昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
昭和35年度の日本経済
国民生活
所得増加と貯蓄の動向
所得の大幅増加
35年度の消費水準が物価騰貴の中でも29年以降最高の増加を示したのは所得の増加率が大きかったからである。
まず勤労者世帯の所得増加についてみよう。全都市勤労者世帯の35年度の可処分所得は41,254円(5人30.4日換算)と前年度に比べて11.9%増加した。この増加率は34年度の8.1%増を上回るのみならず、32年度の9.8%増をもかなり上向った。これを四半期毎にみると、4~6月期の8.6%増から1~3月期には13.6‰増へとしり上がりに増加率が高まった。
勤労者世帯の所得増加は主として世帯主定期収入の増加及び夏期及び年末の賞与の増加によるものである。世帯主定期収入は前年度に比べて10.7%増と前年度の伸びを大幅に上回った。これは2年続きの好況によるベース・アップや定期昇給実施事業所の増加等によるものである。第二は夏期及び年木賞与の大幅増加による世帯主臨時収入の増加である。好況による企業収益の増大を反映して賞与支給率は前年を上回り、世帯主臨時収入は25%増加した。このような世帯主収入の増加に伴って、勤労者世帯の所得増加に対する世帯主収入の寄与率は34年度の79%から35年度には88%に増加し、中でも世帯主定期収入は52%から60%に高まっている。
また農家では「農業」の項にみるように、米をはじめとする農業生産の増加に加えて農産物価格が騰貴したので農業所得が増加したうえ、好況に伴う就業機会の増大や賃金水準の上昇などによって労賃俸給収入が前年度に比べて14.8%増加したので、農家の可処分所得(含現物、人員日数調整済)は10.6%増加した。
さらに個人業主世帯においても、都市勤労者や農家の消費需要堅調の波及効果を受けた卸小売、サービス部門の個人業主層の所得水準の増加、建設活動の盛行と労働力の不足による職人層の賃金引き上げなどによって都市勤労者世帯とあまり違わない程度の所得増加をみたものと思われる。
この他、35年4月から失業対策事業労働者の賃金が3年振り引き上げられたことや福祉年金が前年の11月から支給されたことは低所得層の所得増加に好影響を与えたものと思われる。
貯蓄の動向
上述のごとく全都市勤労者世帯の可処分所得は前年度に比べて11.9%増加したが、消費支出はこれよりも低く10.3%の増加であったため、消費性向は前年度の86.2%から85.0%へと低下した。従って貯蓄率は若干増加し、実収入に対する黒字率も前年の12.8%から13.9%に上昇した。しかし、所得の増加率に比べると、黒字率の増加はそれほど大きなものではなかった。
これは中低所得層においては、消費者物価が高騰したのと、耐久消費財の購入等によって貯蓄率はほとんど増加しなかったことが影響している。
貯蓄のうち金融機関への預貯金や株式証券投資等の純貯蓄は前年度に比べ19.0%の増加となり、純貯蓄率は前年度の9.1%から9.6%に増加している。この中有価証券投資は金額は少ないが前年度の6割増の大幅な増加となっている。
また農家の可処分所得は前年度に比べて10.6%増加したが、消費支出は8.7%の増加に留まったので消費性向も前年度に比べて低下した。