昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

農林業

林業

木材価格の動向とその背景

 36年の木材価格の高騰に対して、37年度は木材需給が緩和し、木材価格もここ数年にない安定した足どりを示した。

 すなわち、37年度の木材価格を日銀卸売物価指数についてみると、グラフ( 第6-4図 )のように37年度当初には横ばい状態を続けていたが、4月以後は軟調に転じ、7月には1月に対して3.5%下がって前年同月の水準を割り、36年秋の高騰直前の水準に達した。その後、秋需要期に入った8月以降はやや回復の兆しを見せたが、11月には再び軟調に転じて、37年初の水準を保ちつつ38年に至っている。

第6-4図 木材価格の動き

 すなわち、この全期間を通じて、最高値(2月、10月123.5)/最低値(7月118.8)は、104%に過ぎず、これを36年度中の最高値/最低値の118%強に比べて、木材価格の動きは極めて安定しているといえよう。

 また、前年同月比をみても、6月にはほぼ前年水準にまで低下し、8~9月には5%程度下回ったのを底として、逐次前年水準に近づいている。

 このように37年の木材価格は春高、秋高という木材価格本来の季節変動が表れていることと、37年3月以降38年1月に至る間、一貫して製材価格指数が素材価格指数より下回っていることが注目される。

 37年度の木材需要は、 第6-8表 のように、建築活動の低調とパルプ工業の不振により、前年度より1.2%減少して6,001万立方メートルとなった。

第6-8表 木材需要の推移

 一方、供給のうち、国内生産は4,448万立方メートル程度と前年度を10%下回ったが、外材輸入と木材チップの増加で全体としての需給はほぼ均衡した。37年度末の在荷量は前年度比96%と減少したが、木材総需要量に対する比率は14.1%で、木材補給のひっ迫した35年度末の13.8%よりは高くなっている。

37年度木材需給の特徴と問題点

景気調整下の木材需要の特徴

 37年度の木材需要をみると、ここ数年来続いている需要絶対量の増加と、需要構造の変化、例えば建築用材における非木造建築に対する木造建築の相対的減少、代替材の進出、消費原単位の低下、パルプ用材における針葉樹に対する広葉樹、素材に対するチップ及び屑材使用比率の増加などの変化は、景気の動向や木材需給関係ならびに価格の安定にも関係なく、依然続いている。

 木材需要の伸びについては、34年度以降の年率10%特に36年度は14%近くであるのに対して37年度は、33年度以来4年ぶりに前年度水準を割った。

 すなわち、木材需要の大宗を占める建築用材についてみると建設省調べ建設経済月報によれは建築着工面積は、34年以来毎年々率20%の伸びを示してきたのに、37年度は4ヶ年ぶりに前年水準を下回った。しかも木造着工面積は更に大きな減少を示している。

 これを用途別にみると、建設の章にあるように住宅建築及び公益事業用、公務文教用の増に対して産業用建築投資の著しい減少がみられた。

 およそ産業用設備投資のための木材需要は、民間居住用の木材需要に比べて一口の消費単位がまとまるのが普通で、その動向は木材市場の変動に実勢以上の影響を与えてきた。現に、36年度の木材価格高騰の主原因がここにあったし、また、37年度の産業用建築用材需要の減少が同年度の価格の沈静化に大きく寄与した。

 また、価格が大幅な下落に至らなかったのは、居住用、公益用需要が安定した動きを示したことによるところが大きい。

木材輸入とその問題点

 一昨年来国内木材価格の高騰により輸入量、樹材種はもちろん、着港数にも飛躍的発展を遂げた外材は、37年に入ってから国内市況の急落を反映して輸入量の伸び率が前年度のそれよりも著しく落ちているが、絶対量は前年度の15%増という着実な進展をみせ輸入金額は1,138億円と石油、綿花、鉄鉱石に次いで、我が国輸入物資の第4位を占めるに至った。(付表参照)

