昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

建設

建設生産の近代化と建設業

 労働力の確保が難しく、賃金の上昇が著しい上に大規模工事が増大していることに対処して、工事消化量増大への努力が続けられている。1つは建設工事の工業依存であり、いま1つは中小業者の施工能力の増大である。

建築工事の工場生産化

 工業への依存度を高めることは、屋外手工業ともいうべき従来の建設業の現場作業を省略して、建設工事の生産性を向上させる有力なポイントとなる。生コンクリートの供給はその好例であり、コンクリート打ち込みのスピードアップや作業用地の縮小を通じて、既に大きな効果を上げている。生コンクリートに次いで最近普及段階に入り、今後の発展を期待されているのが建築のプレハブリケーションである。

 建築のプレハブ化のうちでも、住宅については建設省の指導によって、34年度に公営住宅での試作建設が行われ、公団住宅、公庫住宅等でもその開発が進められた。38年度においては、公営住宅の20%に当たる約5,000戸をプレハブ住宅として建設することが見込まれており、ようやく本格的な建築工事の工業化を迎えようとしている。この情勢を反映して、建築関連業界でのプレハブに対する関心はこの数年来おおいに高まり、鉄鋼業やプラスチック業などからプレハブ産業へ進出しているメーカーが増え、ガレージ、仮設事務所等の民間建築にも普及しつつある。

 しかしプレハブ建築の進んでいる欧米やソ連に比較すると我が国の建築生産の近代化はかなり遅れている。その原因は日本の従来の建築があまりにも多種小規模に偏していたためである。従って、プレハブ建築の急速な発展をうながすためには、まず建築資材、部品の規格化を実施し、これをプレハブの容易な公共建築へ逐次採用しつつ、民間建築への普及を図る必要があろう。

中小業者の施工能力の増大

 建設業では全工事量の半ばを資本金5,000万以下の中小業者が消化しているが、特に土木工事においてこの傾向が強い。このため、最近の工事規模の大型化傾向に対応するためには中小業者でも比較的大規模な工事を消化することが必要となっている。しかしながら、現在では大手業者と中小業者との格差が著しく、中小業者が1企業単位で施工能力を高めるにはおのずから限度がある。従って、中小建設業者が時代の要請にこたえて施工能力を向上し、自らの発展を図るためには、業者の乱立と過当競争を排除し、入札制度の合理化を実行することが必要である。

 このため施工能力の増大を図る当面の方策として、中小建設業者の連帯による共同請負制度の実施が望まれるに至り、37年11月建設大臣の指示に基づく行政指導が行われた。これは中小建設業者の施工能力の増大を図ると共に、中小建設業者の受注機会を多くすることを目的としているが、更に一歩を進めて企業合同の方向へ移行することに指導方針がおかれている。

経営近代化の方向

 以上に述べたように、昭和37年度の建設活動は、前年度の水準を上回る規模に達し、建設業は高い成長を持続しつつ、建設活動の構造高度化の働きに対応して経営の近代化を進めている。いまその態様を若干の経営指標の推移についてみると 第4-7表 の通りである。

第4-7表 経営指数の比較

 表にもうかがわれるように、建設業は建設ブームの続くなかで収益性を高め、過少資本と相まって高い配当率を維持しているが、最近では過少資本の是正によって、自己資本の比率も漸次高まっており、経営基盤は安定しつつある。このような経営指標の動きは、現在進められている建設業の体質改善ともいうべき動きの一端を現すものであろうが、具体的には次のような諸点となろう。

 まず全般的にいって、大手業者はより一層経営を多角化する傾向が強い。従来土木の比重の高い業者は建築部門へ、民需のウェイトの高い業者は官公需の開拓をというように、土木と建築、民需と官公需それぞれのバランスをとることを望んでいると考えられる。特に、建築部門の比重の高い業者は、建築活動が景気変動の影響を受けることが多いため土木部門へ進出するものが多くなる。

 これに対して、中規模以下の業者では、大企業に系列化される場合でも、独立で進む場合でも特殊工法の採用、あるいは専門機械を持つなどして、技術的に特色を持った専門化体制の確立へ向かうべきものと思われる。しかしながら、我が国の建設業が、上述のような志向に沿って発展するために解決すべき問題は多い。例えば、機械化や市場開拓等の経営方針を定めるには、長期計画の樹立が必要となるが、未だに主観的な志向によって決定する業者の多いことなどが挙げられる。

 もちろん、受注産業であることや、生産様式の特殊性から、徹底した経営管理の合理化は困難なことである。しかし工事原価の適正な見積もりと正確な財務管理等、業者自らの手による改善の余地はかなり残されており、それらの課題を解決してこそ、建設業のより安定した発展が実現されるであろう。


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