昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
昭和35年度の日本経済
国民生活
所得、消費の階層別変動
平均的にみた35年度の所得や消費の状況は前述した通りであるが、これを所得階層別にみるとどうであろうか。まず、都市の勤労者と農家とを比べると全都市勤労者世帯の可処分所得11.9%増に対し農家の現物を含めた得増加は10.6%であるから都市世帯がやや大きかったが、物価騰貴では市の方が高かったので、実質所得増加率では農家世帯がやや高かった。次に勤労者世帯について実収入水準に応じて区分した5分位階層区分、よってみよう。35年度の可処分所得は平均では前年度に比べて11.9%増したが、これを階層別にみると、最高所得層の増加が最も著しく前年度にして13.2%も増加している。これに対して最低所得層は11.6%と中所得層をやや上回る増加率を示している。所得増加率がこのように所得階層によって異なったのは主として次の理由によるものと思われる。
最高所得層の所得増加が大幅であったのは好況を反映して給与引き上げ率や賞与の増加率が大きかった民間大企業の職員層の比重が多いからである。中所得層の増加率の低いのは賃金改訂の遅れた官公労働者層や賃金上昇率の低い中小企業中高齢層が多いことが影響しているものと思われる。これに対して低所得層の所得増加が比較的大きいのは中小企業労働者と日雇い労働者が中心になっていることによるものと思われる。
次に消費内容をみよう。家具器具支出をみると低所得層の支出増加が顕著であり、特に第I、II階層では前年度に対して4割あまりの増加を示している。これに対し高所得層では前年と持ち合いないし若干の減少をみせている。
これは前述したように家庭用電気器具購入の低所得層への波及を示すものである。一方、本年度に急増した被服支出は、所得階層による差は少ない。この他、高所得層では教育費ないしは主人小遣いを含むその他の雑費の増加が目立った。従って高所得層で所得の増加した部分がどの分野に振り向けられたかをみると、第1に貯蓄の増加であり、第二に被服、教育、小遣い等の増加に向けられている。特に貯蓄増加は著しく前年度に対し23%増に達しており、勤労者世帯全体の純貯蓄増加額の95%が第Ⅳ、v階層の貯蓄増加で占められている。
さらに日雇い労働者世帯、被保護世帯などの低所得層をみると、好況による失業の減少により新規に職安登録日産労働者になった者は若干減少したが、高齢化のために再就職が困難で実数としてはわずかながら増加している。また被保護世帯についても世帯主が労働力を持つ世帯などで若干の減少がみられたが、労働力を持たない世帯の増加のために全体では微増となった。一方失対事業の日雇い賃金も8年ぶりに約9%引き上げられたうえ民間事業の就労日数が増加したので東京都の日雇い労働者の所得水準は1割以上増加した。被保護世帯については保護基準の引き上げは約9%に留まり、物価騰貴に及ばなかったが36年4月には18%の引き上げが行われた。
また35年度は社会保障の面についても強化された。すなわち国民皆保険計画の推進によって医療保険適用人員は36年3月末に9217万人と総人口の98%の適用をみるに至り、拠出制国民年金制度も被用者を除く全国民を対象にして36年4月より実施に移され、老齢国民の所得保障について一段と前進を示した。