昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

中小企業

金融引き締めの影響

中小企業への二つの圧力

 金融引き締めの影響は、中小企業には二つの面から作用する。すなわち、1つは金融機関(全国銀行)からの貸し出し削減という直接的作用、一企業の資金繰り悪化のしわよせによる取引条件悪化という間接的圧力である。このことは今回を含めた過去3回の引き締め時を通じる共通の現象である。

 全国銀行の貸し出し残高に占める中小企業向けの比率は、36年3月の31.5%から37年3月には30.2%へとわずかなから低下している。また36年7月~37年3月間における全国銀行の中小企業向け貸し出し増加額は、前年同期に対して29%減少した。

 こうした全国銀行の貸し出し圧縮を中小専門金融機関がカバーしていくという形も共通にみられるところである。

 下請け代金の支払い条件も、現金比率の低下、手形サイトや検収期間の長期化、支払い率の低下などの形で大企業から圧迫を受けている。公正取引委員会調べによると、それがすべての面で悪化していることが明らかであろう( 第3-7表 )。特に支払い率が悪化していることは、中小企業の大企業に対する売掛金残高を累積させることであるから、資金繰りを一層圧迫することになる。業種別にみると支払い遅延度は全業種平均(36年度下期)0.97車に対して、鉄鋼業(1.25)、非鉄金属(1.15)、電気機械(1.10)、輸送用機械(1.13)、精密機械(1.12)などが1ヶ月を超え、下期に現金支払い率が悪化した業種は、非鉄金属、機械、輸送用機械があげられる。(支払い遅延度とは親企業の買掛金残高を購入額で除したものを納品締め切り日と代金支払い日との関係を加味して修正したもので、支払い遅延度1.00は納品締め切り日から代金支払い日までの期間が1ヶ月であることを示す)。

第3-7表 下請取引条件の変化

 このように成長部門がおしなべて悪化しているということは、その資金需要が大きいだけに資金繰り難に悩む大企業が関連下請け中小企業にしわよせしていることを示している。また受注単価の騰落状況をみると、下請け企業の多い機械、電気機械、輸送用機械、精密機械では上昇より下落の方が多いが(特に自動車が著しい)、これらの関連中小企業には前記した二つの金融引き締めの圧力に加えて、3側面から圧力がかかっているわけである。

 12月から3月にかけての下請け代金の支払い状況を中小企業庁調べでみると、支払い遅延度すなわち(月末売掛金残高/月間納入金額)は0.97から1.01へ悪化しているほか、手形受取率は43%と変化はないが、長期手形(120日以上)の占める割合は、22%から28%に増加している。

 これを公正取引委員会調べによって前回の金融引き締め時と比較すると、全体としては納品から代金支払いまでの期間は、今回の方が若干短かく、現金支払い率も高い。すなわち、32年度下半期と36年度下半期を比較すると、最高支払い遅延度では3.13に対して3.50と悪化がみられるほか、長期手形(120日以上)の占める割合が15%から43%に大幅に増加しているが、平均支払い遅延度は前者1.01に対して後者0.97と低く、現金支払い率も43%に対して49%と高まっている。この点が前回の金融引き締め時と異なっている。

増勢鈍化した設備投資

強気から中断へ

 ここ2~3年来の中小企業の近代化意欲には盛んなものがあり、中小企業金融公庫の調査では34年度55%、35年度40%とそれぞれ前年度水準を大幅に上回る設備投資を行ってきた。しかし36年度のそれは、金融引き締めと景況悪化に伴って、前年度比18%増に留まる模様である( 第3-8表 )。

第3-8表 中小企業の設備投資

 ちなみに六大都市についての東京商工会議所の調査によると、35年度には前年比60%増を示したのに対して、36年度は30%増に低下している。

 中小企業の設備投資計画が、金融引き締めによってどのように変化していったかをみると、36年2月調査では前年度比31%増を計画していたのが、8月調査になると60%増とさらに強気を示したが、結局は前述したように18%増という実績が見込まれるに至っている。このことは金融引き締め直後に駆け込み気運が高まったにもかかわらず、現実には実現困難であったということを示すものであろう。36年度の資金調達状況(実績見込み)を36 年8月段階の計画と照合してみると、借入金が計画の67%に留まっているほか、増資及び自己資金調達もそれぞれ35%、19%と減少し、結局設備資金全体としては計画の68%しか調達することができなかった。

 規模別投資動向の特徴点は、200~299人という中規模企業が、計画としてはかなり高かったにもかかわらず、実績は前年度を30%も下回ったことである。これは後述するように、金融引き締めの影響が中規模企業に最も強く作用しているということと表裏をなすものであろう(中小企業金融公庫の調査では、200~299人規模の資金調達実績は計画の62%と、各規模の中で最も低い)。一方、10~29人規模の小企業の設備投資増加率が、これに次いで小さいということは、資金調達が計画を35%も下回っていることからみて金融難を示しているが、この規模層では投資規模が小さいため比較的容易に中止できるという面がある。しかし、37年度計画が高率なことからみても、潜在的な投資意欲はさかんといえよう。

設備投資の内容的特徴

 このように金融引き締めによって36年度には中小企業の設備投資の増勢は著しく鈍化したが、その内容構成をみると、 第3-9表 の通りである。35年度に比較したそれぞれの構成割合には大きな変化はないが、これを36年8月現在における計画と比較してみると、土地及び機械、装置への投資割合はほとんど変わっていないのに対して建物、構築物のそれが37%から29%にかなり大幅に縮小している。これが特色の1つである。このことは金融引き締めを受けて投資規模の削減を余儀なくされたため、基幹部門に投資を集中したことを示している。なお、土地への投資が8月における計画と同率の割合を確保しているのは、中小企業団地の形成が進んでいることにみられるように、経済規模が拡大する過程で中小企業も企業規模の拡大を強いられているためであろう。

第3-9表 設備投資の内容と目的

 第2の特色は、合理化のための投資割合が大企業(300人以上)では35年度の30%から、36年度には33%に増加しているのに対して、中小企業では逆に37%から30%に減っていること。

 第3として中小企業が労働力確保のために福利厚生施設への投資を配慮せざるをえなくなってきていることがあげられる。37年度計画でこの面への投資割合を若干ながら増やそうとしていることに労働力不足に悩む中小企業の姿がよみとれよう。

小零細企業の設備投資

 わが国の産業構造上に圧倒的比重を持つ小零細企業の設備投資動向を、次にみてみよう。先にみたように10~29人規模(製造業)の伸び率は13%と200~299人規模に次いで低かったが、国民金融公庫の調査によると、設備投資を行った企業の割合は、35年度の41%から36年度には62%に増加している。投資規模も35年度は月売上高の77%であったのが、36年度には同額にまで拡大している(ちなみに資本金1億円以上の法人企業の36年のそれは、月売上高の26%増である)。規模別には、1~4人が前年度比86%増、次いで5~9人が31%増と零細企業の方が高い増加率を示している。業種別には機械設備の必要度の高い業種で伸びているのに対して、卸、小売業はそれほど伸びていない。そして製造業の1~4人の零細企業で機械設備への投資割合が、35年度の57%から36年度には66%へと大幅に上昇している。このように36年度の小零細企業の設備投資の特徴点は、全体的に投資意欲が拡大している中でも、これまで最もたち遅れていた零細企業でかなり積極化したということであった。


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