 今後産業活動の発展に伴う木材需要絶対量の増加に応じるだけの国内生産量の伸びは期待しがたいので、外材依存度は更に高くなるであろう。

 種類別にみると、輸入量の過半数を占めているラワン材は前年度比17%増である。この原因は、合板需要の増加の他、建築用材、建具用材等への進出によるものである。しかし、原産地における資源の枯渇、あるいは丸太輸出の禁止の動き等があるので、新資源開発に努める必要がある。

 北洋材は、その生産地が地理的に我が国に最も近接していること、輸出余力が豊富であること、またソ連が極東地区の開発に努めていることなどから、今後の輸入が増大すると見込まれるが、年間契約に因っているので、数量、価格が国内市況の動きに対して、極めて固定的非弾力的である。

 米材は、37年に入って景気調整の影響と在庫の圧迫を受けて、漸次落ち着きをみせたが、海上運賃の下落や北洋材の高値契約の影響があったため、ほぼ前年並の輸入量があった。これらの輸入米材は国内材と競合する樹材種の輸入が多くなり、実質的には国内市況に与える影響は従来よりもむしろ大きくなってきている。

 なお、我が国の木材需給動向に大きな影響を与えるパルプ輸入の自由化が37年に行われたが、37年度の全輸入量は前年度比133%に達し、製紙用パルプは3.5倍に達している。今後も溶解パルプの輸入量は年間ほぼ160千トン程度で横ばい気味であろうが、製紙用パルプについては、国内原木事情や外国産パルプとの価格差からも輸入パルプへの依存度は今後も高まる形勢にある。従って、今後紙需要絶対量の年々の増加によってパルプ用材需要の絶対量は伸びるとしても、木材需要の内に占めるパルプ用材のウェイトはそれほど高まることはないであろうし、また国内におけるパルプ用材価格の独歩高という現象も許されなくなるであろう。

国内生産の問題点

 外材依存度がすう勢的に増大するとしても、我が国木材供給安定の基調は国内生産の安定と生産の弾力性を図ることにあるが、これらに関して山村の労働人口の流出と労賃の高騰の著しいことが注目される。

労働人口の流出

 山村の労働人口の流出は、農林省農林漁家就業動向調査によれば、 第6-9表 にみるように平地農村や農山村よりも大きく、かつ次第に減少率が大きくなっている。しかも、山村においては他の集落よりも早くから大きな続出があったことが分かる。

第6-9表 集落階層別人口減少率

 これを異動形態別にみると、就職離村による減少が大きいことはいうまでもないが、特に山村においては、家ぐるみの離村による人口減少が目立っている。

 これを年齢別にみると、林業労働において最も能率が高いといわれる30~39歳層は増加しているが、29歳未満層の流出が大きいので、今後、高能率労務者を確保する上に心配を投げかけている。

 また一方、農山漁村からの出稼ぎ者はその総数においては33年度以降今日までさしたる変化はないにもかかわらず、その就業先は建設業に向かう者が圧倒的に多く、しかもその傾向は年を追って強くなっているのに反し、林業への出稼ぎは逐年減少し、36年度は33年度に比し半減している。

労賃の高騰

 経済の高度成長に伴い、全産業を通じて一般に賃金水準の上昇が著しいが、 第6-10表 にみるように、林業では農業を上回る対前年度比25%の高騰を示している。国有林では一般賃金水準の上昇に伴い賃金改定を行った他、月雇い、日雇いの層が減少した結果、常用、定期作業員のウェイトが大きくなり、作業員の雇用構造の変化が平均賃金上昇の一因となっている。

第6-10表 事業別平均賃金指数の推移

 このような林業労賃の高騰が素材生産費の高騰となり、37年度は立ち木価格や製材製品価格の低下にもかかわらず、素材価格は低下せず製材業者は一貫して原木高の製品安の苦境にあった。

 また、林業労賃の高騰は育林経費の高騰をもたらすことともなり、更に山村人口の流出とも相まって、造林意欲の減退をもたらすおそれもある。林業は農業以上に、労働力減退の影響を強く受けるのであるから、今後林業の発展を期するためには機械化による労働生産性の向上と林業労働確保のための施策を確立することが急務である。


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