昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
日本経済の国際競争力と構造政策
産業構造政策への配慮
日本貿易の構造と世界需要
我が国の輸出は、昭和28年の1,275百万ドルから、34年には3,456百万ドルへとわずか6年間に2.7倍に激増した。年率18%という輸出増加率は世界で最も高く、日本経済の急速な成長に大きく貢献した。世界経済が大勢として順調な発展を続けたことが、我が国の輸出に好影響を与えたことはいうまでもないが、この間における世界貿易額の増加は36%に留まり、世界輸出総額に占める日本の比率は28年の1.7%から、34年には3.4%にまで回復した。戦前(昭和13年)には5.5%(移出を含む)を示していたのに比べると、回復はいまだ十分とはいえないが、満州、中国大陸など戦前の安定市場を失った点を考えれば、最近の輸出伸長はめざましいものであった。
このような輸出の好調は、日本経済の急速な成長と充実によって輸出力が強化される一方、世界需要が我が国の輸出を伸ばすのに有利な方向に動いた結果である。
世界貿易の動向をみると、先進工業国経済の一層の発展と、低開発国経済開発の進展を反映して、重化学工業品の比率が高まっている一方、先進国では所得水準の上昇から消費生活はますます高級化、多様化の方向をたどり、そのため高級消費財や各種の労働集約的商品の輸入需要が急速に増加している。
高級消費財などの需要増加は、技術水準が高い割に労賃が低いという特色をもつ我が国にとって有利である。そのうえ、急速な経済成長に伴って、国内の消費生活も多様化し、耐久消費財などの生産が増加し、品質が向上したことも加わって、高級消費財などの輸出が急激な増加をみ、電気機械、船舶をはじめとする機械類の伸長と相まって、めざましい輸出増加を実現した。
以下では、我が国の輸出が、経済の成長と充実を基盤として世界需要の動向にどのように対応してきたかを具体的に検討しよう。
輸出構造と世界需要の動き
輸出市場の構成
世界の輸入需要は28年から33年までに31%増えたが、増加率は国により地域によって大きな違いがある。輸出市場が輸入需要増加率の高い地域に集中していれば、輸出を伸ばしやすいが、その反対に主要輸出市場の需要が伸び悩んでいる場合には、輸出の増加には多くの困難を伴う。他国の商品を排除するか、新市場への進出をはかる必要に迫られるからである。
昭和28年における我が国の輸出市場の構成は、こういう観点からいうとかなり不利なものであった。総輸出額の半分近くは東南アジアと台湾、韓国などの近隣諸国に向けられていたが、これらの国々は、輸入需要の伸びが世界で最も小さい地域に属する。その反面、輸入需要が急速に増加した西ヨーロッパ、大洋州、中近東への輸出は、総額の14%に過ぎなかった。いま仮に日本の各地域への輸出が、その地域の輸入増加と同じ割合でしか増えなかったと仮定すると28年から33年までに我が国の輸出は23%増加したはずである。これは世界需要の増加率31%をかなり下回っており、当時の市場構成が、世界需要の動向からみて不利な状態にあったことを示している。同様の方法で西ヨーロッパ諸国について検討してみると、主要工業国の全てが、有利な輸出市場構成を示していた。
市場構成が不利であったにもかかわらず、我が国が世界一の輸出増加率を達成することができたのは、商品構造が世界需要の動きに適合していたうえ、競争力の強化によって多くの地域で占拠率を高め、特にアメリカ市場への目覚しい進出に成功し、また西ヨーロッパ、中近東など需要増加の大きい地域への輸出が好調を続けたからであった。その結果 第III-1-2表 のように輸出総額のうち東南アジアと近隣諸国向けの比率は大幅に低下し、北アメリカ、西ヨーロッパなど先進国向けの割合が著しく高まり、輸出市場構成もかなり有利になっている。
商品構造と世界需要
