昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


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昭和34年度の日本経済

金融

銀行資金繰りの変化とその要因

 景気上昇期の常として34年度の銀行の資金繰りは苦しくなった。銀行に資金不足が生じたのは銀行貸出が伸びたこともあるが、資金の流れの変化がそれをもたらした面も大きい。

現金需給の動き

 銀行資金繰りの繁閑は現金需給の変動に大きく影響される。現金需給が増加して預金が引き出されること、及び財政資金対民間収支における揚超は、ともに銀行の資金繰りを圧迫し、金融市場における需給を逼迫させる。このような関係から日銀券の増減と財政収支を現金需給要因とよび、そのバランスで金融の繁閑の度を測ることができる。

 34年度の現金需給は 第11-4表 にみるように日銀券増加と財政の払超がほぼ見合っていたことが特徴である。

第11-4表 現金需給バランス

 銀行券は34年度に1,203億円と近年に例をみない増発を示した。これは基本的には個人所得、消費の増加を反映するものであるが、33年末以降の1万円札発行の影響もあったと思われる。なお金融機関の手許現金は236億円増加し、そのうち198億円が銀行に属し、いずれも前年度を若干上回った。

 財政収支は外為会計で1,513億円と大幅な払超で、食管も米の豊作により払超であったが、一般財政の揚超により総合では1,333億円の払超にとどまった。一般財政は「財政」の項にみる通り、予算面では大幅払超を見込んでいたが、経済拡大に伴う税収や郵便貯金の増加率により揚超となったのである。

金融機関の資金繰り

 以上のように34年度の現金需給は、ほぼ中立であったが、前年度の大幅緩和に比べると引締りの方向にあった。その影響もあって銀行の資金繰りは苦しくなった。

 第11-3図 は銀行資金繰りの変化と日銀借入の変化を示したものであるが、全国銀行余裕金は景気の本格的上昇とともに前年同期比で急激にマイナスに転じていることがわかる。

第11-3図 銀行資金繰りの変化

 年度間の資金運用実績では 第11-5表 に示す通り、貸出と保有有価証券の増加額が13,118億円に達したのに対し、実勢預金、債券の増加は11,881億円にとどまり、差引1,237億円の貸出超過(有価証券を含む。以下本項で同様)となった。

第11-5表 銀行の資金運用

 33年度1,362億円に上る預金超過であったのに比べると、差引約2,600億円逆転したわけである。

 預貸金バランスを銀行別にみると、表にみるように貸出超過となったのは都市銀行だけで、貸出等では前年度増加額を2,130億円上回ったのに対し、預金増加額は前年度に及ばなかった。預金種類別にみると当座預金と定期預金の増加が前年を下回っている。当座預金の不振には貸出抑制の影響もあったと思われる。定期預金は無記名預金で大幅に減少した。法人定期の増加は高水準であったが、前年には及ばず、個人定期は前年をかなり上回ったが、無記名の減少を埋め合わせるに至らなかった。

 他方銀行以外の金融機関はいずれも貸出超過になっていない。貯蓄吸収の範囲内で貸出を行うという本来の性格上そうなっているともいえるが、預金超過の度合いはかなり大きかった。

 いま金融機関別の資金繰りと貸出増加状況を31年度の場合と、対比してみると、 第11-6表 のごとくである。これによると貸出超過が都市銀行で大きかったことは共通しているが、31年度にはそれが必ずしも都市銀行だけの問題ではなかった。一方貸出の伸びにおいては34年度の都市銀行は相対的に小さかったともみられる。これらのことを考え合わせると34年度における都市銀行の貸出超過の原因として、貸出面もさることながら、預金吸収面の要因も見逃せないと思われる。

第11-6表 金融機関別預金過不足と貸出増加状況

資金の流れの変化

 都市銀行と他の金融機関の間の資金吸収面での優劣差は、最近における資金の流れの趨勢的な変化に影響されて生じたものと思われる。

中小企業金融機関等の資金量増大

 その第一は財政資金、企業間信用などを通じて中小企業金融機関や農林金融機関の資金繰りが潤されていることである。

 財政面では公共事業費、交付金等の増加に伴って、一般に地方の資金受入が増え、財政投融資面でも中小企業への資金供給が増えるなど、直接間接に、中小企業金融機関の資金繰りにプラスにする要因が増加している。また「農業」の項にみるごとく、農家の貯金増加により、農協系統金融機関の資金量が増大している。

 そのうえ、大企業から中小企業に対して売掛信用の供与、貸付、投資などの形で資金供給が増えるとともに、下請代金の支払も概して良好となっているので、中小企業が相対的に潤沢な資金をもちうる面がでてきた。もとより一面で中小企業の投資意欲は強く、個人家計への売掛供与などの資金負担増加もあるから、資金需要はさかんであるが、以上の事情から、順調に資金量の増大を図りうる基盤ができてきたといえる。これも中小企業金融専門機関の資金的余裕を大ならしめた大きな要因であろう。

貯蓄形態の変化

 資金の流れの変化の第二は貯蓄形態の変化である。すなわち個人の貨幣的貯蓄のなかで、預貯金の割合は低下している。 第11-4図 にみるように個人貯蓄のうち預貯金は30年の67%から34年には58%まで下り、全国銀行だけをとると、34%から28%に低下した。これにひきかえ増加の著しいものは投資信託、社債などである。

第11-4図 個人の貨幣的貯蓄の構成

 このような貯蓄構成の変化のなかには、投資信託や株式所有のように、株式市況に応じて増減すると思われるものもあるが、基本的には個人所得の上昇に伴い、金融資産の蓄積も増え、貯蓄形態の多様化、利回り採算の重視の傾向が生じてきたことによるところが大きいと思われる。

 34年度についてみると、貸付信託は1,169億円、投資信託は1,375億円増加し、前年の増加額をそれぞれ61%、92%上回った。銀行の貯蓄性預金の伸びが鈍ったのに比べると、特に著しい増加だったといえる。このうち投資信託の個人応募分の比率は90%と高く、貸付信託では法人分の比重が増えたが、それでも個人分が56%を占めた。

 投資信託の伸びは株式市場の活況に促されたものであるが、同時に市況の盛況を支える有力な要因となった。東京証券取引所の一日平均売買高は32年の3倍、33年の2倍に達した。これによって増資も進み、有償、無償合計で3,590億円と33年度の約2倍、これまでの最高であった31年度に比べても27%の増加となった。

 事業債、金融債も、合計で前年度比36%増の3,324億円の純増となった。最もこのうち個人消化が進んだのは、割引金融債においてであって、事業債でも個人消化が若干増えてはいるが、利付金融債とともにその消化は主として金融機関に頼っている。

 以上のような資金の流れの変化は、銀行の資金の伸びに影響を与えたものと考えられる。


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