昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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≪ 附属資料 ≫

昭和40年度の日本経済

中小企業

40年度の概況

39年末から40年半ばにかけて相次いで金融緩和政策が実施され、続いて7月27日に景気政策が打ち出されたが、中小企業の生産、売り上げ活動の不振は40年々末まで続いた。 しかしながら財政支出の増大や親企業の在庫調整の進展等により41年に入ると受注は漸次増加をみせ、中小企業の景況は再び明るさを取り戻し始めてきた。 この間、引き締め緩和に伴う金融情勢の変化により、中小企業向け貸し出しの増加あるいは借入金利の低下等金融緩和は中小企業段階にも次第に浸透し、恒例となった中小企業年末金融対策も40年々末はほぼ予定通り達成された。 また中小企業の資金繰り難も上期から下期に移るに従って漸次薄らぎ、企業の手元流動性も高まり出した。

40年々初から年末にかけての不振、41年に入っての回復が40年度の中小企業動向の特徴点であったが、経営内容のぜい弱な中小企業、小零細企業等では金融機関の選別を強く受け深刻な借り入れ難が続き、また業種、業態によっては景気回復段階に入っても依然不振を続けているものが存在している。 39年から40年にかけての景気後退、41年の回復過程のなかで、中小企業間の優劣格差は拡大傾向をみせ、中小企業を中心とする企業の整理倒産件数は38年度の2,117件から39年度には4,931件に急増し、さらに40年度には6,060件へと増加した。 また、他方では親企業による優良下請けの確保、他面では弱小下請けの整理統合が進められている。 かって28〜29年から31〜32年にかけて親企業の生産力の拡充に主眼が置かれた下請け中小企業の再編成が今回の不況を契機により一層のコスト切り下げ、高能率という見地から再びそれが促進され初めてきた。 これは企業の整理倒産の多発化、企業の合併の増加と共に中小企業の再々編成といえるようだ。

生産・売り上げ活動

40年度の中小企業の生産、売り上げ活動は金融引き締め下において比較的順調のうちに推移した39年度とは逆にむしろ金融緩和政策の実施にもかかわらず年初から秋にかけて不振におちいった。 これは前回の引き締め(36〜37年)のあとの金融緩和でただちに回復過程をたどったのとは対照的であった。 中小企業(製造業)の生産活動は日銀調べ「中小企業の業況予測」によれは、対前年生産増加率は38年度の20%増から39年度には12%増に下がり、続いて40年度には7%増へと低下した。 もっともこの間における期別の推移を対前年同期比でみると、第3-1図に示すように38年4〜6月から増加し、同年10〜12月の24%増をピークにその増加率は鈍化をたどり、40年7〜9月には4%増にまで低下した。 そしてこの40年7〜9月を底に10〜12月、41年1〜3月と増加率は再び増勢に転じている。

第3-1図 中小企業の生産活動

一方、卸小売り業の売り上げ活動は通産省調べ「商業動態統計」によれは卸売り業の対前年売り上げ増加率は38年度の21.4%増から39年度には16.6%増と下がり、40年度には下期の回復で17.1%増と前年の増加率をわずかに上回ったが、小売り業では88年度20.9%増、39年度12.6%増、40年度5.8%増と増加率は鈍化した。 両者を対比すると卸売り業では製造業と同じく40年10〜12月以降その増加率は再び上昇に転じているが、これに対して小売り業では消費の鈍化を反映して増勢は鈍り、38年7〜9月の前年同期比23.0%増をピークに41年1〜3月には3.4%増にまで低下したことが対照的であった。

