昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


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昭和34年度の日本経済

金融

 昭和34年度の金融は、一方において経済の急速な拡大に必要とされる資金を供給し、他方では経済の均衡が破壊されないよう、景気調整の役目に当たった。 この二つを両立させることは決して容易ではない。例えば31年度の金融がついに投資の急増を抑えきれず、その結果金融自体のバランスをも大きく崩す結果になったことは記憶に新しい。

 それにひきかえ34年度の金融は、与えられた二つの役割をうまく果たすことができたといえよう。34年度の金融の動きの中から、それを可能にした諸条件を明らかにしていこう。

産業資金供給の増加と資金需要の内容

産業資金供給の増加とその構成

 昭和34年度の産業資金供給の純増は、外部資金で2兆2,768億円と前年度(1兆7,169億円)比33%の増加であった。増加率では31年度(122%増)の3割にとどまり、国民総生産の伸びに比べて小さかったといえる。なお内部資金の調達は1兆2,500億円前後、前年度比約6割増であった。

 34年度の産業資金外部供給を使途別にみると、設備資金1兆531億円、運転資金1兆2,237億円で、それぞれ46%、54%を占め、対前年度比増加率は設備36%、運転30%であった。

設備資金における都市銀行の比重低下

 設備資金供給総額は趨勢的に増加を続け、34年度においても特に大きな変動はなかったが、内容的にみると二つの特徴が認められる。第一は電力、石炭等の基礎産業の伸びが小さく、一般産業で増加したこと、第二は市中銀行の設備資金貸出の増加が小幅だったことである。

 まず業種別調達実績を開銀調査によってみると 第11-1表 に示すように海運、ホ炭は前年度を下回り、電力もほぼ横ばいであったが、製造業ではおおむね前年度を4~50%上回る増加がみられ、なかでも成長業種に属する機械、化学、鉄鋼の伸びが著しい。

第11-1表 産業設備資金調達実績

 次に設備資金外部供給の源泉別構成をみると、 第11-2表 に示すように、株式、社債の比重が増え、貸出の比重は前年度より低下した。特に都市銀行の低下が著しいが、これには電力業での銀行借入返済がかなり大幅なうえ、一般産業でも31、32年当時の借入の返済がみられたことも影響していると思われる。

第11-2表 産業設備資金外部供給(純増)の構成

 それにしても34年度のような景気上昇の局面では、一般産業の設備投資が伸び、これらの産業では概して市銀依存度が高いことから、その設備貸出増加が大幅になるのがこれまでの例であった。

 前回上昇時の31年度には、都市銀行の比重は30年度の3.4%から10.4%にふえ、信託の8.9%、生保の1.8%などより高くなった。

 しかるに今回、都市銀行の設備資金貸出が伸びなかったのはなぜであろうか。まず設備投資の業種構成において、31年度当時に比べ、鉄鋼、機械等、もともと市銀依存度の低い産業の比重が増えて、化学、窯業、繊維等、市銀依存度の従来高かった業種は横ばいないし低下傾向にある。しかもこれら業種においても、生保、信託、株式、社債からの調達比率がかなり増大し、銀行への依存度が4~50%台より20%台に落ち込んでいる。

 このことを企業側からみれば、長期信用機関に大きな資金供給力があり、また増資を行いやすい環境のあったことが、市銀依存をしないですまし得た理由であろう。

 他面企業の資金調達態度にも、長期安定資金を優先させる傾向がみられる。すなわち企業の資金運用面をみると、できるだけ長期安定資金の調達を増やし、短期資金の設備流用を抑制しようとする動きが強く、特に鉄鋼等ではかなりの内部資金が運転資金にまわされている。

 社債発行意欲が強かったのもこのためで、34年度には社債発行額が著増したが(前年度比57%増)、それでも、毎月の発行希望に対し、借換債で80%、新規債で40%を程度を充足したに過ぎない。

銀行貸出と運転資金増加の特徴

銀行貸出の特徴

 34年度の全国銀行貸出は1兆476億円、当座貸越を除き1兆429億円の増加であった。銀行別にみると、都市銀行が前年度増加額を37%上回る5,560億円(当座貸越を除く、以下本節では同様)、地方銀行は23%増2,990億円と大きく、長期信用銀行は1,535億円と4%増にとどまった。貸出増の中心は景気上昇に伴う運転資金の増加で、設備資金は前項にみたごとく落ち着いていた。

 全国銀行の運転資金は年度間8,419億円の増加で、前年度のそれを1,947億円上回った。この1,947億円がどこに向けられたか(寄与率)をみると、それが比較的少数の成長産業と、卸売業特に貿易業に集中したことが特徴的である。