輸出商品の構成が世界需要の動向に適合しているかどうかは、輸出の伸長に大きな影響を与える。国際競争力の強い商品の世界需要が急速に増加すれば、輸出伸長は比較的容易に実現し得るからである。従来我が国は軽工業品や労働集約的商品の国際競争力が強く、世界貿易が重化学工業品を中心として伸びているのに対して適合性を欠いているという点が強調されてきたのもこのためであった。
最近数年間の世界貿易の動きを商品別にみると、次のような三つの傾向が認められる。第一はいわゆる重化学工業品化の傾向である。世界の総輸出額は昭和28年から33年までの5年間に31%増加したが、重化学工業品(化学品、金属及び機械類)の輸出額はこの間に53%と平均を大幅に上回る増加率を示している。先進工業国の産業構造がますます高度化し、それに伴って機械や化学品について高次の国際分業関係が発展し、工業国の間で化学品や機械の貿易が増加しているうえ、低開発国でも経済開発がすすむにつれて、金属、機械などの輸入が増えているからである。
第二に、鉱物性燃料の貿易額が47%という高い増加率をみせ、エネルギー革命の進行による流体燃料消費の急増と、主要消費地の石油資源が限界に近づいたことによる輸入依存度の上昇を反映している。
第三の特色は、耐久消費財などの高級消費財や衣類、雑品などの輸入需要が激増していることである。先進国では経済の順調な成長と所得水準の上昇に伴って、消費生活はますます高級化、多様化の方向をたどっている。この傾向が最も著しいアメリカでは、一世帯当たりの年平均所得は200万円を超えるに至り、従来の都心アパート生活に代わって、郊外に一戸を構えることが市民生活の標準となっている。その生活のため郊外住宅建設用の合板、ドアーなどの需要が激増する一方、郊外のためには自動車が2台必要となるなど、耐久消費財の需要も増えている。また郊外生活と余暇の増加によって旅行、スポーツが盛んになり、ボートをはじめスポーツ用品が多く要求され、旅行用品、携帯用ラジオ、軽便食器などの需要も激増している。
このような消費需要の高級化、多様化を反映して、合板、木製品、家具、衣類、はきもの、旅行用品、耐久消費財的軽機械(カメラ、ラジオなど)、雑貨などの世界輸入需要はいずれも70%を超える高い増加率を示している。
軽工業品全体としてみると世界需要の伸びは比較的低いが、これは主として衣類以外の繊維品の需要が停滞しているためである。工業製品を国際標準貿易分類によって74品目に分け、28-33年の世界需要の増加率をみると、60%をこえる工業製品は24品目あるが、このうち事務用機械、原動力機、船舶、雑化学品など7品目が重化学工業品で、残り17品目は全て軽工業品で占められている。
このような世界需要の動向と、我が国の商品輸出構造との関連を、28年についてみると、1)典型的停滞商品である繊維品の比率が高く、総額の29%に上っていること、2)需要増加率の大きい化学品と機械の比率は20%で欧米諸国に比べると比較的低いこと、などは需要動向にマッチしていない。しかし需要増加率の高い高級消費財などの割合が大きく、前記17品目の輸出額が13%に上っていた点では有利な面を持っていた。従って我が国の商品輸出構成は、必ずしも世界需要の動向から外れていたということはできない。いま我が国の輸出の9割近くを占める工業製品について、その構成が世界の需要動向に適合していたかどうかをみるため、国際標準貿易分類により74品目に分け、それぞれの商品の占拠率が一定だったと仮定すると、我が国の輸出は28年から33年までに45%増加することになる。これに対して世界の工業製品輸入の増加率は41%であったから、我が国の商品構成は世界需要の動きにある程度の適合性を持っていたということができる。その後我が国の輸出は、世界需要の増加が著しい商品で大幅に伸びたため、輸出構造の適合性はますます高まっている。
国際競争力の強化と国際的特化
国際競争力の強化
