昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
昭和34年度の日本経済
農業
農村人口の離村と兼業化の進展
農村人口の離村
34年度は鉱工業生産が急速な拡大を示し、雇用の増加も著しく、これにつれて農村人口の都市産業への吸収も、近年になく強いものがあった。以下農林省「農林漁家就業動向調査」によって農村人口の動態を検討しよう。年度間の農村総人口は、増加118万人、減少163万人で差引45万人の減少となった。この間の人口の自然増加は16万人数えられるので、34年度中の純増減は約61万人の流出超過である。これは33年度中の流出超過数を約5万人上回っており、総農村人口に対しては1.7%に当る。さらに職業的移動に限ってみると、出稼を除いた就職的離村は40万人、離職により帰村したもの10万人、差引30万人が他産業に職を求めて「むら」を離れた人口である。
年雇を除いた就職による離村者は前年度に比して2.8万人、7.3%の増加である。( 第7-2表 )労働省「毎月勤労統計」による雇用者の対前年増加が8.8%であるに比すと、農村からの就職離村は少ないように思える。しかし農家に在宅のままで他産業に就業した者、すなわち新規兼業従事者は後述するように極めて大幅な増加(前年度比59%増)を示しており、流出者と在宅者と合わせた他産業就業者は21%の増加となる。だから好況の持続による第二、第三次産業での雇用の増加は、農村人口の都市産業への吸引に大きく寄与はしたが、農村人口流出を促進する以上に、農家の兼業化を進展させたということができる。
本年度の就職による離村のその他の特徴点を列記すると、次のごとくである。
第一に時期別にみると上期の増加はわずかで、下期の増加が大きく、特に35年度入職期である3月の増加は非常に大幅である。
第二に年齢別には19歳以下の若年者よりも20歳以上の青年層の流出の増加が目立っている。絶対数においては19歳以下が7割を占め、農村からの流出の主体が、新規学卒者を中心とした若年者であることには本年も変わりがないが、しかし20歳以上の増加率が非常に大きいという点は重要である。
すなわち都市産業における労働力需要の増加があっても、農村からの新規学卒者を中心とした若年者の供給には限度があるため、それより若干年齢の高い層の流出が増加するという結果になったのである。これは好況の持続によって従来の若年者を中心とした雇用吸収から、青年層にまで拡がり始めたともみられ、今後の動きが注目される。
第三に流出者の農家での位置をみると、二、三男その他の比重が9割近くを占めて圧倒的であり、経営主、「あととり」は1割強に過ぎないが、その増加率は経営主、「あととり」が10%と非常に大きい。最近農家の「あととり」の離村傾向が強まっているが、本年もこの傾向が持続されている。
第四に流出者の就職先をみると、製造業特に機械、金属、繊維産業での増加が著しく、逆に農村からの流出先として従来大きな比重を占めていた卸、小売、サービス業ではわずかではあるが減少している。( 第7-2図 )これは本年度の好況の性格を反映したものであり、農村からの流出者が好況下でより安定的な就業先を得たと考えることができよう。
兼業化の進展
好況の持続による労働力需要の増大が、農村人口の流出を促進する以上に兼業化を進めたことについては、既に述べたが 第7-3表 にみるように、本年度新たに兼業に従事したものの数は23万人で、前年度より8.6万人、59%の増加である。年齢別にみると男女共20歳以上での増加が大きく、前年度の2倍近くにもなっている。農家での地位別では「あととり」の増加が大きい。兼業化の進展は最近の農業の特徴的な現象であるが本年度は他産業での労働力需要の増加がそれを一層促進したのである。
兼業化進展の基本的要因については第三部「農業高度化への道」の項で述べるが、本年度に関しては特に次の二つの要因が挙げられる。第一は好況が地方産業にも波吸し、そこでの労働力需要の増大によって、農家からの通勤範囲内での就職機会が拡大したことである。第二は労働力需要の増大によって新規学卒者のうち、就職希望者は吸収しつくして、20歳以上の青年層にまで吸引が及んだということと関連している。農家の年齢の高い層は、それまで既に農業生産に従事しており、従って農業をある程度続けながら、通勤できる範囲に就業機会がある場合にのみ、他産業に就業するという性格が強い。この青年層に他産業からの吸引が及び、特に他方産業においては、若年労働力は都市産業に吸収されてしまって、比較的年齢の高い労働力を採用しなければならないことが多かった結果が、20歳以上に兼業従事者を顕著に増加させたものである。