昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
昭和36年度の日本経済
貿易
輸入
輸入の推移
36年度中の輸入通関額は6,009百力ドルで、前年度にくらべて29%の大幅な増加となった。
その間の推移を季節調整済の数字でみると、通関額は年初から11月にかけて一貫して急速に上昇した。7月の公定歩合引き上げ、9月の国際収支改善対策を経て輸入承認額は10月から減少したが、輸入通関額が減少をみせたのはようやく12月に入ってからであった。
その後生産活動が低下しなかったにかかわらず、輸入通関額は減少を続け、37年3月には貿易収支も季節性を除去した数字では一応均衡するまでに至った。輸入は今後も低水準で推移するものと思われるが、機械をはじめ強い輸入需要を持ったものもあり、全般に輸入は下げ止まりとみられるので、今後の動向が注目される。
輸入増大の内容
36年中の輸入急増の内容は 第1-4表 の通りである。増加率の非常に高かったのは鉄鋼で92%も増えた。また機械も46%増えている。鉄鋼関係の原材料、木材、飼料なども50%を上回る増加を示した。しかし輸入増加全体に対する寄与率でみると最も大きいのは素原材料で、40%を占めている。消費材の増加もかなり大きかったが、その寄与率は6%に止まった。これに対して木材の寄与率は1つの商品としては非常に大きなものであった。
このように輸入は35年度の18.3%に対して36年度は28.9%と急激に伸び率が高まり、またその中でも機械、鉄鋼、素原材料の輸入増加率が。高くなったが、このような輸入の急増は景気上昇の後期における特徴である。(第3部参照)
輸入増大と最終需要と関連
我が国では景気上昇の後期には国内需給のひつぱくから輸入依存度は上昇する傾向があるが、36年もその例外ではなかった。けれども、輸入依存度を上昇させた要因としての最終需要との関係には以前の輸入上昇期とは異なった特徴がある。
まず輸入増加に対する商品別の寄与率をみると、28年の輸入上昇のうち最も大きなウェイトを占めたものは消費材、就中食糧である。また32年の場合は原燃料と鉄鋼製品がその中心であり、原燃料のうちかなりの部分が在庫にまわされたものと考えられ、31年7月から32年6月に至る1年間の前年同期に対する輸入増加をみると、その23%が在庫投資の増加となっている。これに対して36年中の輸入増加では機械の占める比重が大きく、また素原材料のうち鉄鋼関係のもののウェイトが大きい上に在庫投資増加にまわされた部分は相対的に小さい。木材輸入の増加も土木建設事業での消費が増えた事が主要な原因である。従って輸入増加の内容をみても設備投資によって誘発されたものが大きいと考えられる。
また通産省の試算によると、輸入全体のうち民間資本形成によって誘発される部分の比率は30年の12.5%から、34年21.2%、35年25.6%と高まり、36年にはさらに27.8%へと上昇した。
これに対して家計消費によって誘発される部分の比率は30年の57.6から35年の42.5、さらに36年の40.9へと低下傾向を示している(37年通商白書による)。従って35年から36年にかけての民間資本形成に誘発された輸入分の増加率は41%であるのに対し、消費に誘発される輸入分の増加率は2596に留まった。
消費の比重はまだ設備投資のそれよりも大きいので36年の輸入増加に対する寄与率は消費、投資とも同程度であったが、以前の輸入上昇期に比べて今回は設備投資の役割が非常に大きかったことを以上の事から推察し得るのである。
引き締めの過程
36年7月には公定歩合の引き上げその他の措置がとられたが、輸入の増勢にはほとんど影響するところはなかった。9月下句に至って輸入担保率の引き上げを含む国際収支改善対策が打ち出されて、ようやく輸入抑制の方向がはっきりしてきたのである。この輸入担保率の引き上げは従来fa制品目については無担保、aa制及びafa制品目については1%の担保率であったものを、原材料、燃料、設備機械類などは6%、繊維製品、雑貨などは35%にまで引き上げたもので、どちらかといえば不要不急の消費物資輸入を抑制しようという考え方が強かった。
9月の輸入承認額は担保率引き上げに対する思惑もからんで608万円ドルへと急増したが、10月にはその反動もあって一挙に325百万ドルへと急減し、以後多少の増減をみせながらも低水準で推移している。しかしながら、こうした輸入水準の低下は単に担保率の引き上げのみによって可能であったわけではなく、国内金融の引き締めによる原料在庫の圧縮、設備投資の削減、さらには36年度下期分の機械輸入の申請を2月始めから打ち切るといった措置によって推進されたものであった。
