昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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≪ 附属資料 ≫

昭和40年度の日本経済

物価

卸売物価

年度中の推移

 40年度の卸売物価の推移をみると、年度初めの4月から7月まで不況の浸透と共に低下を続けた後、7月を底に反騰に転じ41年4月まで3.7%の上昇を示した.こうした年度中の動きの結果、40年度の卸売物価は年度平均では前年度に比べ1.4%の上昇となった。

第9-1表 卸売物価指数の変動率

 まず年度中の卸売物価の推移を時期を区切って簡単に振り返っておこう。

40年4月~7月

 既に39年末から始められていた金融緩和措置は、この時期に入って4月、6月の再度に渡る公定歩合の引き下げ等によって金融引き締めの全面解除へと進んでいった。しかしこうした金融緩和は、この時期には需要の回復を導くに至らなかった。製造工業の出荷は39年末から頭打ちとなり、金融緩和後も製造工業の生産者製品在庫率は8月まで増加し続け、需給バランスの改善はみられなかった。

 こうした需給不均衡の状態の下で鉄鋼、繊維の主要商品を始めとして、洋紙、板紙、塩化ビニールを中心とする合成樹脂、合板、砂糖等の商品において値下がりが目立った。

7月~12月

 そこで金融緩和措置に加えて、政府は財政面からの需要刺激策を7月下旬に打ち出した。また企業の側でも粗鋼減産を始めとして、綿糸。スフ糸、塩化ビニール管・波板、洋紙、板紙、精製糖、合板等の生産調整による市況対策が一層強められた。

 こうした不況対策の実施を好感して8月、9月と市況は急反発を示した。しかし普通鋼鋼材や綿糸、スフ糸についてはこの時期の回復は最終需要の裏付けを持ったものではなかった。

 普通鋼鋼材については、粗鋼減産による供給の圧縮は製品在庫の大幅な減少をもたらしたが、公共投資関連需要の増加は早急には現れなかったし、弱電、自動車等からの民需の回復もはかばかしくなかった。従って11月に入ってから大手メーカー間の協調体制が動揺するに及んで市況は反落し、12月中旬には多くの品種の市況は7月の最安値近くまで落ち込んだ。また綿糸、スフ糸についても、不況カルテルによる生産の削減は最終需要か弱いことから必ずしも在庫を減少させ需給バランスを改善させるに至らず、インドネシア向け輸出が中断されたこともあって市況は年末にかけて再び悪化した。

 しかし普通鋼鋼材、綿糸、スフ糸以外では生産調整の強化が、需給の状態を除々に改善させていき、市況が回復あるいは下げどまりを示す商品が多くなってきた。

 ガソリン、セメントは39年末から生産調整が進められており、早くから市況は堅調となってきていたが、この期に入ってからは、洋紙、板紙、合板、ナイロン、ポリエステル等市況が下げどまりないし、上昇へ転ずる商品が増加してきた。

 また、海外市況の暴騰による銅市況の高騰が10月ごろから目立った。

40年12月~41年3月

 出遅れていた財政支出が現実に需要増加となってはっきり現れ市況に影響を与えるようにたったのは12月以降である。7月からの反騰は主として生産調整の拡大ないし強化をてことしたものであったが、12月以降公共投資関連需要が次第に活発化してきて、鉄鋼、セメント等公共投資関連商品の市況は、持続的な回復をみせるに至った。

 また18月ごろから高騰が目立った銅市況は海外市況がさらに暴騰したため、国内市況も2月にはトン当たり80万円をこえる異常高値となった。こうした銅市況の高騰は、鋼を原料とする伸銅品、電線、電気機械のコスト上昇による価格引き上げへと波及していった。

不況下における上昇要因

 卸売物価はこれまで景気の変動に従って、後退局面では低下、回復局面では上昇という動きをみせながら長期的にはほぼ横ばいの安定した動きをみせてきた。今回も工業製品をみると、後退期では低下、回復期では上昇という変動の仕方はこれまでと変わりはなかった。景気動向指標によると、40年10月を谷として、景気は収縮局面から拡張局面へと転じたものとみられるが、工業製品の物価指数は、この景気動向指標の基準日付の谷の10月より3ヶ月先行したものの、7月を底に下降から上昇へと転じ、その後は景気の動きと斉合的に動いた。

