昭和43年

年次経済報告

国際化のなかの日本経済

昭和43年7月23日

経済企画庁


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第1部 昭和42年度景気の動き

2. 景気調整策の実施とその浸透状況

(4) 景気の現局面

昭和42年9月に景気調整策を実施してから,ほぼ10ヵ月を経過した現在,景気はどのような段階にあるだろうか。

国際収支はすでに均衡を回復した。総合収支は5月に52百万ドルの黒字となり,季節修正値の基礎的収支も137百万ドルの黒字となつた( 第24表 )。

その主因は前述したように,輸出の増加と輸入の落着きであるが,年初来みられている年率4割前後という輸出の顕著な増勢には一時的な要因もあることを否定しえない。本年にはいつて急速な上昇をみせた世界経済は,このさきも工業国を中心に上昇過程をたどり,それはやがて開発途上国にも及んでいこうが,すでに過熱状態にあるアメリカの景気は増税と歳出削減によつてその上昇が鈍り,世界貿易全体の拡大テンポもある程度弱まるものと考えられる。また,国際通貨問題は,SDR(特別引出し権)の創設について合意がみられるなど国際協調体制が漸次ととのつてきているので,この問題が世界経済と貿易の拡大基調を大きく阻害する要因になるとは思われないが,ドル,ポンド,フランなどには不安要因が解消したとはいえず,それら通貨の動向いかんによつては,貿易や資本取引の障害になることはありえよう。

以上のような国際環境から考えて,これまでにみられたわが国の国際収支改善のテンポが将来も持続するかどうかは問題であるが,輸出信用状の動きや商社の契約状況などからみて,貿易収支は当面好調に推移するであろう。

一方,国内景気は,ようやく,曲り角にきているものと思われる。当庁の「景気動向指数」によると,景気の山に対して5~6ヵ月の先行性をもつ先行系列は,昨年末から50%のラインを割つていたが,総合系列も4月にはほぼ50%のラインに達し,景気の“山”にさしかかつてきたことを示している。引締めをはじめてから,景気の“山”に到達するまでの期間は,前々回が5ヵ月,前回が7ヵ月であつたが,今回も7~8ヵ月で大差なさそうである( 第30図 )。

もつとも,景気が“山”に到達しても,そのあとどのような動きを示すかはなお予断を許さない。

景気調整策実施後,経済の拡大テンポがどう変わつたか。過去2回の経験にくらべてみると 第25表 のとおりである。引締めに対してもつとも敏惑な反応を示すのは民間の在庫投資であり,それによつて国内需要の増勢がめだつて衰える反面,輸出の増加と輸入の停滞によつて国内需要減退の相当部分がうめあわされるため,引締め後も,なお,8~9ヵ月間年率で10%前後の経済成長率(実質)を維持している点は,今回も,前回,前々回とたいして変わつていないようである。しかし,過去2回は,その後2つの点で大きな変化がおこり,景気が後退局面を迎えるとともに,経済の成長がほとんどとまつた。その1つは,その頃から設備投資が減少に転じたことであり,もう1つは,回復期にみられる輸出増勢が鈍化することと輸入素原材料在庫の減少がとまつて輸入が増加することで,この面から国内需要の減退を補う働きがほとんどなくなつたことである。

今回も輸出入の動向については前2回と大差ない経過をたどるものと推測されるが,問題は設備投資の見方であろう。現在設備投資はすでにかなり高い水準に達しているので,前述した法人企業投資予測調査が示すように,このさき減少していくか,あるいは国際化の進展や労働力の不足などを背景とした投資意欲の根づよさがあるので,従来と違つてこのさきもあまり沈静しないか,事態の成行きが注目される。


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