第3-2図 卸小売業の売上活動

40年々初から年末にかけての不振、41年に入っての回復という過程を歩んだ中小企業の動きをさらに製造業について業種、業態別にみると、第3-3図に示すように重工業関連中小企業では40年6月、9月、12月と前年同月を下回り不況の色合を強めたが、41年3月には前年同月をかなり上回り、回復の度合いも大きかった。 一方、比較的低下幅の小さかった軽工業では40年9月、12月と増勢鈍化のあと41年3月には伸び率はさらに上昇している。軽工業に比べて重工業の生産、受注の不振が目立ったが、重工業関連中小企業でも官公需と好調な輸出に支えられた通信機、輸出船や国内船の生産増加で活況を呈した造船関連機器、大幅な輸出増加を示したオートバイ、ミシン、双眼鏡、クリスマス電球等ではいずれも年度間を通じて好調を持続した。 しかしながら金属、機械等多くの重工業関連の中小企業では内需の停滞や親企業の在庫調整による生産減等によって打撃を受け、40年々初から年末にかけて生産活動は沈滞のうちに推移した。 工作機械、産業機械等の独立中小企業では設備投資活動の停滞と大企業との激しい販売競争で苦境に立たされ、また銑鉄鋳物、機械加工、板金組立、熱処理等主として重電機、家庭電器等の下請け中小企業では受注の減少に悩んだ。 これら金属、機械等の下請け中小企業の生産活動は第3-4図にみるように39年々末から40年々末にかけて急速に減少傾向をたどった。 この不振を続けた下請け中小企業のなかで見落とすことができなかったのは同一親企業の傘下にある下請けでも1次下請けと2次下請け以下とではその影響の度合いがかなり異なっていたことである。 受注の減少に伴い1次下請けは2次下請けへの発注量を削減し内製化にっとめ、2次下請けと3次下請けとの間でもこのような動きをみせる等2次層以下の下請けになるほど親企業の不振の影響を強く受けた。 このため、その大部分を小零細企業で占めるこれら浮動的な2次層以下では仕事の確保にほん走し、それがひいては受注単価を引き下げるという結果を招いたが、組織化の立ち遅れ、金融機関からの疎外、労働力の定着率の低さ等不利な諸条件と相まって苦境にあえいだ。

第3-3図 中小企業の売上高推移(製造業)

第3-4図 下請中小企業の生産活動(対前年同期比)

このような不振を続けた金属、機械の中小企業も41年に入ると景況の回復で受注が漸次増えはじめた。 とりわけ親企業の在庫調整の進展と需要そのものの回復を示した家庭電器や財政支出の増加により刺激を受けたトラック部品、建設機械等でそれが目立った。

一方、軽工業関連中小企業では重工業関連中小企業に比べると不況の影響度合いは相対的に軽微のものが多かった。 特に輸出依存度の高いがん具、金属洋食器、雑貨等では、対米輸出の増加もあってこれらの中小企業では好調な生産を続け国内販売よりはるかに有利な決済条件により資金的にもかなりゆとりを持ったものも少なくなかった。 このほか比較的根強い増勢を続け最終消費に直結した食料品、ガラス製品、高級絹織物等は40年度間を通じて好調な生産を続けた。 しかしながら軽工業関連中小企業でも投資沈滞の余波を受けたコンクリート2次製品、耐火レンガ、合板等では下期には再び明るさを取り戻したものの、40年々初から年央にかけては需要の減退に悩み、供給過剰、市況の低落に対処するため操短を実施したほどであった。 また陶磁器では洋食器が順調な内需に支えられたが、電気用品、和食器、モザイクタイル等が不振を続け、ゴム製品では履物、ホース等の売れ行きが停滞した。 さらに印刷、段ボール等では産業界の不振を反映して受注は減少し生産は伸び悩んだ。

他方、繊維産業では生糸、絹織物、綿織物を除き、輸出は順調に増大したものの繊維全体を通じて内需は総じて不振のうちに推移した。 とりわけ、39年10月の繊維新法の実施を契機に生産の増大した綿スフ紡績では供給過剰から市況は崩落をたどり不況は40年々初以降次第に深刻化していった。 このため40年10月から不況カルテルによる紡績の1割操短が実施され、また綿スフ織物でも11月から中小企業団体法による2割の生産調整が行われた。 さらにこれまで年々急上昇を遂げてきた合繊織物も40年春から秋にかけて供給過剰の顕在化、在庫増加に伴う価格の低落で、大手原糸メーカーからの受注(賃織)は減少し、さらには工賃の切り下げを受ける等従来にない厳しい年であった。

