昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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昭和38年度の日本経済

貿易

輸入

輸入の急増

 輸入は37年10~12月を底として上昇に転じ39年1月まで高率の増加を続けた。生産の上昇に伴う原材料輸入の増加に食料品輸入の急増が加わったためである。この結果、年度間の輸入通関額は7,247百万ドルに達し、前年度を29%上回った。しかし39─年2月以降、原料品輸入増加も一服し、また食料品輸入もようやく頭打ちとなったので、輸入は高水準にあるけれども増加テンポはかなり鈍化してきている。

 輸入増加の内容をみると、鉄鋼原料、原油などを中心とする素原材料が25%の著しい増加を示し、輸入増加に対する寄与率も44%に達したほか、鉄鋼製品、非鉄金属などの製品原材料も48%と大幅に増加した。一方飼料の64%増や砂糖、小麦を中心とする食料品の58%増、その他の消費財の67%増など消費に関係ある輸入商品の大幅増加も目立ちこれらで輸入増加の35%を占めた。しかし機械輸入は前年度とほぼ横ばいであった。

第1-6図 主要商品類別輸入通関額

第1-7表 38年度における輸入増大の内容

輸入急増の要因

生産の上昇

 38年度の輸入の増大は第1に生産上昇に伴う原材料輸入の増大によるものであった。鉱工業生産は38年初めよりかなり高いテンポで上昇し、年度間では15%の増加をみた。このためくず鉄、鉄鉱石、綿花、羊毛、原油などの輸入素原材料の消費量が増大した。これまでの経験によれば、景気回復期においては鉄鋼など輸入素原材料を多く使用する輸入関連工業の生産の上昇率が高く、従って輸入素原材料の消費も鉱工業生産よりは大きく増大する傾向があったが、今回もその例にもれず、消費量の増加率は生産の上昇率を上回った。鉱工業生産の年度間増加率15%に対し輸入関連工業の生産は19%、輸入素原材料消費は18%の増加を示している。

 また生産が上昇し、稼動率が上がってくると、景気調整期中低水準に抑えられていた製品原材料輸入が増大してくる。製品原材料の輸入は国内生産能力の不足を補う限界的なものであるから、輸入の変動が大きいが、今回の景気回復期においても、操業率の上昇と共に、製品原材料の輸入の大幅増加がみられた。

第1-7図 鉱工業生産、輸入関連工業生産、輸入素原材料消費の推移

第1-8図 輸入価格の推移

素原材料在庫投資の増大

 輸入増加の第2の要因は、素原材料の在庫投資が増加したことである。

 輸入素原材料在庫投資額を推計すると、37年の景気調整期にはこれまでにみられなかったほど大きな在庫圧縮がおこなわれ、年度間の在庫減らしは約1億ドルに達していた。この在庫減らしがとまっただけでも、輸入は1億ドル増えるが、38年にはさらに1億ドル弱のプラスの在庫投資が行われ、このため素原材料輸入の水準が約2億ドル増加したのである。

 しかしこのことは輸入素原材料の在庫水準が特に高くなったことを意味しない。輸入素原材料在庫率指数の推移は 第1-10図 の通りであって、プラスの在庫投資が行われたにもかかわらず、消費量の増大から在庫率指数は低下傾向をたどっており、いわば生産活動の上昇に見合った在庫補充が行われているに過ぎない。

第1-9図 輸入素原材料在庫投資の推移

第1-10図 輸入素原材料在原率指数の推移

偶然的要因と構造的要因

 生産の上昇や在庫投資の回復に伴う輸入の増加のほか、今回の輸入増加で極めて特徴的だったのは消費財や飼料の増加であった。これらの輸入は年度間約5.7億ドルの増加を示し、輸入増加に対する寄与率も35%にのぼっている。これには偶然的な要因が大きく働いていた。

 第1に輸入価格の上昇である。砂糖価格が倍以上に高騰したほか、とうもろこしなどの雑穀類も値上がりし食料品輸入価格指数は年度間22%上昇した。もし食料品輸入価格が前年度並であったならば、輸入は約2億2~3千万ドル少なくて済んだはずである。主要値上がり品目5品目をえらび、価格上昇による外貨損失を計算してみると、砂糖の133百万ドルを中心にこれだけで約170百万ドルの損失となっている。

