昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

農林水産業

林業

木材価格の騰貴

 木材価格は35年秋口から続騰し、9~11月には毎月4~5%ずつ上昇して従来の季節的変動をはるかに上回る動きを示した。その結果、木材価格は前年度に比べ10.2%上昇し、一般卸売物価の上昇率1.8%に比較してかなり高い価格水準となった。この原因としては需給の著しいギャップが挙げられる。木材需要は戦後着実な増勢を続け、不況期に一時的な後退をみたが、これも停滞ないし若干の減少に留まり、逆に好況期に大きな増加をみてきた。とりわけ34、35年度と引き続く好況によって需要は急増し、34年度9.9%、35年度9.0%と高い伸び率を示した。これに対し国内生産も増加傾向にあるが、最近の増加率は年2%程度であり、85年度には3.9%の伸びを示したが、なお需要の伸びには及ばない。このため外材の輸入が促進され、年々増加のすう勢をたどり、35年度には11.8%も伸びたが、量的には供給不足を大幅に緩和する要因として作用していない。

 こうした需給の緊迫状態が経済成長と共に継続化するおそれがあるので、政府は2月に閣議了承による木材対策を定め、36年度の需給を緩和するため、国有林200万立方メートルの計画的増伐、外材輸入100万m8の増加、廃材チップの積極的利用等の措置を講じることとしたが、この閣議了承を機にパルプ産業界においても今後2年間木材消費の増加を来さぬよう設備の新増設を繰り延べまたは休止することとし、自主調整を行う方針をきめた。

第7-6表 用材需給

用材需要の動向

 用材需要の急増は建築、パルプ関係を中心としているが、この需要増の傾向のうちに徐々に木材需要分野の変化がみられる。

 まず、建築需要の伸びは、建築着工面積において、35年は21%の増で、31年の23%に次ぐ増加ぶりであるが、木造建築については12%の伸びに留まり、木造率は前年の66%から61%へと低下し、相対的な減退傾向が顕著である。これに対し木材に代わる新しい建築材料の進出はめざましく、コンクリートブロック、石綿スレート等の生産量は前年に比べ3~4割の増加となっているが、現状ではまだ木材の建築費が割安なので新建材への代替が急速に起こることは予想されない。しかし、材質の優れた新建材が本格的に量産化され、コスト低下をみせれば、木材との比価が縮小され、木材需要の減退を促すものとなろう。

 次に、パルプ用材はここ数年最も需要増加が著しい分野で、紙製品等の消費の増大と共に増え、28年当時に比べその木材消費量は2倍以上になっている。パルプ部門の消費増加は、原木調達面で建築部門と競合するばかりでなく、業者間の競争をも生み、木材価格を値上げさせる一因をなしている。

 このためパルプ産業においては、建築部門と競合する針葉樹使用から広葉樹利用への転換が図られ、さらに最近では製材等の廃材チップの利用に乗りだし、現在では木材消費中の針葉樹依存度は44%に低下している。需給のひっ迫と共にこうした価格の低い樹種材種への転換は一層拍車がかけられよう。

 以上のように、木材需要はしだいに節約ないしは転換の様相を示しているが、木材価格の上昇が継続化するならば、このすう勢はさらに促進され、需要減退効果を生みだすことになろうし、いずれ実施予定のパルプ製品の輸入自由化が実現すれば、用材需要分野に大きな転換作用をもたらすことが予想される。

第7-4図

供給上の問題

 木材供給は国内生産と外材輸入に因っているが、外材輸入はラワン材、ソ連材、米材を中心として、毎年増大傾向をたどり、現在では需要量の12%にまで達している。国内の木材価格の高騰は、外材輸入の増加要因であり、35年度の木材値上がりの影響で、今後輸入需要は一段と増大するものとみられるが、他面、外材の輸入については、これを制約する条件が多いので、国内需給を左右し得るほどの要素として期待することは難しい。輸入の制約条件となっているものは、港湾貯木施設が不備なため大量の外材が裁ききれず輸入の大きなネックとなっていることであり、さらにラワン材の主要輸出国であるフィリピンでは供給の停滞と合単板工業育成のため丸太輸出を制限する方向にあるし、最近増加の著しいソ連材は積み出し期間が短く、大型船の運航が困難で大量輸入が容易でないという状態であり、加えて米材の輸入は海上運賃の占める割合が大きいため供給の安定を期し難いという問題がある。

 従って、木材供給の基本的なものは国内生産にまたねはならない。しかし、林業生産については自然的制約もさることながら、経営の非近代性、非企業的性格が強く、これが供給条件の隘路となっている。この点に関しては35年10月農林漁業基本問題調査会が答申した「林業の基本問題と基本対策」において指摘され、将来の需要に対応した積極的な生産対策と経営構造の改善対策の必要性が望まれている。

 民有林経営のうちには財産保持的性格の強いものもあって、このため木材価格の上昇がこうした山林保有の収益性を高め供給は硬直化し、供給不足が価格上昇を促す作用を生じやすくしており、また素材生産の4分の1近くを占める国有林についても需要に応ずる弾力的供給機能を充分に発揮しているとはいえない実情である。もちろん林業生産の長期性から無計画な供給増大を図るべきでないとしても、供給の硬直性が高収益をもたらし、さらに価格の続騰を促す循環経路をたどることは、木材の需要減退効果を高め、一時的な収益性の上昇がかえって林業の将来性を短縮することも考えられる。かくて、35年度の木材価格の高騰を契機として、将来の林業を方向づける課題がその重要性を増し、林業経営を近代的企業へ改編する構造政策や、国有林機能の検討が林業政策の焦点として期待されている。


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