昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
日本経済の国際競争力と構造政策
産業構造政策への配慮
輸送部門の技術近代化への努力
経済成長と産業構造、地域構造の変化は、輸送需要の増大による輸送力の拡充を必要ならしめるとともに、品目構成の変化による輸送分野の変革をもたらし、さらにこれらは輸送需要に即応した輸送設備や方式などの技術近代化を促している。
すなわち、産業の各部門の合理化、近代化は各産業内部の生産コストを引き下げ、生産能率を工場させるのに大きな効果をあげたが、輸送の技術近代化は、増加する輸送需要を賄い、輸送費を引き下げ、安定させ、輸送能率を向上させることによってその効果を一層高め、日本経済の国際競争力の強化に寄与するところが大きい。輸送の技術近代化は輸送部門内の問題ばかりでなく、日本経済全体の問題としてその重要性が増してきている。
生産コストと輸送
輸送の生産コストに及ぼす影響のうちで、第一にとりあげられるのは輸送費の比重である。輸送費の商品価格に占める割合は、鉄道の場合 第III-7-1表 に示す通りであるが、さらに輸送費のなかでは包装費の割合が運賃を上回っている。海上輸送の場合では現在の低位にある運賃水準のもとにおいても海上運賃は重油のCIF価格に対し、30~40%、鉄鉱石のCIF価格に対し、40~60%を占めるものとみられており、さらに石油製品、鉄鋼製品となった場合でも生産コストの10%を超えるものと考えられる。次に、輸送時間の短縮や荷役能率の向上は、それだけでも輸送需要産業の在庫量の縮減や生産能率の向上を可能にするが、計画的な輸送をより可能ならしめることによって、一層その効果を大きくする。例えば、大型専用船による鉄鋼原材料の計画的な輸送は、原材料の配合計画を円滑にし、原材料在庫の縮小により在庫投資を縮減し、横持ち輸送の防止により構内輸送費を節減するものと期待されている。
鉄道における動力近代化
陸上輸送において鉄道輸送の占める割合は、近年輸送需要の構造変化等による自動車輸送の進展に伴ない、次第に低下の傾向を示している。そのため、鉄道の近代化の問題は鉄道の自動車輸送への対抗策にしぼられてきたかの感が深い。しかし、我が国においては地勢、人口密度などの特殊性から、今なお鉄道輸送は国内輸送の根幹としての地位を保持しており、鉄道輸送の隘路化現象は直接経済成長を阻害する要因として大きい問題となっている現状である。
もともと鉄道は、わすかな輸送力の増加にも多額の投資を要するが、限られた投資でより大きい効果をあげるためには輸送施設、輸送方式等の近代化を考える必要がある。また近代化は輸送サービスの生産コスト低減の手段としてもその意義は大きく、ひいては日本経済全体のコストにかかわる問題となっている。
鉄道輸送近代化のうち、技術近代化の面をみると、その目的としては輸送サービスの生産コスト低減と輸送速度向上の両面があり、動力方式、車両、設備等の近代化が実施されている。このうちもっと効果が明瞭にあらわれている動力方式については、国鉄において長期計画をたてて近代化を推進している。動力方式近代化には、電化、ディーゼル化などがあるが、国鉄における現在までの進捗状況をみると、電化については終戦時の電化キロは1310キロで国鉄営業のうち6.6%を占めるに過ぎなかったものが、34年度末には東海道本線等主要幹線を含む2500キロの電化が完成し、総営業キロの12.0%に達している。
一方ディーゼル化も終戦時には全く手がつけられていなかったが、34年度末には1790両のディーゼルカー、196両のディーゼル機関車を保有するに至り、電化されない幹線を中心に全国的に運用されており、ディーセルカーまたはディーゼル機関車による列車キロは235千キロとなり、総列車キロの28.4%に達している。しかし諸外国と比較すると石炭の豊富なイギリスを除いてかなりの立ち遅れを示している。動力方式近代化の効果を近代化線区の実績でみてみると 第III-7-1図 及び 第III-7-2表 の通りその効果は顕著で、特に動力費については30%ないし75%低減されている。特に北陸本線における商用周波数による交流電化方式のコスト低減効果は著しく、今後の電化方式に示唆を与えた。
