昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


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昭和34年度の日本経済

林業・水産業

林業

林産物の需給

用材

 昭和34年度の用材需要は産業界の活況を反映して対前年度比9.9%と大幅な伸長を示し、31年度に次ぐ増加率をみせた。この増加の主因はパルプ用材の飛躍的増加と建築用材の増高によるものである。パルプ材消費は33年7月を底として、上昇に転じ、本年度に入って引き続き増勢を持続し前年度に比し28%増と消費量の最も多かった32年度をも200万立方メートル上回る伸びを示した。また、これを内容的にみれば、パルプ原木価格の騰勢に対処してとられた広葉樹及び屑材の利用が著増し4728千立方メートルとパルプ材総需要量の43.2%に達したことが注目される。次に、建築用材についてみれば、逐年低下の傾向にある木造率は本年度もさらに6.3%低下し、他面製材歩留まりも12月対比において3%上昇をみるなど消費減少の要因もあった。

 しかし鉱工業用建築の伸びを筆頭とした着工面積の増加が顕著であったため、31年度をピークとして減少傾向にあった建築用材の需要は31年度の数量を7.2%更新し、前年度に対しては9.5%の増加となった。こうした建築及びパルプ用材の消費増大に対し坑木の消費量は引き続く石炭産業の不況の影響を受けて対年度比5.6%の減少となった。

 このような需要の部門別構成比率をみると 第8-2表 の通り31年度以降20%台を徐々に上昇して来たパルプ材は本年度に至り一躍23.8%と上昇し、用材の消費原材料としての比重を急増する結果となった。

第8-2表 用材需要構成比

 次にこれら需要に対する供給は国内生産が6月を唯一の例外として各月前年度を上回り5.3%の伸び率を示し、過去の最高生産量を示した32年度に対しても2.8%の上昇となった。これは旺盛な需要を背景に好天に恵まれたことが主因ではあるが、また中部日本を中心とした490万立方メートルに達する台風被害木が年度末に出回ったことも見逃すことができない。しかし需要の増加に比べると国内生産の伸びは低く、この差は輸入材の増加を招いた。輸入材は総額570万立方メートルに達し前年度に比して37.1%と著しい増加を示した。

第8-1表 用材需給

木炭

 木炭の需要量は前年度に比して12.3%減少したのに対し生産量減少は13.8%とさらにこれを上回り特に上半期において低調を極めた。下半期に入るに及び生産はようやく上向きをみせたが前年度の水準には達せず在荷は前年度の47.5%と著減をみせた。

 このような木炭生産量の著減は基本的には需要減退などによる低収益性に起因するものであるが、特に本年度は経済の好況、災害復旧等によって木炭生産者が他の就業機会に恵まれたことも影響したものと考えられる。

林産物価格

 32年6月以降下げ歩調にあった素材価格は34年6月を底として上昇に転じ、特に9月から10月にかけては伊勢湾台風の影響もあってその上昇は著しかったが、年度水準では前年度に比して1.1%の上昇に止まり一般物価の伸び率を下回った。また、このような素材価格の伸び率に対し木材総合の価格指数は前年度に比して2.8%の上昇を示し従来の原木高、製品安の趨勢を訂正したことは注目される。なお、素材価格が1月以降2月まで横ばい3月に入り低落して例年と異なった季節変動を示したことは、台風の復興材需要と年度末の風倒木の出回りとを反映したものと見られる。

 次に、銘柄別価格で特に注目すべきはラワン材の対前年度比24%に及ぶ異状な高騰である。フィリピンにおける生産条件の悪化は生産費の増高を招来し、さらに貿易の自由化に伴う日本側商社の買付競争はこれに拍車を加える結果となり下半期の急騰をみた。

 その他では杉小丸太が製材歩留まり率の有利性から対前年度比4.5%上昇したのが目立っている。木炭は前年度の安値を持ち直して3%高を示した。

第8-1図 素材価格指数

木材貿易

 本年度の木材貿易規模は前年に引き続き大幅な拡大をみた。

 まず、輸出についてみると数量的には合板及び吋材が大幅な増加をみせた一方枕木及び針葉樹製材等の減少があって輸出総量においては8.4%の増加に止まった。しかし加工度の高くかつ輸出数量の49%を占める合板の単価がそれぞれ前年度より11.7%上昇を示したこと等により、金額では399億円と対前年比26.8%の伸びをみせた。

 木材輸出では、米国を主な輸出先とした合板が重要な位置を占めているが、最近の米国輸出市場におけるフィリピン製品の進出がみられる一方米国の合板輸入制限運動は依然として根強いものがあり、これらの動向は今後の木材貿易を左右するものとして注目される。

 次に輸入についてみればラワン材の増加を筆頭にソ連材、米材共にそれぞれ61%及び47%と大幅な伸びを示し数量において37.1%の飛躍的増加をみた。これがため貯木施設の狭隘を来たし年度末には輸入の自主的規制を行わざるを得ない状態となり今後に新しい問題を提起した。

 輸入単価も通関平均でラワン材の13.4%、及び米材の13.5%とそれぞれ値上がりをみたため輸入総額においては、485億円と対前年度比52.7%の伸び率を示し、この結果木材貿易収支は86億円の入超となった。

 本年度の木材需要は技術革新及び代替品の進出をみつつも経済規模の拡大と共に飛躍的増加を示したが、それにもかかわらず安定した価格において需要充足が行われ需給は平静を保ったということができよう。

 しかしながら、この供給を内容的にみると、需要増加の約50%は外材の増加と低質材の利用とによりまかなわれたものであり、また国内生産材の供給も蓄積の過伐という問題を内包しているということに注目しなければならない。

 外材の輸入は、主輸入源たるフィリピンの生産条件の悪化と同国合板工業化政策の顕現化とにより今後その多くを期待することが困難となり、低質材の利用も本年度水準の急増は望めない点を勘案すれば、今後国内生産材に対する需要圧力は益々強まることが予想される。

 こうした趨勢に対処し目下林業基本問題の一つとしてこれに対する対策の検討が行われているところであるが、広範な未利用資源の存在と用材生産の非弾力性に注目するとき、わけても利用可能な資源を現実の供給たらしめる諸条件の検討が重要な課題となろう。


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