昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
昭和36年度の日本経済
交通、通信
国内輸送需要の増大と輸送力
活況に推移した国内輸送
繁忙をきわめた貨物輸送
36年度の貨物輸送需要は、経済の順調な伸びと一生産の好調とに支えられ、年度後半からとられた景気調整策も未だ影響するに至らず、終始強勢を示し、年間を通じ輸送力の余裕はほとんどみられず慢性的輸送力不足の状態であった。
各輸送機関の輸送量の総計は1,520億トンキロに達し前年度を11%上回った( 第5-1表 )。各輸送機関とも順調に伸びたが、特にトラックの伸びが目立っている。トラック輸送は年初以来繁忙を続け、例年季節的に減少する夏期間もいわゆる夏枯れを知らぬ荷動きがあり、秋冬期に入って一段と需要が強かった。こうした活発な需要に対応して車両数の増加が著しく、35年度末と36年度末とでは貨物自動車の保有車両数(軽自動車を除く。)は17%を増大し、その輸送量は前年度比28%の増加となっている。内航海運も活発な動きをみせ、前年度比9%の増加となり、時期により一部航路で船腹不足の現象がみられ、いぜんとして国内貨物輸送量の第1位を占めている。
国鉄輸送量も対前年度7%を増大し、創業以来の2億トンの大台を記録した。年度を通じ1万両の貨車が新造され、また10月の白紙ダイヤ改正により大幅な貨物列車増発が行われたが、出荷の殺到する秋冬期には台風集中豪雨などの輸送障害もあって、最盛期の在貨トン数は230万トンに達した。そうした中で道路事情や労働力の不足などから大都市通運能力の悪化が目立ち大都市貨物駅むけ貨車の使用割り当が一時実施されるに至った。
強調を続ける旅客需要
36年度の国内旅客輸送は国民総生産の伸長、個人消費支出の拡大などにより各輸送機関とも輸送量が増大し、その総計は2,632億人キロとなって、前年度より9%増加した( 第5-2表 )。輸送機関別にみて伸び率の著しいのは乗用車と航空機である。乗用車は前年度比人員で37%、人キロで43%の増加となり、これに対応して車両数も激増し、36年度末の乗用車(軽自動車、小型二輪車を除く。)は前年度末に比し16万台、37%を増大して、路面交通ふくそうの一因となっている。航空機も幹線は大幅にジェット化され、飛行場の整備も進み、便数、座席数とも著しく増加し、人員で67%人キロで64%の激増を示した。
鉄道では定期旅客の増加がめだっている。国鉄、私鉄とも定期旅客は就業人口の増加と上級学校入学者の増加を反映し、人員では国鉄8%私鉄9%の増加、人キロでは国鉄7%、私鉄6%の増加を示した。一方定期外旅客は、人キロでは国鉄6%、私鉄8%と共に増加をみているに対し、人員では国鉄の5%減少、私鉄の8%増加という対照的な事態が見られる。国鉄の定期外旅客人員が前年度を下回ったのは最近にない現象で、30キロ以下の近距離客の減少が著しく、また九州、北海道、東北地区に減少度が強い。バスの急速な進出のほか、国鉄と他の輸送機関との運賃改訂時期のずれの影響もあるとみられている。このような人員の減少にもかかわらず人キロが増大しているのは中距離以上の旅客の伸びが活発なためであって、国鉄定期外旅客の平均乗車キロは年々伸長している。
以上のように増大する旅客需要に対し、通勤通学輸送の混雑、長距離列車の座席確保難、道路交通の混雑など、総体的に輸送力不足が目だっている。
大量滞船の発生した港湾
全国港湾を通過する貨物量は、昭和30年には245百万トンであったが、35年には440百万トンと80%増大し、同期間の国民総生産の伸び62%を上回っている。外貿、内貿別にみると内貿量で同じく65%の増加に対し、外貿量では114%もの増大をみており、従って総貨物量中に占める外貿貨物量の比重も30年の20%から35年の24%へと高まっている。我が国工業の発展に伴う貨物量特に輸入原材料の増大を反映したものと考えられる。
36年夏から主要外貿港湾における滞船現象の発生が一般の耳目をひくに至った。東京、横浜、名古屋、大阪神戸の5大港でみて、1日平均滞船数は、7月に80隻を数え、8月、9月と増大して10月には128隻に達し、以後漸減して本年3月には18隻となり、一応緩和された状態となっている( 第5-3表 )。滞船船舶の内容としては、当初スクラップ船、飼料船が顕著な存在であったが、秋に入って木材船が主力となっている。こうした大量滞船のため、船舶回転率の低下、滞船料の支払い、日本出入海上運賃の騰貴など流通経済の蒙った被害は大きかった。