32年度から34年度までに国鉄では5ヵ年計画の一環として電化、ディーゼル化に約500億円の投資を行ったが、50年度を目標として全線にわたる動力方式近代化を完成させる予定で5000キロを新たに電化し、非電化線区も全線ディーゼル化を行うこととしている。これには現在のままの動力方式で推移した場合に比し、1,225億円の追加投資を要するが、完成後は毎年310億円の経費節減が期待できる。
道路近代化の効果
戦後における自動車工業の急激な伸びと自動車輸送の増大に伴ない、自動車保有台数は急激な増加を示している。しかるに、我が国道路は大部分が昔ながらの未改良の砂利道であり、また全ての道路が、走行速度の異なる車両の混合した交通形態をとり、アメリカに約半世紀、欧州先進国に約20年以上の立ち遅れを示しているといわれている。このような著しい立ち遅れを示す我が国道路もまた、道路整備5ヵ年計画の確立、自動車専用道路の制度化、名神高速道路及び首都高速道路の建設など、ようやくその近代化の段階に入ったものということができよう。すなわち、昭和32年4月高速自動車国道法の施行に伴ない、我が国高速自動車交通網の建設は、本格的な整備の段階に入った。高速自動車道は、全国的な自動車交通網の根幹となるもので自動車の高速交通を確保し、安全かつ大量の自動車輸送を図ろうとするものである。その最初の事業である中京工業地帯と阪神工業地帯とを結ぶ名神高速道路はまさに画期的事業といえる。また、34年度に至り、自動車交通の増勢に対処し、道路法の改正が行われ、自動車専用道路が制度化された。特に東京都については、自動車交通の激増ぶりは著しく、近い将来全面的に街路交通が麻痺状態におちいることを予想し( 第III-7-3表 参照)、この行詰りを打開し、交通の確保及び都市機能のの増進を図るため34年4月首都高速道路公団法が制定され、自動車専用の首都高速道路を整備することとなった。
自動車の走行機能を十分に発揮させるような構造を備えた近代的道路は、自動車の燃料消費量、タイヤ等の損耗、修理費など直接輸送に要する費用を大幅に節約する。例えば改良、舗装された道路と未改良、未舗装の道路とを比べてみると、改良、舗装された道路は車種のいかんを問わずはるかに低額になっており、車線分離、出入制限などさらに高度の設備のほどこされた近代的道路は、この節約額をさらに上回るものと推測される。名神高速道路全線にわたる貨物輸送費の節減額は現在の道路輸送費の20%程度になるであろうといわれ、通行料金を支払ってもなお相当の節約が期待される。また、間接輸送費についても大きな節約をもたらす。すなわち、貨物の包装を簡略にし、あるいは無用とし、かつ貨物の破損度を減少させ、さらに、大型トラックの使用は荷物の取扱いを便利にするからである。鉄道から転換する貨物の大部分は積卸しと包装を節約する。大部分の完成品は鉄道出荷のときの包装費が輸送費より大きく、ときには相当の開きを生ずることがある。例えば、木わくにはめたガラス100立方尺(100立方フィート)を四日市から汐留に出荷するのに、鉄道運賃は62円強ですむが木枠と包装労費は275円も要している。
また近代的道路は貨物の輸送に要する時間を短縮し、トラック運転手の賃金、トラック運送事業の経常費用等輸送費用の著しい節約をもたらす。名神高速道路と既存道路との走行時間を比べてみると、神戸、名古屋間については既存道路250キロメートル、8.3時間に対し、名神高速道路215キロメートル(インターチェインジから付近の都市までの距離を含む。)4.25時間で、約4時間の節約となることが示されている。
自動車交通の増加に伴ない、道路交通事故の件数もまた年々増加し、貴重な人命と莫大な財産が失われているが、アメリカにおける調査によれば、道路の幅員、カーブの等の構造に応じて決まる交通容量に比べ、実際の交通量が多くなるほど事故も多くなることが明らかである。事実、栗東、尼ケ崎間における既存道路と高速自動車道との交通事故件数などを比べてみると、高速自動車道の場合は一般砂利道に比べ、はるかに少ないことが推定される。( 第III-7-4表 参照)。これは混合交通の解消もさることながら、自動車の性能と交通量の適応するように道路が整備されれば交通事故は大幅に減少することを示している。