 すなわち、貿易業は69.0%の大きな比重を占め、製造業のうちでは電気機械(16.1%)、肥料を除く化学(8.9%)、機械(8.8%)、自動車(7.7%)、化合繊(9.1%)、造船(8.9%)等が目立つ。その反面において注目されるのは、紡績、化学肥料、鉄鋼、石炭、海運などが軒並み前年を下回ったことである。( 第11-3表 参照)。前回の景気上昇期である31年度に各業種が歩調をそろえて伸びたのと比べると、業種間の較差は著しく大きくなった。

第11-3表 全国銀行運転資金貸出の伸び

 貸出が特に成長業種に集中したのは次のような要因もある。耐久消費財、自動車等の場合は、売り手側で代金回収までの資金を負担する必要があった。機械の場合には、31年のように前受金が多く手に入らなかった。また商社貸出の増加は主として取引増大によるものだが、系列強化のための資金もあり、メーカーの負担を減ずる上に果たした役割は31年当時以上であった。

 いずれにせよ34年度の貸出は好況期にふさわしく、販売増加に伴う運転資金の供給を主体としていたので、貸出増加額に占める割引手形の比重は、44%と31年度(32%)を上回っている。

 最も化繊に関しては製品在庫増の影響があり、造船に対しては、受注減による前受金の減少を埋めるなど、やや固定貸し的なものもあったが、これらは大勢を制するものではない。

自動車、電器の販売資金

 銀行貸出増加に大きな地位を占めた自動車、家庭電器等への貸出について、もう少し説明しよう。

 これらは本来販売代金回収に長期間を要し、しかもその間の資金負担の多くが、メーカー(ないしは販売総代理店)に集中することから、販売増加に伴って必然的にメーカー等の資金需要が増加する。すなわち自動車の回収期間は通常1年以上で、ユーザー振出の月賦手形がディーラーを通じて、メーカーないし総販売店に集中し、これを担保とする借入が行われる。メーカーの商手担保借入の動きをみると、 第11-1図 のように、製造業全体への銀行貸出より速いテンポで伸びている。ただ生産台数の伸びよりは低いが、これは34年度の回収条件が輸出、特需などの関係でよかったことと、販売店の資金負担分もあることによる。

第11-1図 自動車5社販売資金推移

 家庭電器の月賦販売は、月賦会社によるものと、小売店の自己月賦とに分かれるが、代金回収の猶予による資金負担は大半メーカーに集中する。回収期間は自動車より短いが、メーカーの資金負担は、家庭電器の売上の伸びに伴って急増している。ただ34年度は自動車と同じく、回収は概して良好だったから、売上増以上に資金負担が増えたわけではない。

商社貸出増加の性格

 商社向け貸出が増加したのは次のような要因による。第一は国内取引における売掛超過の負担、手持ち在庫の増加であり、第二は貿易面における輸入決済ないしハネ返り資金の負担である。銀行の輸入決済資金貸はユーザンス適用品目の拡大によって、年度間122億円減少したが、ハネ返り資金の負担はかなり大きかったとみられる。

 この他、系列企業への投資、貸付などもさかんに行われ、これも借入増加の原因となった。

 第11-2図 によって以上の諸要因の動きをみるに、投資勘定の伸びが一番大きく、貿易関係を含む売掛債権がこれに次いでいる。これらはいずれも国内の他企業に対する資金供給にほかならず、製造業での資金需要の伸びを少なからしめる要因となった。

第11-2図 商社財務指標の伸び

中小企業向け融資の特徴

 全国銀行の中小企業向け貸出は、金融の繁閑によって循環的に増減するのが例であるが、34年度には、金融の引締りに応じて抑えられた。すなわち34年度のそれは3,434億円と、前年度(3,045億円)を上回ったが、総貸出に占める比重は前年度の37%から33%に低下した。上期が37%で下期には30%減ったのである。ただし31年度の上期42%、下期30%に比べると、引締り方は少ないといえよう。これは34年度の金融が31年度ほど逼迫に向かわなかったことを示している。

 他方中小企業専門金融機関の貸出が伸びたことも注目される。貸出増加額は前年度比41%増の3,677億円(商工中金調べ)で、31年度の約2倍となった。銀行の中小企業向け貸出は31年度を下回っているため、両者の関係は、31年度当時銀行2対専門機関1であったものが、34年度には1対1になっている。これは、相互銀行、信用金庫等が最近独自の取引先を確保し、その成長によって、預金も貸出も順調に伸びたからである。


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