけてきた卸売業間の取引は39年をピークとして低落し,かわって同一企業内の移動,小売業者への比重がふえている。

卸売業内部ではどうか。卸売業の流通系統には主として生産者または外国から仕入れて,産業使用者,外国,小売業者ヘ販売する「直売卸」系統と「元卸→中間卸→最終卸」系統の二つがある。通産省の資料によつて,従業員規模20人以上の卸売業の流通段階別構成化が39年から41年にかけてどのように変わつたかをみると( 第78表 ),まず販売面では,①卸売業内部の取引割合が中間卸を中心として減少した反面,②小売業への販売割合がふえ,③流通段階別には最終卸の比重が増大している。また仕入面では,①生産者からの仕入れ割合が元卸を中心として増加し,②流通段階別にはここでも最終卸の比重が高まつている。

業種別にみると,業種の性質や生産者の流通支配の度合などによつて異なるが,化学製品,医薬品,化粧品,鉱物,金属材料では直売卸が,繊維品では元卸が主体になつている( 第63図 )。

こうしてともかく卸売全体としてみれば,卸売業間の取引割合が減少し,生産者から仕入れて小売業者ヘ販売する割合が増加している。また,流通段階別にみると,中間卸の比重が低下して最終卸の比重がかなり高まつている。以上のことから中間経路の短縮という卸売業の近代化が徐々ながら進んでいるといえよう。これは,大規模の卸売業において販売額の伸びが商店数の増加を上回つており,大型化の傾向がいつそう推進されていることからもうかがわれる。また,同一企業内の移動がふえていることは,大型化の傾向に加え多店化が進んでいることを物語つている。

ウ. 小売業の変化

小売業の場合,近代化は消費者の便利さを考慮したり,労働力不足に対処して対人サービスを節減したりすることからも促進されている。これまでわが国の小売業は,零細な小売店と百貨店からなる二重構造であつたが,近代化を進める代表的なものとしてスーパー・マーケットやディスカウント・ストアが登場した。

セルフ・サービス店(売場面積の50%以上について商業統計調査によるセルフ・サービス方式を採用している100平方m以上の売場面積をもつ商店をいう。)は通産省の調査によれば41年6月末現在で,商店数4,790店,従業員10万5,千人,年間販売額5,811億円で,2年前にくらべそれぞれ32%,18%,48%と増加しており,この間絶対数がふえただけでなく,年間販売額の小売業全体に占める割合も4.7%から5.6%に上昇した( 第79表 )。

セルフ・サービス店の販売品目についてみると,セルフ・サービス店の小売業に占める割合は5.4%から6.4%になつた。とくに食料,飲料品関係が大幅な上昇を示し,衣料,身回品は若干減少している( 第64図 )。セルフ・サービス店自身の取扱い品目は飲食料品が62%と大宗を占め39年から41年にかけて65%も伸びている( 第80表 )。これらのセルフ・サービス店では,売場面積399平方m以下の規模の店が39年に比べて増加し,全体の80%に近い割合を占めていて地域性の強いことを物語るとともに最終消費単位がまだ小さいことを示している。しかし,1,000平方m以上の大型店は39年に比べ商店数では,さほど増加していないが,労働生産性(従業員1人当り年間販売額)の向上がいちじるしく,年間販売額3億円以上の商店の数が80%という高い比率に上昇するなど大型化の傾向が認められる。

エ. 消費者主導型へのみち

流通部門には2つの方向から影響力が働いている。1つはメーカー側からであり,販路拡張,流通コストの低減のために,流通業者への援助からさらに進んで選別化,差別化,組織化が行なわれている。このようなメーカーの流通介入は,一面においてそのメリットを消費者に及ぼしているが,他面では,不必要な推奨販売等により非価格競争を招来したりして,消費者価格の面での競争が十分行なわれず,消費者の立場から問題となる可能性もある。再販売価格維持制度等もそのような問題をはらんでいることは否定できない。再販売価格維持が認められているものは,現在,医薬品,化粧品など6品目あるが,生産および流通面における合理化の成果を消費者に還元するため,今後,これについて運用面の改善をはかるなど,再検討の必要がある。また,脱法的な行為が行なわれないよう,再販売価維持行為の範囲を明確にするなどの配慮が必要であろう。

いま1つの方向は消費者側からであり,商品の提供が消費者の選択に適合するよう努力することによつて流通部門が発展するという形である。良質,定量,安価な商品が手軽に入手できるというのが消費者にとつて望ましいことであるが,在来的商慣行が幅広く存続している日常品小売業の中にも最近新らしいルートが現われ出したことは注目される。労働力不足の進行による人手とコスト節減の要請およびそれに対応する技術の進歩によりこのような新らしい流通の動きがみられるようになつたと考えられるが,今後は,この種の消費者主導型の流通部門の発展が期待される。こうした形で流通部門の近代化が進められると,大量消費・大量処理ということをつうじて,農水産業や中小企業など生産者側における近代化をすすめる力にもなるであろう。