昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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≪ 附属資料 ≫

昭和40年度の日本経済

鉱工業生産・企業経営

昭和40年度の鉱工業生産

調整から回復へ

昭和40年度の生産活動は前年度の13.8%増に比べて、3.6%増と伸び悩んだ。しかし、四半期ごとの前期比でみると、第2-1図に示すように、4〜6月0.4%減、7〜9月1.0%増、10〜12月横ばい、41年1〜3月3.7%増と、40年4〜6月を底に上昇に転じ、41年に入ってからは上昇テンポを早めている。

第2-1図 鉱工業生産、出荷、在庫および在庫率の動き

40年度の生産者製品出荷指数も前年度の伸び12.5%に比べ4.7%増と低かったが、期別にみると、4〜6月0.8%減、7〜9月2.1%増、10〜12月0.6%増、41年1〜3月3.9%増と生産と同時に底入れし、生産をやや上回るテンポで回復に向かっている。 このため、生産者製品在庫は、39年秋に生産が停滞に転じた後も増加幅をせばめながらも累増を続けていたが、40年9月をピークにようやく下降へ転じ、在庫率も同じく9月をピークとして減少傾向に向かい、41年5月には118.3とほぼ38年の末ごろの水準に近づいている。

生産活動の特色

今回は「戦後最大の不況」といわれ、生産調整は従来に比べて広汎に行われたが、鉱工業全体の生産活動は不況期としては底がたい動きをみせた。 財別にみると第2-2図のように大幅な減少をみせたのは耐久消費財だけで、資本財、建設資材、非耐久消費財の減少幅は極めて小さく、生産財は不況期間中もおおむね増勢を続けた。

第2-2図 財別生産の推移

鉱工業総合では本報告第17図(I)のように今回と前回とは極めて似た動きを示しているが、これを業種別にみると家庭電器、カメラ等の耐久消費財と鉄鋼とが今回と前回とで対照的な動きを示した。

耐久消費財は第2-3図のように前回は景気調整の影響をほとんど受けずに上昇を続けたのに対し、今回は景気が山に達する以前から下降過程に入っている。 これは、家庭電器については都市家庭への普及が一巡したこと、更新需要が出遅れたこと、カメラについてもハーフ・サイズカメラの普及が一段落したあと中核となる新機種がでていないことが大きな原因となっている。

第2-3図 耐久消費財生産の推移

鉄鋼は第2-4図のように耐久消費財とは逆に今回は前回ほど深い落ち込みを見せず、比較的堅調な動きを示した。 これは主として輸出の増加が生産を下支えしたからだ。 すなわち、40年度の鋼材輸出は最大の仕向け地であるアメリカ向けの好調によって粗鋼換算で全生産量の25%内外に達したが、輸出向け船舶、機械、自動車等に含まれている鋼材─いわゆる間接輸出─まで含めると輸出の比重はさらに大きいものとなる。

第2-4図 鉄鋼生産の推移

一方、輸送機械、化学工業、石油製品等の成長業種は、今回の不況下においても第2-1表のようにかなり大きい伸びを示した。 40年度の鉱工業生産は前年度より3.6%種増加したが、これら3業種の寄与率は82.4%で前回不況期(37年度)における寄与率46.9%よりも著しく大きくなっている。 これは、3業種の生産の伸び自体が前回よりも若干高かったことにもよるが、鉱工業生産に占める比重が前回の19.1%から23.1%まで高まったことによる影響が大きい。

第2-1表 業種別寄与率の比較

これら業種のなかで特に目立った伸びを示したのは次の品目であった。

輸送機械では、船舶、自動車、自動二輪車の輸出が活況を呈したほか、内需もモータリゼーションの伸長や流通合理化等で、1,000㏄以下の乗用車や小型トラックの増勢が続いた。 化学工業では、石油化学製品の内需が堅調を続けたことと、化学肥料や有機合成品の輸出が好調なことが目立った。 また、石油製品では、ガソリンやナフサの需要増大が生産上昇の要因になった。