中小企業の経営

資金繰り難は漸次緩和

資金事情のひっ迫、親企業の支払い遅延等によって39年の金融引き締め期に悪化した中小企業(製造業)の販売条件は40年に入っても悪化が続いた。 中小企業の販売条件は第3-1表に示すように「悪化」したものの割合は39年の金融引き締め以降40年4~6月にかけて増え続け親企業の下請け中小企業に対する支払い「悪化」も39年々初から40年春にかけて増加を示したが、その後、その割合は次第に減少に転じ販売条件の悪化度合いは止まりはじめた。

第3-1表 中小企業(製造業)の販売、購買条件の推移

もちろん、39年から40年にかけての景気後退期でも自動車、弱電下請けのように従来同様決済条件がほとんど不変であったもの、これとは逆に受取手形サイトが従来の120日から210日に長期化したり、また現金入金比率がこれまでの100%から50%に引き下げられたもの等千差万別であった。 また、下請け代金支払い遅延等防止法に基づく公正取引委員会による親企業に対する勧告件数は第3-2表にみるように39年度の194件からさらに増え、40年度には208件へとこれまでの最高にのほる等中小企業へのしわ寄せはあとをたっていなかった。

第3-2表 下請代金支払遅延等防止法にもとずく処理状況

いま、平均的な売掛期間、受取手形サイト、現金入金比率の動きをみると第3-5表に示すように39年の引き締め期以降それらはいずれも悪化をたどったが、40年になると悪化は止まり初めている。 しかしながら35年以降の推移を振り返ってみると、売掛期間、受取手形サイトは共に長期化の方向をたどり、また38年の金融緩和で両者は若干の短縮をみせたが、40年の金融緩和期にはそれとは対照的にほとんど改善をみせず、わずかに41年に入って売掛期間が短縮したに過ぎなかった。 また景気の動きを反映して上下変動を示す現金入金比率も39年の引き締め期に低下したあと、40年に入ってもそのままの状態か続いている。

第3-5表 中小企業の決済条件の推移(製造業)

これに対して中小企業の購買条件は38年の景気上昇期、その後の景気後退期を通じて「好転」の割合はわずかであるが減少し、逆に「悪化」したものは増え積極的な改善のあとはみられなかった。 この間、買掛期間、支払い手形サイトも長期化の方向をたどっているが、売掛期間、受取手形サイトに比べると、両者ともその期間は下回り、中小製造業は与信超過の傾向を続けている。

もっとも、与信超過といっても販売条件の「悪化」の比率に比べて購買条件の「悪化」の比率が39年の金融引き締め期、その後の金融緩和期を通じてかなり低く、その変化の度合いもかなり小さいこと、売掛期間、受取手形サイトに比べて買掛期間、支払い手形サイトが短いこと等は中小企業の購買条件が販売条件より相対的に不利なことを反映しているといえよう。

既にみたように傾向的に悪化をたどる販売条件と他方における金融引き締めによる借り入れ難によって中小企業の資金繰り難は39年の金融引き締め期はもちろんのこと、40年の金融緩和期に入ってもそれは続いた。 例えば、中小企業が借り入れ困難を訴える割合は第3-3表に示すように39年から40年春にかけて全体の約3割にも達し、とりわけ短期資金に比べて長期資金の借り入れ困難は一層著しかった。 また資金繰り悪化を訴えるものも約3割以上という高率が40年秋まで続いた。 他方、中小企業向け貸し出し残高の対前年同期比をみると第3-6表に示すように過去2回の金融引き締め期と同様に39年の金融引き締め期にも大企業向け以上に減少をたどり、それは40年半ばまで続いた。 使途別には設備資金、運転資金とも同様に減少傾向を続け、また金融機関別には政府系中小企業専門金融機関は増勢を続けたものの、全国銀行及び民間系中小企業専門金融機関では共に減少傾向をたどり、特に民間系中小企業専門金融機関の減少は前回の金融引き締め期(36~37年)以上に著しかった。

第3-3表 中小企業の借入難易と資金ぐり状況

第3-6表 中小企業向け貸出残高の推移(対前年同期比)

