昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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昭和38年度の日本経済

交通・通信

国内輸送

国内輸送の概況

騰勢に転じた貨物輸送

 38年度の貨物輸送は、予想外のテンポで景気回復過程をたどる経済の実勢を反映して、前年度の停滞状態から騰勢に転じてしり上がりの傾向を示した。

 各輸送機関の輸送量の総計は1,822億トンキロに達し、前年度を13%上回った( 第6-1表 )。各輸送機関ともおおむね順調に伸長したが、特にトラックの伸びが目立っている。トラック輸送需要は、経済活動状況を反映して、砂利、土石、工業品及び廃棄物を中心に増大して、420億トンキロ(前年度比130%)となった。これに対応して、登録貨物自動車台数は増加を続け、11月には200万台の大台を突破し、年度末には前年度より20%増の213万台を記録した。こうしたすう勢的な自動車台数の増加は、特に大都市内の道路交通難を激化させている。この結果大都市内の貨物輸送は、走行速度の低下、小型車への移行を余儀なくされ、合わせて、荷受人側の中小企業の週休制の普及により、輸送効率は低下を続けて、種々の問題を投げかけている。

第6-1表 国内貨物輸送実績

 内航海運は、エネルギー革命の進行につれて、停滞的な石炭輸送に代わり、石油類の輸送が増加しているほか、全般的な産業界の活況に伴う原材料荷動きの増大により、輸送実績は800億トンキロと、前年度を11%上回る増加を示した。こうした輸送の中で、産業界の合理化に歩調を合わせて、船舶は高経済性を有する専用船・鋼船化の方向に進行している。この種船舶の建造は運航効率を高めたが、同時に在来の船舶過剰に拍車をかけて、内航海運業界の不安定要因を醸成し、内航海運対策の必要性が高まっている。

 国鉄貨物輸送については、鉱産品輸送が石炭産業の不振を反映して減少を続けたのに反して、工業製品輸送が増加を続け、79百万トンとはじめて第1位の輸送品目となった。これに伴って、無蓋車から有蓋車重点主義へ、また工場に直結する専用線強化の方向へとサービスの質的転換が行われている。一方、季節貨物が集中する秋冬期においては、ヤード設備を含めた幹線輸送力不足は、駅頭在貨が平均約2日であることに端的に現れているように、年末需要を控えた産業界の輸送要請に量的にも応じられない状態であり、このことが、ひいては秋冬期以外においても荷主を国鉄以外の輸送機関に依存させる一因となっていることが明らかになってきた。こうした輸送情況を背景として、国鉄輸送量は前年度比105%の592億トンキロに留まった。

増勢を続けた、旅客輸送

 38年度の旅客輸送は、個人消費支出の根強い増加傾向に加えるに景気の回復を反映して、各輸送機関とも輸送量の増加が続き、大都市交通及び幹線輸送の混雑は解消されていない。総旅客輸送量は3,212億人キロとなって、前年度より11%増加した( 第6-2表 )。輸送の大宗を占める鉄道輸送は着実に増加したが、特に伸び率の著しかったのは航空機と乗用車である。

第6-2表 国内旅客輸送実績

 国内航空は、空港の整備に伴う定期航空路の充実、ジェット機等新機材の投入、日航と全日空の業務提携等輸送サービスの改善を実施して高水準の輸送量の伸びを示し、人員では405万人(前年度比134%)、人キロでは23億人キロ(同128%)となった。一方、輸送秩序の確立と運航保安の増進のために、乱立していたローカル航空会社の集約化が行われた。

 乗用車は、国民所得の向上につれて自動車台数および輸送量とも著しい伸びを示して、年度末登録台数は108万台、年度間輸送量は265億人キロとなり、前年度との比較では、それぞれ37%、35%の増加である。

 バスは、道路整備の進ちょくに伴い長距離バス路線の拡張が続き、貸し切りバスも増大しているが、市街地内の道路混雑から一般乗り合いバスの走行速度の低下がみられ、総体の輸送人員は84億人(前年度比107%)に留まったけれども、人キロでは、平均乗車キロの延長から、629億人キロ(前年度比116%)と増大を続けた。