このように、鉱工業生産の落ち込みは小さかったが、それを下支えした需要側の動きを次にみよう。

個人消費は前回より弱かったものの、輸出の増加が大きく、在庫投資や設備投資も不況期としては減少幅が小さかった。昭和40年度の輸出はアメリカの好景気、日本の重化学工業品の輸出競争力の強化、国内の不況による輸出圧力の増大等に支えられて、前年度を19.3%も上回った。 しかも、輸出に占める鉄鋼、船舶、自動車、化学肥料、有機化学製品等重化学工業品の比重はさらに高まった。 40年度の輸出の伸び率、輸出の重化学工業化率は共に前回を上回ったから、輸出が鉱工業生産のおち込みを下支えした力は前回よりも大きかったといえる。 このことは、第2-2表のように40年度に鉱工業製品の輸出比率が急上昇したことからも伺われる。 すなわち、39年度には11%であった輸出比率が、40年度には14%に上昇した。財別にみてもすべての財で輸出比率が増加しており、特に資本財、耐久消費財、生産財の増大がめざましい。

第2-2表 輸出比率

また、在庫投資や設備投資の動きをみると、それらが減少して需要を減らし、生産を低下させる要因として働いたことは、従来と変わりなかったが、「在庫投資」及び、「設備投資」の項で述べるように、今回の減少は前回に比べて相対的に小さく、従って、生産を低下させる力も弱かった。

生産調整の進行

今回の不況期は、従来に比べて生産調整を実施する業種が増え、それがかっての成長業種にまでも及ぶという特色があった。 既にテレビ、扇風機、大型トラック、金属加工機械、鋼管、ホットコイル等では39年秋どろより自主的調整体制に入っていたが、40年に入ると、はん用モーター、アルミ圧延品、ナイロン、冷延薄板、亜鉛鉄板、機械構造用炭素鋼というように数多くの生産調整業種が出現するに至った。 また、不況カルテルは棉糸・スパンレーヨン糸等公正取引委員会の認可を受けたものは、本報告第2表に示すように18品目という多数に及んだ。 さらに、40年の7月からは行政指導による粗鋼の減産も行われた。 このように、今回の生産調整は件数としても多く、品目としても広汎であり、また、かって高度成長の中核をなしたテレビ、扇風機、冷蔵庫等の家庭電器、設備投資ブームによって高成長を遂げた金属加工機械、はん用モーター等の産業用設備機械が減産の中心となった。

このように生産調整が行われているうちに、不況下でも伸び続ける需要があったので、需給バランスは次第に改善されてきた。また、需要も40年10〜12月ごろになると回復に転じてきた。

需要の動きをみると、在庫投資は40年7〜9月まで減少したあと増加に転じた。 輸出は10〜12月に一時伸び悩みをみせたものの41年に入りアメリカの好況等に支えられて増勢を回復している。 公共事業関係支出は40年11月から進ちょくし始め、41年度にはいっても支出促進の効果で前年度を大幅に上回る支出が続いている。 消費や設備投資の回復は遅れているが、在庫投資、輸出、財政の増勢に支えられて41年にはいり生産調整を緩和ないし打ち切る業種が相次いでいる。 すなわち、テレビの生産はドン底の40年8〜10月には月産31万台であったが、41年4〜5月には43万台まで回復した。 ナイロンも41年3月には生産調整前の生産水準を回復している。 粗鋼の減産も4〜6月には10%から5%に緩和され、塩ビ樹脂も35%操短が27%へ緩和された。 こうした生産調整の緩和、打ち切りの結果本年にはいってからの生産は1〜3自前期比4.0%増、4月前月比1.5%増、5月1.4%増とめざましい立ち直りを示している。

回復に転じた在庫投資

在庫投資の回復

民間非農業在庫投資(総在庫投資から景気に敏感でない政府及び個人農業在庫投資を除いたもの。以下単に「在庫投資」という。)は金融引き締めをきっかけとして39年第1四半期の2兆円から41年7〜9月の1千億円(速報)まで減少したあと10〜12月から回復に向かった(第2-5図)。ピークからボトムまでの期間は6四半期で前回(4四半期)よりは長かったが、前々回とは同じで特に長かったというわけではない。