しかしながら、このように減少をたどった中小企業向け貸し出しも40年々初以降の推移をみると下期になるに従って貸し出しは増加傾向をたどりだした。 例えば中小企業向け貸し出し(増減額)は、40年1~3月1,294億円(前年同期比36%減)、4~6月1,025億円(同42%減)といずれも前年同期を大幅に下回ったが、7~9月には5,415億円(同41%増)、10~12月8,902億円(同64%増)と増え、さらに41年1~3月には3,852億円(同177%増)とかなり大幅に前年同期を上回る貸し出しが行われた。 また総貸し出し増減額中のうちの中小企業向けの比率をみても40年1~3月18.3%、4~6月17.3%と20%を割っていたものが、7~9月44.9%、10~12月57.9%、41年1~3月44.7%とその比率は上昇し、金融緩和による中小企業への影響は40年下期になってようやく及びはじめた。 この間、恒例となった中小企業年末金融対策は40年末には政府系中小企業専門3機関(商工中金、中小公庫、国民公庫)に対する財政投融資の追加、民間金融機関に対する貸し出し要請(7,800億円)を含めて40年10~12月に総額9,036億円の貸し出し目標がたてられた。 その目標達成率は政府系中小専門機関106.1%、民間金融機関88.0%、総額では90.5%と39年の年末金融対策の達成率63.5%を大幅に上回りほぼ予定通り達成された。

このように40年下期における中小企業に対する金融緩和の影響は貸し出しの増加図りでなく借入金利も漸次低下をたどり、また企業の手元流動性も高まりだした。 例えば当庁調べによれば単名手形借入金利は39年々末の2銭3厘7毛から41年3月には2銭3厘1毛に下がり過去1年間に2.5%低下し、また手形割引金利も過去1年間に2銭3厘9毛から2銭3厘4毛へと2.1%低下している。 また企業の手元流動性を現す売上高に対する現預金の比率、買い入れ債務に対する現預金の比率も第3-7図に示すように大企業に比べてその水準は低いが、40年なかは以降大企業と同様に高まっている。

第3-4表 中小企業の金利

第3-7図 中小企業、大企業の手元流動性の推移(製造業)

低下をたどる利益率

40年度の中小企業の生産、売り上げ活動は40年春から秋にかけての極度な不振、41年に入っての回復という過程を歩んだが、企業の収益率はこの間低下の方向をたどった。 大蔵省調べ「法人企業統計季報」によれば、中小企業(資本金200~5,000万円、製造業)の売上高の対前年同期比は40年上期(1~6月)の8.9%増から下期(7~12月)には9.8%増と上昇を示したものの、純利益は逆に上期0.6%減、下期22.9%減と低下し、このため売上高純利益率は第3-5表に示すように38年の好況期、39年の金融引緒期、40年の金融緩和期を通じて低下傾向をたどり40年下期には同利益率は2.3%と37年下期の2.9%を下回った。 36年以降最近5年間を大企業と対比してみると大企業の売上高純利益率も同様に低下をたどっているが、中小企業の低下度合いは大企業よりも大きかった。 また、これに対する中小企業の総資本収益率は39年上期には8.2%と38年上期の8.1%を若干上回ったが、40年上期7.3%、同下期3.8%と低下し、過去5か年間のうちでは最低を記録した。 一方、総資本回転率も39年と同様に40年上期の1.68回年から下期には1.67回年と低下し、40年は年間としてこれまでの最低となった。 ここで注目すべき点は1つには中小企業は大企業に比べて相対的に少ない資本によってその回転率を高め、低い売上高純利益率を補い総資本収益率を高めてきたが、人件費の上昇、一般管理販売費の増加や競争の激化等によって低い売上高純利益率はさらに低下し、またこれまでの活発な設備投資による固定資産の増加や業容の拡大に伴う流動資産の増大等によって総資産は増え、そのため高かった回転率は低下し、総資本収益率も下がり中小企業と大企業との開きは漸次小さくなってきたことである。 いま1つは中小企業の低収益企業が次第に増え企業間格差が拡大を示していることである。 例えば総資本収益率の分布の推移をみると第3-6表に示すように好況期における高収益企業の増加と不況期における低収益企業の増加は中小企業も大企業もほぼ同様であるが大企業では総じて収益率が低下を示しているのに対して中小企業では欠損企業が増加をたどり、これとは逆に他方では高収益企業が依然存在していることである。 このことは大企業に比べ中小企業相互間の企業の優劣格差が拡大を示していることを意味している。