第III-7-4表 高速道路と一般道路との事故発生件数等の比較
最近における道路の設計は普通の運転能力を有するものであれば。安全、快適に走行できるように考慮されてきている。例えば、往復分離、広い路肩、カーブにおいて速度を落さずに円滑に運転ができるクロソイド曲線の採用、進行方向に対し見通しの良い流線的な線形(パースペクティブ法)を採用するなどである。
以上高速自動車道の建設などの道路の近代化は、このような直接効果ばかりでなく、それが全国的に整備されることによって地方工業の発達をうながし、資源開発にも利することとなるので、高速自動車道などの近代的道路網の整備が日本経済の近代化にとって重要な問題となるといえよう。
船舶の大型化と機関の進歩
海上輸送における近代化も日本のように輸入依存度が高く、原材料高になやむ国にとっては重要な問題である。船舶の外形や性能を輸送対象により適したものに改めることにより、単位当たりの輸送サービスの生産コストを引き下げることがその手段である。
船型の変化
船型の変化の中で第一に挙げられるべきものは油槽船の大型化である。世界的なエネルギー革命によって、石油需要が中近東に集中したこと、製油技術の発展によって製油所の大型化が進み、石油化学の発達によって副産物利用的総合化学が促進されて、消費地に大製油所ができるようになったことなどから、定期的に大量の石油を運ぶ必要性が生まれたことが大型化の強い要因であつた。そのうえ、原油のCIF価格に占める運賃部分の比率は、我が国の場合では戦後の最低といわれる市況下の現在でさえ、30~40%に達しており、石油製品の生産コストの10%を越えるものと考えられ、加えて海運市場の需給の非弾力性からくる運賃の不安定は石油業の安定利潤に著しく脅威を与えることとなるのであり、石油業にとって運賃の引下げと安定とは大きな関心の的とならざるを得ない。このような需要側の二つの要望--定期性大量性の確保及び輸送費の引下げ=運賃の低下--に加えて、海運業の内部からこれを促進したのが原油輸送量の安定的成長に着眼したギリシャ系船主の機敏な商才であった。
油槽船の船型は、戦前の標準船型12千重量トンから年を追って大型化し、1947~48年のブーム時には28千重量トン型があらわれ、3万~4万重量トンのいわゆるスーパータンカー時代を経て、スエズ動乱後には運河航行を考えない65千重量トンから10万重量トンの超マンモス時代に入ろうとしている。船型が大型となっても、船員費、港費、店費等は一隻当たりでほとんど変わらず、船価もトン当たりでは、3万重量トンに比べ5万重量トンを超えれば約10%節約されるものとみられる。従って、輸送サービスの生産コストは、T2型(16600重量トンの米国戦時標準船)を100として、3万重量トンで63となり、45千重量トンで、約半分に低下し、85千重量トンの超大型船となると40%程度となる。かかる輸送サービスの生産コストの低減の結果、海上運賃は、 第III-7-2図 にみるごとく、大型化と軌を一にして年を追って低下をみせている。
かかる世界的傾向とは対照的に、我が国における大型油槽船の登場は著しく立ち遅れており、1953年にようやく28船重量トン型があらわれ、56年に33千重量トン、58年に47千重量トン型が登場したものの、34年末現在で3万重量トンを超えるスーパータイプの油槽船は24隻、892千重量トンに過ぎず、この分野での世界に占める比率はわずか2.3%である。まして最近ぞくぞくと市場にあらわれている6万重量トン以上の超マンモスタンカーに至っては、一隻もみいだすことができない実情にある。このような事態を招いたものとしては、我が国の製油所施設の規模が欧米諸国に比して小さいこと及び大型船に対する適港不足があずかって大きいが、加えて我が国の海運の海運企業の自己資本の過少と、よって生ずる経営基盤の弱体が原因となっているものといえよう。大型油槽船の建造費は、船価の安い現在でさえ、45千重量トン型23億円、65千重量トン型32億円という巨額の資金を必要とし、我が国の海運企業にとってはこれだけの資金を固定することが極めて大きな負担となるからである。