第2-5図 民間非農業在庫投資

在庫投資回復の足どりを形態別にみると原材料在庫投資は最も早く40年4〜6月から回復に向かったが、その後の上昇テンポは前回に比べ極めて鈍いようだ(第2-6図)。 4〜6月から回復に向かったのは、7〜9月から輸出の増勢を背景に鉱工業生産が緩慢ながら上昇に転じたのでこれに先立ってそれまで極度に圧縮されていた在庫の補充が行われたこと、また金融が緩和していたのでそれが可能であったこと等によるものであろう。 回復テンポが鈍かったことには40年中の鉱工業生産上昇テンポが緩やかだったこと、在庫管理技術の発達等が影響していよう。

第2-6図 製造業在庫投資

仕掛け品在庫投資も4〜6月から回復に向かっているが、40年中の回復テンポは大きなものとはいえない(第2-6図)。 仕掛け品在庫の中で資本財産業在庫が大きなウェイトを占めているので、これには設備投資の回復が遅れたことが強く影響しているものと思われる。

このように原材料、仕掛け品在庫投資とも4〜6月から増大に向かったがそれは極めて小幅であり、しかもその間流通在庫投資と製品在庫投資が減少したので在庫投資全体としては7〜9月まで減少を続けた。 しかし10〜12月以降流通在庫や製品在庫の調整がかなり進むと在庫投資全体も回復へ向かうこととなった。

流通在庫は従来最も早く調整にはいり、最も早く積み増しに転じることが多かった(第2-6図)。 今回も流通在庫投資が減少し始めたのは金融引き締めの1期前で最も早かった。 しかし、回復に向かったのは40年10〜12月からで原材料在庫投資仕掛け品在庫投資より半年も遅かった。 流通在庫の調整が遅れたのは生産者の押し込み販売等により滞貨が生産者在庫から販売業者在庫へ移行するケースが増え、販売業者在庫が生産者製品在庫的色彩を強めたためと思われる。 流通在庫のうちテレビ等家庭電器製品は39年末から在庫減らしが行われ、41年1〜3月には在庫は下げどまり、在庫調整をほぼ終えている。 自動車も40年10月以降予想を大幅に上回る在庫減らしが行われており、41年に入ると鋼材等ほかの品目も急速に在庫調整が進んでいる。

製品在庫調整は最も遅れていたが、40年9月以降在庫調整は順調に進んでいる。 すなわち、鉱工業製品在庫率は40年9月の133.1をピークとして下降に転じ41年4月には119.0と10%も減少し、38年のボトムに近い水準まで低下している。 特に大きく低下したのは第2-7図のように非鉄金属の29.7%減、電気機械の27.1%減、鉄鋼の18.5%減等で、このような在庫率の低下に伴い企業の在庫過剰感は急激に減少している。 当庁「法人企業投資予測統計調査」によると第2-3表のように製品在庫水準を過大とみるものは40年6月の47%をピークに41年3月の31%(予測)まで減少し、不足とするものが次第に増加しているので、41年前半までには在庫調整は終了するものと思われる。

第2-7図 主要業種製品在庫率の推移

第2-3表 在庫水準の判断(製造業製品)

今回の在庫変動の特色

今回の在庫変動の特色の第1は在庫投資減少の経済全体に与えた影響が前回、前々回よりも小さかったことである。 第2-5図にみるように在庫投資のピークからボトムまでの減少額は前回、前々回とほぼ同じであったが、実質国民総支出は32年度の11兆7千億円、36年度の18兆1千億円から39年度には23兆4千億円へと増大してきているから総支出に与えた在庫投資減少の影響はそれだけ小さかったことになる。 景気が収縮期にはいった39年第4四半期には在庫投資はピークとボトムの中間ぐらいまで減退していたから在庫投資減少が収縮期に与えた影響はさらに小さかった。 これには三つの理由が挙げられよう。