第3-5表 中小企業、大企業の収益率の推移(製造業)

第3-6表 中小企業、大企業の総資本収益率の分布(製造業)

ここで低下を続ける中小企業(製造業)の売上高純利益率が、売上原価、一般管理販売費、人件費等の関係でどのような動きを示しているかをみると、第3-7表のごとく売上高に対する売上原価の比率は39年の78.2%から40年には77.8%と低下し、これとは逆に一般管理販売費の比率は39年の15.5%から40年には16.5%と上昇している。 これに対して大企業では両比率ともわずかではあるが上昇し、このため営業利益率が低下を示しているが、中小企業では一般管理販売費の上昇が営業利益率の低下要因として働いている。 中小企業の売上原価の低下は購入材料費の低下と合理化による限界的な材料節減効果が大企業より影響している点が少なくないが、他方、一般管理販売費の上昇は販売競争の激化による販売諸経費、間接部門の人件費、運搬費等の増高がかなり影響していた。 このほか中小企業の利益率の低下には借入金の増加に伴う支払い利息・割引料やそのほかの営業外費用の増加等もマイナス要因として働いている。 この利益率の低下をさらに人件費との関係でみると、大企業では人件費比率はほとんど変わっていないが、中小企業では1人あたり従業員給料(月額)が39年の24,200円から40年には26,300円へと8.5%上昇し、対売上高人件費比率は39年の14.5%から40年には15.6%へ上昇した。 また売上原価プラス一般管理販売戦中の人件費の割合も39年の15.5%から40年には16.8%へと高まる等、人件費の上昇は利益率低下の要因として働いた。

第3-7表 中小企業、大企業の売上高構成比率と人件費比率(製造業)

 一方、このような利益率の低下に対して中小企業の財務比率の変化を同じく「法人企業統計季報」によってみると、40年下期における決済条件悪化の鈍化、手持ち現預金の増加を反映して、当座比率、流動比率は39年から40年にかけてわずかに高まり、また固定長期適合比率も設備投資の沈滞化と他方における長期借入金の相対的な増加等によって39年に引き続いて低下しわずかに改善をみせている。 しかしながら収益率の低下に伴う純利益、社内留保の減少により中小企業の自己資本はさらに低下し、負債比率、借入金対自己資本比率は上昇を示している。 大企業に比べて自己資本比率、流動比率は低く逆に負債比率、借入金対自己資本比率が高いという姿は依然続き大企業以上に不況抵抗力は弱く経営の不安性を持っていることは注目される。

第3-8表 財務比率の変化(製造業)

零細企業の利益率低下

39年度の金融引き締め期、40年度の金融緩和期を通じて小零細企業の景況も40年々央から年末にかけて売り上げの不振、採算の悪化が目立つようになった。 零細企業の売上高を総理府統計局調べ「個人企業経済調査」でみると第3-9表のように40年度の個人製造業の売り上げ不振は著しく、逆に個人卸小売り実は、卸売り業での下期における若干の回復と小売り業での販売価格の上昇等もあって年度間の売り上げは増加したが両者ともその営業利益率は低下している。 たとえは、個人製造業の売上高の対前年度増加率は、38年度の22.1%増から39年度の10.4%増に下がり、40年度にはわずか1.1%の微増に留まった。

第3-9表 小零細(個人)企業の売上高、営業利益の推移

これに対して個人卸小売り業の売上高の対前年度増加率は38年度の11.4%増から39年度は6.8%増と下がり、40年度には18.2%増と上昇している。 これに対する営業利益は個人製造業(業主1人あたり)では39年度の119万円から40年度には113万円へ4.8%減、逆に個人卸小売り業は95万円から99万円へと3.7%増加したが、売上高営業利益率は前者では23.6%から22.2%、後者では17.7%から15.6%へとそれぞれ低下している。 このような40年度の利益率の低下は人件費の上昇というよりも購入原材料及び商品仕入費の上昇がかなり大きく影響したためであった。 しかしながらここ数年の動きを振り返ってみると、購入原材料費、商品仕入費の比率は傾向的に低下をたどり、これとは反対に人件費及びそのほか経費がいずれも上昇し、これらが利益率の引き下げ要因として働いている。