 鉄道の定期旅客は、被雇用者の増加と上級学校進学率の向上とに支えられて堅調な伸びがみられ、人員では国鉄前年度比109%、私鉄同108%、また人キロでも国鉄同108%、私鉄同107%と増加を示した。特に東京、大阪等大都市交通圏の定期旅客は人口増加を上回るテンポで増加しており、また一部では郊外団地の建設等で通勤距離は伸長傾向を示している。これに対処するため車両の追加投入等を行い、線区によっては、現段階における技術的限界と思われる10両編成2分間隔のダイヤを組んでいるにもかかわらず、通勤時の混雑ははなはだしく、乗車効率は250%内外となって、輸送力のひっ迫が続いている。その改善策として、長期的には国電区間の線増及び地下鉄網の整備、郊外私鉄の都心乗り入れ等が国私鉄間の運賃格差の調整問題を抱えながら進行中であり、当面の安全輸送維持対策としては、時差通勤・通学の協力要請を行い、38年度40万人の協力をえたが、38年暮れからさらに改札制限を実施することとなった。一方定期外旅客は、人員では国鉄前年度比106%、私鉄同105%、また人キロでも国鉄同108%、私鉄同104%と増加している。国鉄については、中長距離旅客の増加が大きく、中でも特急、急行、寝台等優等列車の需要がさかんである。これに対する輸送力は、逐年列車増発を行ってきた結果、幹線の列車ダイヤは大部分が適正な線路容量を超えて設定されており、多客期の波動需要に対応するための輸送の弾力性を喪失した過密ダイヤになっている。また列車増発、旅客増加から、客車留置線等を含めたターミナル駅設備の狭隘さが目立ち、輸送基礎施設の不足が表面化してきている。

輸送力不足と交通投資の充実

 近年、経済的にも社会的にも輸送力の整備増強が緊急かつ重要な課題とされ、政府予算でも社会資本とりわけ交通資本の充実が重要施策としてとりあげられ、数年来、毎年前年度を大幅に上回る交通投資が行われてきた( 第6-3表 )。しかし、戦中、戦後にかけての投資不足の累積に加えるに、30年以降の民間設備投資を中心とする経済の高度成長が予想以上の交通需要の拡大を招いたため、総体的に輸送力の輸送需要に対する隔たりはますます大きくなっており、ここ数年来問題となっている国鉄における幹線及び連絡航路の輸送難、大都市における通勤通学輸送難、幹線道路及び都市内街路における道路交通混雑は、38年度においても改善されぬばかりか一部においてはさらに激化し、大港湾における船混みは慢性的現象を呈し、今後地域によっては輸送力の不足が経済成長を阻むあい路となる可能性が一層強まるものと懸念される。試みに、国土面積 1㎢ あたりの舗装道路延長と自動車台数をみると、 第6-1図 の通り、我が国の道路の舗装の度合いが国際的にみても劣位にあるうえ、舗装道路延長の伸びが自動車台数の伸びに追いつかず、その関係が年々悪化しつつあることがうかがえる。

第6-3表 最近10年間の道路、港湾、国鉄投資額の推移

第6-1図 国土面積 1㎢ あたりの舗装道路延長と自動車台数の国際比較

 さらに今1つ需給のアンバランスがもたらす重大な問題として、鶴見事故を契機として社会的に大きくクローズ・アップされてきた交通安全に及ぼす悪影響がある。38年11月9日東海道本線鶴見─横浜間の列車二重衝突により死者167名、重軽傷119名という37年の三河島事故をしのぐ大惨事が発生した。国鉄監査委員会は、事故発生の直接の技術的原因は別として、このような大事故発生の背景に、輸送設備の不足を賄うため、列車編成の長大化、列車回数の増大、列車のスピード・アップを図り、線路を容量の極限まで利用し尽くし、ダイヤがちゆう密化したため、列車運転の安全度を低下させている事実が存在することを指摘し、輸送力の不足と事故の発生とは一体不可分の関係にあるので、ちゆう密化した列車ダイヤを緩和して輸送に弾力性を付与することが根本的な対策であるとしている。また道路交通事故は、37年を除き毎年増大の一途をたどり、大きな社会問題となっている。自動車1万台当たりの自動車事故による死者数(36年)が、米国5.0人、英国7.2人、イタリア6.4人に対し、日本は23.5人と著しく高率であることをみれば、これについても運転者の不注意等の直接原因の背景に、道路交通容量の不足及び混合交通に基因する道路交通混雑、道路環境の整備不足の事実がその一因として潜在しているものと思われる。「安全」は輸送の基本条件の1つとされている。需給の不均衡が「安全な輸送」に上記のごとく悪影響を及ぼしていることからすれば、交通安全確保の見地からする交通投資のより一層の充実が必要である。

 次に道路、港湾、鉄道等の各部門別に38年度の投資状況とその問題点をみることとする。

 まず、道路については、地方単独事業分を除き、前年度比29%増の3,997億円の投資により、2,393kmの改良と2,401kmの舗装が行われ、7月には我が国最初の都市間高速道路である名神高速道路の一部区間(尼崎─栗東間71km)が開通し、高速道路時代への第1歩が踏み出されたが、39年度には阪神高速道路も一部開通し、39年度末の名神、首都、阪神の各高速道路の供用延長は、それぞれ190km、31km、3kmとなる予定である。

 港湾については、地方単独事業分を除き、前年度比25%増の519億円が投資され、横浜山下ふ頭の完成等外国貿易港湾施設の整備、瀬戸内海における備讃瀬戸航路のしゅんせつかくふくの工事着手等、船舶のふくそうあるいは大型化に対処するための航路の整備ならびに鹿島港、新潟港をはじめとする産業港湾の開発等が進められた。

