昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


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昭和34年度の日本経済

財政

当初予算の性格

 34年度予算の編成は、32年5月の引締施策の展開以来の経済の調整過程が終わりを告げ、そろそろ上昇過程にかかるという段階において行われた。国際収支は、依然黒字を続け、世界景気も、次第に明るさを取り戻していた。しかし、当時は、我が国経済の景気回復力に懸念を持つむきも多く、今日のようなめざましい成長を予想するものは少なかった。

 このような情勢を背景に、34年度予算は、健全財政の建て前を貫きながら、その適度の働きによって、実質5.5%と見込まれた国民経済の安定成長を助け、産業基盤の整備等により経済の体質改善を図ることを目的として編成された。それは、規模の引き続く拡大、経済基盤強化資金等の使用、産業基盤の整備と国民年金制度の創設に主な特徴をもっている。

財政規模の拡大

 34年度予算の第一の特色は、財政規模の拡大である。すなわち、一般会計歳出は、当初予算で1兆4,192億円と、前年度に比し1,071億円(8.2%)の増加となった。経済基盤強化資金を除いた額でみると、 第10-1表 のごとく、1,507億円(11.9%)の大幅な増加となっている。一方、財政投融資計画も、当初計画で5,198億円と前年度に比し、1,203億円(30.1%)の近年にない増加を示している。最も、このうちには、開銀、輸銀、国鉄等の自己資金の不足を補填するため、財政投融資の増加を余儀なくしているものが600億円近くあり、実質的な増加は、600億円程度である。

第10-1表 財政規模の推移

 地方財政計画も、1兆3,341億円と対前年度比1,018億円(8.3%)増で、国と並んで大幅な増加をみせている。

経済基盤強化資金の使用

 規模の増大が可能であったのは、景気好転に伴う財政収入の増加に加えて、経済基盤強化資金や繰越原資等の使用並びに民間資金の活用などが、はかられたためであった。このように経済基盤強化資金などを使用することができたのが、34年度予算の第二の特色をなしている。

 すなわち、一般会計では、33年度に保留した経済基盤強化資金221億円の使用を予定しており、前年度剰余金受入も、805億円と、33年度に次ぐ多額となっている。租税及び印紙収入は、953億円の増加を見込んだ。

 一方、財政投融資計画では、財政資金の増加は738億円で、うち579億円は、経済基盤強化資金とともに各種基金に留保した資金(東南アジア開発協力基金50億円を除く)や過去からの繰越原資等である。また、公募債、借入金も、465億円増加して、888億円となり、32年度に次ぐ多額となっている。

 なお地方財政では、101億円の地方税の減税後も、304億円の税収増加を見込み、1%引き上げられて28.5%とされた地方交付税の増加とあわせて、財政規模増加の54%を占めることとなっている。

重点施策の方向

 このように増大した34年度予算は、何を指向しているであろうか。

 まず、一般会計歳出の重要経費別増加状況をみると、 第10-2表 のように、公共事業関係費及び社会保障関係費の増加が総増加額の65%を占めている。地方交付税交付金、文教関係費などの増加も大きい。

第10-2表 一般会計重要経費増加額及び率

 財政投融資計画においても、 第10-3表 のように、交通通信などの産業基盤への投資と輸出振興のための資金供給の増加が目立っている。ここ数年、財政投融資計画は、経済の発展に取り残された面の是正という方向に、資金配分の重点を移す傾向を明らかにして来たが、34年度は、交通通信及び住宅建設の構成比が32%、農林水産及び中小企業の構成比が20%と、それぞれ比重を高め、この傾向を一層強めている。

第10-3表 財政投融資計画使途別推移

 さらに、地方財政計画をみても、投資的経費は、公共事業費を中心に488億円の増加を示し、額としては、消費的経費の増加に及ばないが、率では、15%とめざましい伸長を示している。

 このように、34年度予算は、国、地方を通じて、産業基盤の整備と社会保障の充実に力を注いでおり、これが第三の特色をなしている。

税制改正

 34年度には、以上のような財政支出とならんで、国、地方を通じ、平年度717億円に上る減税が実行された。

 すなわち、国においては所得税の扶養控除の引上げ及び税率の緩和を中心に、 第10-4表 のように平年度488億円の減税が行われ、また、地方においても、事業税の軽減を中心に平年度229億円の減税が行われた。

第10-4表 昭和34年度税制改正による増減収額


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