昭和38年
年次経済報告
先進国への道
経済企画庁
昭和37年度の日本経済
貿易
昭和37年度の貿易動向
外国為替収支
36年9月に国際収支改善のための総合対策が実施されて以来、我が国の国際収支は順調な改善を続け、37年夏には均衡状態を回復した。このため37年度の外国為替総合収支は302百万ドルの受取超過となり、36年度の436百万ドルの支払い超過に対して738百万ドルの大幅な改善をみた。この結果、外貨準備高は、37年3月末の1,561百万ドルから、38年3月末には1,863百万ドルに増加した。
外国為替総合収支が、大幅に改善したのは、輸出の増加と、輸入の減少から、貿易収支が前年度の864百万ドルの赤字から292百万ドルの黒字に転じたうえ、長期資本収支が黒字幅を拡大して297百万ドルの受取超過となったからである。しかし貿易外収支は赤字幅を拡大して225百万ドルの支払い超過となり、短期資本収支は、アメリカ市中銀行からの特別借り入れの返済もあって、前年度の456百万ドルの黒字から、わずか29百万ドルの黒字となった。
貿易収支の早期改善
経常取引は、受取が前年度比、16%増加したのに対し、支出は5%減少したので収支尻は67百万ドルの黒字となった。その内容をみると、貿易収支の著しい改善と貿易外収支の赤字幅拡大という際立った対照を示した。
貿易収支は、輸出為替受取が4,874百万ドルで、前年度比18%の増加だったのに対し、輸入為替支払いは4,582百万ドルで、8%減少しており、収支尻は前年度の864百万下ルの赤字から292百万ドルの黒字へと著しく改善した。しかし四半期別の推移をみると、第4四半期に入って、貿易収支は既に赤字に転じている。
貿易外収支の赤字幅拡大
貿易外収支は、受取が3国間貿易手数料、事務所経費などの増収によって前年度比22百万ドル増加したが、支払いは手数料、交互計算、利子配当などが大幅に増えたため前年度に比べて108百万ドルの著増となり、収支尻は前年度より86百万ドル悪化して225百万ドルの赤字となった。
貿易外収支は戦後黒字を続けてきたが、35年度から赤字に転じ、36、37年度と赤字幅なひろげてきた。これには次のような要因が働いている。
第1は運輸関係の支払い超過が大きくなってきたことである。特に34年度ごろまでの貨物運賃の払い超の増加と、35年以降の港湾経費の払い超増加とが際立った特徴であった。我が国の貿易量の増大と輸出入における邦船積み取り比率の低下傾向から、貨物運賃の払い超は増加傾向を示してきた。しかし34年ごろから、輸入貨物船の大型化によって運賃レートが低下してきたので、その後貨物運賃の支払いは漸減傾向を示している。特に37年度には、運賃低下が大幅だった上に、輸入邦船領収比率の上昇があって貨物運賃の支払いはかなり減少した。
しかし、港湾経費収支は34年度以降急速に赤字幅を拡大している。貿易品の増大を反映した他、我が国と諸外国との港湾料金に大きな格差が存在するからである。更に、我が国の港湾施設の不備が収支尻を悪くする原因となった。滞船料としての外貨流出、用船契約に際しての滞船料の値上がり、外船利用度の上昇などのためである。
第2は、貿易量の拡大を反映して手数料支払いの増勢が続くと共に、我が国商社の海外活動の活発化に伴って、交互計算、事務所経費などの支払いが著しく増加したことである。
第3は、本邦への外国投資が活発化すると共に、投資収益の支払い増加が著しいことである。
第4は、技術導入の急速な増加と、技術導入の対象となった商品の生産量ないし販売量が増大したことにより、特許料の支払いが急増してきたことである。
第5は、為替自由化の進展に伴って、海外旅行などの増加が大きいことである。海外旅行の支払いは、36、7年度と頭打ち傾向を示しているが、これは国際収支改善対策の一環として36年度下期に海外渡航の自粛、審査の強化などがあったためで、潜在需要は極めて大きいとみられる。