国際競争力がどの産業部門で強く、どんな商品で劣っているかは、それぞれの商品の輸出額が、世界の同種商品輸出総額に占める割合-占拠率-の大小に反映されると考えられる。昭和33年には、我が国の輸出額は、世界の主要33ヵ国の輸出総額の3.9%に当っているが、食料品、飲料、原材料、鉱物性燃料についてみると日本の占拠率は1.3%に過ぎない。これに対して工業製品では世界の5.4%に及んでいるが、そのなかでも陶磁器の31%をはじめとして、繊維品、衣類、合板、木製品、ゴム製品、はきもの、各種軽機械、雑貨など、軽工業品や労働集約的商品で特に高く、重化学工業品では低いという傾向を示している。占拠率が平均の3.9%を超えるものは32品目を数えるが、このうちで重化学工業品とみなされるものは化学肥料、鉄鋼、鉄道車両、船舶など5品目に過ぎない。特に原動力機、農業機械、金属加工機械、自動車、航空機などでは占拠率は極端に低くなっている。
このように原材料の輸出が振わず、また工業製品のなかでも主として軽工業品に集中しているのは、資源に乏しく原料燃料の生産条件が劣っていること、労働力が豊富なうえ、資金格差が大きいため中小企業的加工部門の労賃が低いこと、資本蓄積が不十分で産業構造の高度化が先進工業国に比べて遅れていることなどによるものである。
我が国の輸出急増をもたらした供給面の要因としては、生産力の急速な拡大によって供給力が増加したこと、欧米諸国では賃金コストが上昇傾向を示しているのに対して、我が国では製造工業における生産性の向上が目覚しく、賃金コストはむしろ下がっており、輸出物価も 第III-1-1図 にみられるように相対的に低下していること、商社機能の充実による販売網の整備、マーケティング技術の向上などが挙げられる。このようにして国際競争力が強化された結果、ほとんど全ての商品について占拠率の上昇がみられた。
28年から33年までの輸出増加額を、世界需要の変動に比例して増加したものと、占拠率の上昇によってもたらされたものとにわけてみると、占拠率上昇によるものがおよそ7割を占める。 第III-1-4表 からも明らかなように、占拠率の拡大による輸出増加が特に大きかったのは繊維製品、その他の軽工業品及び機械類(主として電気機械と船舶)で、これらの商品の競争力が強化されたことを物語っている。
輸出構造の高度化、高級化
我が国の輸出構造で軽工業品の比率が大きいことは前に述べた通りであるが、内外経済の発展につれて、世界の国際分業関係は絶えず変化している。従って、我が国が、分業構造の変化にどのように適応しながら輸出を伸ばしてきたかを判断するには、日本の輸出構造変化の方向が、世界の需要動向とどのような関係にあるかを検討する必要がある。
国際的にみて我が国がどんな商品に特化しつつあるかをみるためには、日本の輸出構造の変化だけでなく、世界貿易の構造変化をも考慮に入れねばならない。例えば、我が国の輸出総額のうち、ある商品の割合が次第に高まったとしても、それだけで、日本がその商品への特化傾向を深めたとはいえない。この間に世界貿易の構造もまた変化しているからである。
世界貿易の構造変化を織りこんで、我が国の輸出構造がその方向に特化しているかを示す指標として、特化係数がある。これは我が国の輸出総額に占めるある商品の比率を、その商品が世界輸出総額に占める比率で割ったものである。例えばある商品の輸出額が、我が国輸出総額の10%を占め、その商品の世界の輸出額が、世界の全商品輸出の20%を占めていたとすると、日本の特化係数は0.5となる。また特化係数は、個別商品についての日本の占拠率を、全商品についての日本の占拠率で割ったものに等しく、占拠率が平均を上回る商品の係数は1を超えることになる。この係数が1より大きい場合には、我が国の輸出構造が、諸外国に比べてこの商品に特化していると考えられる。我が国の輸出のうち、重化学工業品の割合は28年の33%から、33年には37%に高まったが、同じ期間に世界貿易の構造も重化学工業化の方向をたどっているので、日本の特化係数でみるとほとんど変化していない。