第9-1図 今回の景気変動期における卸売物価の推移

 しかし総平均指数についてみると、今回の景気変動期において、底は39年6月の100。8であり、39年6月から40年1月にかけて1.0%上昇した後、40年7月へかけて低下したが、0.5%の下落に留まり、40年7月は101.5であった。その後再び上昇へ転じ41年3月には、105.0となった。このように卸売物価総平均指数でみると、卸売物価の動きは、今回の場合景気変動と必ずしも斉合的ではなかった。

 これは、農林水産生産物の価格が景気変動と比較的関連なく動いたことの影響が大きい。39年前半には豚肉、鶏肉の下落が大きく、その後40年に入ってからは1月に米価の引き上げ、豆類、牛肉の上昇があり、農林水産業生産物の価格は景気の変動とは関連なく上昇した。この結果、40年度の農林水産業生産物の卸売物価指数は6.1%の上昇となり、40年度卸売物価総平均は1.4%上昇のうち0.9%は農林水産業生産物の上昇によるものであった。

 また本報告第2部から分かるように農林水産栄生産物のほかに中小企業製品の価格も上昇しており、こうした農林水産物や中小企業製品の値上がりは従来より強まって卸売物価全体を押し上げるほどの影響力を持つようになってきた。

 40年度の卸売物価の動きのなかで、物価水準を押し上げることとなったもう1つの要因は、海外市況の暴騰による銅の異常高である。銅の国際的暴騰は、軍需を中心とする世界的需要の増勢による需給ひっ迫に加えて、主要産鋼国であるチリのチユキカマタ銅山等における大規模な長期ストライキや、ローデシアに対する経済制裁がザンビア─ローデシ7間の鉄道封鎖を招き、サンビア鋼の出荷が制約されるのではないか等へ供給不安があいついだためである。こうした状況の下を銅市況の国際的基準となるロンドン金属取引所(LME)相場が暴騰し、41年に入ってはスエズ動乱時の最高値をこえる高騰を示した。LME相場の高騰に加え、国際的産鋼メーカーの建値もLMEにさや寄せされ引き上げられた。国内での市況の動きも40年11月以降ほぼLME相場と同値で変動するようになると共に、また国内産銅メーカーの建値も40年10月までのトン当たり32万9千円から最近41年6月第5週には51万9千円まで引き上げられるに至っている。

第9-2図 電気銅の海外市況と国内市況

 こうした銅価格の高騰は、伸銅品、電線へと波及しており、さらに原料として銅のウェイトの大きい電気機械のコスト上昇を招き、はん用モーター、大型変圧機等の引き上げも行われた。このような銅価格の上昇は非鉄金属(鋼のほかに亜鉛、鉛等も含む)のみで、40年度卸売物価を0.7%上昇させた。また原料としての銅の値上がりによるコスト上昇のための、機械、金属製品の価格上昇まで含めれば、銅の暴騰による40年度卸売物価上昇分はさらに大きいものとみられる。

第9-3図 銅および銅関連製品の価格の動き

工業製品価格変動の特色

 国内における景気の実勢を反映する指標として、工業製品指数(非鉄金属を除く)の動きをみると、緩やかながら景気の局面に従って循環的な動きを示した。

 第9-4図 にみる通り、今回の景気変動期における工業製品の価格変動には前回と比べて、2つの重要な相違点を見い出すことができる。

第9-4図 景気変動と工業製品価格変動今回と前回の比較

 第1は、変動幅が縮小していると共に、底における水準が高まっていること、第2に金融緩和の市況回復への影響が弱まっていることである。

 景気変動による卸売物価の変動幅は、前回の景気変動期においても小さかったが、今回の変動幅は一層小さくなっている。後退期における価格の低下幅が小さくなると共に、回復期における上昇幅も小さくなっているわけだ。