1つは原材料在庫投資の減少幅が極めて小さかったことである。 これは原材料在庫率が低下していたので在庫調整の余地が少なくなっていたことによる。 原材料在庫率は第2-8図のように33年以来一貫して低下し続けている。 自動車、造船等輸送機械メーカーの原材料在庫手持ち月数は32年には1.4ヶ月分であったのが40年末には0.3ヶ月分まで低下し、繊維メーカーでも1.4ヶ月分から0.6ヶ月分へと減少している。 これは企業の在庫管理技術の向上とか企業の在庫圧縮意欲のおう盛さによるほか、輸入原材料については輸入自由化及び長期契約による購入の安定化と在庫率の高い綿花、羊毛の比重が低下し、在庫率の低い原油等の比重が高まってきた等の要因による。 原材料在庫投資減少幅が小さかったことについてはこのようなすう勢的な要因のほか今回の景気調整期を通じて原材料を多く消費やする繊維及び鉄鋼の生産が比較的堅調であったことによる面も無視できない。

第2-8図 原材料在庫率指数

二つは金融引き締め期間と景気後退期間とがかなりずれたことだ。 39年3月に金融は引き締められたが、総需要が停滞し景気が後退期にはいったのは10月からであった。 また40年1月に金融引き締めは解除されたが、景気が回復に向かったのは秋からだった。 どちらも半年以上のずれがある。在庫投資は金融引き締めと同時に減少し始め上昇に転じたのは景気回復とほとんど同時だった。 39年中は金詰まりが在投資を減少させる方向に働き、最終需要の増勢が在庫投資の減退を下支えした。40年には39年とは逆に最終需要の停滞が在庫投資を減退させ、金融の緩和基調が在庫投資の減少を緩和する方向に働いた。 このように前回、前々回と異なり、金融と最終需要とが在庫投資に対し逆方向に作用したことが今回の在庫投資減少幅を相対的に小さくしたのである。

三つは32年にはスエズ動乱、36年には岩戸景気のブームで引き締め前に今回よりも思惑的な在庫蓄積が多く、それが引き締めによって吐き出されるという反動減が大きかったことである。

特色の第2金融引き締めの時には直ちに在庫投資は減少し始めたのに在庫投資の回復が金融引き締め解除にかなり遅れたことだ。 今回は40年1月に金融引き締めが解除されたが在庫投資が回復に向かったのは10〜12月であった。 これは前回(解除37年10月、回復同年10〜12月)に比べればかなり遅く前々回に比べても(解除33年6月、回復34年1〜3月)幾分遅れている。 これは供給面、需要面及び企業の内部事情にそれぞれ次のような理由があったからである。

供給面では、金融引き締め解除時点を基準にして比較すれば前回、前々回に比べ生産調整が非常に遅れていたことだ。 これは製品在庫及び流通在庫調整を遅滞させ、今回の在庫投資回復遅行の主因となった製品及び流通在庫投資の回復を遅らせた。 生産調整が遅れていたことには輸出が急増して国際収支が改善したため引き締め解除の時期が早かったことも関係している。 しかも、金融が引き締められても39年度前半は最終需要が増加していたから生産調整は家庭電器を除いてはほとんど行われず、生産調整がはじまったのは39年末ごろであった。 従って、金融引き締めが解除されたのは景気後退の影響で生産調整─在庫整理という道を歩みはじめたばかりのごろで、多くの業種でひろく生産調整が行われるようになったのは解除後の40年度にはいってからたった。 生産調整が遅れた背景としてはカルテル結成には時間がかかる、企業側も雇用の縮小が困難なこと、損益分岐点が上昇していること等から生産を極力高水準に維持しようとした等の事情もあった。

需要面では金融引き締め解除後も40年の秋どろまで最終需要が停滞していたことだ。設備投資は40年中は減少傾向を続けたし、消費も過去の不況期におけるような力強さはなく、輸出のみが堅調を持続し、財政支出が出始めたのは年末からだった。 このように最終需要が停滞していたのだから在庫投資の回復が多少遅れたのも当然だった。

企業側の要因としては企業が在庫圧縮に努力していることで、これが原材料及び仕掛け品在庫投資の回復テンポを鈍らせ総在庫投資の回復をよび起こす力を弱くした。 企業は現在収益の悪化と高い借り入れ依存度に悩んでいるから余分な在庫に対する過剰感はこれまで以上に強く、在庫圧縮に対する熱意は極めて強いようだ。

