昭和34年

年次経済報告

速やかな景気回復と今後の課題

経済企画庁


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各論

国民生活

消費構造の変化と産業構造への影響

消費生活の質的高度化

 33年度の消費生活は先に述べたように家具什器、肉乳卵類、教養娯楽費等比較的高次の消費支出が伸び、消費生活の質的な改善が続いた。このような消費生活の質的高度化は消費水準の戦前回復が達成された28~29年頃を境に急速に強まった傾向である。

 まず家計調査にあらわれた都市生活者の消費生活の変貌を29年と33年との比較においてみると食料費、特に主食費の縮小、住居費、雑貨の拡大が顕著である。すなわち食料費の割合は29年の53.7%から33年の48.6%に縮小しているが、その内部においては穀類、野菜、魚介類の縮小、肉乳卵、外食費の拡大がみられる。被服費や光熱費の比重はほとんど変わってないが、住居費と雑費の比重は拡大し、食料費の縮小分をほぼ等半に分けている。住居費の拡大の主たる要因は家具什器が倍増していることにより、雑費の拡大は交通通信、教育、教養娯楽費の膨張が主因をなしている。 さらに農家における消費支出構成の変化をみると都市世帯とほぼ同様の傾向にある。

第12-10表 都市における消費構造の変化

消費財産業の構造変化

 前述のごとき消費需要の変化はこれに対応する農林水産物、工業生産物、サービス部門における生産構造にも大きな影響を及ぼしている。

 まず工業消費財における生産量の増加状況をみよう。通産省調べの生産指数(生産額ウェイト)は29年から33年の4年間に総合指数で91.3(30年基準)から135.7へと49%の上昇であるか、耐久消費財の伸びは最も高く29年の80.5より33年には264.4へと228%の大幅な伸びを示している。これに対し非耐久消費財の伸びは35%にとどまっている。さらに各個別商品の生産増加率をみると、 第12-11表 に示す通り、新製品として登場してから日が浅い商品ほど著しい伸びを示しており、前にも述べたようなテレビや電気冷蔵庫はそれぞれ38倍、15倍に、ラジオや電気洗濯機、扇風機等でも4倍に近い増加率である。さらに医薬品や缶詰などにおいても2倍以上の生産量増加となっている。このような消費財生産の増加はその原材料を生産する生産材生産部門にも波及している。例えば電気洗濯機の生産増加に応じた鉄鋼薄板、硅素鋼板、アルミ、真銅製品、メラミン樹脂などの著しい生産増加がそれである。

第12-11表 主要消費財生産量増加状況

 以上のような消費財生産の増加が産業中分類別の生産指数の上昇にどの程度寄与しているかを各産業別にみると、消費財生産の増加の直接的影響は、電気機械、精密機械、化学などの産業において特に著しかったといえる。すなわち29年から33年までの電気機械製造業の生産増加率は205%であるが、その増加率の6割はテレビ、ラジオ、電気冷蔵庫、電気洗濯機などの耐久消費財の生産増加によるものである。また化学工業の69%の生産増加のうち医薬品などの消費財の生産増加による影響が4割近くに達している。

 このほか消費需要の質的変化に応じて繊維工業のなかでは合繊織物の生産増加が著しく、毛織物、スフ織物の増加がこれにつぎ、綿織物の伸びは比較的僅少である。また食料品に中では缶詰、バター、ビールなどの伸びが著しい反面、合成酒、精麦などの33年の生産量は29年に対し若干減少している。

 このような産業別生産指数の変化、産業内部における各商品の生産増加率の差異はそれらの商品を生産する事業所や従業者にも影響を与えている。

 事業所統計調査によると、29年7月から32年7月の3年間に製造業従業者は6156千人から7448千人へと約21%の増加であるが、電気機械製造業従業者は40%増と平均の増加率をはるかに上回っている。また電気機械製造業のなかでは、電気洗濯機、電気冷蔵庫などの耐久消費財部門である民生用電気機械器具製造業の伸びが著しく、食料品製造業の中では、肉乳製品製造業、缶詰製造業の大幅な増加に対し精穀製粉業では生産の減少を反映して従業者も減少している。(「労働」の項 第11-18表 参照)。

 このような消費需要の変化に伴う従業者数の変化のうち、消費需要の大幅に膨張した分野においては同時に零細事業所数の減少と企業規模の拡大、従業者中に占める雇用者割合の増加など、雇用構造の近代化が目立って進行している。

 「労働」の項に明らかな通り、比較的零細企業の多い食料品製造業においても生産増加の著しい産業ほど従業者4人未満の事業所数の減少、一事業所当たり従業者数の増加は著しく、同時に従業者数中に占める常用雇用労働者数の比率も高くなっている。例えば生産増加率の高い野菜果物缶詰製造業の29年から32年にかけての事業所数、従業者数の変化を規模別にみると、従業者4人未満の規模では事業所数18%減、従業者数24%減であるのに対し、100人以上の規模では13事業所より44事業所に増加し従業員も170%の著増である。これに対し生産量の減少している精穀製粉業ではかえって規模が縮小し、4人未満の家内工業的規模の事業所数、従業者数がそれぞれ2.5%増加した反面、100人以上の規模の従業者数は5%の減少となっている。しかし消費構造の変化による産業構造近代化への影響が特に著しいのは民生用電気機械製造業である。29年から32年までに増加した従業者を規模別にみると、10人未満の零細企業従業者はほとんど増加していないのに反し、規模の大きくなるほど増加数は多くなり、特に500人以上の大企業での増加は著しく、増加総数の3分の2を占めている。

 消費構造の変化のうち農産物支出中の乳卵類、果物類支出の増加はまた農家経済にもかなりの影響を及ぼし、農家における多角経営を促進した。すなわち、果実生産指数は29年の121.1(25~27年基準)から33年には189.2へと56%の上昇を示し、牛乳生産指数も67%増といずれも総合生産指数の22.4%増を大幅に上回った。この結果農家の家計収入の占める果樹、牛乳、鶏卵類などの商品作物収入の比重も高まっている。

 次にサービス関係支出の増加に対応するサービス業の従業員数の変化をみよう。行楽によるバス利用の増加は道路旅客運送業従業者の66%の大幅な増加となってあらわれている。さらに個人消費における教養娯楽、教育、保健衛生費の増加は映画館従業者数の56%増、洗張、洗濯業の48%、理髪理容業の30%増加などをはじめ幼稚園、病院、診療所などの従業員者数を著しく増やしている。

 以上にみたように個人消費需要の変化は産業構造にもかなり大きな変化を与えているが、特に工業消費財への需要増加は多数の中小零細企業よりなる従来の消費財産業に対し、企業規模の拡大と零細企業数の減少をうながし、さらには個人業主、家族従業者の減少と雇用労働者の増加という雇用構造の近代化を促進する大きな役割を果たしてきたといえよう。

第12-5図 規模別従業者数の変化


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