大量滞船の直接的な原因としては輸入物資量特に荷役所要時間の長大なスクラップ、木材などの貨物の急増があげられるが、根本的には後述するように我が国主要外費港湾の諸能力が通貨貨物量の増大に追随し得ず、その能力の限界に達しており、わずかな貨物量増大も連鎖的に処理停滞をもたらす状況にあるためである。
都市交通難の激化とその対策
大都市の交通事情は人口、産業の過大な集中から近年悪化の一途をたどり、これを解決することは今日危急の急となっている。以下通勤、通学輸送と道路交通の現状と対策を、東京を例にとって概観してみよう。
通勤通学輸送の現状と問題点
大都市における定期客の増加は著しい。首都交通圏(東京駅を中心とする半径50キロ以内の区域)では、35年度の国鉄、私鉄。地下鉄など高速鉄道の定期旅客数は延約30億人で、30年度に比較して56%増加し、この間の人口の増加率19%‐を大きく上回っている( 第5-4表 )。このため通勤通学時の混雑は、各輸送機関の輸送力増強にもかかわらず依然として緩和されず、主要混雑区間ではピーク時1時間の輸送人員が定員の3倍を上回っている区間もあり、また主要混雑区間の平均でも定員の2倍半ほどに達している現状である。
このような通勤通学時の混乱は、いうまでもなく、通勤通学輸送需要と通勤通学輸送力のアンバランスに起因している。従って、これを改善するためには輸送力の増強、ことに輸送効率上その中心となる高速鉄道網の整備がまず第1の対策とされ、新設路線としては都心部を中心とする地下鉄5路線総延長108.6キロ(一部完成)の建設とこれら路線への国鉄、私鉄の乗り入れが、また既設路線にあっては、国鉄私鉄の線路増設、車両増備、運転時隔の短縮等輸送力の増強が推進されてきた。
その実状をみると、地下鉄では 第5-1図 に示すような建設が進められており、36年度には5.9キロが開通し、同年度末の営業キロ数は48.6キロと総建設予定キロの45%に達し、39年度までに全路線の完成が予定されているが、最近さらに10路線総延長260キロにまで建設規模を拡大する検討がなされている。国鉄・私鉄ではそれぞれ32年度を初年度とする5ヶ年計画により、計画4年日の$年度までに東京附近の通勤通学輸送のために国鉄は約200億円、私鉄は約360億円の資金投入を行ったが、計画に対する実施率としては主として資金の不足から、国鉄で7割5分、私鉄で7割程度に留まり、他方輸送需要は当初の予想を上回って増加したため、ラッシュ時の混雑は計画実施当初に多少の緩和をみたものの、35年度には再び計画実施前を上回る状態となった。
このため、国鉄、私鉄とも従来の5ヶ年計画を打ち切り、36年度を初年度とする新計画(国鉄─5ヶ年計画、私鉄─3ヶ年計画)を樹立し、旧計画を大幅に上回る規模で輸送力の増強を図ろうとしている。
以上のように、東京における高速鉄道網の整備は計画的な実施が図られているが、その最大の課題は所要資金の確保であって、前記のような実績からみても、資金源の強化が、財政、民間両面を通じて必要とみられ、こうした関係から現在大手私鉄の運賃改訂が問題となっている。
まひ寸前の道路交通難と緩和策
東京都における自動車数の増加は著しく年々20%前後の増加を続け、36年度末には75万1千台(全国自動車数の17%)に達し30年度末に比し3倍の増加となっている( 第5-5表 )。さらに実際の都内通行自動車数としては、この上に他府県から相当量が集中している。
このため都内の道路交通の混雑は逐年激化の一途をたどり、警視庁調査でみると、東京都内の主要交差点の交通量は36年度は前年度比22.6%の増加を示し、交通量が1日6万台以上の交差点は調査対象112地点中30地点、3万合以上の交差点は79地点に達した。年度別にその推移をたどると、総説 第16図 に示した通りで、都心部の主要交差点の交通量は34年ごろ既に限界交通量を突破し、その増勢は鈍化しているのに対し、その他の地域では交通量の増加が最近特に著しく、山手線周辺部及びそれ以内の地域では飽和点に到達寸前の状態である。
このような道路交通の混雑は、走行速度の低下、連行回数の減少などを通じて自動車の輸送効率を著しく低下させ( 第5-2図 )、都内の産業民生に大きな悪影響を与えている。
