昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

昭和34年度の日本経済

交通・通信

国内輸送

概況

貨物輸送

 昭和34年度の貨物輸送は、鉱工業生産が高水準を維持したうえ、農産物の豊作も加わって、工業原材料、工業製品、農作物を中心として各輸送機関とも大きな伸びを示し、国内輸送各機関の輸送量の総計は、1170億トンキロに達し、前年度を19%上回った。このような大幅な上昇については、国鉄、トラックの対前年比10%、17%の増加もさることながら、トンキロにおいて国内総輸送量の半ばに近い比重を有する内航海運の輸送量の増加がとりわけ顕著であったことが大きくあずかっている。内航海運は、石炭を主要輸送品としているため、33年度の輸送量は、石炭の輸送量の減少の影響を強く受けて低迷したが、34年度は石炭輸送量の増加に加えて、鉄鉱石、鉄鋼、石油製品等の工業原材料、工業製品の輸送量の増加も加わって、対前年比31%増を記録した。

第9-1図 機関別貨物輸送量指数

 年度内の推移をたどれば、農産物をはじめとする季節的出荷物資の集中する10~12月期においては、伊勢湾台風による輸送障害の影響もあって、一部物資には送り不足を生じた。このため、1~3月期も前期からの持ち越しと尻上がりの好況に支えられて、年度後半の輸送需要は極めて旺盛であった。例を国鉄にとると、年度後半の平均沿線在貨トン数は、前回の景気上昇期にあたる31年度に比較すればかなり低いとはいうものの相当の量にのぼっている( 第9-2図 )。特に国鉄輸送に対する依存度の高い農産物を主要出荷とする東北地方、石灰石セメントを主要出荷とする北陸地方は需要の増加により、かなりの逼迫を生じた。このため国鉄では、年度末に2,705両の貨車を緊急投入したほか、輸送力不足線区に即効的な重点工事を行う等の措置を講じたが、なお、需要に追いつくことができず、一部では輸送機関の転換も行われるに至った。

第9-2図 国鉄における沿線在貨の推移

旅客輸送

 34年度の旅客輸送需要は好況による雇用者の増加、個人消費の堅調等の影響を受けて各輸送機関とも顕著な増加傾向をたどった。

 これを内容的にみると、経済活動の活発化を反映した商用旅行の増加もさることながら、旅行意欲の普及浸透によりレクリエーションのための旅行が次第に普遍化する傾向が伺われる。例えば国鉄の周遊乗車券発売枚数が対前年139%と大きく伸び、観光バス利用者も増勢をたどっていることは、この傾向をものがたっている。また、消費水準の向上に伴って旅行が次第に質的に向上してきており、国鉄における特急・急行列車利用者、さらに航空機、自家用自動車の利用者がそれぞれ125%、138%、137%と増加しているのも最近の特長である。

 一方、通勤通学輸送については非農林就業者数の増加、都市への人口集中などにより利用者数の増加は依然として著しい。例を国鉄中央線にとってみるとこれと並行する地下鉄丸の内線の新宿までの開通により幾分増加傾向は鈍ったものの輸送人員は逐増している。都市の通勤・通学人口の増加傾向が現在のまま推移するとすれば、今後一層の都市交通施設の整備が必要とされるが、これには最近の東京の地下鉄の建設費が一キロメートル当たり20億円をこえるという例によって明らかなごとく、膨大な資金が必要である。一方、最近において東京をはじめとして各都市において、利子負担、減価償却費の増大を理由として地下鉄運賃の値上げが行われたことは個々の企業が、その旧来の既設線の収益によって新線の建設を行うという方式にも限界があることを物語るものであり、これらの問題をも含めて総合的な都市交通対策の樹立が急がれる。

第9-1表 国内旅客輸送実績

交通投資の増加とその効果

 前回の景気上昇期にあたる昭和31年度において鉄道、道路、港湾等の能力不足が経済成長を阻害する要因となったので、その増強のための投資が緊急の問題として取り上げられるに至った。これら交通投資の内容とその効果を概観してみよう。