 こうした前回からの卸売物価の変動幅の縮小に関連して、36年以降の工業製品の需給バランスをみてみよう。

 工業製品の需給バランスの状況を典型的に現す製造工業の生産者製品在庫率指数の動きをみると、 第9-5図 にみるように、前回36年→37年の景気後退期には、36年8月の98.5から38年1月の133.8まで急速に上昇した。

第9-5図 工業製品の需給、利益率と価格の動き

 その後38年の回復期には低下したものの、38年10月の116.0が底であり、後退期に悪化した需給バランスは約半分程度までしか改善されなかった。しかしこの38年における製品在庫率の減少も、一方では、企業間信用の増大という販売条件の悪化の下で生じたものであり、見かけ上の需給バランスの改善という面のあったことも否定できない。

 そして、38年12月に金融が引き締められると再び、製品在庫率は高まっていき、40年後半まで需給バランスの悪化は続いていった。こうしてみると、36年以降、工業製品の需給バランスは、設備投資の34─36年の急速な増大とその後の高水準による生産能力の急速な拡大のもとで、34─36年に比べて悪化した状態を続けていたものとみることができる。このような状況の下で、38年の短期間の景気上昇局面を除いては需給の面からは価格を引き下げる力が働いていたものといえる。

 一方、こうした需給と価格の動きのなかで企業の利益率は36年以降、すう勢的に低下してきた。もちろんこの間生産性の上昇はあった。しかし、賃金の上昇、資本コストの増加、管理販売費の増大等あって、製品コストの低下は、生産性の上昇ほどではなかった。価格の低下がフルコストの低下に見合うものであるなら利益率の低下は生じない。この期間の利益率のすう勢的低下は工業製品の価格がフルコストとの関係において相対的に低下してきたことを示すものといえる。価格の下落によって企業の利益率が低下するようになると、企業は生産調整等によって価格の低下を阻止しようする。特に今回の景気後退期においては後に述べるように企業の価格低下阻止力にはかなり強まってきたものがみられた。

 このように36年以降、一方において需給の状態はほとんどの期間価格低下要因として働き、景気の上昇局面においても、価格の大幅な上昇をもたらすような需給がひっ迫する状態は生じなかった。他方、景気の後退局面においては、企業の利益率が低下しているだけに、企業の価格低下阻止力が強まってきて、大幅な価格の低下は生じなかった。基本的にはこのような二つの力が働いて、36年以降工業製品価格は、変動幅を縮小させながら、すう勢的には横ばいの動きを示してきたわけである。

 今回においても、金融緩和後6ヶ月に渡って価格の低下か続き、生産調整の強化、財政面からの需要刺激があって初めて価格が下げどまりから上昇へ転じてきたこと、また7月以降上昇に転じた後も、銅の異常高とその波及という国内の景気の実勢と直接関連のない要因を除去してみた場合、上昇テンポが緩やかなのも、こうした36年以降の背景のなかで理解することができる。

 以上のような背景のなかで、40年度の工業製品価格の動きにおいて特に大きな要因として作用したものとみられる生産調整と、財政面からの要要刺激の2点についてみてみよう。

 33年や37年の景気後退期にも価格の低下阻止と回復のための市況対策として不況カルテル、勧告操短、自主減産等の形式による生産調整は実施された。しかし今回の後退期における生産調整についてみると、実施される分野が広がり、価格低下阻止効果がこれまでより強まったものがみられた。

 独禁法24条に基づく不況カルテルの実施件数をみても、33年の4件、37年の1件に比較して、今回は、18件と増大している。もっとも今回の場合これまで勧告操短の形式で行われることの多かった生産調整が不況カルテルの形式で行われるようになった事情もあるが、 第9-2表 にみるように幅広い分野において不況カルテルが実施された。不況カルテル形式による生産調整以外にも、行政指導による粗鋼の減産、石油業法による石油製品の生産調整、セメント、合繊、家庭電器、洋紙、塩ビ樹脂等において自主減産の動きがみられた。