今回の輸入上昇が以前の上昇期と違って、特に設備投資の急速な増加によって誘発されたものであるため、設備投資の削減と機械輸入の抑制には特に力が注がれたのである。その後の機械輸入申請の推移をみると、11月には一時的に減少したものの、12月に入ると再び増加し、37年1月には申請打ち切りに伴うかけ込み申請もあって、さらに急激に増加した。このように36年度中の機械輸入需要は引き締め政策にもかかわらず根強いものがあったが、37年度に入ってからは申請額も前年同期の半分近くにまで減少し、ようやく沈静化をみせてきたのである( 第1-5図 参照)。ただ機械の輸入申請~承認と通関との間には1年前後のラグがあるので、37年度中の機械輸入通関税はかなりの高水準を続けよう。
ところで昨年の10~12月から今年の3~5月にかけての輸入減少の内容をみると 第1-5表 の通りであるが、金属鉱及びくず(特に鉄くず)、繊維原料、その他(鉄鋼等)の輸入減少が大幅であることがわかる。けれども鉱工業生産の低下が遅れたために燃料は大幅な増加を続け、また機械、食飲料など完成財の輸入も全体の輸入変動に対してラグがあるために、依然増加を続けている。
また3回の循環における引き締め後の輸入通関額の推移をみると第1─6図のようである。引き締め時期をいつにとるかで多少の違いはでるが、やはり今回の輸入抑制に種々の困難が伴ったことは否めない。その困難な条件というのは次のようなものである。
① 生産が引き締め後も減退せず、輸出も増勢に転じたこと。
32年の場合は、輸出が減退を続け、生産も低下する中での輸入減少であったので、その減少テンポも早く、しかも1年間にわたって輸入の減少が続いた。しかし29年の場合は輸出は既に増大しており、生産も年末から上昇をはじめた中での輸入減少であったので、その減少は8ヶ月で中断されたのである。今回の場合は生産が引き締め後も増勢を保ったために、引き締め後も輸入はただちに減少せず、減少に転じた後もわずか4ヶ月で下げ止まりの傾向を示してきた。
② 輸入原材料在庫調整による輸入の減少があまり期待できなかったこと。
32年の場合は原燃料にかなりの余剰な在庫投資があり、その縮小によって輸入減少が図れたが、今回の場合は在庫圧縮に多くを期待することはできなかった。
③ 機械輸入の抑制が困難なこと。
今回の輸入増大の中で機械の占める比重は前にくらべて大きい。従って機械輸入の抑制には前記のような強い措置がとられたが、機械の輸入抑制は消費財の場合よりも困難であり、早急な効果は期待できなかった。
④ 輸入抑制手段が限られてきたこと。
29年の場合はそれまで優遇されていた輸入金融制度を全面的に改廃することによって、有力な輸入抑制の手段となし得た。また32年の場合はその主要な目的が原材料在庫の圧縮であったために金融引き締めの効果は直ちに現れたのである。さらに両回とも輸入担保率の引き上げによってその抑制効果を倍加することができたのであった。
それに対して今回は輸入担保率の引き上げ以外に頼るべき有効な手段がなかった。しかも自由化の進展により、外貨割り当の対象となるべき輸入品目の比重が減じ、外貨予算の輸入抑制機能もそれだけ限られたものになってきている。
それだけに関税機能も充分に発揮できない情勢の下では、最終需要特に設備投資の削減や、機械輸入抑制のための特別な措置をとることになったのである。このように今回の輸入抑制には種々の困難があり、それだけに輸入減少の幅も縮小し期間も短縮されたが、幸いにも輸出の好調によって貿易収支は均衡しつつある。
今回の輸入増大期にみられたいくつかの特徴
輸入素原材料の消費は安定化
第1-7図 に示すように輸入素原材料消費の鉱工業生産に対する弾性値は36年は0.85と低く安定的であった。
いま鉄鋼、紡績、ゴムその他輸入原料を消費する産業の生産指数をつくってみるとその変動は鉱工業生産よりも振幅が大である(第3部参照)。
今回の景気上昇期もその例外ではなく、輸入関連産業の鉱工業生産に対する弾性値は1よりもかなり高い。けれどもこの輸入関連産業に対する輸入素原材料消費の弾性値は、34年以来、0.95、0.86、0.71と低下している。このために輸入素原材料の消費は 第1-7図 にみるように、鉱工業生産指数とほとんど同じ動きをしているのである。
このように輸入関連産業の原材料消費が低くなっているのは、1つには紡績中の合化繊特に合繊の比率が上昇し、鉄くず消費も混銑率の上昇等によって比較的低目に押さえられ、また31年度のように好況期に原単位が悪化するという現象が今回はみられなかったためである。
投機性の少なかった輸入素原材料の在庫投資