油槽船の大型化についで顕著なものは各種専用船の発達であろう。現在鉄鋼生産国たるアメリカ及びイギリス、西ドイツ等欧州諸国はフランスを除きその主原料たる鉄鋼石を多かれ少なかれ海外資源に依存しており、鉄鋼生産の高成長は、鉄鉱石の追加需要を海外に求めることを意味する。鉄鋼石の海上荷動き量は、鉄鋼生産(粗鋼)の年成長率6.6%を大幅に上回る年17%の伸びを示すこととなった。また最近に至っては世界的に鉄鋼需要の安定的な成長が見込まれることから、膨大な設備投資を行い、生産能力の増加及びコストダウンを図っており、さらにこれと平行して原材料対策としては海外鉱山の開発、山元~積出港間鉄鋼石輸送の機械化、両端港の荷役能力向上のための一連の投資を行って、原材料入手の定期性及び大量性確保を推進しつつある。このことは積出港と荷揚港の間を結ぶ船舶についても同様の要求を有することになる。加えて鉄鉱石CIF価格に占める海上運賃の割合は日本の場合で40~60%とみられ、この引下げのためにも船舶の大型化による輸送サービスの生産コストの引下げは鉄鋼業にとって切実な要求となるに至った。しかしながら従来の船型のままでは比重の大きい鉄鋼石を積載することは、重心を過度に下げ、船舶の耐久性を悪化させる結果となるので、このような欠点を矯正するために特殊構造を有したものが鉄鉱石専用船である。この型の船舶は油槽船と異なり、外洋への登場は比較的遅く、1954年当時には60万重量トン程度であつたが、59年には424万重量トンに達するに至った。さらに現在の発注済船舶は220万重量トンであって、1961年までの毎年の竣工量は80万重量トンに達する見込である。
我が国における鉄鋼石専用船もやはり諸外国に比して遅れており、35年3月現在で純粋の鉄鉱石専用船は、8隻、135千重量トンを数えるに過ぎない。これは主として現在の輸入鉄鉱石の主な原産地、フィリピン、マライ、インドネシアなどからの輸送距離が短いこと、積出港の荷役能力が小さいことなどが起因しているものといえよう。しかしながら東南アジア鉄鋼石資源が枯渇の様相を呈し、我が国の鉄鋼業がインド、南米等に新たな鉱山の開発をすすめるにつれて、外国大型専用船が、その輸送に進出しつつあり、この傾向は一層強まるものとみられる。すなわち輸送距離の延伸とともに輸送費の節減は鉄鋼業にとって看過しえない問題となってきており、さらに鉱山の開発-長期輸入体制の確立は、積立港の荷役条件の整備をもたらすので、大型鉄鉱石専用船の妙味は一層強まるからである。
他の専用船についても、輸送需要が固定しており、かつ、その量が一定規模に達していれば鉄鉱石同様に発達が促がされる。現在では石炭、石膏、石灰石、砂糖、自動車などの専用船があり、さらに最近では原油とともに発生、従来では廃棄されていた天然ガスを冷却、液体化して輸送することが研究され、その専用船(いわゆるLPGタンカー)が登場し、新しいエネルギー源並びに化学工業用原料としてその経済的価値を創出しつつある。
船型の開発の契機を上記専用船と同じくしつつ、しかも、海運企業の立場から積荷に幾分の融通性を有して、ピストン輸送の代わりに多角輸送を行って収益の向上をねらったものがバルクキャリアー(ばら積貨物船)、石油、鉄鉱石兼用船など多目的特殊船である。これは前述の専用船がインダストリアルキャリアーまたはこれに準じたものによって特殊輸送に従事しているのとは対照的に、コモンキャリアーの新しい形の輸送手段として発展を期待されている。
推進機関の進歩
戦後の舶用機関の発達は、船舶に要求される大型性と高速性(油槽船、専用船等は船型が大型となっているにもかかわらず、速力はかえって向上している。)の両面から促されて誠にめざましいものがある。特にディーゼル機関は、(1)低質油の使用(A、C重油の混焼が可能となったことにより燃料費を約30%低減し、この点でタービンに対して有利性をました。)、(2)排気過給方式の採用(同一機関での約30%の出力増加、同一出力での燃料消費量の6~8%低下をもたらしている。)、(3)熔接構造の採用(機関の重量軽減に貢献した。)などの開発によつて従来タービン機関に独占されていた大出力への挑戦を行い、現在では15000馬力のディーゼル機関が普及しつつあり(これは1万総トンの定期船に20ノットの高速を、65千重量トンのマンモスタンカーに16ノットの速力を与える。)20000馬力を超えるものが船舶に搭載されるのも間近く、次第に大出力舶用機関としての地位をタービン--これとても使用蒸気の高温、高圧化、ボイラーの改善による熱効率の上昇などの進歩を遂げている。--にとって代わりつつある。