第9-2表 40年度に実施された不況カルテル

 しかし今回の場合特徴的なのは、生産調整が幅広い分野において行われたことに加えて前回及び今回の不況期に生産調整が実施された主要商品のうち普通鋼鋼材、ガソリンについてみると生産調整の価格低下を阻止する効果がこれまでに比べて、より強まったとみることができることである。これらの商品について、前回の市況低落時と今回における、生産、製品在庫、価格の動きを比べてみると、明らかに今回の生産調整は、前回に比べて強力に実施され、減産により在庫が大幅に減少し、価格の低下を阻止する効果を持ったことが認められる。

 普通鋼鋼材についてみると、前回は37年7月から行政指導による操短が始められたが、輸出向けが操短の規制外にされたこともあって、操短開始後も生産はむしろ増大し、在庫は一時的に減少したが、87年9月から11月にかけて再び急増した。価格の動きも、操短開始後一時的に減産を好感して反発したが2ヶ月後には再び低下し、37年末にかけて操短開始時より一層下落した。しかし今回は40年7月から行政指導による粗鋼減産が実施されると、生産、在庫とも大幅に減少、供給抑制による需給バランスの回復がみられた。この結果価格も8、9月と急反発した。

 その後11、12月と反落に転じたが、減産開始時の7月を下回るまでには至らず、41年に入ってからは官公需の増大もあって再び強含みに転ずるという経過をたどった。

 ガソリンも、 第9-6図 ②にみるように今回は前回に比べ、減産の幅は大きく、在庫は大幅に低下し、生産調整による需給バランスの改善、価格の低下阻止効果がみられたのは、普通鋼鋼材と同様である。

第9-6図 減産と価格への効果

 また 第9-7図第9-8図 にみられるようにセメント、合繊、塩ビ波板等、製品在庫を大幅に圧縮させるほど減産は強力に実施され、価格の低下がくいとめられた。このほか、合板、板紙、塩ビ樹脂等生産調整が実施された商品については、多かれ少なかれ、供給の抑制による需給の改善があり、41年に入るまでには価格は上昇ないしは下げとまりを示した。

第9-7図 合成繊維の需給と価格

第9-8図 硬質塩化ビニル波板の需給と価格

 もっとも綿糸、スフ糸、精製糖等構造的能力過剰問題をかかえている業種においては、生産調整が需給バランスを改善させることにはならなかった。

 しかしこうした生産調整による需給の改善は、需要の増大を伴わない限り、本格的な価格の回復にはつながらない。工業製品価格指数(非鉄金属を除く)は40年7月を底に反騰に転じたものの、9月以降12月まで横ばいを続けたが、この期間は主として生産調整による価格低下阻止効果によって価格は維持されていた面が大きかったものといえよう。価格は下げどまったが、本格的な上昇力を持つには至らなかったわけだ。

 40年7月末に方針が決定された財政面からの需要刺激策は、40年末近くになってようやく、需給、価格の面に効果を持つようになった。 第9-9図 にみるように、財政支出のうち公共事業関連支出は、10月まで前年同期を下回る水準にあったが11月以降前年を上回る水準に回復し、12月から41年3月の年度末にかけて高水準であった。このため公共事業関連費の支出増は、直接的には大型形鋼、鋼矢板、セメント等公共事業関連商品の需要増大となって現れ、40年末以降のこれらの商品市況の回復を持続させるようになってきた。

第9-9図 公共事業関係費支出と公共事業関連財の生産

 41年に入ってからは、このような官公需の増大に加えて、民需も、自動車、電気機械、造船等を中心に徐々に増加してきて、卸売物価の回復も持続的なものとなってきた。しかし工業製品の回復のテンポは、海外要因による銅の高騰による上昇分を別にすれば、従来の回復期の上昇テンポより緩やかであった。工業製品指数(除く非鉄金属)は40年7月の底から41年4月までの9ヶ月間に1.6%の回復を示している。これは前々回の回復期における底からの9ヶ月間における2.9%の回復より小さいことはもちろん、前回の37年10月から38年7月までの9ヶ月間における2.1%回復よりも小さい。

