昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

交通、通信

急がれる国際輸送力の整備

国際航空における競争の激化

 36年の国際航空は、35年に引き続き、ジェット機の大量就航による国際競争の激化に終始した。東京国際空港における国際定期航空の運航便数をみると、 第5-12表 の通りで、最近1年間にジェット便数は44%増加し、その全便数に占める割合も35年6月末の66%から36年6月末には88%に増加したため、航空輸送力は大幅に増大し、航空会社間の競争はますます激化している。このような国際競争の激化の中にあって、前年に引き続き、業務の運営、機材の整備などの面での各国航空会社間の提携の動きが目立った。

第5-12表 東京国際空港における国際定期路線週間便数

 我が国々際航空の状況をみると、36年は、北極回り欧州線の開設などもあって連行キロでは約1,600万キロと前年比20%の伸びとなり、輸送量では、ジェット機の就航により輸送力が大幅に増加したため、輸送人員で約14万6千人(前年比44%増)輸送人キロで約7億7300万人キロ(同55%増)と著しい増加を示した。他面、ジェット機の大量投入に伴う資本費の増大のため、日航国際線収支の悪化が著しい。

 航空国際収支は、IMF方式でみると、36年度3,660万ドルの赤字で、35年度の赤字3,360万ドルに対し9%赤字幅を増大している。

 国際航空における競争は今後もますます激しさを加えるものと思われ、ことに日航の主要国際路線の存する中部太平洋線においては、全運航会社を通じて平均搭乗率が36年60%と北大西洋線の51%に対し相当高率なため、各国航空会社は増便計画に積極的な動きをみせつつあり、今後競争の激化が予想される。従って、我が国々際航空事業としても、太平洋線その他既存路線における増便、南回り欧州線の開設などを計画的に推進することが望まれている。

発展を続ける国際観光

 我が国における入国外客数は年々増加し、36年の入国全外客数は約24万9千人、一時上陸客を除いた滞在客数は約19万4千人と、それぞれ対前年比17%、22%の増加となった。これを30年の入国外客数と比較すると、全外客数で約2.4倍、滞在客数で約3.3倍の増加となっている。これに伴い、入国外客の推定国内消費額も年々増大し、30年の約4,500万ドルから36年には約3倍の1億3,700万ドルに増加しており貿易外国際収支の改善に寄与している。

 このような入国外客の増加は今後も続くものと考えられ、また入国外客の国内消費は外貨手取り率の極めて高いものであるところから、国際収支の面から国際観光の振興が必要とされ、海外宣伝の強化等による外客の誘致と外客受け入れ体制の整備が急がれている。この点については、その重要部門を受け持っている日本観光協会について、37年度に始めて政府出資が行われ、海外事務所の増設(2カ所)と総合観光案内所の設置が進められている。また、オリンピックの開催される39年には36年の2倍をこえる55万人程度の外客の訪日が見込まれており、これに対処するため宿泊施設の急速な整備が図られている。

海運市況の性格変化とその要因

 昭和36年の世界海運市況は、 第5-3図 に示すように貨物船部門では、英国海運会議所の不定期船運賃指数(35年=100)で、106.8と前年より6.8%の上昇を示したが、37年1~3月は、96.3と前年同期に比べ約8%下回っている。また、油送船部門ではノルウェーシッピングニューズ社の油送船運賃指数で41.3と前年より9.0%下落としている。

第5-3図 世界の海運市況の推移

 このように、世界の海運市況は、34年以降の貿易量増加に伴う海上輸送量増加による需要要因の好転にありながら。33年に下落として以来ほぼ横ばいに推移している。その理由としては。まず、32年以来の船腹需拾における船腹過剰がいまなお続いていることがあげられるが、同時に世界の海上輸送における構造的変化が海運市況の性格を変えてきていることが注目される。