第III-7-5表 は戦後におけるディーゼル機関の発達を示したものであり、26年当時に比較すれば、出力増は約60%に達している。ディーゼル船によれば燃料消費量はタービン船の約60%ですみ、例えば中近東、日本の45千重量トンの油槽船に使用した場合、輸送コストの約1割は低減されるものといわれている。
荷役、包装の技術進歩
鉄道、道路、船舶などの部門で近代化が進行し、その効果があらわれてくるにつれて、これらに附帯する荷役、包装の面でもその近代化が要請されてきた。荷役時間を短縮し、荷役費用の節減をはかるためにの手段としては、低い足付きの荷台(パレット)に一定単位量の貨物を積載し、コンベヤ、トウコンベヤ(けん引式コンベヤ)等によって仕分け、運搬しフォークリフトなどによって積卸しを行う、いわゆるユニット・ロード・システム(単位荷役)があり、その普及は著しい。最近の一人当たり荷役トン数の推移の一例は、 第III-7-3図 の通りである。また、荷役の機械化は、荷役に際しての衝撃を従来よりも緩和するので、陸上輸送に例をとれば、長距離化して中間荷役の必要性を生じつつあるトラック輸送に対しては従来どおりの利点を保持させ、鉄道輸送に対しては、積載効率の向上に加えて包装の簡易化という新たな利点を与えている。荷役の機械化がもたらした鉄道貨物の包装簡易化の効果の例を示せば、 第III-7-6表 の通りである。このほか荷役の完全な機械化には至らないが、港湾荷役におけるフォークリフト、モビルクレーンなどの新鋭荷役機会の普及めざましい。
第III-7-3図 日通における最近の一人一日平均積卸トン数の推移
包装の簡易化による包装費の節減と、荷役の機械化に対応して荷役作業の合理化を目的とするものにコンテナがある。従来の小型コンテナのほか5トンコンテナの東京、大阪間専用列車による輸送も開始され、またアメリカにおいてはコンテナ船が海上輸送に登場している。
コンテナ利用の効果か最も顕著に現れるのは鉄道輸送についてである。鉄道貨物の約45%は輸送に際して包装を要するが、これら包装貨物において価格に対する包装費の割合は運賃を上回っている。このため、鉄道運賃としては低廉でありながら、戸口から戸口へ一貫した輸送を行うため簡易包装ですむ道路輸送の場合に比較して総輸送費としてはかえって割高につく場合がかなりあった。( 第III-7-4図 )コンテナによる包装費節減の効果は顕著であって、国鉄の例でいえば、主要品目の平均で7.6%の節減を示している。その若干の例を示せば 第III-7-7表 の通りである。なお、コンテナ輸送に伴なう荷役の簡易化により一部品目については運賃も低下したため、専用列車積載による輸送速度の向上と相まってかなりの効果をおさめている。
第III-7-7表 コンテナー輸送による包装費、運賃増減比較
なお、従来包装については実証的な研究がほとんど行われておらず、従ってともすれば不必要な強度を備えた包装が行われがちであったが、荷役の機械化を機縁として、この面についても研究が行われるようになり、かなりの効果が期待される。現在は、りんご、かきなど一部果実類等について従来の木箱包装を段ボール箱包装に簡易化するにとどまっているが、その効果としては、りんごにおいて15.7%、かき13.5%の包装費低減の実績を示している。
近代化への課題
以上の輸送技術の近代化には、さまざまの態様があり、またその果す役割も多様であるが、ここでは、その効果を日本経済のコストダウンに寄与し、もってその国際競争力を強める方向に、より顕著に推進するために横たわる共通の課題について簡単にふれることとしよう。
