昭和41年
年次経済報告
持続的成長への道
経済企画庁
持続的成長への道
動態経済における需給バランス
高い貯蓄率
適正成長の大きさがどれほどであるかを一義的に決めることは難しいが、貯蓄率(=資本蓄積率)の大きさいかんがそれを決定する重要な要素である。
貯蓄率が高い経済ではその貯蓄を有効に働かせるだけ、経済が成長しなければ不況になるし、また貯蓄による供給力の増加限度を上回って経済が成長すればインフレになる。貯蓄または資本の蓄積は、経済成長の動力であると同時に、十分な注意を払わないならば不安定をつくりだす原因ともなる。
日本経済における資本蓄積の型体にはいくつかの特色がある。その第1は、蓄積率が高いということである。第2は、蓄積のうち個人の貯蓄によるものか大きいという点だ。第3は、その蓄積が直接生産力を高めるような部面に向けられてきたということである。
日本の総貯蓄構成を外国と比べてみると第37表の通りである。総生産に対する貯蓄率は34%(1956─63)にも達していて、これはどの国よりも高い。資本減耗分の引当のための貯蓄や政府貯蓄も高いが、それは外国に比べて非常に高率とはいえない。個人の貯蓄が大きかったことが、日本全体の貯蓄を高める大きな力となった。また、貯蓄が何に向けられたかを外国と比べてみると第39表の通りで、機械設備が14%、工場等の建設が12%と最高となっていることが目立っている。
在庫投資の比率もまた高い。しかし住宅の比率は小さく、貯蓄は直接生産に関連がある分野に集中的に投入されたことが特色だといってよい。
貯蓄率が高かった上に、その貯蓄は、高い生産性を持つ分野に投資された。生産の増加のために必要な投資の額を限界資本係数というが、限界資本係数を比較してみると、第40表の通りで日本は在庫投資の限界資本係数は後述するように世界でもむしろ高い方に属するが、設備投資の限界資本係数は約2であって世界で最も低かった。このため10%の成長は国民総生産の約20%を設備投資に振り向けることによって可能となった。
第41図に示すように、どこの国でも資本蓄積率の大きさと、成長率の高さとの間には密接な関係がみられるが、日本経済はこのように、貯蓄率が高かったこと、蓄積が直接生産力を高めるような部門に向けられたこと、投資が高い生産力効果を持ったこと等のために、世界に例のない強い成長力を持ったと考えることができよう。
過去10年間をみると、日本では、個人、法人、政府を合わせて57兆円の貯蓄が行われ、その9割が固定資本形成に、1割が在庫品の増加に向けられた。さらに詳しく分類すれば総貯蓄のうち民間が4分の3を、政府が4分の1を使用した。その内訳は第38表の通りである。
もっとも、貯蓄と資本形成との関係は、貯蓄がまず行われて、それが資本形成に向けられるという一方的なものと考えることは正しくない。例えば、個人の企業主が、機械を買うようなときには、まず投資が先行して、その結果消費が節約されるとみた方がよい場合があるだろう。また、投資が先に行われて、国民所得が増えその結果貯蓄が増えるという逆の関係もある。貯蓄と資本の形成とは、どちらが原因でどちらが結果であるかは簡単にいえない。貯蓄意欲が低いところでは資本蓄積は不可能だが、強い投資需要がないところでは貯蓄も行われないだろう。貯蓄と投資とは表裏の関係にあるが、現在の経済では貯蓄を行う者と、投資を決定する者とは別であり経済の内部に意図した貯蓄と投資とを等しくするようなメカニズムが内装されているわけではない。貯蓄とつり合いがとれた成長の実現は、政策的な調整によって行われなくてはならない。