一方、受取面では、手数料、交互計算などは経済活動の活発化と共に増加してきているが、その伸び率は支払い増加率には及ばない。投資収益は、我が国の場合は主としてMOF保有外貨の運用益であるから、我が国の国際収支が赤字の場合には減少する傾向がある。特許料受取は、支払いに比べるとほとんど無に等しい。海外旅行は将来伸びることが期待されるが、現在のところ支払い額を下回っている。そして最も影響の大きいことは、軍関係受取が漸減傾向にあることである。我が国の貿易外収支は、軍関係を除けば大幅な赤字となるが、他の受取の伸び率が支払いの増加率より低い現状においては、たとえ軍関係の受取が横ばいを維持しても赤字幅は拡大することになる。
このように、近年における貿易外収支の悪化は、貿易量の増大、外資導入の盛行、為替自由化の促進などによるもので、この傾向は今後も続くであろう。一方軍関係受取は今後も減少を続けるであろうと思われるので、海運の振興などに大きな努力を必要としよう。
長期資本の大幅な流入超過
37年度の資本取引は326百万ドルの受取超過となったが、黒字幅は前年度より303百万ドル縮小した。これは、長期資本収支の黒字幅は拡大したが、短期資本収支の黒字幅が大幅に縮小したからである。
長期資本の流入超過は、日本経済に対する国際的評価の高まる中で、我が国に対する投資が活発化すると共に、国内的には金融のひっ迫から日本の企業が海外市場での資金調達に努力したため、外債発行や長期資金の借り入れが増大したためである。
短期資本収支は、36年度第4四半期に続いて37年度第1四半期に大幅な黒字を出したが、これはアメリカ市中銀行からの特別借り入れによるところが大きく、これを除いた実質収支は36年から37年いっぱい収支トントンで推移した。これは、輸入の減少を反映して輸入ユーザンス残高が低下したうえ、ユーロ・ドル、その他の外国資本の流入も緩慢となったからである。しかし第4四半期には、輸入の増加を反映してユーザンス残高が増加したうえ、ユーロ・ドルの急増もあって、米国市中銀行からの特別申し入れの返済(233百万ドル)があったにもかかわらず85百万ドルの黒字をだした。
輸出
輸出の推移
37年度の輸出通関実績は5,010百万ドルで、前年度より688百万ドル、16%増加した。
35年末から36年秋まで、海外需要の減少を主因に、輸出圧力の減退、あるいはADI買い付け削減の影響も加わって著しい停滞を続けた我が国の輸出も景気調整策の浸透につれて、36年末ごろから増勢に転じ、37年度上期中急速な勢いで増加した。これは、国内需要の減退から輸出圧力が高まった上、アメリカ経済の好況、ヨーロッパ経済の拡大持続と対日輸入制限の緩和、対共産圏貿易の伸長などによる。しかし、37年秋から38年初めにかけてアメリカ景気が停滞し、それを反映して繊維、雑貨などの輸入が停滞した上、ヨーロッパ向けを中心とする食料品の輸出や共産圏向けの輸出も伸び悩んだので、37年度下期に入ると、輸出の頭打ち傾向がみられるようになった。
四半期別の季節調整ずみ輸出通関額の対前期増加率は、37年1~3月4%増、4~6月8%増、7~9月5%増に対して、10~12月は1.4%減、38年1~3月は更に1.7%減となっており、下期の停滞傾向が著しい。
輸出の内容
37年度の輸出の内容をみると、市場別では、西ヨーロッパ、アメリカ、大洋州などの先進国向けと共産圏向けが大幅に増加したが、東南アジア、中南米、アフリカなどの低開発国向けの輸出は停滞気味であった。商品別では、鉄鋼、化学製品(肥料を除く)、機械(船舶を除く)などが著増し、輸出構造の重化学工業化が一段と進んだ。しかし、船舶、綿織物、綿糸、化学肥料などは前年より減少した。
先進諸国の中でもアメリカ向けの増加は最も著しく、前年度を26%上回って、輸出全体の増加に対して43%の寄与率を示した。しかし対米輸出も37年度後半から頭打ち傾向を示している。対米輸出が大幅に増加したのは、アメリカの熱気が36年1~3月を底として上昇に転じ、それに伴って輸出需要が各商品とも軒並みに増加したためである。中でも、国内での輸出圧力が強かった鉄鋼輸出の著増が目立った。