 このように今回の工業製品の価格の回復テンポが緩やかであったのは、需要が回復しても過剰能力が解消していないからである。しかし今回は、需給アンバランスが大きかったにもかかわらず、生産調整によって価格が下がらなくたってきたことは注目されよう。

消費者物価

概況

 40年度の消費者物価上昇率は前年度比7.4%に達したが、これは騰勢が本格的になった36年以降でも年度間上昇率としては最も大幅な部類に属する。本報告 第21図 にみられるように、景気の山である39年10月から谷の40年10月までの期間にも騰勢が弱まることはなかった。

 本報告 第15表 によって、これまでの景気後退期における動きと比較してみると、29年や33年の場合には、消費者物価は景気後退と共に弱含みに動いた。しかし、37年、40年になると景気後退にもかかわらず高騰を続けるかたちに変わってきた。消費者物価はもはや好不況にかかわりなく値上がりを続ける性格をもつに至った。

 40年度における消費者物価上昇の内容を家計の費目別でみると、本報告 第17表 の通り、食料費の8.8%上昇、雑費の7.9%上昇が目立った。上昇に対する寄与率でみると、それぞれ55.7%、29.8%となり、この両者で上昇分の85%以上を占めた。また、特殊分類でみると(40歴年)、農水畜産物の13.3%上昇、個人サービス、家賃の11.0%上昇が大きく寄与率では両者を合わせて75%となり、さらに、中小企業製品を加えると全体の9割に達する。

 このように、食料費と雑費あるいは農水畜産物、個人サービス、家賃及び中小企業製品の値上がりが大きく、これらが全体の物価上昇の8~9割を占めるという40年の事態は、本報告 第60図 から分かるように、35年以来の傾向とほとんど同じものであった。このようなかたちで消費者物価の上昇か続いてきた基本的な原因は既に本報告第2部で示した通りである。

消費者物価上昇の内容

 以上のように、40年の消費者物価上昇の内容は35、36年以降の傾向と基本的には変わらなかったが、本報告 第17表 から分かるように、農水畜産物と公共料金の上昇率は36年以降の各年別でみるとかなり大幅なものであった。このことと関連させてみるなら、40年初から最近までの動きのなかで目立った点として第1に消費者米価の2年連続引き上げと39年いつはい続けられた公共料金据え置き措置の解除を指摘することができる。第2点は野菜、鮮魚、果物等季節商品の値上がり、特に39年10~12月から40年7~9月にかけての値上がりであった。ここでは、この2点に焦点を合わせてみよう。

消費者米価、公共料金の引き上げ。

 消費者米価平均は40年1月に14.8%、41年1月に8.6%それぞれ引き上げられた。 第9-10図 でみられるように、消費者米価は37年12月の平均12%引き上げ以来、39年いっぱいは据え置かれたが、この間、生産者米価は「生産費、所得補償方式」のもとで年々10%程度ずつ上昇してきた。39年産米が平均14.2%引き上げられ、生産者米価を大幅に上まわった結果、食管特別会計の赤字が増大して、40年1月に消費者米価の引き上げが行われ、さらに、41年産米の平均9.2%引き上げにより、41年1月再び消費者米価が値上げされるという経緯をたどった。

第9-10図 生産者米価と消費者米価の推移

 また、39年中の据え置き措置が解除になったあと公共料金の広汎な引き上げが目立った。 第9-3表 によって、40年1月から41年3月までの公共料金の動きをみると、多かれ少かれ値上げされた料金が多い。このなかで、全国的な規模で、または主要都市の多くを含んで値上げされたものに、40年1月の診察料、バス代(六大都市)、同4月の公立高校授業料や今年に入ってからの私鉄、国鉄の旅客運賃(2月及び3月)等があり、7月には郵便料が値上げされた。そのほか、一部の都市で値上げされた公共料金はかなりの数にのぼっている。 第9-3表 で分かるように、特に、バス代、水道料、公営家賃、入浴料、清掃代等の値上げが頻発した。地方公営企業の料金改訂状況を自治省「昭和40年度地方公営企業決算(見込み)の概要」によってみると、40年1月から41年3月までの間に、バス代は46都市中28都市で市内電車賃は14都市中3市でそれぞれ値上げが実施され、また、40年度中の水道料値上げは法適用上水道510事業中3割にあたる154事業で実施された。

