昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


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昭和34年度の日本経済

企業経営

好況過程の利益上昇

好況下の企業利益

 34年度を通ずる旺盛な産業活動を反映して、企業収益も著しい好転をみせた。

 いま全産業における企業収益の状況をみると、利益額は34年度上期において対前年比37%の増加で、下期はさらにそれを33%上回る状況で、売上高の前期比増、上期19%、下期20%を大幅に上回っている。

 従って売上高利益率は、 第4-1表 にみるように著しい上昇をみせ、前回好況期の水準に達しいる。

第4-1表 企業利益率の推移

 この売上高利益率の上昇は、輸入原材料を中心とする原材料価格が割安であったことも与っている。しかし技術革新下の設備投資が原料節約効果を生み、また加工度を向上させ、さらには低価格の原料への転換を呼び、これらが総合されて原材料費の低下となり、製品価格が上昇しなかったにもかかわらず、利益率の向上をもたらしたのだといえよう。これは技術革新の進展が、生産力の増大からさらに企業の収益力に効果を結実しつつあることを示している。後にも述べるように、技術革新が進むとともに、より加工度の高い製品に生産の重点が移動しており、加工産業における収益の向上が、全体の収益水準を高めている。

 売上高利益率の好転とともに、企業の収益力を総合的に示す総資本利益率も上昇し、製造業では前回の好況期の水準を抜くに至った。これは売上高利益率の著しい伸びによるもので、総資本回転率は前回の好況期より低下している。

 回転率のうち棚卸資産回転率の好転は目ざましく、34年度上期の棚卸資産回転率は32年度下期の水準に回復している。景気の上昇局面を通じて在庫投資の効率が高まっていることを現している。ところが固定資産回転率は、31年度に比べて趨勢的に低下を示し、34年度に入ってやや上向きに転じたものの回復が遅れている。これは技術革新の急速なテンポに対応した企業の積極的な設備投資の反映である。この回転率の低位を原材料費の低下、生産性の向上によってカバーし企業の収益が向上したといえよう。

業種間格差の拡大

 このような34年度の企業収益の動向を 第4-2表 について主要業種別にみよう。

第4-2表 主要業種の利益率比較

 34年度上期の利益率を前期と比べると、繊維、鉄鋼をはじめ全業種が好転している。石炭も33年度以降赤字を続けているものの、赤字幅を若干縮めている。一般機械、電気機械、輸送機械の伸びが低いのは、32、33年の不況が生産財を主体とし、これら業種への影響が軽微であったためである。むしろこれら機械工業への根強い需要が、景気回復の主導をなしたといえよう。

 しかし収益の動向を長期的にみると、いわゆる成長産業と停滞産業の間に明らかな格差の生じていることがわかる。

 同じく 第4-2表 により前回好況期の上昇局面にあたる31年度上期と比べると、利益率の上昇している業種は輸送機械、電気機械、一般機械、鉄鋼である。これは、自動車や電気器具等の耐久消費財需要の伸びと、大型電気機械、産業機械、工作機械への発注の増大により、生産が拡大したことが収益の面に現われたものである。鉄鋼もこれら業種への素材供給部門として一層収益を増加したといえる。

 他方利益率の低下している部門として繊維、化学、紙パルプ、海運、石炭がある。

 化学の利益率低下は、化学の中で約3割を占める肥料が、内需の頭打ちと輸出不振により採算が悪化しているため、化学全体の収益を低める結果となっている。しかし合成樹脂をはじめとする有機化学部門は好調で、今後石油化学の発展によるポリエチレン、合成ゴム、合成洗剤等の新製品の伸びが収益の向上に寄与することとなろう。

 繊維、紙パルプは過剰設備の圧力を受け、販売面で激しい価格競争を続けているため停滞している。ただ繊維のうちナイロン、ポリエステル系繊維等の合成繊維の伸びは著しい。

 海運は船腹過剰による国際的な運賃下落によって採算が大幅に悪化している。

 さらに石炭は前回の好況期にはエネルギーが隘路となり好収益をあげ得たが、その後のエネルギー需要が石油に転換して、33年度上期以降実質的には赤字経営を余儀なくされ、長期沈滞の度を強めている。

 このような業種間格差の拡大は、 第4-1図 にもうかがえるように業種別にみた収益力構造の変化によっても明らかである。

第4-1図 業種別にみた収益力構造の変化

 31年度上期には12%近くを占めた紡織が7.7%に低下したのをはじめ、紙パルプ、石炭、非鉄鉱業の比重が低下している。

 他方、電気機械、自動車、一般機械の伸びが著しく、この三業種を合わせると約19%となる。このほか生産財部門の鉄鋼、化学や、建設財のセメントを主とする窯業が伸びている。これは技術革新の成果が、特に加工産業の収益力の増加を呼び、他方、紡織、石炭等の収益力が低下するなど、産業構造の高度化が進むなかで、企業の収益力に明暗の差が生じたものといえよう。


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