最近の小零細企業動向の特徴点をあげると、第1には今回の金融引き締め期(39年)には前回(36~37年)ほど売り上げの減少を招かなかったが、金融緩和後の40年に入って売り上げ不振が次第に表面化し、特に個人製造業の不振が目立った。 第2は販売競争の激化、製品単価の切り下げ等が影響した個人製造業の営業利益率の低下はともかくとしても卸小売り業でも40年度の営業利益率は35年度に次ぐ低い水準を記録した。 第3はこれら小零細企業の経営上問題点として借り入れ難を訴える割合は人手不足、売り上げ減少等に比べるとそれほど高くはないが、零細企業の資金の借り入れ難そのものは厳しかった。 このことは、政府系中小企業専門金融機関に対する小零細企業からの借り入れ申し込みが、好、不況にかかわらず常に増勢を続けていることに裏書きされている。

第4は人手不足は中小企業のなかで最も深刻化していることである。 今回の不況のなかで経営上の問題点として人手不足を訴える割合は「売り上げ減少」とは逆に減っているが零細企業の人手不足はほとんど緩和されず、このため家族労働力を主体とした生業的零細企業にとってますます家族労働力への負担が増大している。 また人手不足対策としての近代化も思うにまかせず需要構造の変化に対する立ち遅れ等と相まってこれら小零細企業の転廃業が次第に散見されはじめてきた。

第3-10表 小零細企業の経営上の問題点(構成比)

減少した設備投資

これまで34年、36年、38年の好況期に活発であった中小企業の設備投資活動は大企業と同様に40年に入ると期をおって不活発となった。 40年の設備投資活動の沈静化は中小製造業図りでなく中小卸小売り業でも全く同様であった。 40年における全産業の設備投資動向を中小企業と大企業とに大別すると、大企業の対前年比7.6%減に対して中小企業は13.7%減とその減少幅は大きかった。 金融緩和は40年下期になるに従って中小企業段階に及びはじめたが、このような設備投資の減少はこれまでの積極的な業容拡大投資の反動減と、さらには先行きに対する見通し難が支配的となり、経営態度にも慎重度が加わったことが大きな要因であった。

第3-8図 固定資産新設額(対前年比)

第3-11表 設備投資動向(固定資産新設額)

ところで中小製造業の最近の設備投資活動とその特徴点を中小企業金融公庫調査によってみると、従業員数10~299人規模の中小企業の設備投資(支払いベース)は39年度前年度比7.5%増のあと、40年度には18.0%減と大幅に減少している。 業種別には精密機器(前年度比9.5%増)家具装備品(同3.2%増)を除いて軒並みに減少した。 重工業関係では、38年度5.9%増のあと39年度には0.2%増と横ばいとなり、さらに40年度には16.3%減となっている。 このうち特に一般機械(同28.1%減)電気機器(同21.3%減)等の減少が著しかった。 一方、軽工業関係では38年度13.8%増、39年度12.9%増のあと40年度には19.1%減と重工業の減少率を下回り、中でも繊維(同35.5%減)出版印刷(同24.4%減)木材・木製品(同23.2%減)等が大幅に減少している。

中小製造業の設備投資は41年度に入って景気回復傾向が強まるにつれて部分的にかなり動意が散見されはじめ、設備資金貸し出しも増勢気配をみせはじめているが、前記の中小企業金融公庫調査によって41年度の設備投資計画(41年2月現在調査)をみると、第3-12表のように大企業の対前年度比10.2%減に対して中小企業では21.3%減と40年度に続いて2年連続して減少をたどり、その水準も最高時の39年度の36%減に留まる見込みが強い。