第9-3表 40年1月~41年3月公共料金の上昇時期と前月比上昇率

 このような公共料金の動きをやや長い期間(35年以降)についてみると、本報告 第22図 のように、公共料金全体の上昇率は35年から41年1~3月までに23.7%であった。詳しくみると、電報・電話料、電気・ガス代、テレビ・ラジオ受信料等ほぼ据え置かれたものもあるが、交通、保険衛生、教育、水道、公営住宅等の料金上昇率はかなり大きかった。中でも、私鉄運賃、バス代、入浴料、清掃代、家賃はこの5年あまりの間に4~5割値上がりしている。

 このような公共料金上昇は人件費や資本費を中心とするコスト上昇圧力によるのだが、これは賃金上昇と生産性あるいは効率向上の遅れとのギャップ及び資本と人口の都市集中(これに伴う施設能力不足に対処する急激な施設拡充等)によってひき起こされた面が強い。地方公営企業の交通、上水道事業等にはこうした影響が集中的に現れている。バスや市内(路面)電車はもともと労働集約的な性格を持っているため賃金上昇の影響を受けやすいうえ都市過密化のため、大都市路面交通の渋滞による効率低下が生じている。例えば、東京・大阪・名古屋の三大都市における市内バス・路面電車の速度低下状況(表定速度)を地方公営企業年鑑によってみると39年度には35年度よりいずれも時速で10%内外低速化した。同じ期間に六大都市の実働一日一車当たりの輸送人員も10%程度減少している。この結果、六大都市バス事業ではコストに占める人件費の割合は35年度の63.0%から40年度の68.6%に高まった。このような人件費の高騰は 第9-11図 のように料金収入に対する人件費の割合でみるとさらに著しい。一方、上水道事業は資本・人口の都市集中による需要増加に対応する急激な水道施設の拡充に伴い、 第9-12図 にみるように企業債支払い利息と減価償却費が急増して、コスト上昇が加速されている。この傾向は大都市において特に顕著である。このようにして、40年度には前述のようにかなりの団体において料金改訂が実施されたが、地方公営企業の経営状況はここ数年来の悪化傾向を変えるには至っていない、自治省の前掲資料によると、40年度には前年度の296億円を上回る322億円の単年度赤字を生じた。この結果、40年度までの累積欠損額は総額946億円に達し、このうち(事業別にみると)交通・水道が87.2%、(経営主体別にみると)七大都市が78.7%を占める状況となった。このように賃金、生産性ギャップや都市過密化は、地方公営企業に典型的に現れているように、公共事業の公共性と経済性(の調和)に深い分裂をもたらす重要な要因になっている。

第9-11図 交通事業における人件費の推移(人件費/料金収入)

第9-12図 給水原価(1m3当たり)の推移

季節商品の高騰

 40~41年の消費者物価の動きで第2の特徴といえるのは季節商品の高騰であった。 第9-4表 でみるように、40年度では野菜が引き続いて10%をこえる上昇を示し、鮮魚の値上がりは加速され39年度に下落した果物も反騰した。この結果、季節商品全体で39年度の6.6%を上回る10.4%の上昇となった。四半期別の前年同期比でみると、39年10~12月から40年7~9月までの期間の上昇率が大きい。この期間には野菜と鮮魚が前年同期よりそれぞれ30~即%、10~20%高騰したためである。40年10~12月以降は野菜の値下がりを中心に季節商品全体では1年前よりやや低い水準になっている。このような経過から、激しい騰落を繰り返しつつ、次第に値上がりしていくという季節商品特有の価格の動きが分かる。ちなみに消費者物価指数の中分類で35~40年の上昇率をみると野菜の値上がりが最も大きく、5年間で2倍近くになっているし、鮮魚がこれに次1.8倍になっている。また、40年度中の月別の変動中をみると、野菜では最高の4月は最低の11月の約2倍、鮮魚では最高の9月は最低の6月の3割高という大きな開きがある。