今後の見通し

以上のように在庫投資の回復はやや遅れたものの在庫投資の減少は軽微におわり、10〜12月からは回復に向かった。

41年にはいってからの動きを各種の先行指標でみると第2-9図のように1〜3月の在庫投資は前期より原材料及び仕掛け品在庫投資を中心として増加したようだ。 もっとも製品在庫投資は4月からの物品税引き下げの影響もあってマイナスにはならなかったようで、製品在庫調整は4〜6月に持ち越されている。 4〜6月以降について先行指標からはまだ決定的な増勢ほうかかわれないが、輸出は依然好調を持続し、財政支出のくり上げ努力も予定通り進み、消費も最近もち直してきており、製品在庫調整も終わりに近づいているので、今後在庫投資は増勢に推移していくもりと思われる。

第2-9図 在庫投資の推移(各種在庫推計)

小幅な低下の設備投資

概況

今回の景気局面における民間設備投資の推移を国民所得ベース(季節調整済、年率)でみると、第2-10図のように、39年7〜9月の5兆2千億円をピークに40年10〜12月の4兆6千億円まで、5四半期に渡って減少か続いた。 このように、減少が比較的長期に渡ったものの、従来に比べて低下の幅は小さかった。

第2-10図 設備投資の推移

それは第2-11図にみるように、法人企業統計季報による資本金1億円以上の大企業(季節調整済、以下同じ)で、主として非製造業の設備投資が不況下にありながら、40年中、増加基調を続けていたからである。 まだ製造業も前回(37年)の落ち込みに比べ、大きな相違はみられなかった。 非製造業の増加は、電気ガスが前回の減少と対照的に著増したこと、海運、私鉄等の運輸通信が38年以来、上昇を続けてきたことが挙げられる。 また製造業では、金属工業が比較的堅調であり、化学、繊維等の消費関連工業や今回は機械工業の落ち込みも前回の37年と同程度であった。

第2-11図 設備投資の推移の比較

一方、資本金1億円未満の中小企業は、大企業に比べても、また前回よりも、落ち込みは大きかった。 これは非製造業の減少が著しかったからであり、製造業もわずかに遅れてほぼ同じ傾向をみせた。 非製造業では卸小売りと不動産、製造業では機械の減少が目立っている。このように、中小企業の設備投資の落ち込みは、前回に比べて大きかったが、投資総額における中小企業のウェイトは25%(39年)と比較的小さいため、この落ち込みは電力、運輸通信の投資増加に相殺され、全体として前回に比べ小幅な落ち込みに留まった。

その結果40年の設備投資は総額4兆8,773億円で前年比3.4%の減少に留まった。 業種別には、第2-4表のように製造業が機械、繊維等の減少で15%減となったが、非製造業が電力の著増による公益事業や、海運、私鉄の増加による運輸通信の増加で、4%増加したからである。

第2-4表 40年の設備投資

小幅に留まった原因

今回の景気調整過程で、企業の設備投資態度は極めて慎重であった。 この原因として、デフレギャップの増大に加えて期待成長率の低下が誘発的投資誘因をかなり弱めたことが考えられる。 すなわち、予想売上高の増加率が第2-12図のように、前回の不況期(37年度下期)に7%あったものが今回の不況期(40年度下期)では4%に落ち、またその期の前後の伸び率も低いことがかなり影響した。さらに30年代の前半では予想を上回って実績が伸びたが、前回の不況期以来、実績が予想を下回ることが多くなった。(第2-13図)。 これでは、企業の投資意欲が弱まらざるを得なかったといえよう。それにもかかわらず、40年の設備投資の落ち込みが小幅だったのは、なぜだろうか。

第2-12図 予想売上高増加率(製造業)

