昭和43年
年次経済報告
国際化のなかの日本経済
昭和43年7月23日
経済企画庁
第2部 国際化の進展と日本経済
2. 国際収支構造の変化とその内容
最近の国際収支では,商品やサービスの取引と並んで資本の取引の重要性がましてきているが,今後は資本自由化の進展や経済協力の強化で,さらにそれが高まるであろう。資本取引は,日本の国際収支にどんな影響を与え,またこれから国際協力をすすめていく上でどんな役割をもつているであろうか。以下,資本の輸入と輸出の両面にわけてみよう。
戦後日本への外国資本の流入は時を追つてその性格を変えてきた。
35年までは年間1億ドル前後の流入にとどまつており,内容的には世界銀行やアメリカの輸出入銀行からの借款が主でコマーシャル・ベースのものは少なかつた。しかし,36年以降になると為替自由化の進展や高度成長もあつて外人投資家の日本経済に対する信用が増し,外債や証券投資等の流入も増大した。しかし,38年になるとこんどはアメリカのドル防衛(金利平衡税の採用等)や欧米各国の金利上昇,国内景気の停滞による資金需要の沈静もあつて停滞し,40年代になつて流入は急減した。41年には借款の返済が集中したことから流出超となつた。しかし,42年の末頃から国内資金需給のひつ迫をみこして,インパクト・ローンの借入,外債の発行を中心に流入は増加した( 第38図 )。
こうした推移をみせた日本の資本輸入にはどのような特徴がみられるか。
形態別にみると,借款,証券投資,外債などの間接投資が大部分で,直接投資は10%前後にすぎない。間接投資のうち過半を占める借款には比較的短期の返済をともなう資金もあり,近年37~39年の流入に対する返済が集中して41年には逆調となつた。また証券投資は,35年まで年間2,000万ドルの流入をみ,さらに諸規制の緩和もあつて増加したが,38年のアメリカの金利平衡税実施後は停滞した。しかし,42年に入るとわが国経済の高い成長力が見直されたことを背景に,7月の資本自由化もあつて好調に流入している。もつとも投機性があるため市況にともなつて変動しやすいという特色がある( 第39図 )。
一方,直接投資の流入は,わが国の相対的にきびしい流入規制があつて,流入規模は年間1億ドルにもみたない。しかしながら,直接投資は短期的には安定外資としての国際収支上の役割も大きく,西欧諸国はその自由な流入を認めており,これによつて外貨準備の増大と産業の近代化に貢献するという面もあつた。わが国も42年7月から資本自由化の一歩を踏み出したが,今後自由化がすすむにつれ,直接投資の流入増加が当面国際収支上の安定資金となることも期待される。
わが国の本邦資本の流出は外国資本の流入を上回つているが,それはどのような性格をもつているであろうか。
まずその推移をみると( 第40図 ),33年までは純流出額は年間1億ドルにもみたなかつた。その後も38年までは3億ドル前後にとどまつていたが,39年以降は,輸出とくに船舶・プラント類の輸出の急増にともなう延払信用の供与を主体にして大きく拡大した。42年の年間純流出規模はほぼ9億ドルに達した。
このような資本輸出の特徴は何か。最近の国際資本移動では先進国間とくにアメリカの対欧直接投資の増加が大きいという特色があるが,わが国の資本輸出の場合は,直接投資の比重が1割前後にとどまり,間接投資が多い。しかも延払信用の割合が過半を占めている。それは輸出面で船舶や開発途上国むけプラント類の比重が高いことがその原因であるが,延払信用が他の投資にくらべ財政資金による補充が高いという事情もあるとみられる。また借款も,ほとんどが開発途上国向け政府借款であり,この点からわが国資本輸出は,西ドイツなどと同様政府資金流出の性格が強いといえる。
第2の特徴は,資本輸出の目的に関する点である。アメリカなどの資本輸出は,一般に直接投資や証券投資を主体にした高収益をねらいとしたもので,世界的な規模での市場進出という目的をもつているものが多い。ところがわが国の場合,形態別では延払信用が多いことは前述のとおりであるが,直接投資についても輸入資源の確保,輸出市場の維持拡大といつた輸出入密着型のものが多い。民間海外投資(延払信用供与を除く)の41年度までの許可累計は12億ドルであるが,そのうち開発輸入など輸入確保を目的としたものが43%,商社等商業関係の投資が16%を占めている( 第47表 )。また最近,繊維等軽工業品にみられるように東南アジア諸国の工業化にともなつて,その輸出競争の激化や輸入制限などの貿易障壁を避けることをねらいとしたものが多くなつている。
第3に,地域別にみると,延払信用は開発途上国向けが7割を占めているが,船舶輸出が多いことから先進国向けもかなりある。一方,民間海外投資についてみると,開発途上国向けが7割を占め,中南米,東南アジア,中近東向けがめだつている。また,借款も開発途上国向け政府円借款がほとんどである。このように,わが国の長期資本の輸出は,その性格が輸出入補完的であることから,貿易構造が最近変化しつつあるものの,なお開発途上国の割合が高いことを反映して,これら諸国向けを主体としている。
ここ数年,わが国の国際収支構造は輸出の急速な成長によつて経常収支黒字型に移行しており,経済協力をよりすすめうる条件が生まれてきた。また開発途上国との結びつきは強いが,南北問題の進展とともにこれらの国との経済協力の拡充が要求されてきている。
過去10年間に,主要援助国であるDAC加盟国の援助の伸びは約60%であつた( 第48表 )。これに対して日本は約5.5倍と伸び,42年の総援助額は855百万ドルに達し,DAC加盟国中上位を占めている。
また,41年12月から営業開始したアジア開発銀行や近く設置される同行の特別基金(農業開発など)についても,わが国は中心的な役割を果たしつつある。
しかし,開発途上国は近年援助要請をいちだんと強めてきており,先般開催された第2回国連貿易開発会議では,先進国が国民総生産の1%を援助に振り向けることに努力するという決議が採択された。もちろんこれには被援助国の自助努力が前提にならなければならない。わが国の援助額は年々拡大しており,その対GNP比は0.74%にあたり(42年),先進国平均をやや下回つているものと思われる。このような点を考えると,援助はこんごわが国資本流出の重要な要因になつてくると考えられる。しかしこうした援助は,道義的な意味ばかりでなく,経済的にみても,長期的には開発途上国の発展をつうじてわが国輸出市場の開拓,維持につながるものであり,世界経済の繁栄へわが国が大きく貢献できる分野として,今後国力に応じてその拡充を図る必要があろう。