その第一は、輸送基礎施設の充実がなければ各方面における近代化の効果が十分に発揮できないという点である。このことは国鉄の貨物輸送についてみれば、累年の投資不足による慢性的供給不足は、経済の成長期に3~5日分の滞貨となって現れることがむしろ常態となり、本来迅速を特色とする鉄道輸送であるにもかかわらず、平均速度は時として時速10キロメートルを割るに至っており、また循環変動のピーク時には輸送機関の転換が行われ、最適機関を自由に撰択させるという交通の使命がやむをえず等閑に附されがちとなっている。かかる実情のもとにおいては、動力方式の近代化も輸送の質を向上させるまでにはいたらず、また、包装、荷役技術の近代化も輸送サービスの需要産業に対して、直接輸送費の節減と時間の短縮によって生ずる各種のコストダウンの恩恵を享受させることを困難としている。
同様のことが高速自動車道についてもあてはまるといえよう。すなわち、いかにメインルートのみが整備されても、これと接続する街路等既存道路が未改良、未舗装のままで残されていれば走行費節減と時間短縮は僅少にとどまるであろうし、またこれらの交通量と交通容量のアンバランスが解消されなければ、かえって交さ部における混乱をひき起こし、走行時間を延長させるのみならず、事故発生を増加させるものと思われる。このことは、現在の道路における平均速度が毎時30~40キロメートル程度といわれ、他方、高速自動車道におけるそれが70~90キロメートルであって、その大きな懸隔からも伺われよう。
また、大型化により大幅に向上した船舶の性能を十分に発揮させるためには、両端のターミナルの整備は必須の要件である。すなわち、海上での輸送がいかに迅速に行なわれても、港湾において船ごみのため長時間滞船したり、荷役により時間を空費すれば船舶の高速化の効果は滅殺され、また船舶が大型化しても、水深の不足により入港できず、沖荷役による荷役費の増嵩を招くこととなれば、船舶の経済性向上の効果は相殺されるであろう。この点で我が国の実情は、既に第2部交通通信篇で指摘したごとく理想から遠い。
かくのごとく各輸送分野において近代化の効果を阻む基礎施設の立ち遅れがみられるのであり、近代的輸送形態とそれ以外のものの混在といういわば輸送における二重構造はますます拡大しつつある趨勢にあると考えられ、近代化の理想的な状態から遠ざかるものと思われる。
第二には、輸送における技術近代化は、決して交通企業単独の力でおし進められるものではなく、輸送サービスの需要者及び輸送手段の製造産業の支えによって達成される点である。まず前者について包装を例にとれば、その近代化の理想的形態は、戸口を出る前から戸口へ入って腰を据えるまでその機能及び外形が一貫していることであるが、そのための包装規格の標準化は、輸送関係者にとどまらず、流通に関係する各企業の協力をまってはじめて可能となる。この点についての現状をみれば、輸送時における耐久性保持のための強度規格の標準化にとどまっており、パレット輸送の前提となる形状、寸法の標準化は普及していない。
また後者の輸送手段と関連産業との関連についての例としては船舶の技術進歩が、その裏付けとして造船技術の革新を有していたことを挙げることができる。すなわち鋼鈑の接着技術が、鋲接から電気熔接に代わり、さらにこの方向をより効果的に推し進めるために船体のブロック建造方式が採用され、これとともに鋼材処理--切断、熔接の自動化、精密化--のための機械が広汎に採用され、あわせて作業管理の合理化が行われた。その結果はひとり造船企業にとって、24年を100として工数においては約50%減、鋼材使用量において約20%減と生産コストの顕著な現象をもたらし、また工期の短縮に貢献したばかりでなく、船舶の船体重量を軽くし、摩擦抵抗を少なくすることによって船舶の経済性を高めている。
このような関係は道路、港湾等における建設業、陸上輸送における機械工業などの関連産業においてもみられ、これら産業の技術進歩の果たす役割は極めて大きいものと考えられる。しかしながら建設業における機械化の立ち遅れ、運搬機械製造業におけるコスト高等我が国の実状は、全般的にみれば立ち遅れた状態にあると考えられ、これの改善が輸送技術の近代化への一つの課題であろう。