第9-4表 季節商品を中心とした四半期別消費者物価の推移

 このような季節商品物価の不安定性と強い騰勢の原因を野菜生産についてみよう。野菜価格高騰の原因には気象条件や流通上の問題があるが、さらに次のような事情のあることが重要である。第1は高度成長過程で生じた若年層を中心とする農林労働力の流出が質の高い労働力の投入を要する野菜生産の拡大を遅らせ、その零細性や副業性を固定させるように働いたことである。38年度「農業調査結果報告書」によると、野菜作付け農家は総農家数の9割に達するが、このうち野菜販売農家は4分の1に過ぎない。いま、 第9-5表 によって、39年における野菜販売農家の性格をみると、10アール未満の零細作付け農家の占める割合が割近くに及び、30アール未満では8割近いという零細性が明らかである。さらに、野菜販売による現金収入が年間5万円未満の農家が全体の約3分の2、農業現金収入に対する野菜収入の割合が20%未満の農家は全体の3分の2以上であり、逆に現金収入50万円以上、またはその比重が80%以上の農家はそれぞれ5%に満たないというように副業的性格も濃厚である。このような零細な副業的経営は一面で生産性向上が阻まれることから価格上昇圧力を強め、他面で供給の不安定さを通じて著しい価格変動を生み出す。第2は供給地域の遠隔化である。高度成長に伴う資本と人口の都市集中は都市圏を拡張させた。都市近郊で工場用地化や宅地化が進むことによってまた地価高騰や公害が生ずることによって、近郊農業として発達してきた野菜生産は少なからぬ打撃を受けた。このため、野菜生産地域は次第に都市近郊から遠ざかる傾向を示した。 第9-13図 によって東京中央卸売市場への産地別野菜入荷割合をみると30年代を通じて中間あるいは遠隔地帯からの供給割合が次第に増加し、40年には全入荷量に占める近郊産野菜の比重は別%を割り込むに至った。こうした産地遠隔化は新産地体制の立ち遅れによって、また、流通コストの増加によって価格高騰の要因をつくり出す。このような野菜生産の零細性、副業性と産地遠隔化は都市需要に対する供給体制のたち遅れを意味するのだが、39~40年には加えて全体としての野菜生産も停滞の様相をみせてきた。 第9-14図 にみるように、35年以降米麦を中心に耕種生産が衰退するなかで、果物と並んで比較的高い生産の伸びを示してきた野菜も39~30年の増加率はかなり鈍化した。作付面積も年には微減した。このような動きは価格上昇をさらに強める可能性がある。

第9-5表 野菜販売農家の性格

第9-13図 東京市場における地帯別そ菜入荷割合

第9-14図 耕種生産と農作物作付延べ面積の推移

消費者物価上昇の影響

 以上みてきた米価、公共料金や季節商品特に野菜の値上がり傾向は、農水畜産物、個人サービス・家賃及び中小企業製品等を中心とする消費者物価高騰の一環であり、いずれも高度成長によって引き起こされた諸部門間の不均衡の所産だという面が強い。

 このようにして、不況期においてすら、消費者物価の高騰か続いたために国民生活への圧迫は最近になく厳しかった。消費者物価の高騰は、 第9-15図 にみるように、40年については都市勤労者の実質所得を低下させる大きな原因となった。不況下にあって、名目所得の伸びは過去5年間のそれを下回ったが、30年代前半に比べると低いとはいえない。名目所得7.3%の伸びを消費者上昇率が上回ったために、実質所得が停滞したわけだが、これは30年代にはみられなかったことである。このような事態は物価、賃金の悪循環という点からみて非常に警戒を要するものである。41年春闘による賃上げ率が前年をやや上回る結果になったことには、景気回復の兆しの反映と共に、物価上昇の影響をみないわけにはいかない。本報告第2部で指摘したように、適正競争の維持、低生産性部門の生産性引き上げや都市過密化対策等を通じて、物価の安定を実現することがますます緊急な課題となっている。

第9-15図 消費者物価上昇と実質可処分所得の伸び


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