引き続く船腹過剰

 世界海運における最近の新造船の市場投入は、建造量から低性能船の解撤量などを除いた純増船腹量で、33年726万総トンから34年529万総トン、35年474万総トンと逐年減少し、36年には約490万総トンと若干の増加を示した。しかし、37年1月現在、大型油送船、撤積貨物船を主体とする発注済みの新造船が総船腹の約15%にあたる1,866万総トンもあり、これらの市場投入がここ数年のうちに予定されている。また、船腹過剰を示す指標として、係船量の推移をみると、34年6月の総船腹量の7%に当たる860万総トンからその後漸減したものの、37年3月にはなお233万総トンとなっている。さらにまた、船腹過剰をもたらす要素の1つとして、造船技術の進歩による造船能力の増大も無視しえない。近年の造船技術の進歩は、船舶の性能を著しく向上させると同時に、船舶の建造工期についても30年ごろまでは1万重量トン程度の船舶の建造に1年近くを要していたものを、6ヶ月程度に短縮し、大型鉱石専用船、油送船でさえも8ヶ月程度としている。このことは船腹不足の発生を、早期に解消する要因をなすものであり、さらに、年間1,100万総トンに達したといわれる世界新造船能力は、むしろ造船産業からする工事量維持のための新造船建造要請となって、船腹過剰を長期に継続させる可能性を持つものと思われる。

海上輸送における構造的変化

増大する石油類及び鉄鉱石輸送

 世界の海上輸送量における品目構成の変化は、 第5-13表 の通りで、石炭の海上輸送量のうち大きな比重を占めるハンプトンローズ石炭の輸送量は、32年以来減少を続けており、ドライカーゴ輸送量に占める比重は、32年の8.9%から35年には3.8%に低下している。また、不定期船による穀物期近物成約量の比重も横ばい傾向を示している。これに対して、タンカーカーゴすなわち石油類は一貫した増加をみせており、世界の海上輸送量に占める割合は30年の42.2%から35年には47.7%へと上昇している。鉄鉱石についてもドライカーゴ輸送量に占める比重は30年の13.4%から35年の18.8%へと大幅に増大している。

第5-13表 世界海上輸送における品目構成の変化

船舶の専用化、大型化の進展

 世界商船船腹における油送船及び鉱石専用船の推移は 第5-14表 に示す通りで、30年には総船腹の30.7%であった油送船船腹は36年には37.5%に増大しており、撤積貨物船船腹も2.9%から8.1%に、このうち鉱石専用船も0.9%から3.5%に増大している。特に、34年以降一般貨物船の船腹は横ばいないし減少をみせており、船腹の増加がもっぱら油送船及び鉱石専用船を含めた撤積貨物船に因っていることは海上輸送においてこれら船腹の活動分野が急速に拡大したことを物語るものである。なお、専用船の使用は原油鉱石輸送のほか、セメント、ボーキサイト、木材、LPG輸送などにおいても増加している。

第5-14表 世界商船船腹量推移

 また、近年における船型大型化の傾向は、一般不定期船においては30年ごろまでの1万重量トン程度から、最近では1.5万重量トン程度にまで、鉱石専用船については、従来の1万重量トンから4.5~8万重量トンにまで大型化している。また油送船では30年ごろまでの2万重量トン程度から最近では4.5~6.5万重量トン型が標準となり、現在13万重量トンのものも建造されている。このような船舶の専用化、大型化の進展は、必然的にこれら船舶による輸送量の比重を高めており、35年の鉄鉱石輸送量における専用船の比重は、英国91%、欧州共同市場諸国70%、米国86%、日本30%(ウェストン社費料)となっている。

海運市況の性格変化

 以上のような船舶の専用化、大型化が荷主産業からは輸送費の節減と安定輸送を、海運産業からは輸送コストの低減による収益の向上を目的としているものであるところから、これら船舶の大部分は長期輸送契約のもとに特定航路に就航している。

 しかして、これら船舶の就航量の増加は従来の海運市場から特殊の市場を分離形成すると共に、これらの長期輸送契約の運賃が船腹の需給関係より、むしろ原価計算に基づいて決定される場合が多くなっている。このことは、従来の海運市場をますます狭あい化させると共に、その運賃水準にも長期輸送契約の原価運賃の影響を及ぼすことになろう。一例をあげれば、穀物市場において、36年の期近物成約量が前年より約13%増加したにもかかわらず、それほどの市況の上昇がみられなかったのは、船型の大型化に伴って油送船市場で競争力を喪失した2万重量トン型油送船のこの市場に対する進出が活発で、その輸送量の比重が34年の13%から35年19‰36年24%と増大したためである。これは、油送船市場の運賃が穀物市場の運賃市況にも影響を与えていることを示すものである。

