昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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新しい環境下の経済発展

不均衡成長のゆがみ是正

ビッグ・ビジネスの成長と体質

我が国ビッグ・ビジネスの進出

 我が国の経済が国際的にみて極めて高い成長を遂げたなかで、ビッグ・ビジネスもまた外国では類をみないほどの高い成長を示した。米誌「フォーチュン」に発表される世界のビッグ・ビジネスの売上高順位をみても、我が国企業の進出の著しいことが分かる。アメリカを除くビッグ100社のなかにはいる日本の企業は、昭和32年では鉄鋼会社を中心にわずか4社に過ぎず、しかも全部即位以下であったのが、4年後の36年には14社が顔を出し、順位もずっと上昇した。

 企業の規模を売上高で国際比較すると、化学、自動車、石油などの業種ではまだまだ外国との開きは大きいが、鉄鋼、電気機械、合成繊維などでは格差はかなり縮小している( 第II-3-2表 )。最も、アメリカのビッグ・ビジネスはそのマーケットも自国内に留まらず世界に進出しているが、日本のビッグ・ビジネスはそのような国際的なものには遠く及ばないとしても、ヨーロッパの大企業を追い越しているものは増えてきた。

第II-3-1表 アメリカを除く100社に入った社者

第II-3-2表 売上高による企業規模比較(1961年)

企業成長への行動

 企業の目標は元来は利潤率を高く保つことにあるが、より長期的に安定的な利潤をうるためには企業の成長が重要になってくる。U木のビッグ・ビジネスの成長はいかなる行動月横に従ったであろうか。

 第II-3-3表 は日本の代表的と思われるビッグ・ビジネス19社の平均値と、それな除く製造業の成長率を比較したものである。これでみると売上高成長率はビッグ・ビジネスの方が大きいが、利益の増加率は逆にその他製造業の方が大きい。すなわちこの期間には売り上げ滴利益率はビッグ・ビジネス、その他製造業共に増大したが、ビッグ・ビジネスの方が低い伸び率しか示し得なかったわけである。ビッグ・ビジネスでは資本ストックの増加率が大きいことに反映されるように、設備投資を中心とした成長政策が採られ、労働装備率及び労働生産性は向上したが、一方、資本費などの上昇による利益圧迫も大きかった。

第II-3-3表 ビッグ・ビジネスの成長率

 このことからこの数年間の過程でもビッグ・ビジネスはその他製造業に比べ、利益の増加より設備投資を中心とした売上高の増加に重点をおいていたものと考えられる。アメリカの場合は、この期間では共に売上高利益率は減少しているが、それでもビッグ・ビジネスはその有利性を発揮して下落の幅をわずかにとどめ得た。経済の高成長期にあっては売上高の成長率の大小が最も直接的に企業の社会的業力を現す指標として大切になってくるであろう。

 売上高を伸ばし、高い市場占拠率を獲得して業界のリーダーシップをとることが企業の目標となっている。

下位企業の進出

 次に製品別生産集中度をみると 第II-3-4表 に示すようにビッグ・ビジネス全体では低下しているものが多い。もちろん業種や製品によって異なるので一様にはいえないが、ビッグ・ビジネス全体としてのシェアが低下したのはビッグ・ビジネスに次ぐ大企業の市場参入によってもたらされたものと考えられる。

第II-3-4表 生産集中度の変化

 更に、ビッグ・ビジネスの中でも下位に属する企業の方がシェアの減り方が少ないかあるいはむしろシェアが増加していることからみて、ビッグ・ビジネスの中でも下位企業から上位企業へのくいこみというかたちで、競争が激化したものと思われる。これは、経済の高成長期にあっては新規の市場参入が容易で、シェア競争が激化しやすい条件が与えられていたからであろう。

 そこで、こころみに主要業種の1位企業と2位企業について、企業ベースでみたシェアがどの程度異なってきたかをみよう。まず売り上げ間の伸び率は 第II-3-5表 にみるように2位企業の方が高く、1位と2位の格差はますます小さくなる傾向に進んでいる。