第1-8表 食料品輸入価格の上昇

 第2が長雨による小麦などの不作である。小麦輸入は前年度より96万トン62百万ドル増加したほか、前年度にはほとんど輸入実績のなかった大麦及びはだか麦が38年度には23百万ドル輸入された。そのほか菜種なども増えた。

 しかしこれら偶然的要因のほか、経済構造の変化などによる飼料、消費財の輸入も大きかった。

 第1は自由化の影響である。所得水準が上昇し、消費パターンも変化して高級消費財に対する需要が増大している。このため自由化された消費財の輸入増加率は極めて高くなっている。37年10月、11月、38年4月自由化されたもののうち主要なもの81品目についてみると、食料品、その他消費財の輸入増加率が高く前年の2倍以上となり、増加金額としてもかなり大きかった。その内容をみると、食料品ではバナナ、はちみつなどの増加が著しく、工業製品消費財では、ナイロンストッキング、万年筆、ボールペンなどとその他の高級消費財が少額ながら高率の増加を示しているのが目立っている。35年10月自由化品目のその後の推移をみても、食料品は自由化時期の一時的増加に加えて、その後の増加率も自由化前に比べかなり高くなっている。

第1-9表 最近の主要自由化品目の輸入増加

 第2は農業の選択的拡大に伴う飼料輸入の増大である。38年の飼料の輸入増加には値上がりや不作の影響も大きいが、こうりゃんや魚粉、ミールなど需要増大に伴う輸入の増加も大きかった。

今回の輸入増大の特微

 以上の検討からみる通り、今回の輸入上昇テンポは32年、36年の景気過熱期にみられるほど大きなものであったが、内容的にみると、景気過熱期の特徴はみられなかった。その相違の第1が機械輸入の動向である。38年度の機械輸入は前年度とほとんど横ばいであって、設備投資の盛り上がりからくる機械輸入の増大はみられなかった。第2が輸入素原材料在庫投資の動向である。38年度の在庫積み増しは1億ドル弱であったが、これは前年度に削減した分をほぼ埋めたに留まっており、金額自体も32年の引き締め前1年間の260百万ドル、36年の130百万ドルをかなり下回っている。

 このような過熱期の特徴がみられないのに、過去の景気回復期に比べ輸入の増加率は高かった。景気回復期後1年間の輸入増加率は前々回が19%、前回が22%に留まっていたのに対し、今回は38%と著しく大きかった。

 これは次のような事情があった。第1は生産の上昇率が高かったことである。生産の上昇率は19%で前回の20%とほぼ同じだが前々回の12%を上回っている。

 第2は、生産回復期に食料品を中心とする輸入価格が上昇したことである。これまでの景気回復は30年のように輸入価格がほぼ横ばいの時期、33年のように輸入価格が低下傾向にある時期に行われたが、今回の回復は、輸入価格がかなり上昇した時期におこなわれ、このため輸入の増加率が高くなった。

 第3は、景気回復の初期から輸入素原材料在庫投資が増加したことである。これまでの経験では、景気回復の初期には輸入素原材料在庫投資はほとんど増加しなかった。輸入素原材料在庫率が比較的高い水準にある時に景気回復が始まったからである。しかし今回の場合は、37年の景気調整期中に、素原材料在庫の削減が大幅に行われたので、生産上昇が始まった時の在庫水準はかなり低くなっていた。このため38年の景気回復期においては、輸入素原材料の在庫投資は、37年の大幅なマイナスから転じて、1億ドル弱のプラスヘと増加した。これが輸入の増加率を高いものにしたのである。

 なおそれに加えて、麦類などの凶作、自由化率の上昇という事情も生産回復期の輸入の増加テンポを高くした要因である。

 このような事情からみると、価格の上昇傾向もとまり景気調整の浸透によって生産活動も落ち着いてくれば、輸入の上昇テンポはかなり鈍化するものと思われるが、現在の在庫率がかなり低下しており在庫削減の余地に乏しいこと、消費財輸入の増大傾向など輸入の減少を妨げる要因には注目を要する。


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