昭和34年

年次経済報告

速やかな景気回復と今後の課題

経済企画庁


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総説

経済構造の近代化とその問題点

経済構造近代化における財政の役割

 以上のように経済構造を近代化し、産業や所得の均衡のとれた発展を実現するために財政の果たす役割もまた重要である。そしてある程度最近の財政はこの方向に向ってきている。

 その第一は産業基盤の強化、生活環境の改善をめざす公共投資の増大である。戦前に比べ戦後の公共投資の増大は著しいが、28年度頃までは戦争によって荒廃した国土の保全、復旧のための投資が多く、産業基盤の整備などには十分手がまわりかねる状況であった。その間の経済の急速な拡大、特に産業構造の重化学工業化につれて、前述のように輸送、用水等産業基盤面での公共投資の立ち遅れが目立ち、経済発展の障害になるようになった。また生活環境の面でも住宅事情が依然解決されていないほかに、人口の都市集中、生活水準の向上に伴って上下水道などの衛生施設や都市交通、電話などの拡充の必要に迫られている。このため 第47図 からも明らかなごとく32年度以降道路、港湾、国鉄、電々、住宅、その他の公共投資が長期計画をたてて行われるようになり投資は34年度は、31年度に比べ47%も増加した。我が国の公共施設は 第48図 にみるように各国に比べて著しく立ち遅れており、今後も公共投資充実の方向は一層推進しなければならない。

第47図 主要公共投資の推移

第48図 公共施設、社会保険の普及状況

 ただその遂行にあたっては各種投資の総合調整と、実施の重点化、効率化に十分配慮する必要がある。例えば輸送力の増強では道路と鉄道の投資、用水利用では、工業、農業、水道などの需要が相互に競合する場合もあるし、また産業立地の整備、都市問題の解決は地域開発の促進と切り離せない問題である。そのほか事業の施行においても数府県にまたがる事業をどう円滑に進めてゆくか、地方の経済力の差によって公共投資の実施に不均衡が生ずることのないよう国、地方の管轄負担をどう調整するかなど考慮を要する問題が多い。

 公共投資が新段階に入った現在、新らしい観点にたって総合的かつ長期的な構想の確立が必要となっているといえよう。

 重点施策の方向の第二は社会保障の拡充である。我が国には零細企業、自営業等の就業者と家族が広範に存在し、その多くは社会保険の適用を受けていない。32年度に始まった国民皆保険計画、34年度に発足した国民年金は、いずれも医療、所得両面から社会保険をこのような人々にも普遍化しようとするものである。このように社会保険の整備は著しいが、なお各種制度の統合などなお幾多の改善されるべき問題がある。

 一方生活保護等の公的扶助についてもなお考慮の余地が多い。我が国の公的扶助は労働能力喪失者に対してその最低生活を保障するという本来の機能をまだ十分に果たしていないが、これは一つは我が国に膨大な低所得層が存在するため、労働力をもちながら公的扶助を必要とする者が多いこと、二つは前記のような社会保険の未発達のため本来社会保険で果たすべき役割を公的扶助が代って果たしているという事情によるものであった。このためしばしば生活保護基準等が引き上げられたにも関わらず、まだ十分とはいえない状況である。従ってこのような事態の解決のためには雇用の増加、最低賃金制の拡充によって不完全就業者の減少をはかること、社会保険の拡充によって貧困への転落を防止する体制を整備することなどが基本であるが、これと同時に公的扶助の内容の充実に努めて、財政面から経済成長にとり残された層の生活保障に配慮する必要があることもいうまでもなかろう。

 以上のような公共施設、社会保障の拡充等はいわば我が国経済近代化のために財政の果たすべき役割であって、今後の経済の均衡ある発展のために、その方向は一層推進される必要がある。


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