道路交通の混雑を緩和する第1の方策はいうまでもなく道路の整備であって、東京都における道路整備についても、道路整備5カ年計画において重要施策の1つとして特に配意されている。まず首都高速道路として8路線延長70キロ(総事業費約1,200億円)の完成が予定され、36年度に約130億円の投資が行われた。また、放射4号、放射7号、環状7号、環状8号その他主要幹線街路の緊急整備を中心とする首都の道路整備のため、新年度には前年度の約3倍に当たる366億円の投資がなされた。
また、他県から他県に至る通過交通量を郊外へ誘導するため、横浜、八王子、大宮、千葉を結んで東京都をめぐる大環状道路が整備されることとなっているほか、東京都と近県を結ぶ道路の整備を緊急に促進することとし、第3京浜道路等の建設が図られている。
この他、駐車場の整備や踏み切り道の立体交差化が行われており、また旅客、貨物の輸送の円滑化を図るため、バス及びトラックターミナルの設置についても計画が進められている。
このような道路整備などの対策が行われているにもかかわらず、自動車数の急激な増大がいわゆる交通戦争という状態をもたらしていることは周知の通りで、37年度に入って、従来から行われている種々の通行制限、駐車制限のような技術的な規制の強化に留まらず、本格的な路上駐車禁止と保管場所の確保の義務づけが行われ、さらに都内主要路線への大型車の乗り入れを禁止するという道路交通需要そのものの規制の実施を見るに至った。
これら一連の措置により道路交通まひの防止に相当の効果を見ることができたが、都内通行自動車数の激増傾向が今後も続くとすればこの種の規制がさらに強化される可能性は濃いとみられ、そうした関連から注目されるのは、最近の自家用車の急激な増大傾向であろう。東京都の自家用車数は36年度末68万2千台と30年度末に比し3、2倍に激増しており、全自動車数の91%を占めるに至っている。そしてその輸送効率は1日1車当たり輸送人員でバスの536人、タクシーの72人に対し自家用乗用車は4.5人、また貨物自動車では1日1車当たり輸送トン数で、普通車では営業用車10.2トンに対し自家用車12.5トン、小型車では営業用車2.7トンに対し自家用車1.0トンと普通トラックの場合を除き全般的に低い(36年4月~12月間の実績)。さらにその用途をみると、公共性の強いもの、産業経済上必要なものも存在する反面、公共性の希薄な、あるいは産業経済上必要度の薄いものも多数存在する。
他方現在の道路混雑と交通規制とは、通運能力の悪化、大型トラックの使用制限、夜間荷役の必要など貨物の流通コストを高める圧力となり、またバス、都電など通勤通学路面輸送力の低下をもたらしている。
さらに、いわゆる先進諸国の大都市において、高い街路率を持ちながらも種々の規制が行われ、また割高な駐車料、通行料が経済的に過度の車両集中を防止している事例は、東京都における用地取得の困難さと共に注目される。
これらの諸事実は、当面の都市道路交通について1つの示唆──道路整備にすべてを期待するのではなく、これと並んで車両の社会的効用に着目した需要の調整の必要性──を与えるものではなかろうか。
交通投資の立ち遅れと慢性化した輸送力不足
我が国経経の生産部門は、高度成長下に急速度の拡張を続けているが、他方これら生産部門に流入流出する人貨の流通を処理すべき交通部門は、増大する需要量を円滑に処理しえない状態のまま推移している。
輸送力不足の現状
ひっ迫状態を続ける鉄道輸送鉄道が輸送した人キロ、トンキロを輸送需要、これに対応する車両キロを輸送力として総体的に需給関係をみることとし、輸送需給のひっ迫が未だ発生しなかった昭和11年を基準として、両者の推移を対比してみると、 第5-6表 の通り、旅客輸送では需要は昭和30年に3倍強、35年に4倍半と伸びているのに対し、輸送力は30年に約4割、35年に約8割を増強されたに過ぎない。
貨物輸送では需要は30年に約2倍半、35年に3倍強と伸びているのに対し、輸送力は30年に6割弱、35年に9割弱を増強されたに過ぎず、これも大きなかい離を示している。
さらに戦前状態は考慮外とし、昭和30年を基準として考えるとしても、昭和30~35年の間、旅客輸送にあっては需要増35%に対し、輸送力増は28%、貨物輸送にあっては需要増26%に対し輸送力増1926となっており、戦後から続いた混雑状態は昭和30年以降も緩和されていないことを示している。
以上のような輸送力不足はもはや車両増備など可動施設の増強を持って対処するには技術上保安上の限界に達しつつあり、線路増設など基礎施設の拡大を行わねば輸送力増強を行いえなくなった線区が多く、そこにはより大きな設備投資が要請されるに至っている。