第2-13図 売上げ見通し達成率

第1は、非製造業のなかで私鉄、海運及び電力等で、未充足の投資需要が多く残っていたことである。 私鉄の設備投資は、既に32年度にはじまる5ヶ年計画以来、第1〜2次3ヶ年計画が実施されてきた。 しかし、大都市周辺の人口増加と、その集中テンポが輸送力増強を常に上回っており、混雑度は依然緩和されていない。 40年度も大都市を中心に、通勤対策を目的とした私鉄大手の都心乗り入れ、路線増加等の投資が行われた。 海運業では、世界的な規模で船型の大型化高速化が進んでいるうえに、輸送需要の変ぼうがからみ、大型のタンカーや専用船の建造量が著しく増加した。 それに貿易の拡大、財政資金の増枠等環境の好転が加わって、40年度の建造量は計画造船だけでも約180万GTと、前年度に引き続き、かつてない高水準となった(38年までは30〜60万GT)。 電力業では、電源部門は37年ごろまでの高い設備投資で供給力不足が解消されたが、送配電部門には充分手が回らなかった。 40年度の設備投資では、供給信頼度の向上、電圧改善等質的な面を充実するため、この送配電に重点が置かれた。 さらに政府の景気対策に自発的に協力して全般的に発注ないし支払いの促進を行ったので、投資総額は低水準だった38〜39年度に比べ高い増加を示した。

第2は、革新ないし合理化投資が製造業でかなり行われたことである。 化学工業におけるアンモニア大型プラントや、石油化学コンビナートの建設、鉄鋼業の転炉、それに関連した高炉及び付帯設備の新増設、非鉄金属精錬所の共同投資等、設備の大規模化によるコスト低減効果は大きく、これが国際競争力の強化にもつながるので、これに対する企業の投資意欲は強かった。

アンモニアの大型プラントは、海外諸国の新鋭大規模設備の新設に対抗したスケールアップがその目的で、現在建設中の1系列500トン/日は、従来の5倍以上の規模拡大である。 石油化学では、40年度に既存センターの継続工事と新規センターの着工があって、かなり増加している。 逐年生産規模の拡大はみられたが、海外諸国に比べるとまだ小さい。 例えばエチレンについてみると、日本では工場最大能力20万トン/年(平均規模13万トン/年)だが、海外諸国の工場当たり設備規模は最大40万トン/年と約2倍だ。 今後も、国際競争力を強化するうえに、最新技術を駆使した設備の大規模化投資が進められよう。 鉄鋼業は、短期的には不況局面にあるが、長期需給計画に基づく近代化投資は行われている。 すなわち、平炉から転炉への転換、さらに転炉及び高炉の大型化が、あいまって、ほかの関連設備にも波及し、高水準の投資をうながしている。 非鉄金属では、メーカー数社の参加による大規模共同臨海精錬所の新設をみた。 こうした共同投資は、一般に装置産業に有利であり、前述のアンモニア設備の場合にもこの形態がとられている。

このほか、利潤率の低下からコスト引き下げのための合理化投資や、賃金上昇に対処するため進められた労働から資本への代替投資は、不況下にありながらも、各産業でかなり積極的に行われたものとみられる。 開銀調査による「投資理由の構成比」によると第2-5表のように、設備合理化が40年度は過半を占め、設備能力の拡張が36年当時の6割から、4割を切ったのは、これらの動きを反映したものといえよう。

第2-5表 投資理由の構成比

今後の設備投資の動向

40年の民間設備投資は、非製造業の増加が下支えしたものの、産業全体では年間を通して減少が続いた。

しかし、設備投資の先行指標である機械受注(海運を除く民需、季節調整済)が40年央を底に上昇に向かったことから、設備投資は41年にはいって強含みに転じたと推測される。 もっとも、今回の回復テンポは受注の谷を基準とした前回までの景気局面と比較すると第2-14図のように、やや緩慢なものになっている。

第2-14図 機械受注(海運を除く民需)の回復テンポ

前回まで、製造業が回復の主役であったが、今回は40年中を通して非製造業が上昇したので、受注全体は落ち込みも小幅に留まり、40年央より上昇に転じた。 41年1〜3月になると、鉄鋼、自動車、化学等の増加で、製造業の受注が上昇したが、非製造業は電力の減少で逆に低下した。 今後も製造業からの受注は次第に回復しようが、非製造業の増加の中心をなした電力の受注は40年ほどの増加テンポを期待できまい。 従って、これからの受注動向も、前回までの回復過程のような高いテンポは望めそうもない。