 道路、港湾投資は、所得倍増計画にのっとり36年度を初年度として策定された道路整備5ヶ年計画、港湾整備5ヶ年計画に基づき行われてきたものであるが、計画年度半ばにして次のごとき問題が生じた。

 すなわち、(1)経済の高度成長により、現実の道路輸送需要及び港湾取り扱い貨物量が、計画決定の基礎となった所得倍増計画決定の際の推定を著しく上回った。ことに道路については、倍増計画策定時には普及率が低かったため計算から除外されていた軽自動車の保有量の伸びが著しい。また港湾については、取り扱い貨物量の増大に伴い、船舶の大型化とふくそうによる港湾及び航路における海難事故の頻発等が問題化した。(2)全国総合開発計画の策定及び新産業都市建設促進法、低開発地域工業開発促進法等の法令に基づく過密地域の調整、産業の適正配置、地域間所得格差の是正等地域開発諸施策が積極的に推進されることとなったが、この新事態に対応して新たな構想に基づく長期計画の必要性が痛感されるに至った。(3)労務費、用地費の大幅な値上がりにより実質投資額と名目投資額の隔たりが相当顕著になってきた。このため、道路、港湾共に36~40年度の5ヶ年計画は38年度を持って打ち切られ、39年度を初年度とする新5ヶ年計画がより大きな規模で発足することとなっている。新計画の全体規模は、現在、所得倍増計画の中期計画との関連において策定中であるが、道路については、4兆1千億円の投資規模が閣議了解をみており、この新計画では、東名高速道路、中央道(東京─富士吉田間)等の完成を図ると共に、その他の高速道路についても建設を開始し、一般道路についても、地方産業の開発、地域格差是正等に資することを主目的とし、また舗装に重点をおいて整備を促進することとなっている。39年度の投資についてみると、道路では、地方単独事業分を除き4,832億円(前年度比21%増)、また港湾では、地方単独事業分を除き568億円(同9%増)の投資が見込まれている。

 国鉄については、38年度は2、788億円(前年度比29%増)が投資され、175.3kmの複線化と206.5kmの電化が完成されると共に、車両の増備、駅施設の改良、保安設備の強化等が行われ、さらにオリンピックを控えて39年秋の開通をめどとした東海道新幹線の工事が推進された。39年度においては、2,397億円(東海道新幹線の完成に伴い前年度比14%減)の投資が見込まれている。

 国鉄についても、現実の輸送需要は所得倍増計画策定時の推定を上回っており、これが応急輸送対策として車両増備、列車増発に重点がおかれ、線路等基礎施設への投資が遅れた結果、主要幹線におけるダイヤは弾力性を失ったいわゆる過密ダイヤとなっている。ちなみに、輸送量と輸送力の関係を11年度と38年度について比較してみると( 第6-4表 )、人キロ、トンキロはそれぞれ5.8倍、3.5倍に増加しているのに対し、列車キロ及び車両キロは2.2倍の増加にすぎず、サービス水準の低下をきたしている。また、基礎施設の量的指標である換算営業キロは2割しか伸びていないため、全国平均の列車回数は8割増の63回となっており、この結果、主要幹線では適正な線路用量をはるかに超えている。他方近時の用地費、工事費等の騰貴から所期の工事達成率がえられず、さらに踏切事故を始めとする重大事故発生にかんがみ、踏み切り改良から過密ダイヤの解消に至る一連の保安対策の推進が危急の急を要するものとしてクローズ・アップされてきた。ここに現行5ヶ年計画の不適合性が指摘され、抜本的な対策が検討されることとなった。

第6-4表 国鉄の輸送量と輸送力との比較

 私鉄(大手14社)、地下鉄については、990億円(前年度比25%増)の資金が、主として大都市及びその周辺における輸送力増強のために投資され、8区間の新線、総延長21kmが開通し、669両の車両の増強が行われた。特に地下鉄については、37年度の368億円を大幅に上回る498億円が投資され、東京、大阪、名古屋、神戸の各都市内で新線建設が進められた。

 空港については、国、地方公共団体合わせて59億円(前年度比53%増)が投資され、東京国際空港の整備がほぼ完了し、大阪国際空港の整備が進められると共に、ローカル航空路線の発展に応じて、鹿児島、名古屋、青森等の空港の整備が行われた。航空輸送需要の急増に伴う運航量の増大と機種の大型化、高速化に対応して、今後も滑走路の延長、耐圧強度の強化、エプロンの拡張等が必要とされており、39年度においては、57億円(東京国際空港の整備完了に伴い前年度比4%減)の投資が見込まれているが、各地の空港及び航空路におけるGCAなどの電波航法施設の整備もさらに促進の要がある。なお、東京国際空港における離発着回数の激増と近い将来に予想されるマッハ2.2ないし3の速度を有する超音速旅客機の就航に備えて、新東京国際空港の建設を早急に行う必要があるが、38年12月候補地及び規模について航空審議余の答申があり、これを勘案して用地の選定等準備作業が進められている。


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