自動車保有量の増加に追いつかない道路整備
道路交通の文字通りのあい路化を集約的に表現するものとして道路資産額と自動車保有量との関係をみると、昭和30年から35年の間、道路資産額は1.7倍となっているが、これに対する自動車保有量は2.4倍となっており、道路資産の増加を大きく引き離している( 第5-7表 )。この両者のかい離が特に自動車集中度の激しい大都市あるいは幹線道路においていわゆる交通戦争なるものを生み出している基本的な要因であろう。
貨物量にひきはなされる港湾機能
全国港湾の基本的能力の推移を港湾基礎施設の資産額と取り扱い貨物量との対比において見てみると、 第5-8表 の通り、昭和30年以降前者は後者に引き離される一方であって、昭和30年に対する指数で昭和35年の資産額125に対し取り扱い貨物量は180というところまでその開きが拡大されるに至っている。
さらに36年夏以降滞船数の大きかった東京、横浜、名古屋、大阪、神戸5大港についてより具体的に需給関係の推移を検討すると、 第5-9表 の通り、昭和30年から35年の間に、貨物量、入港船腹数共に約2倍、1万総トン以上の入港船腹数では約3倍という急送な需要増に対し、港湾諸能力の方は、大型船接岸可能の岸壁数で21%、上屋倉庫の面積では25%、はしけ保有量では9%、という増強が行われたに過ぎない。
交通投資立ち遅れの要因と問題点
交通需要の増大テンポの速さ
既述のように交通需要の増大は我が国経済の成長に伴うテンポの速いものであり、港湾貨物量、自動車保有量にあっては経済全般の成長率を上回り、特に自動車保有量の増大には顕著なものがある。さらに大都市及びその周辺においては、人口の過大な集中によって交通需要の増大テンポはより急速度のものとなっている。
このように急速に拡大する交通需要に対し、これをまかなうべき交通投資の方は生来その懐妊期間の長さから即応性に乏しく、さらにその絶対量に後述のような種々の制約があって立ち遅れが顕著なのが実状である。
用地取得の困難さ
道路でも鉄道でも交通基礎施設の造成にはすべて一定量の土地を必要とするが、その地価の騰貴には著しいものがあり、また大都市になるほどその傾向が強いことは周知の通りである。しかもそうした大都市ほど交通需要の増加が著しく、交通投資がこれに対応しようとすれは、まず大幅に騰貴した地価に直面しなければならない。そのうえ土地買収に伴う種々の補償に要する金額も当然地価と相応したものとなっている。こうして交通投資に準備される資金のうち大きな部分が用地取得に振り向けられねばならず、それが工事可能量を実質的に圧縮することとなっている。たとえは、東京における道路建設では総経費中の6~9割を用地確保のため見込こまざるをえなくなっている。他方、用地取得に必要な当事者間の諸々の交渉や収用手続きは相互の意思の対立から長時日を要することが多く、たださえ長い交通投資の懐妊期間を一層長大化していることも見逃せないであろう。昭和36年8月施行された公共用地の取得に関する特別措置法はこうした事情の改善を図ったものである。
以上のような用地取得の困難さがいわば外部から資金と時間の両面で交通投資の効果を減殺している。
不足する資金の供給
行政投資拡充への期待
道路と港湾基礎施設とは、国と地方公共団体とがその建設、維持を行っており、いわゆる行政投資の対象となっている部門である。その行政投資額に年々相当の増大( 第5-10表 )が行われているものの、なお需要増のテンポに追いつきえぬことは、道路の混雑と港湾の滞船とが如実に物語っている所であり、基本的には、需要増に見合う投資量の増加が行われるか需要の沈静が現れるかしない限り問題の根本的解決は期待し難いであろう。
従ってまず行政投資の拡大が望まれ、財政規模による制約があるとしても、これら交通基礎施設に対する投資の比重を時代の進展に応じて拡大していくことが期待されている。他方、一部顕在化しつつある道路港湾機能のまひの危険性をひかえて、これら交通基礎施設の運営方法自体を持ってこれに対処しようとする動きが見られてきた。大都市道路にあっては既述の通りであり、また外貿大港湾の一坪に見られるふ頭着岸の船舶の場合でも荷役をはしけに頼るという従来の運営方式の改善が検討され実施されつつある。
企業投資充足の条件