28年から33年への特化係数の変化を通じて、我が国がどのような商品に特化してきたかをみよう。
高級消費財の著増
商品別特化係数の動きに示された第一の特徴は、衣類、合板、旅行用具、雑貨など、世界需要の増加が著しく、しかも労力を多く必要とする軽工業品や、カメラ、ミシンなど耐久消費財的軽機械への特化傾向がますます高まっていることである。また、糸類や綿織物の特化係数が低下しているのに、毛織物、絹織物や衣類のそれが上昇していることにもうかがえるように、同じ軽工業品のなかでも、比較的加工度が高いものや高級品に特化する傾向もみられる。
耐久消費財的軽機械の輸出増加も著しい。主要工業国13ヵ国の耐久消費財的軽機械の輸出額は、25年から33年までに2.2倍に増えたが、日本の輸出はこの間に7倍に激増し、33年には世界全体の8%をしめるようになった。特化係数でみても1から3に上昇している。特に増加の著しいのはミシン、カメラなどで、世界輸出の4割近くを占めるに至っている。ラジオも、32年頃からのトランジスター・ラジオの驚異的進出を反映して、30年には0.3にも満たなかった特化係数が、33年には5を超えている。このほか、金額としてはいまだわずかであるが、テレビ、電蓄、電気冷蔵庫、電気洗濯機、真空掃除機などの輸出も2、3年来顕著な増勢をみせている。
重機械への進出
第二に、重機械類の輸出に上昇萌芽が認められる。従来我が国の重機械輸出は、船舶、トラック、バスなど、長年にわたって保護育成され、軍需などとの関連で国内需要が大きかったものや、鉄道車両、繊維機械のように早くから発達をとげた産業の商品が中心であった。また船舶の場合には、重工業品としては多くの労力が必要だという特殊な事情もあった。従って特化係数でみても、28年当時は船舶と鉄道車両が例外的に高かったほかは、原動力機、産業機械などは極めて低く、工作機械、乗用車、航空機などの輸出は皆無に近かった。しかし数年来、技術水準の向上や国内市場拡大などの結果、乗用車、工作機械なども競争力を高め、少額ながら輸出されるようになり、特化係数も極めて低水準ではあるが上昇傾向をみせている。
綿織物、金属からの後退
国際的特化の程度が低下したものとしては、主として後進国に向けられていた糸類、綿織物などのように、比較的製法が簡単で、しかも世界的に需要の停滞している商品や化学肥料、陶磁器、ガラス製品、自転車などがある。また多くの化学製品と金属についても特化係数が下がっている。化学品や金属は世界需要の増加が大きいものであるだけにこの傾向は注目される。
有利になつて輸出構造
第III-1-2図 は特化係数の変化と、世界需要の増加率とを、主要商品群について示したものであるが、ここにもみられるように、我が国は世界需要の伸びが大きい商品に特化する傾向を示している。その結果我が国の輸出商品構造は世界の需要動向に対する適合性を高めている。いま今後5年間に工業品の世界需要が28-33年と同じ動きをするものと仮定し、34年の商品構造をもとにして、各商品の輸出が世界需要の増加率と同じ割合だけ増えたとすれば、日本の工業製品輸出は今後5年間に55%増加するはずである。28年の商品構成をもとにして同様の計算をしてみると、輸出増加は45%に過ぎない。つまり、それだけ世界需要動向への適合性が強まったと考えることができる。
主要市場における輸出構造の変化
アメリカ-需要成長商品へ-
我が国の輸出を全体としてみると、上述のように世界需要の増加が著しい商品の輸出が特に大幅な伸びをみせるという傾向を示しているが、先進国市場と低開発国市場では、輸出の増え方、輸入需要の変化に対する適応の状態などに大きな相違がある。