第II-3-5表 売上高成長率の比較

 次に各企業における売上高成長率を市場占拠率に変化がなかったと仮定した場合に達成されたであろう部分と、市場占拠率の変化によってもたらされた部分に分解してみよう。市場占拠率の変化がないと仮定された部分は、各社において31年度の製品構成のままで各製品ともその商品の総需要と同率で生産が伸びたと仮定した場合の成長率であり、これと実績成長率のかい離が市場占拠率の変化率として計算できる( 第II-3-5表 )。これでみると、市場占拠率に変化のない部分はおおむね1位企業の方が高く、当初から1位企業の方がより成長性の高い将来性のある製品構成を持っていたことになるが、一方市場占拠率の変化率はことごとく2位企業の方が高くなっており、このことから2位企業は1位企業の製品構成に近づくように市場占拠率を拡大していったことが分かる。

 2位企業にはこのように1位企業への接近を目標にした強い成長意欲がみられるが、このなかに図って戦前は業界第1位を誇っていながらそれぞれの理由によって2位に転落したものもあり、これらの企業においては再び1位に接近したいという意欲が感じられる。我が国では比較的資本蓄積に乏しくまた高い技術水準がない場合でも、外部資金及び外国からの導入技術を利用できたことは、企業の成長にとって平等の条件が9。えられ量的にも質的にも同じタイプの企業の出現が可能となった。

 我が国のビッグ・ビジネスの特殊性は、各業界で飛びぬけて大きな企業というものがなく、規模においても、またその内容においても似かよった企業が並存しているということにある。( 第II-3-2表 )日本では売上高で比較して大体2位は1位の80%程度であるが、アメリカでは50%くらいのものが多い。1位企業が巨大で、市場でも大きなシェアを構っている場合には、プライス・リーダーシップをとって業界をリードする力もでてくるであろうが、日本のように同一業種において勢力伯仲したものが並存している場合は競争が激しくなるのは当然である。最も西ドイツでは鉄鋼、化学、自動車などの業種では同程度の規模の企業が並存しているが、これらの企業では我が国の場合と異なって扱う製品に質的な相違があって、市場面でも技術面でも分野協定ができており、企業自身にもそれぞれ特殊性を持っているため、我が国のような激しい競争がみられないのであろう。

ビッグ・ビジネスの評価と問題点

 経済の高度成長のなかで、工業生産物に対する需要が急速な拡大を遂げていた我が国にあっては、企業としては価格を下げても数量を拡大していくという方法がとりやすいため、設備投資を中心とした企業の成長競争が激化された。我が国のビッグ・ビジネスは激しい競争の過程を通じてこそ目覚ましい成長を遂げたと同時に、日本経済高成長の担い手であったことはいうまでもない。また、例えばポリエチレン、ナイロン、テトロンなど今日の重要な新製品の技術導入、あるいは新しい設備革新の技術開拓についてもビッグ・ビジネスはいち早く先檄をつけ、戦後の技術水準のたち遅れを取り戻した技術革新者としての役割も高く評価されねばならない。

 しかし財務基準でみると、我が国のビッグ・ビジネスは海外のビッグ・ビジネスとの比較ではいうに及ばず、国内の他の企業に比べてもとりわけ優れているとはいえない( 第II-3-6表 )。海外との比較では利益率が非常に低い。しかし売上高に占める営業利益の比率でみるとむしろ日本の企業の方が優れており、これは我が国では借り入れ依存度が高いため支払い利子など営業外費用が多額にのぼることから説明される。企業の安全性を現す自己資本比率、流動比率などもことごとく劣っている。また国内の比較からも分かるように、日本ではどの企業もおおむね大同小異の不安定性を持っており、それゆえに従来の封鎖体系のなかではそれが取り立てて問題化しなかったのであろう。

第II-3-6表 経営比率の国際比較

 しかし新しい国際環境を向かえて、これらの矛盾は表面化せざるを得ない。我が国のビッグ・ビジネスも世界のビッグ・ビジネスの仲間入りをして国際的性格を持つためには、海外のビッグ・ビジネスの規準なりルールなりが要求されるのは必然的である。海外の進んだ技術を導入するにしても外国企業との合弁会社という形での資本提携の要求が強まっており、外国資本の信用をかちとるためにも、また自由化が進み外資導入が容易になろうとしている現在、有利な条件で外資を導入するためにも、企業経営の安全性基準が問題となり、従来にも増して今後の企業成長の重要な条件となってくるであろう。

 更に我が国経済も従来のような異常な高度成長期から次第に安定成長期へと向かうであろうが、今後は過当競争についてもみなおされ、企業経営面にもより安定化の条件が要求されよう。


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