国鉄

 31年度に国鉄は全国的な輸送逼迫をきたしたが、この原因は線路、操車場等輸送基礎施設に対する慢性的な投資不足とこれを補う施設の高能率使用が限界にきたことによるもので、根本的な対策を講ずる必要に迫られた。このため、32年度を初年度とする国鉄5カ年計画が発足することとなったが、この計画は、老朽資産を取り替え、輸送力増強と近代化を達成するため32年度から36年度までに総額5,986億円に及ぶ投資を行うこととなっている。

 これによって32年度から34年度までに 第9-2表 に示すように2,991億円の投資が行われ、そのうち、特に、輸送力不足が目立った東北、北陸両線には輸送力増強に即効的効果を示す電化、線路増設等の工事が重点的に実施され、幹線輸送、幹線電化投資額全体の約45%にあたる289億円が投資された。また横ばいを続けてきた国鉄資産額も漸増した( 第9-3図 )。この結果34年度は31年度の実績を5.6%上回る18,260万トンの貨物輸送実績をあげたうえ、年平均在貨トン数では景気後退の影響を強く受けた33年度を除いて31年度以降最低の水準となり、31年度に比しかなり輸送力が増強されたことを物語っている。また重点投資の行われた東北、北陸両線については284キロが新たに電化され、線路増設も110キロが完成し、両線の輸送力が増強されたため東北・北陸両地方の貨物輸送量も増大した。

第9-2表 国鉄5カ年計画目的別投資額

第9-3図 国鉄の資産及び換算車両キロ推移

 以上のような投資が行われたにもかかわらず、東北・北陸地方は依然輸送逼迫の声が強く、全国的にみても沿線在貨は依然として高水準にあり、再び輸送の行き詰まりの傾向が伺われ、特ノ東海道線等主要幹線の輸送力不足が目立ってきている。これは国鉄の輸送力増強投資がまだ十分でないことを物語っている。例えば国鉄5カ年計画についてみても、新線建設、老朽資産の取り替えが計画通り進捗したに過ぎず、幹線の輸送力増強などについては、景気後退の影響を受けた33年度の事業収入減少、金融引締めによる投資繰り延べ、さらには国鉄の人件費、利子の負担増によるしわ寄せ等の原因で立ち遅れを示し、計画との間にずれが出てきている。今後の投資については次第に行き詰まりつつある東海道線の輸送力増強のため着工された東海道幹線計画の問題も含めて総合的な計画の樹立が必要である。

道路

 昭和28年頃までの過去20年間にわたる慢性的な投資不足により、道路資産額はほとんど横這い状態を続けた。一方、道路輸送は急速な増加を示したため、道路は経済成長を阻害する隘路部門の一つとなった。このため、29年度に旧道路整備5カ年計画を策定し、さらに33年度にはこれを拡大強化した現行道路整備5カ年計画が確立された。この結果、29年度を境として道路事業費は年々拡大の一途をたどった。31年度以降の投資額をみると、31年度741億円、32年度1,055億円、33年度1,247億円であり、34年度は1,642億円と31年度の約2.2倍に及ぶ急激な増加を示している。その内容は、1級国道を中心とする都道府県道以上の幹線道路の整備--路線のつけ替え、線形の改善、道路の拡幅及び路面の舗装等--に重点がおかれ、大幅な進展をみた( 第9-4図 )。すなわち、33、34年度に約3300キロメートルの改良と2900キロメートルの舗装が行われた。これは1年間に、東京-鹿児島間に相当する延長を上回る改良工事とおおむね、東京-鹿児島間に相当する延長の舗装工事が行われたことになる。

第9-4図 道路整備状況

 このような道路整備の進展は、道路交通の機能を大幅に高めたものといえよう。例えば、現行一級国道1号線は横浜市内を通過しているため、横浜市を通過する自動車は、この1号線を利用するほかはなかった。しかるに、横浜新道の完成はこの通過交通を避けることができ、高速かつ安全な交通が確保され、市内の交通混雑が大幅に緩和されたばかりでなく、各車種平均して30分以上の時間と20円以上の走行費の節約が可能となったほか、交通容量も倍加するなど多くの効果が生まれている。