アメリカの輸入需要の動きをみると、 第III-1-3図 のように、自動車、電気機械などの機械類と、衣類、合板・木製品、金属製品、雑品などの伸びが著しい。これに対して我が国の対米輸出は衣類、はきもの、合板・木製品、金属製品、などの特化係数が高く、しかも最近数年間にますますその傾向を深めているものが多い。また電気機械の特化係数も急激に上昇し、自動車にも進出し始めるなど、大体において需要増加の大きい商品へ特化する方向をたどり、したがつて対米輸出構造は、需要動向への適合性が高まっている。
東南アジア-需要停滞商品へ-
ところが、東南アジア市場についてみると、輸入が大幅に増加しているのは金属、肥料、鉄道車両、船舶などの重化学工業品で、軽工業品の輸入は伸び悩み、なかでも繊維品は減少さえしている。これは工業化を促進するため資本財の輸入を優遇し、外貨準備の不足などから消費財の輸入を制限している国が多いうえ、軽工業の発展に伴って綿布などの自給度が向上しているからである。一方、我が国の東南アジア向け輸出は、糸、綿織物、ゴム製品、金属製品、セメントなど需要の停滞的な軽工業の比率がますます高まる傾向を示し、需要増加の著しい金属、機械関係では、鉄道車両、船舶、自動車では特化係数が上がっているが、鉄鋼、アルミ、金属加工機械では低下している。
30年頃から我が国の東南アジアへの輸出増が比較的振わないのも、輸入需要の伸びそのものが他の地域に比べて低かっただけでなく、需要増加の大きい商品の増加が比較的小さかったという事情によるものと思われる。輸入総額に占める日本商品の比率は28年の7%から33年には10%へと高まったが、これは主として繊維品、ゴム製品、雑貨など、需要の停滞的な商品で、欧米諸国の製品を駆逐することによって達成された。これらの商品の占拠率が軒並みに40~50%に達したことを考えても、今後このようなかたちによる輸出伸長には多くを期待できず、重化学工業品の輸出を強化することが必要であろう。
主要工業国の特化傾向
世界貿易の構造変化に対して、我が国はおもに高級消費財など技術と労力を多く必要とする商品への特化傾向を高めながら輸出の急速な伸長を実現してきた。これを欧米主要工業国の輸出構造や国際的特化の推移と比較すると、我が国の特色が一段と明らかに示されるだけでなく、今後我が国の進むべき方向についても多くの示唆を与えられる。
我が国の輸出構造を欧米諸国に比べると、重化学工業品の比率が低い。工業製品輸出額に対する化学品、金属及び機械の割合を28年についてみると、アメリカ、イギリス、ドイツでは、60~70%に達し、イタリアも48%を示しているのに、日本は33%に過ぎない。しかしその後5年間の工業製品輸出の増加率では日本が141%で断然高く、西ドイツの112%、イタリア(97%)がこれに次イギリス、アメリカが最も低い。輸出の伸長には輸出構造高度化の程度だけでなく、世界需要の伸びが高い商品で競争力が強化されているかどうかが重要である。
28-33年の世界需要の伸びが特に著しかった商品について、日米英独伊5ヵ国の国際的特化傾向をみると、軽工業品ではアメリカ、イギリス、ドイツはほとんど全ての商品で後退しているのに対して、日本は合板、衣類、はきものなどを中心に、イタリアは家具、はきものを中心に、それぞれ特化傾向を強めている。アメリカの小型車輸入が激増したことを反映して、ヨーロッパ諸国はいずれも自動車への特化をすすめているし、金属も日本を除いて全般的に高くなっている。その他の重化学工業品では、国によって大きな相違があり、化学品ではアメリカが断然強く、電気機械では日本とドイツが、船舶では日本とイタリアの進出が目立つ。
つまり、成長的商品の輸出に関しても、各国経済の特色に応じた分業関係が形成され、日本とイタリアは豊富な労働力を生かして高級消費財、軽機械、船舶などに特化し、ドイツは重機械、アメリカは化学品に進出している。
輸出伸長の方向