第3-12表 製造業の規模別設備投資動向

中小企業の設備投資の目的と内容をみると第3-13表のように単なる生産能力の拡充を目的とするものの割合は次第に減少傾向をたどり、品質、性能の向上、競争力強化に重点をおいた合理化をめざすもの、新製品生産のための投資の比重が漸次高まっている。 例えば設備取得額中37年度には47.8%を占めていた生産能力の拡充を目的にした投資は40年度には42.1%に下がり、41年度には39.1%へと低下する見込みである。 またこれとは逆に合理化投資はこの間34.5%から37.4%に上昇し、さらに41年度には39.7%と生産能力の拡充を目的とするものを上回る見込みとなっている。

第3-13表 中小企業の設備取得の目的と内容(製造業)

他方、中小企業の設備投資を資金調達面(純増ベース)からみると第3-14表に示すように内部資金の比率は39年度の59.1%から40年度には70.3%へと高まり、さらに41年度には88.5%となる見込みである。 これとは逆に借入金の比率は、39年度の33.3%から40年度24.8%、41年度5.5%へと著しく低下している。 このことはひとつには投資の沈滞化に伴い結果的に内部資金の比率が高まり、逆に借り入れ依存度の低下という形態をなしていること、いま1つはこれまでの好況期に借入金に依存して行った設備資金の借り入れ返済と支払い金利の負担軽減や、財務構成健全化の見地から内部資金の範囲に投資を抑制したことがその要因であった。 このような借入金の大幅減とそれにかわる内部資金を中心とする設備投資活動は大企業でも同様であったが、内部資金の絶体額が増加を続ける大企業に対して中小企業ではほとんど増えていない点が対照的だ。

第3-14表 設備資金調達額内訳(製造業)

高水準の整理倒産

38年秋以降増加に転じた企業の整理倒産は39年の金融引き締め期、40年の金融緩和期を通じて多発化し、また41年に入っても高水準を続けている。 東京商工興信所の調査によれば負債金額1,000万円以上の整理倒産件数は38年度の2,117件から39年度には4,931件(前年度比2.3倍)に増え40年度にはさらに6,060件(同23%増)に増加した。 また最高裁調べによれば、会社更生法申請件数は38年度の79件から39年には187件に増え、その後40年度には115件と減少したが、破産申請は38年度の1,812件から39年度2,363件、40年度2,396件へと増加している。

このように多発化を続ける40年度の整理倒産のなかからいくつかの特徴点をあげると、第1には卸売り業に比べて製造業の件数が多いことや、金属、機械産業が最も多かったことはこれまでとかわっていたいが、建設業が39年度に引き続いて前年度比2.1倍と著増し、繊維産業の倒産件数を上回った。 対前年増加率はこの建設業を筆頭に以下、化学、食料品を含むその他産業の36%増、繊維16%増、金属、機械1%増の順であった。 第2は整理倒産が小口化していることである。 個人企業を含む資本金1,000万円以下の中小企業の総件数に占める割合は38年度の89.5%から39年度90.6%、40年度91.4%へと上昇し、負債金額の減少とあいまって1社あたりの負債額は39年度の118百万円から40年度には76百万円に下がり、38年度の114百万円を下回った。

第3は企業数に対する発生比率が第3-16表に示すように38年度の3.4%から89年度0.74%、40年度0.84%へと上昇していることである。 また大企業と中小企業の発生比率を比べると、大企業では39年度から40年度にかけて低下し逆に中小企業では引き続いて上昇を示していることが対照的である。 ちなみに発生比率0.5~0.6%と比較的落ち着きをみせているアメリカと対比してみると、日本の発生比率の上昇は著しく比率それ自体も若干ながら上回っている。

第3-16表 会社数、整理倒産件数および発生比率

第3-17表 アメリカの整理倒産状況

第4は整理倒産原因の変化である。 整理倒産の原因は多面的であるが、その原因を大別すると、39年度に比べて40年度には他社倒産の余波、売掛金回収難等が減り、販売不振、放漫経営等が大幅に増えている。 特に38年度、39年度共に全体の22%を含めていた販売不振が、40年度には33%と高まった。 このため原因別の順位も第3-15表に示すように販売不振によるものが依然第1位を占めているがそれ以下ではかなりの変動をみせている。