当庁調べ「法人企業投資予測調査」(41年2月)によると、資本金1億円以上の法人が41年度上期に計画している設備投資額は、前期比2.1%、前年同期比1%のそれぞれ増加であった。 業種別には、運輸通信、電力が40年後半に続いて増加しているほか、製造業では機械、非鉄、化学、非製造業では鉱業、建設、サービスの回復がみられる。 さらに調査時点の新しい日銀調べ「主要企業の短期経済観測」、当庁の「41年7〜12月期の経済、経営の見通し」(共に41年5月調査)による今後の設備投資の予測は、今までの予測調査に比べ増勢を強めている。

また、中小企業の設備投資は、前出第2-13図にみるように、40年において既に底づきし前回同様、その先行性を示した。 41年にはいってからも、日銀調査では盛り上がりは少ないながら、増加を予測している。

もっとも、景気の回復過程では、その進行に伴い調査時点に比べ、投資計画は好転する可能性が強い。 需要面において輸出の好調、財政、在庫投資及び消費の増加がみられると共に、需給バランスの好転に伴う操業度の上昇等、設備投資をめぐる環境にかなりの明るさが増してきた。 機械工業では、輸出競争力をつけるため、中級造船所で輸出船用船台の拡張や、自動車業界でふ頭等関連設備の増強、またカラー・テレビの増設等を目ざす動きがでている。 一方、中小企業でも、自動車、造船、弱電、通信機等の下請けメーカーに、積極的な投資行動がみられている。

しかし、これが産業の各分野に波及するまでに至ってない。多くの業種は、いまなお慎重な態度をくずしていないので、回復テンポが前回に比べやや遅いとみなければなるまい。

企業経営

昭和40年度の企業収益

企業にとって、昭和40年度は深刻な不況が底をつき徐々に収益回復へ歩み出した年であった。 39年3月の金融引き締めと共に減少に転じた企業利潤は逐期減少幅を大きくし金融緩和後の40年上期決算においても、3期連続して減益を示した。

40年上期にはピークの38年下期に比べ売上高は全産業で12.2%、製造業で12.9%増大したにもかかわらず、純利益は、それぞれ13.7%、22.2%の減少となった。 第2-6表にみるように40年上期は製造業の減益幅が大きく、利益率の水準自体も第2-15図のごとく30年代を通じて最も低いものとなった。 反面非製造業は海運業の収支好転や建設、電気ガス等の好調持続によって、増益を続けた。

第2-6表 今回景気後退局面における企業収益の推移

昭和40年度における企業経営の動き

第2-15図 総資本純益率(税引前)

しかし利益の減少は40年上期でとまり、下期には、製造業で売上高5.2%増、純利益1.4%増、純利益に超過償却や、蓄積性引当金を加えた実質利益では6.5%の回復を示すに至った。

業種別には、過去の投資高成長時代にブームを満喫した一般機械、重電機等設備投資と関係の深い一部業種が上期に引き続き不振だったほかは、軒並み実質益で増益となった。 生産調整が進み、市況回復が速やかった石油が上期に引き続き好調だったほか、下期はさらに市況の上昇が著しい非鉄、セメントや消費需要の回復を反映した弱電、合繊等が増益に転じた(第2-16図)。

第2-16図 業種別収益動向

今回の企業不況の性格

今回の不況が企業経営に与えた影響は、これを循環的要因と構造的要因に分けることができる。 (1)金融引き締めを契機として、需給のアンバランスが起こり、売り上げの伸び悩み、価格の低下と共にコストの上昇が起こって、利潤低下がみられたのは、今回もこれまでと同様だった。 しかし今回はこれに加えて、(2)さらに34〜6年の投資ブームとその後の設備投資高水準の結果、償却・金利等資本費の増勢が売り上げの伸びを上回ったこと、また、(3)労働力不足経済への移行に伴う人件費の上昇という、やや長期的、構造的な要因が加わった点に大きな特色がある。

このような循環的要因と構造的要因が二重、三重の形で企業の上に覆いかぶさってきたため、企業の受けた打撃は大きく、特に総論第2部、第59表に示すようにかつての投資ブーム期に高収益を誇った機械・重電・鉄鋼等投資関連業種の収益力低下が顕著であった。 昭和33年、37年の不況時と比べると、※参照※ のごとく、償却・金利負担が重いこと、さらに30年代の前半では低下気味だった人件費コストが最近は強含みで推移していることが注目される