最近数年間にみられた我が国の国際的特化の方向-高級消費財の著増、重機械輸出への進出、下級消費財からの後退-は、日本経済の成長と充実、世界需要の動向、および低開発国工業化の進捗が相互に関連し合ってもたらされたものであった。先進諸国では所得水準の上昇に伴って消費生活の高級化、多様化がすすみ、各種の高級消費財などの輸入需要が急速に増加している。一方日本経済も急速な成長を続け、技術水準も向上し、産業構造の高度化がすすみ、特に機械産業の発展は著しい。所得水準の上昇や欧米からのデモンストレーション効果などによって、消費者需要も多様化しはじめ、カメラ、テレビの目覚しい普及にもみられるように、耐久消費財の国内市場も拡大している。繊維品についても、細番手高級品への移行、既成服市場の充実など顕著な変化が認められる。
高級消費財の輸出は激増したのも、同種商品に対する国内市場の成長と、これを支えるだけの工業力と技術が存在したからであった。輸出を中心として伸びたトランジスター・ラジオ産業にしても、国内市場に依存していたラジオ産業が母胎となっていたし、優秀な製品がつくられたのも、産業構造の高度化、機械工業の発達となってはじめて可能であった。
これに対して、比較的単純な軽工業品への特化度が低下しているのは、香港、インドなどの綿製品輸出の増大にみられるように新興国からの競争にさらされている結果とみられ、低開発国工業化の進展に伴い、高度の技術を必要としない労働集約的商品については、我が国の比較優位性が次第に失われつつあることを示している。
従って、高い技術水準と豊富な労働力が併存するという特色をもつ我が国としては高級消費財や、高度の技術を必要とする労働集約商品(言い換えると高度加工商品)の輸出力を一層高め、当面の世界需要の動向に沿って輸出を伸長する努力が必要であろう。このような商品については、豊富な労働力を有する我が国は、完全雇用状態に達し、賃金コストの上昇傾向が問題となっている欧米工業国に比べて有利な立場にあり、また低開発国は高級品を生産するだけの技術水準を備えるに至っていないからである。
ただ、このような商品には、先進工業国の産業と競合関係にあるものが少なくないが、労働集約的商品の製造業には先進国では既に衰退過程に入っているものが多く、綿製品などの例にもみられるように、輸入制限の対象とされやすい。特に西ヨーロッパ諸国では貿易の自由化が進んでいるにもかかわらず、我が国からの輸入については依然として厳しい規制が行われている。
従って高級消費財の輸出を一層促進するには、市場調査を活用して需要動向を適確にとらえるとともに、いたずらに相手国の輸入制限運動を誘発しないよう、品質の向上、販売網の整備などによって秩序ある進出をはかることが望ましい。さらに、従来はおもにアメリカ市場が中心であつたが、将来は広大な西ヨーロッパ市場の開拓につとめ、我が国の貿易自由化を契機として、西ヨーロッパ諸国の日本商品に対する輸入制限の緩和をはかる方向に進むべきである。
それと同時に、長期的観点からすれば、重化学工業品の需要は先進国だけでなく、工業化の親展に伴って低開発国でも激増することが予想される。また我が国の労働力需給も次第に改善の方向をたどるとみられるので、いつまでも労働集約的商品に大きく依存する状態を続けるのは当をえたこととはいえない。従って、将来重化学工業品の国際市場へ一層の進出を可能にするため、産業構造の高度化をはかり、金属、機械工業の国際競争力の強化に努力を傾ける必要がある。特に東南アジアなど低開発国においては、経済開発の進展に伴って、資本財需要が高まり、一方これら諸国では外貨の不足に悩まされているため、輸入の増加は主として先進国からの援助、借款に依存することの大きい重化学工業品に向けられている。従って、我が国の輸出を伸ばすには、今後この分野に進出する必要に迫られている。一両年来欧米諸国の間に低開発国援助推進の気運が盛り上がっていることをも考慮すれば、我が国としても、重化学工業の競争力強化に努めるとともに、借款の供与、一次商品の安定的買入れなど経済協力を積極的にすすめることが望ましい。