対米輸出の他では、西ヨーロッパ向け、中でも共同市場向けの伸長が目立った。共同市場向けは、前年度に続いて37年度も大幅に増加し、34%の伸びを示した。これは、共同市場の景気上昇、対日輸入制限の緩和に伴って、消費財的な機器類が着実に増加した他、西欧のホットコイルの不足と国内での輸出圧力の増大に基づき鉄鋼輸出が著増したからである。
ソ連向けは、貿易協定や使節団派遣の効果が現れ、更に大口の製紙プラントの船積みなど一時的と思われるものもあるが、輸出額は前年度の2倍へと急増した。先進国向けと共産圏向けの活況に対し、低開発諸国向けは概して停滞傾向にあった。一次産品の値下がりと工業製品価格の堅調から、低開発諸国の交易条件は依然かんばしくなく、このため日本からの輸入余力はあまり増大しなかったものと思われる。
輸入
輸入の推移
37年度の輸入通関実績は5,623百万ドルで、前年度より386百万ドル、6%減少した。
季節調整ずみ通関額で輸入の推移をみると、36年10~12月の1,588百万ドルをピークとして減少に向かい、37年7~9月には1,343百万ドルへとピーク期に比べ15%低い水準にまで減少したが、その後10~12月には1,367百万ドルを示して増勢に転じ、38年に入って増加テンポをはやめている。
輸入減少の内容
輸入減少の内容を商品別にみると、減少類のほとんどが素原材料と製品原材料で占められている。これに対し、鉱物性燃料と食料品は堅調を続け、機械類の輸入は、最近落ち着いてきたものの、引き締め期間中は増加の一途をたどった。
素原材料の輸入額は、36年10~12月のピークから37年7~9月までに約24%減少し、以後増勢に転じたが、37年度全体では前年度を14%下回り、輸入減少の中心となった。素原材料に次いで輸入減少に寄与したのは、金属、化学品などの製品原材料で、37年度は前年度を35%下回った。特に鉄鋼は57%の大幅な減少であった。
機械類は景気調整期にありながらも増勢を続け、前年度を18%上回った。電気機器、原動機、産業機械、事務用機械、金属加工機械などの増加が大きかった。その他食料品や工業消費財の輸入も根強い増加傾向を続けた。
輸入減少の要因
今回の景気調整過程において、工業生産が高水準を続けたにもかかわらず輸入が36年度第3四半期のピークから37年度第2四半期までに約15%減少したのには次のような要因が働いていた。
第1は輸入素原材料輸入投資の減少である。 第1-3表 から明らかなように36年1~12月には素原材料の輸入は3,240百万ドルに及び、消費額を221百万ドル上回っていたと推計されるのに対して37年1~12月には、輸入額は、2,894百万ドルに減少して、消費額を106百万ドル下回るに至った。このため、在庫投資は差し引き327百万ドルの減少となった。
第2は輸入素原材料の消費量が若干の低下をみたことである。工業生産は全体としてみると高水準横ばいを続けたが、輸入関連産業の生産は、 第1-12図 に明らかなように36年度10~12月をピークとして87年7~9月までに5%の低下を示し、これに伴って輸入素原材料の消費も、おなじ期間に9%減少した。
第1-12図 引締期を100とする生産と輸入素原材料消費の比較
第3は輸入価格の低下である。第4は国内の生産能力に余力が生じたことである。金属、化学品などの半製品は、好況下で国内需要が激増し、それが国内の生産能力を超過したために限界的に輸入されたものが多かったが、景気調整過程における国内需要の沈静化と、盛んな設備投資の結果として生産能力が大幅に増加したことによって、半製品輸入の急減をもたらしたのである。
自由化の進展と消費財輸入
一方、食料品と消費財の輸入は景気調整にもかかわらず、根強い増勢を続けたが、これは貿易自由化によるところが少なくない。すなわち、37年度においても政府は貿易自由化を積極的に推進し、自由化率は36年末の70%から、37年4月には73%へ、更に10月には一挙に88%へとたかめられ、この結果我が国の自由化率も、西欧諸国とほぼ比肩し得る水準まで到達した。