 しかしながら、輸送需要は既にふれたように年々増加の傾向にあり、とりわけ道路輸送の増加は著しい。すなわち、25年度から33年度にかけての貨物輸送量の年平均伸び率は5.6%であるのに対し、自動車輸送は16%と、旅客輸送量の年平均伸び率は7.9%であるのに対し、自動車輸送は29.1%と旅客、貨物ともに高い上昇を示ししている。また、これを反映して、自動車保有台数も34年度末において31年度末の約1.5倍と急激な増加を示している。従って、道路投資の順調な伸びにもかかわらず、自動車一台当たりの道路資産額はさらに低下の傾向にある。この現象は、輸送需要の実績が道路整備5カ年計画策定当時予想された輸送需要の伸びをはるかに上回ったことによるものと思われる。また、今なお自動車交通に適しない昔ながらの未改良砂利道が大部分を占めており、欧米先進国に比べ著しい立ち遅れを示していることなどを考え合わせるとき、道路においてもまた今後に多くの問題が残されているといえる。

第9-5図 道路資産額、自動車保有台数、道路原単位の推移

港湾

 港湾貨物取扱量は、昭和31年以降著しく伸びており、26年から30年までの伸び率35%に比べ、30年から34年は58%となっている。特に34年には前回の好況時32年の3億2千万トンの18%増の3億8千万トンに達したものと推定されている。このような港湾貨物取扱量の増大と世界的趨勢である油槽船や各種専用船を中心とする船舶の大型化は、経済の成長、生産活動の円滑な発展のための基本的要件として、荷役能率の向上、荷役費の節減のために港湾施設の整備、近代化の必要性を一層強めている。

 33年度から実施された港湾整備5カ年計画は、貿易の拡大に対処して主要6大港湾(横浜、神戸、名古屋、東京、大阪、関門)に機械化された高能率の輸出専門埠頭を建設するとともに、産業構造の高度化に伴って増大している石油、鉄鋼原材料の輸入港を大型専用船の入港が可能となるよう水深を深くすること、海上輸送の中で依然として大きな比重を占める石炭輸送における荷役を能率化し、輸送費を低減させるため石炭港湾を整備することなどを重点的にとりあげている。さらに34年度からは「特定港湾施設工事特別会計」が設置されて、輸出専門埠頭、石油、石炭、鉄鋼港湾の整備が行われることになった。

 かくして31年度から34年度までに634億円の港湾投資が行われ、このうち34年度には241億円が投資された。しかし港湾投資はその性格が長期投資の比重が高いため、投資が直ちに、港湾資産としてその効果を生じないので、 第9-6図 に示すように貨物取扱量の伸びに比べ港湾資産の伸びが下回っている。このことは貨物取扱量トン当たりの港湾資産の額が26年から30年までは、1,000円台で推移していたものが、31年から急速に低下し、34年には730円と31年の840円に比べ13%低下していることによって示される。また外国貿易貨物取扱量100万トン当たりの大型船用バース数(係留埠頭)は33年には横浜は3.4バース、神戸は5.5バースで、ニューヨークの11.8バース、ロンドンの13.8バース、ハンブルクの11.9バースに比べその不足が著しい。

第9-6図 港湾資産及び貨物取扱量推移

 とはいうものの6大港を中心とする港湾施設の整備拡充、近代化はその実をあげてきている。34年の6大港の接岸荷役の割合は60%で、貨物取扱量の少なかった前年より2%低下したが、31年の56%に比べれば4%がた向上している。荷役の機械化による荷役能率の向上は著しく、汽船の船内荷役における労務者一人、8時間当たりの平均荷扱高は34年は13.1トンで31年の11.5トンより14%向上している。

 以上のように鉄道、道路、港湾に対する能力の増強と近代化のための投資によって、34年度は31年度にみられたような輸送力隘路化の現象はひとまず避けることができた。しかし輸送施設の整備拡充、近代化のテンポは、経済発展の高いテンポに比べいまだ立ち遅れを示しており、現在進行中の各5カ年計画も再検討の必要に迫られている。今後の経済の安定成長、国際競争力の強化のため、社会的資本としての輸送施設の整備拡充、近代化の推進は大きな課題である。


[次節] [目次] [年次リスト]