第2-17図 売上対比各コストの推移

景気回榎と企業収益

40年下期に至り、企業収益はわずかながらも増益に転ずることができた。その要因は大きく分けて3つある。

第1は、需給バランスの改善が進み価格の回復がみられたことである。

これは40年初めから実施されてきた生産調整が輸出の好調持続や財政支出の促進と相まって次第に効果を現してきたためである。

40年下期を通じて製品価格(日銀調べ、工業品卸売価格)は1.3%の上昇となったが、他方原材料価格も非鉄金属価格の大幅上昇のため2.3%の上昇となった。 原材料が売上高のほぼ50%を占めるから、40年下期には製造業全体としては未だ価格上昇は大きいプラス要因とはなるに至らなかった。

しかし、40年上期まで収益にマイナスの影響を与えてきた価格要因がプラス要因に転じたことは大きく、景気回復につれて、販売量が伸びれば、企業採算は急速に好転することとなろう。

第2は、資本費コストの低減である。 40年下期には、製造業平均で売り上げ増加率5.2%に対し償却は0.3%、金利は3.8%、資本費全体でも2.0%の増加に止まった。 これは39年末ごろからの投資の沈静と償却済資産割合の増加によって、有形設備の効率が高まって償却費の負担を低下させ、他方、金融緩和による企業間信用の解きほぐしや、投資資金の内部調達比率の上昇によって金利負担の増勢が鈍化したためである。 第2-18図は資本費負担を業種別にみたものだが、これによると鉄鋼は既に39年上期から、資本費を下げているし、40年上期には機械、石油、合繊が下期には化学、窯業等が資本費コストを下げていることが分かる。

第2-18図 業種別資本費コスト(対売上比)の推移

第3は、企業の経費節減の効果である。第2-17図にみるように一般管理費販売費は30年代を通じて一貫して売り上げを上回るテンポで増大してきたが、今回下況期に至って、初めてその売り上げに対する割合をわずかながらも下げた。 これは今回不況の深刻さを示すものとも考えられるが40年下期にはさらに増加テンポを落とし、売り上げに対する一般管理費販売費の割合は40年上期の11.2%から40年下期には11.0%へと低下した。

残された問題と今後の方向

現在、景気は再び上昇局面を迎え企業収益にも急速な立ち直りの気配が伺われる。 しかし、企業が今後好況を持続していくためには、いくつかの残された問題がある。

その1つは、労働力不足経済への移行に伴い、企業がどのように人件費の上昇圧力に対処していくかという問題である。 総論1部で述べたように、今回の不況は労働力不足が顕在化する過程で起きたため生産性の停滞と人件費の大幅増が同時に起きたことを1つの特色としている。

景気回復に伴って賃金上昇圧力はさらに高まる可能性が強いので企業は、今後一層の合理化投資を進め、労働生産性を高めて、人件費コストの軽減を図る必要があろう。

いま1つは、資本構成悪化にみられる企業体質のぜい弱性である。 昭和30年代を通じて企業の資本構成は一貫して悪化を続け、最近ようやく悪化の度合いは鈍ったが、なお極めて低水準に留まっている。 企業が、不況抵抗力をより強固にし、持続的成長を図るためには、資本構成の改善が1つの条件となろう。

第3は資本不足状態の解消過程に伴ら、部門間の需給アンバランスの増大や、このような日本経済の移行過程における企業間格差の拡大である。

昭和34〜6年の投資ブームに適応して成長した産業構造は、その後の投資停滞によって、全体としての需要不足の中で特に部門間アンバランスを激しくすることとなった。

既にみたように、前回から今回不況にかけてこの企業利潤の低下はかつて高収益を謳歌した投資関連業種の利潤低下によるところが大きいが、このような経済の構造変化にどう対応するかは、企業経営全体にとっても大きい問題である。

また、このような構造変化の中では企業の経営能力の差によって優劣が一層鮮明になってきているのは当然だ。 今後の厳しい国際競争に耐えていくためには、企業自身の合理化努力と共に産業界の再編成、企業規模の拡大等を進めるための適切な政策が行われる必要があろう。


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