私鉄、バス、船舶などほとんどの交通産業はその成り立つの基礎を企業ベースにおいている。企業的回転を基本とすることにおいて国鉄も公営交通事業もこれに準ずるものと考えられる。従ってこれら諸部門における投資の源泉は、第1に、その提供するものに対して需要者の支払う対価であ。り、第2にその対価による収益性に基礎を置く信用調達である。この対価が限度を超えて圧縮されれは交通投資は交通需要を賄いきれなくなる。
交通対価は、その公共性の故に一般物価のように経済情勢に機敏に適応する弾力性を欠いており、その結果これを源泉とする交通投資はややもすれは不足がちな傾向となっている。交通需要に対する供給が一応充足されていたとみられる昭和11年から最近に至るまでの交通対価を一般物価と対比してみると、 第5-11表 の通りで、一般物価の変動と交通対価の変動との間に大きなかい離がみられる。このようなかい離は一般に事業の生産性の向上によって解消するのでなければ、必然的に提供するものの質の低下をもたらさざるを得ない。しかし生産性の向上に限度のある交通産業にあっては、勢い交通混雑の現状を露呈した結果となっている。
従って交通の不円滑が国民経済成長における流通面のあい路となるのを防止するためには、これら交通産業に輸送力の自律的な再生産を可能ならしめる対価を与えるのが最も自然な方法であるう。
近代化の遅れている輸送関連部門
輸送部門のあい路化については既に従来から各方面の注目するところであったが、輸送に伴う包装、荷役、保管など輸送関連部門については比較的閑却視されてきたことは否めないであろう。しかしながら、これら部門の能力は直ちに総体の輸送能力に影響するものであり、経費と時間の両面で流通コストに大きな比重を占める場合が多く、一般に輸送費と思われているものの中で実はこれら輸送関連部門の経費の方が大きい事例も少なくない。最近一段と強められた商品コスト低減の要請は各産業の直接生産面における合理化を一層進展させると共に、当然関連流通面の合理化をも促し、出荷貨物の包装規格化が図られ、また、荷役の合理化が要請されるに至った。現在大規模交通企業にあってはある程度まで荷役の集約化、機械化が行われつつあり、取り扱い貨物の包装規格化の進展は、こうした合理化をさらに促進し、総体としての流通経費節減と交通能力の拡大とに資するであろう。他面、現在の交通企業には小規模企業が多数存在し、それらは一般に合理化に必要な投資の余力に乏しいのが実状であり、港湾荷役業のように従来企業活動を人力に依存する比重の大きかった部門ほどこの傾向が著しい。しかし、このような小規模企業の存立を容易ならしめた豊富な低賃金労働力は今や個渇しつつあり、こうした企業基盤の変化もこれら企業に体質改善を迫りつつあって、輸送関連部門の近代化という時代の要請に対応し、その適正規模化、集約化が必要とされよう。
貨物の保管面にあっては、その流通量の増大から工場倉庫でも営業倉庫でも絶対量の不足が目立ち始めており、このことが貨物の出荷時期を早め、港頭貨物量、駅頭貨物量の増大の度を強めている一因であると見られる。営業倉庫の適地は特にその需要の高い港頭地帯において枯渇しつつあるのが現状で、港湾の開発、運営に当たってはこうした事情も考慮に入れなければならないであろう。
以上のように、行政投資部門にあっては予算上の制約から、企業投資部門にあっては収益性の低いことから、常に不足しがちな源泉を持って、土地という特殊な負担を負いつつ、また輸送と輸送の接点の円滑化を図りつつ、急速度に増大する需要に追いつこうと努力しているのが、交通投資の姿である。そしてそのような交通投資が具体的な場合場合にどのように実行されているかを眺めたとき、極度に需給のひっ迫している部面もあれは、かなりな先行投資の行われている部面もあること、その分野の立場のみにとらわれて他の部門との関係は考慮せぬ投資の行われている場合もあること、あい路部分に対するよりも他の部門と競争関係に立つ部分に対して投資意欲が強く示される傾向のあることなど、投資の貧しさと豊かさが不規則に、混こうしているのに気づくことができる。このような投資の総花性と単独性とが総体としての交通投資の効果を減殺し、全体としての交通需給のひっ迫の度を強めてきたことは否定できないであろう。こうした部門ごとの単独性においてではなく総体としての重点指向において、また部門内でも総花的にでなく重点的に投資が行われるとするならば、交通投資の総体量を実質的に拡大することが可能であろう。