第3-15表 業種別および原因別整理倒産状況

 第5は多発化した整理倒産も41年々初以降高水準を続けているものの前年同期を下回りはじめたことである。 すなわち、総件数(月平均)は40年1~3月477件、4~6月520件、7~9月501件、10~12月549件のあと、41年1~3月449件、4~6月510件と景気回復が強まるに従って前年同期を下回りはじめた。

 以上みてきたように39年、40年に多発化したあと、41年に入って景気回復が進むにつれて、整理倒産は小康状態を保っているが、依然中小企業を中心に高水準を続けている。 そこで39年以降、41年にかけての整理倒産多発化の背景をみてみると、販売不振、売掛金回収難等、いわゆる景気後退に伴う循環的な要因が働いたことは否めないが、注目すべきことは第1には、企業間の格差が増大していることである。 たとえは収益率の分布(第3-6表)でみたように、欠損企業の増加と他方における高収益企業の存在がそのことを端的に示しているが、整理倒産そのものは企業の優劣格差の顕在化を意味している。 第2は中小企業の収益率の傾向的低下と財務構成の傾向的悪化である。 設備投資の強行による資本の固定化、あるいはまた低い自己資本と、それに対する借入金比率の上昇は企業の不況抵抗力の低下を物語っている。 第3は販売競争が中小企業と大企業、中小企業相互間、あるいは外国製品の流入等をめぐって激しさを加えていることである。 例えば中小企業と大企業間では産業機械、印刷業、建設業、中小企業相互間では工作機械、鋳・鍛造品、家具、外国製品との競合では印刷機械、清涼飲料水、化粧品等で目立っている。 第4は親企業による下請けの再編成が漸次進められている点である。

表面化した再編成

39年度の金融引き締め期、40年の景気後退期を通じて企業の再編成が再び大きくクローズ・アップされてきた。 企業の再編成は既に企業の整理倒産の増大という形態で現れているが、企業の合併、営業の譲受件数の増加、さらには親企業による下請け中小企業の整理統合という形態でも進行し始めてきた。 例えば、公正取引委員会調査によれば、合併件数は35年以前には年間300~400件台であったものが次第に増え38年度には997件を記録した。 その後39年度には864件に減少したが、40年度には再び894件に増加した。 また営業の譲受件数も31年度に209件を記録したあと年間100件台に減少したが、合併件数と同様に38年度には223件と増え、その後39年度には195件、40年度には202件を教えている。 これらの合併、営業の譲受件数はこれまで総じて好況期に減り、不況期に増加するという変動を示していたが、38年度以降は整理倒産の多発化と同様に急増した。 これらの合併、営業の譲受件数の会社数に対する発生比率は規模が小さくなるほど小さいが件数それ自体は1,000~5,000万円の中規模企業で最も多いことが目立っている。

第3-18表 合併営業の譲受、整理倒産状況(件数)

第3-19表 合併、営業の譲受と発生比率

一方、親企業による傘下下請け中小企業の再編成は40年の景気後退過程で再び表面化してきた。 たとえば産業機械、重電機下請けでは選別発注による優良下請けへの集中化、自動車、造船下請けでは企業の統合あるいは整理、合繊織物では原系メーカーによる系列機屋の整理等が具体化し始めている。 かつて昭和20年代末から30年代の初めにかけて大企業の量産体制の確立、親企業の資本節約、あるいは低賃金利用という見地から下請け中小企業の系列化が積極的に進められ、これら系列下請け中小企業は親企業による資金援助、機械の貸与、技術指導等を受け、またその後の日本経済の高成長過程で親企業の発展につれて企業規模を拡大したのも少なくなかった。 なかには専門部品メーカーあるいは専門加工メーカーとして成長したものも現れてきた。 しかしながら親企業相互間の販売競争の激化や賃金格差の縮小が強まるにつれ、高能率、低コストという新たな要請が下請け中小企業に及びはじめてきたのである。 かって30年代はじめに親企業のシェア拡大、生産力の急速な拡大に対処して進められた系列化を再編成とよぶならば、30年代末から40年代はじめにかけてのそれは再々編成といえよう。


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