輸入素原材料の在庫投資額については、はっきりした数字を示すことはなかなかむつかしいが、1つの試算として当庁調査局で推計したところでは、36年1~3月から37年1~3月に至る輸入素原材料(原粗油を含む)の在庫投資は 第1-6表 のとおりである。これによると36年中の在庫投資増分は約2億ドルに上ったものと思われる。
ただしその中には生産─消費の増加に伴う当然の在庫増がかなりの部分を占めたものと考えられる。従って在庫率指数も 第1-7表 の数字のように1~3月期の93.8から10~12月期の97.8へと多少高まったに過ぎなかった。
今年に入ってからはかなり在庫圧縮のための努力がなされたが、年の前半は季節的に在庫が増える時期でもあり、本格的な生産の下降がないと大福な在庫減少は期待できず、1~3月期の在庫減少も3千万ドル程度とみられる。このように今回の循環期における在庫投資に投機性が少なかったことは、32年と異なって価格が安定していたことにもよるが、また第3部鉱工業の項に述べたように、長期契約や専用船の増加によって供給が安定し、国内に多量の原材料在庫を持つ必要がなくなったこと、自由化により、綿花のスポット買いが容易になったこと、また在庫管理技術が進展したことなどによるものである。
機械輸入は設備投資と納期の長期化で大幅に増加
36年度の機械輸入は前年度に比べて46%も増大している。機械の輸入通関額は大体前年度中の設備投資に影響されるので、これは35年度の設備投資の急増を反映したものである。
36年中の機械輸入の内容をみると前年に引き続いて、工作機械及び金属加工機械、事務用機器などが前年の2倍に大きく増えているが、その中で特に増加率の高いのは、金属工作機械では自動旋盤、研磨盤、歯切盤、横中ぐり盤など、また事務用機器ではディジタル型電子計算機と簿記会計機などで、設備投資の中心になる高性能機械が輸入されている。けれども36年は同時に普通旋盤、フライ盤、小型ボール盤など汎用的な機種の輸入が増え、またポンプ、木工機械、クレーン、電動機といったものも前年の減少傾向とは逆に増大しているのである。機械受注統計によると、国内機械メーカーの納期は年初来非常に長くなっており、そのために国産で充分間に合う汎用的な機種までも海外に発注する場合が増えたものと考えられる。
木材及び飼料の輸入増加
36年度中の木材輸入は74%、127百万ドルも増え、輸入増加の総額に対する寄与率も9.5%と高いものであった。これは国内需要の急増に供給が追い着けなかったためであるが、36年の木造建築着工面積(建設省調査)が前年の10%しか増加していないことからみて、土木建築関係での需要増加が大きく影響していると思われる。輸入増加の中心は米材であるが、従来は高級材しか輸入されなかったものが国内価格の高騰から並材までが大量に輸入されるようになった。畜産飼料の輸入も国産濃厚飼料の供給が不充分なため昨年度に引き続いて大幅に増えている。木材や飼料は年々需要が増えているが国内の供給力に限界があるため、将来も輸入は増加をみせよう。
ただし36年度中のような木材輸入の急増は一時的なものであり、37年に入ってからの木材輸入水準は高いながらも安定した推移を示している。
本格化した自由化と消費財の輸入
36年度に入ってから自由化はいよいよそのテンポを増し、自由化率は35年末の44%から、4月62%、7月65%、10月68%と上昇し、37年4月からはほぼ計画通り73%へと高められた。
また同時に懸案のネガティヴ・リストへの移行も実施されたのである。
34年以来第1回から第7回までの輸入公表による自由化品目のうち、主要な原材料を除いたものの輸入推移をたどると、第1─8図の通りで、従来は自由化した商品の輸入が自由化と同時に、個々の品目は別として、全体として急激に増えるという現象はみられなかった。けれども36年下期に自由化したものは非常に大きな輸入の増大をみせている。輸入の急増期に当たったために増えたのだという要因もあろうが、やはり自由化の影響は無視できない。従来の自由化品目の動きと比較して、36年にはいよいよ自由化が本格化しはじめたのだといってよいであろう。なおAFA品目の輸入増加は非常に大きいが、これは輸入需要の強いものが、まだかなりAFA品目として残されている事を示す。
37年4月の自由化で農産物と繊維製品、及び電気冷蔵庫、テレビなど耐久消費財の一部を除いて、消費財についてはほぼ自由化が一巡したといわれるが、これまでに自由化された消費財の輸入増加はどの程度のものであったろうか。 第1-9図 をみるとわかるように、従来は消費財も自由化されたからといって急激に増えるようなことはなかった。しかし36年の下期には消費財全体の輸入がそれほど増えなかったにもかかわらず、自由化された消費財はAA制、AFA制とも増加傾向を強めている。従って消費財の輸入に対しても自由化はその効果を現しはじめたとみてよい。