昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
昭和34年度の日本経済
設備投資
資本財機械需要の拡大
機械需要増加の特色
需要構造の変化
前述の如き、設備投資を反映して資本財市場も消費財ほどの華々しさはないが、着実な拡大過程をたどりつつある。
とりわけ全設備投資額の5~6割を占める資本財機械は 第3-7図 のごとく、34年度後半に入って著しく上昇してきた。これを各産業の機械発注段階で検討することとしよう。
34年度の資本財機械の受注規模を、これと同じ状態の30年10月~31年9月間と比較すると、産業向は6割も増加している。業種別には、前述したような設備投資動向を反映して機械、鉄鋼、化学など重化学工業とか、電力、建設、農業などの伸びが著しく、当時盛行をみせていた海運、造船、繊維などは収縮している。特に当時大きな比重を占めていた輸出船は逆に8割も減少したのである。
繁忙機種の受注動向
需要部門の変化によって機種の構成も大きく変わった。船舶、繊維機械、鉱山機械は当時よりかなり下回り、機械、鉄鋼、化学工業に密接な関連のある工作・金属加工・化学機械、建設投資の活発化を反映した建設・風水力機械、各需要部門に共通の重電機械などは、著しく増加している。
これら各機種は年度を通じて上昇テンポは高いが、とりわけ工作・金属加工・建設機械の伸びは顕著で34年度の後半になると過去の最高受注水準(31年度末または32年度初め)をはるかに上回った。
そのため、生産能力に限界がきて機械メーカーの手持高が増加したものに工作、金属加工機械がある。
広汎な工作機械需要
資本財機械メーカーにとって、その著しい伸びと影響の受け方からいうと、31、32年度の好況時には造船の繁忙がその中心であった。ところが33、34年度は自動車、電気機械、一般機械がその主役をなしたといえよう。
これを工作機械の需要面からみると、34年度の自動車工業の影響はかなり大きかった。
造船、自動車、電気機械の設備投資の推移は 第3-9図 のごとく、造船業は32年度、自動車、電気機械工業は34年度が最高である。
また、一社当たり投資規模は自動車、電気機械が、34年度に著しく大きく、造船は逆に収縮している。
次に設備投資一億円に対する工作機械の需要を32年度についてみると、自動車工業は2.8千万円、電気機械は1.4千万円、造船業は1.2千万円であった。
31、32年度当時は、船舶の建造著増から、どちらかといえば製缶部門が繁忙を極めたので、ベンティング・マシン、熔接機、起重機などの需要が増加した。
一方機械加工段階では、造船用、発電機生産用の大型工作機械の需要で増えており、乗用車生産設備の需要は今ほど大きくはなかった。
ところが34年度は自動車、軽電機工場の量産体制の整備が進められ、設備投資も32年度より自動車は5割、電気機械は7割も拡大した。また鉄鋼、化学、建設などの産業設備投資の拡大は産業用重電機械、一般機械部門の投資を促している。
このように34年度の機械工業の設備投資は工作機械にとって需要効果の高い、自動車、軽電機のごとく量産機種で、加工度の高い分野が著しく増えたため、その関連産業まで含めるとその規模はかなり高い。加えて産業用重電機械、一般機械向の大型工作機械の需要が増えてきていることも、34年度の大きな特徴であろう。
かくて工作機械の需要分野は量産設備、注文機種設備、下請中小企業設備など広汎に渉り、その規模は今までにない大きなものになりつつある。特に自動車、軽電機工業を主な需要者とする専用機、横フライス盤などの増加率は高くなっている。
新しい発展期の機械工業
全般的には受注余力増加
34年度の受注動向を一べつすると、前回ブームと異なり、機械価格はあまり上昇せず、また特別好条件の受注があった訳でもなく、しかも機械メーカーは高操業を保ち、安定的発展を続けてきた。
それは、不況期にも今まで蓄積されていた受注残高を食いつぶすことにより操短を行わなかったので、需要回復期には直ちに増産体制に応じられた。加えて造船業が新造船受注の減退から、陸上機械の受注活動に積極的に乗りだしたこともあって、これらを総合した設備機械の受注能力は当時に比してはるかに拡大されている。
こうした諸現象を反映して 第3-10図 のごとく機械メーカーの手持工事月数は、受注の増勢にもかかわらず殆んど横ばいに推移しているのである。このことは高操業とはいえ、34年度の受注余力がまだあることを示すものといえよう。
部分的ネックの発生
しかし資本財機械のなかでも、成長産業に関連の深い一部の産業機械とか、より基礎的な工作機械では、前述のような構造変動から来る急速な需要の拡大もあって、年央以来納期は次第に長くなり、また輸入機械の増加をもたらすことになった。
すなわち、自動車、電気機械、鉄鋼業からの著増、電力業の大型火力発電機器の発注、石油化学とその関連産業における化学プラントの需要、建設工事用大型機械の受注増など、成長産業の投資活発化は、これまで以上に高度の、新しい機械を多く要求するようになった。
ところが資本財機械メーカーの後進性から、新しい需要機種についての受注態勢は必ずしも十分とはいえず、このため設備用機械の輸入は33年前半から増加しているが、そのなかでも製造業向の伸びは特に著しい。ここでも鉄鋼、自動車、電気機械、工作機械、軸受工業や紙パルプ、建設業からの輸入急増が目立つ、各業種のうち鉄鋼、機械工業では金属加工機械、工作機械がその中心をなし、また各産業共通の機種としてはオートメーション化を反映する計測・測定器と事務用機械が挙げられる。
このなかには技術的に国産化の困難なものも多く占めていると思われるが、工作機械については、国内メーカーの生産能力が限界にきていることや納期の関係もあって輸入申請が増えていることも指摘されよう。
発展期の課題
資本財機械工業も、高度の加工産業を中心とした需要の拡大により、ようやく発展の契機をとらえることができた。
今まで国内市場の狭隘性から、多機種少量生産の経営を余儀なくされ、専門化が進まないためコスト・ダウンによる市場の拡大は不可能だった。ところが急速な需要の拡大につれて、工作機械のなかでも、タレット旋盤、做旋盤などでは、ロット生産の確立の動きがみられ、ロット数の増加による工数の低減はかなり著しいものがある。しかし前述の如き基礎的分野のネックの発生は、産業設備の供給者としての機械工業はまだかなりの脆弱性をもっていることを現わすものといえよう。 各産業の技術革新投資の遂行の上からも、また貿易自由化対策としても、資本財機械工業の基盤確立は緊急要事である。そのためには完成品メーカーの生産分野の調整、部品メーカーの集中的生産を図ること、そしてコストの低下、技術の蓄積に努めることなどが必要と思われる。