自由化が輸入に与えた影響を消費財についてみると 第1-8図 の通りで、35年から37年にかけ自由化が大幅に行われた魚介、コーヒー、ココア、医薬品、雑品などの輸入は35年1~3月の15百万ドルから、38年1~3月の49百万ドルに3倍以上に激増している。またかなりの自由化が行われた果実、野菜などは、この間に9百万ドルから21百万ドルへ倍増している。これに対して主要品目の自由化が留保されている肉類、酪農品、飲料などの輸入は、この間86%の増加に留まっている。前2者の輸入増加が主として自由化によるものと考えると、自由化による消費財の増加は34年から37年までの3年間で、1億ドル強と推計される。自由化が漸進的に実施された結果、自由化品目の輸入も35年初め以来ほぼ一貫したテンポで増え続けており、37年10月にも万年筆、ナイロンストッキングなどが、38年4月にはバナナの自由化が行われたことも考えると、自由化による消費財の輸入増加はなお当分続くものと思われる。
輸出入価格と交易条件
37年度の輸出価格は弱含みに推移し、前年度よりも2、6%低下した。輸入価格は、37年10月までは輸出価格を上回って低下し続けたが、11月以降は砂糖の値上がりを中心として反騰に転じたため、年度平均では前年度を2.3%下回る水準に留まった。このため交易条件指数は10月まで上昇、それ以後下落という対照を示しながら、年度平均で、97.8となり、前年度より0.3%だけ悪化した。
輸出価格下落の中心は、金属及び同製品、化学製品などである。これに対して食料品、非金属鉱物製品などの価格は逆に上昇している。輸入価格の低下の激しかったのは、金属鉱及びくず、繊維原料、その他原料など原材料と、化学製品、鉱物性燃料などである。この他、食料品と雑品の価格は横ばい、機械は6.2%の上昇であった。
最近における輸出入の動向
38年に入って、景気の底入れがようやくはっきりすると共に、輸出入の動向にも37年と違った現象が現れてきた。輸入通関額(季節調整ずみ)は37年10月以降増勢に転じ、38年に入ってから増加テンポをはやめ、4、5月の輸入額は月平均539百万ドルで、はやくも前回のピーク期を上回るに至った。特に繊維原料、金属鉱及びくず、鉱物性燃料などの増加が著しい。
一方輸出は、37年秋以降、アメリカ景気の停滞を反映して頭打ち状態を続けたが、38年春以降再び若干の増加を示している。
最近、輸入の増加が大幅となってきたのには次のような要因が働いている。第1に、今回の景気調整過程で原材料の輸入が減少したのは主として在庫の食いつぶしが原因で、原材料消費の低下は2次的なものに過ぎなかったことである。消費の低下が小幅なために、在庫の食いつぶしが大幅となり、在庫補充の必要から輸入の増加を促す結果となっている。
第2は、工業生産が回復過程に入ったことである。中でも輸入関連工業の生産は、既に37年8月から増勢に転じており、このことが輸入増加の一因となった。
第3は、輸入価格の上昇である。輸入価格は37年10月を底として上昇に転じているが、そのことがそれ以後38年3月までの日本の輸入の増加に対して約25%の寄与をしている。
一方、輸出の増勢が鈍り、頭打ち傾向がみられるようになったのは、アメリカ経済の停滞とヨーロッパ向けの魚介類や鉄鋼などが減少したためであった。しかしアメリカと西ヨーロッパの景気は、38年の春以降、一服状態からの立ち直りの気配を強めているので、日本の輸出は38年度も拡大を続けると予想されるが、そのテンポは緩やかであろう。
最近の輸出入動向を反映して、外国為替貿易収支(季節調整ずみ)は既に38年初めから若干の赤字に転じている。この間総合収支はなお若干の黒字傾向を示しているが、これは長短外資の流入超過が極めて大きかったからである。38年1~4月の資本収支尻は236百万ドルの黒字で、特に最近の長期資本の流入超過が著しい。しかし、資本収支の大幅な黒字にもかかわらず、総合収支が黒字幅を縮小してきていることを考えると、国際収支の先行きを楽観することはできないであろう。