 また、我が国輸入貨物の海運市況の例をみても、鉄鉱石専用船の建造は、海運企業の現状から鉄鉱業による長期の積荷保証のある場合にのみ行われており、このため、専用船による原価運賃での長期輸送契約が増加し、鉄鉱石の運賃水準を専用船による運賃水準に抑え、一般不定期船運賃市場から独立した市場が形成された。このようなことは木材輸送においても専用船船腹の増加と共にみられており、我が国の輸入貨物の輸送においても、自由市場の狭あい化と運賃市況の性格の変化が進んでいる。

  以上のように、海運市場における船腹需給は、慢性的に船腹過剰状態か続くものと考えられ、専用船の進出による自由市場の狭あい化、大型船の原価運賃での長期輸送契約の拡大などによって、海運市況の持つ性格そのものが変化しており、狭あい化した自由市場において、一時的、部分的に船腹不足が生じた場合、従来より敏感に市況が上昇するということがあるとしても、これが全般に影響を及ぼすこととならず、現在の運賃水準は、低水準というより、むしろ常態水準となってきているということができるであろう。

低下を続ける邦船積取比率と海運国際収支の悪化

 昭和36年の我が国貿易数量は、輸出1,164万トンと前年の5%増に留まったのに対し、輸入は1億1,625万トンと前年の33%増となった。輸入量の大幅な増加の中でも、工業原材料の伸びは大きく、石油類31%、鉄鉱石41%、石炭35%、木材51%、鉄鋼くず60%となっている。

 一方、我が国外航商船船腹は、年間に45万総トン対前年比8.4%増加して36年12月末現在587万総トンに達した。この船腹量による36年の輸出入貨物輸送量は、輸出597万トン、輸入4、797万トンで、前年に比べそれぞれ3%、15%の増加となったが、輸出入とも輸送量の伸びが貿易量の伸びを下回ったため、邦船の積み取比率は、輸出53.7%、輸入41.3%と前年の輸出54.6%、輸入47.5%を下回り、34年以来低下を続けている。

 船腹量の増加が輸出量の増加を上回ったにもかかわらず、輸出の邦船積取比率が低下したことは、我が国の貿易構造の変化に対応して、商船隊の整備が、主として油送船及び鉱石専用船など大量輸入物資輸送のための船腹について行われたためである。すなわち、36年中の船腹量の伸びは油送船10%。鉱石専用船170%に対して、木材専用船を含めた一般貨物船は、4%に過ぎない。さらに対米定期航路における盟外船の活動が、36年特に後半に入ってから活発となり、その影響も少なくなかったと思われる。

 しかも、36年の我が国をめぐる海運市場では、春以来の我が国の輸入の急増による米国を中心とする地域から我が国向けの船腹需要の増大に加えて、輸出の伸び悩みによる我が国からの復航貨物の手当難、さらに、我が国主要港湾での滞船の激化などによって、4月から11月にかけて一般不定期船による輸入運賃市況は大幅な上昇がもたらされた。

 以上のような輸出入邦船積み取比率のひき続く低下と輸入運賃の上昇とから、36年の海運国際収支はIMF方式の貨物運賃で受取が215百万ドル、支払いが486百万ドルと差引き271百万ドルの支払い超過となり、35年の75百万ドルの支払い超過から、大幅に悪化し、32年以来の大幅な支払い超過を記録するに至った。

海運企業の基盤強化をめぐる問題点

 我が国経済の伸長に対応した貿易規模の拡大に即応して我が国外航海運の拡充強化を図っていくことは、増大する輸出入貨物の安定した輸送手段の確保を図るうえからも、また国際収支の長期的均衡を図るうえからも、緊要なこととされている。

