昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
昭和35年度の日本経済
中小企業
盛んな設備投資の特徴
質的変化をとげる中規模企業の投資
35年の中小企業の設備投資は、前年に対して6大都市で61%増(東京商工会議所調べ、 第5-4表 )、全国平均で33%増(中小企業金融公庫推定)とそれぞれ高い増加率を示した。伸び率としては前年を下回ったが、34年、35年と2年間引き続いて、高率な設備投資が実施されている。
これを規模別にみると、概して上層規模の増加率が他の規模より目立って高い。これは中規模企業の盛んな投資意欲を物語っているが、そこにおける投資は、これまでとは異なった質的発展を示しつつある。その点について若干触れておかなければならない。
中規模企業の盛んな設備投資が進むなかで、ひときわ目立っているのは自動車部品工業における投資である。自由化を前にした完成車メーカーは、コスト低下を図るため、飛躍的な量産体制をめざして大規模な設備投資を行っている。売れるから造るというより、造って売るという意気ごみである。
このような量産体制は、単に完成車メーカーだけの体制整備では不可能であるため、広汎な関連部品メーカーも、完成車メーカーと一体となって即応体制をとっている。この過程で、協力工場が質量両面でこれまでにない画期的な投資を行っていることに注目しなければならない。
これまで部品工業の多くは、古い工作機械の改造による「半自動化」で生産能率を高めてきた。しかし、もはやこのような形での合理化では、完成車メーカーの増産体制に即応できなくなってきている。そこで、普通旋盤を自動旋盤に、ならい装置付旋盤をならい旋盤に、単軸ボール盤を多軸ボール盤にそれぞれ切りかえ、鋳造設備も完全な連続自動鋳造装置に取り替えるなどの動きが活発化している。
このような中で、これまで大企業に限られていた高性能機械が最近の量産規模の拡大を背景に、中企業の一部に導入されつつある。高性能機械の導入として特に注目されるのは、例えばマイプレス(冷間鍛造機ドイツ製3千数百万円)である。この新鋭機械によると、ある部品では従来6~7分を要していた切削作業が、わずか0.59秒に短縮され、材料も3分の1に節約されるという画期的なものである。このマイプレスの導入は、これまでの切削加工がプレス作業化したという点で、技術的にも飛躍的な発展を画するものである。
この結果、部品メーカーの中には、部分的ながら既に親企業の数年後の量産目標に対応できる体制を整えたものも現れている。これらの部品メーカーは、親メーカーからの受注量だけでは余力を生じるので、他社の受注を受けざるをえなくなっている。こうしてこれまでの一社専属的形態が崩れつつあることは、部品専門メーカーとして成長していく芽生えが、生産力の発展に伴って現れていることを示すものとして注目すべきであろう。
このような高価な高性能機械をとり入れることができるのは、上層企業であることはいうまでもない。しかし、自動車部門では30人以下の小企業でも、先進的な企業では従来のならい装置付旋盤をならい旋盤に、普通旋盤を自動旋盤に切り替えたり、コンペアー制による流れ作業化を図るなど、近代化投資を積極的に行っている企業が現れてきている。
以上のように、自動車系列企業には、上層及び下層企業で、それぞれ従来の設備とは質的に異なった発展を示したことが35年度の特徴である。
所要資金規模の増大
さきの東京商工会議所調査によると、65%の企業が合理化、近代化を目的とした投資を行っており、その割合は大規模企業ほど大きい。先に述べた自動車部品工業のみならずその程度に差はあっても、その他の中小企業でも近代化投資は広汎に進展しており、必然的に所要資金の大規模化をもたらしている。中小企業金融公庫の調査によると、 第5-5表 に示したように35年度(計画)の1企業当たり投資規模は、33年度に比べて200人以下でほぼ2倍、200~299人規模では3.7倍と増加している。また1企業当たりの年間投資額をみても、中規模企業の投資規模かいかに拡大しているかがわかろう。
最近では、1回の投資額が機械だけで1,000万円をこえるのが一般的になりつつあるといわれる。例えば、小巾織機50台を広中化すると織機だけで700~1,300万円、合繊へ転換するとすれば主要機械のみで2,000万円が必要となる。また、工作機械も、中ぐり盤は国産で1台平均1,900万円、輸入品で2,500万円、平削盤で1,000~1,500万円もする。しかも、最近は旋盤や研削盤を一度に数台設置しなければ、近代化に追いつけないというような例が多くなっている。このことは、近代化投資のテンポが大きいことを示す反面、それだけの所要資金の調達力いかによって、企業格差がひらくことを示すものである。
工場集団化の動き
以上のような盛んな設備投資と関連して、最近工場集団化の気運が高まっていることはみのがせない。
これは、中小企業の設備投資が量、質の面で発展するに伴って、工場立地上の限界が合理化の阻害要因となっているところから、その打開策として打ちだされたものである。
工場を郊外または地方に移動し、集団化することは、単に用地問題の解決だけでなく、移転を契機に経営全般についての根本的改善を図るチャンスとなるし、共同施設、共同事業の面でもプラスになる等中小企業の合理化に及ぼす効果は大きい。
中小企業庁調べ(36年2月現在)によると、集団化計画は全国で46地区(一部未定を含む)で、業種別には、機械金属、木工、繊維、金属がん具、プラスチックス、石材、陶磁器、眼鏡枠、和紙などである。このうちの約5割を機械金属関係が占めているが、このことは、この部門での設備投資の活発なことを裏付けているといえよう。
このような工場集団化に対して、昭和36年度から国が資金貸し付けや、税制上の優遇措置による助成策を行うことになった。従って、工場集団化の動きは中小企業の近代化の進展に伴って、今後一層強まっていくものと思われる。
小零細企業の設備投資
以上にみたような中規模企業の盛んな設備投資に比べ、小零細企業の設備投資はどの程度行われているであろうか。これを国民金融公庫の調査に基づいてみてみよう。
調査対象は20人以下の企業(全産業)を主体にしたものであるが、34年1月から35年8月までの間に、全然設備投資を行わなかった企業は、全体の58%にのぼつている。最も業種別にみると金属、機械工業に属するものでは約7割が実施しているのに対して卸、小売業では6割以上が実績を持ってないという差異はある。しかし各業種を通じて投資をしなかった企業の5~6割が設備投資の必要性を感じていない。また、所要資金の規模も月売上高の6割程度のもので、しかも、過半が自己資金によって賄われていることをみても、この規模層での設備投資は、必要最少限度のものを無理のない形で行おうとしていることを示している。
中規模企業が盛んな設備投資によって、急速に近代化しつつあるだけに、小零細企業は、取り残された形となっている。