昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

金融

金利政策の展開

 35年度の上期から下期にかけて市中金融にややゆとりを生ずるにいたつたが、この間予防政策の効果もあって物価は安定し、国際収支も黒字をつづけるなど経済は順調な推移をたどり、短期外資の流入をふくめて外貨準備は著増した。このような情勢を背景に35年度を特徴づけた金利引き下げ政策が展開された。

公定歩合の引き下げ

 公定歩合は35年8月、36年1月の2回にわたりそれぞれ日歩1厘ずつ引き下げられた。これらの引き下げ措置は景気情勢の落ち着いた推移によって可能とされたものであるが、ただ両者は若干その意味を異にしたものと考えられるoeすなわち、35年8月の公定歩合引き下げは34年12月に公定歩合引き上げの理由となった景気過熱の懸念がその後薄らいだので、公定歩合を34年12月以前の水準にまでもどしたものである。日銀は8月12日員オペによって季節的な金融ひっ迫を調節した上で、同月24日公定歩合を1厘引き下げた。このごろから窓口規制も漸次緩和され、これが下期の金融にゆとりを与えたことは既にみた。また全国銀行貸出金利もこれを境に反転低下することになった。

 36年1月26日の公定歩合引き下げも景気情勢に即応するという趣旨では8月の引き下げと異ならなかったが、金利水準全般の低下を円滑ならしめる役割を果たした面も大きかったとみられる。このような金利水準の引き下げは、貿易為替の自由化に備え産業の国際競争力をつよめるため、金利の国際的割高を是正する必要が認められたことによるのである。36年1月以降市中貸出金利の引き下げに留まらず、預金金利など金利全般にわたる利下げが行われたのは以上の事情に基づく。

各種金利間の調整

 36年1月の公定歩合引き下げに続いて各種金利が引き下げられたが( 第10-5表 )、そのうち最も注目されるのは預金金利の引き下げと社債発行条件の改訂であろう。

第10-5表 金利引下げ状況

 定期預金金利の引き下げは実に25年ぶりのことである。預金金利は戦後にも26年、33年の2回にわたって引き上げられている。一方の貸出金利は小浮動を繰り返しつつすう勢的には低下してきた。銀行としてはこれに対し資金量の増大、経費の節減によって応じてきたが、それにも限界がある。ここで預金金利を引き下げたのはそれが将来貸出金利低下の障壁となることがないように先手をうち、金利政策の弾力的運用の素地を銀行経理の面からも確保しておくためである。

 次に社債条件の改訂をみると、電力債、超一流事業債応募者利回りは7.831%から7.408%へと引き下げられた。このように大幅な引き下げは社債に対する見方の変化を前堤している。公社債投資信託を媒介として起債市場が拡大し、その消化構成が変化したことは既にみたが、そのため社債が貸し出しの変形としてでなく預金と競合する貯蓄形態としてもみられるようになった。今回の社債利回り引き下げにおいては、貸出金利や預金コストと並んで預金金利とのバランスが従来よりも重視されるようになったといえる。

 つきに引き下げ後の各種金利について大まかに国際比較をこころみると 第10-5図 のようである。市中貸出金利、社債利回りなどは西ヨーロッパ緒国の水準にかなり接近したといえる。このように36年1月以降の金刺引下げは金利の国際的割高を縮小するうえで効果があった。ただ、コール・レートの割高に示されるような金利体系のゆがみは残された。これは現金需給のひっ迫が続いたことなどによるもので、通貨供給方式の多様化など金融環境の整備が金利引き下げに追随しえなかったことを意味しよう。金利体系にアンバランスがあれば各種金融市場間の有機的な結びつきが困難になり、金融の景気調節機能を働きにくくする点からも、機会をえて正常化の環境を整備することが必要であろう。

第10-5図 各国金利の比較

金利引き下げの意義

 今回の利下げ政策の特徴は、第1に、貿易為替の自由化をひかえ産業の国際的競争力をつよめる必要が特に認められている折柄、金利の国際的割高を縮小する役割をになったことである。また第2に、金利の引き下げが広汎にわたった点があげられよう。これは今回の利下げが長期的視野に立って金利を全体として低下させようとしたものであったことを現している。これまで手の触れられなかった預金金利の引き下げを断行したことも金利引き下げが本格的に行われたことを示したものといえよう。これも基本的には最近の日本経済に金利引き下げの実力がそなわってきたことによる。

 しかし金利の低下は元来一本調子に進むものでなく、景気変動に応じて循環変動があるのは当然である。金利引き下げにさし、しては大胆にこれを推進する必要があると同時に、景気の行きすぎを招かぬよう必要があれは金利を引き上げることも、長期的な金利引き下げの方向と矛盾するものではない。

 かかる見地より金利引き下げ前後の景気動向をみると、在庫投資の落ち着き、国際収支の好調などにより金融面にも幾分のゆとりが生じ、金利引き下げ経済を刺激するおそれは少ないとみられていた。しかしその後の経過をみると企業の成長期待は強く、最近在庫投資が増加に転じ、物価の騰貴、輪への増加など注意すべき現象がみられるようになった。日本銀行は窓口規制を続けて利下げ後の事態を見守っているが、今後とも適切な金融政策をとっていくことがのぞまれよう。


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