 しかるに、この使命を果たすべき我が国海運企業の現状は、いまなお、ぜい弱の域を脱するにはほど遠い状況にある。すなわち海運企業(利子補給対象53社)は36年度の普通減価償却限度額に対して、約84%の償却を実施したに過ぎず、年度木φ普通減価償却の償却不足累計額は、前年度末より66億円増加して572億円に達した。また船舶設備資金借り入れ残高は37年3月末に2、8%億円に達し、これの約定償還延滞額は830億円となっている。さらに自己資本比率は悪化を続け、前年度末の21.4%から21.0‰へと低下している。このような海運企業のぜい弱な基盤を是正し、国際競争力を強化する必要性については、従来久しさにわたって論じられてきた。36年には、今後における船腹の整備拡充の緊要性が、従来より一層強く認識されかつ要請されるに至り、そのため海運企業の基盤強化についても、抜本的な対策の必要性が論じられることになった。海運企業の基盤を強化するための政府の措置としては、37年度には、36年度に引き続き利子補給等の措置が実施されると共に、新たに、海運企業のより一層の合理化を前提として、財政資金金利の一部の徴収猶予を行うことを骨子とする″海運企業の整備に関する臨時措置法″案が国会に提出された。

 ところで海運業は、その生産手段たる船舶設備に多額の固定費金を要する資本費負担の大きい産業であり、かつ今後の海運市場ではその構造的変化により、原価計算に基づく長期輸送契約の運賃が市場を支配するものと考えられるので、海運業の国際競争力を強化し、その発展を図っていくためには低船価時において船舶を建造することにより、商船隊を整備することを必要とし、さらにこれら商船隊が市場の動向に即して集中的にかつ効率的に運営されることが望ましい。しかるに、24年度いらいの計画造船を中心として行われた我が国海運の外航船腹の整備拡充は、量的増強に成果をあげたが質的面の充実がともなわない結果となっている。

 すなわち24年度以降の我が国外航商船船腹の拡充の推移は、 第5-4図 の通りで、朝鮮動乱の影響を受けた26、27、28年度とスエズ動乱の影響を受けた31、32年度の高船時価に、24年度から36年度までの全建造量の44%、272万総トンに及ぶ大量の船腹の建造が行われている。これら時期の建造船価は、34年度から36年度の平均に対して23~75%の高船価となっている。これに対し、輸出船の受注は、29、30年度と船価の低い時期に急激に増加し、海運市況のピークが訪れる31年末以前に減退の傾向を示している。また計画造船における財政資金の融資比率をみると低船価、少量建造時にその比率が高く、最高90%、高船価、多量建造時にその比率が低く、最低30%となっている。このように我が国海運は船腹拡充の過程において。割高の船舶を資本費負担の大きい状態で調達しており、それが国際競争力を劣弱化させる原因となっていることを知りうる。

第5-4図 外航船建造量の推移

  また、計画造船により、船舶の建造を行った海運会社数は、利子補給対象会社だけでも”57社の多さに達している。我が国海運が、早急に船腹の増強を図るため、できる限り、広範囲の資金を動員する必要から、計画造船の方式がやや総花的に行われたことが、多数企業の存立をもたらすこととなった。また、12年と36年の海運業の船腹保有量上位の60社の船腹保有量分布及び集中度をみると 第5-5図 図に示す通りで、12年には、全船腹の50%を上位5社によって保有していたのが、36年には上位11社に分散することになっている。さらに、36年の我が国主要定期航路における配船状況をみると、外国の海運会社では12年に比べ月間航海数の増加が配船会社数の増加を上回っているのに対して、我が国の海運会社では12年に比べ配船会社数の増加が月間航海数の増加を上回っている傾向がみられ、特に運賃同盟に加入の自由なニューヨーク、北米西岸航路においてその傾向が著しい。これらのことは定期艦路における我が国海運企業の経営規模の相対的低下をきたし、また定期航路以外の分野でも同様に、経営単位の細分化により船舶の効率的運航を低下させ、我が国海運の国際競争力を低下させることとなっているものと思われる。

第5-5図 海運業の保有船腹量分布と船腹集中度

 今後世界の海運市場の構造変化に即応して、我が国海運企業の基盤を整備し、国際競争力の強化を図っていくためには、過去において割高な船価によって拡充された船腹について、資本費負担の軽減を図ると共に、今後の新進船の建造にあたっては、十分国際競争力のあるものとすることが必要であろう。また、これに加えて、船腹の効率的な運航を図るためにも、共同集荷、共同配船等の対策が、また効果ある企業の合併統合などの措置が推進されることが望ましい。


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