昭和34年

年次経済報告

速やかな景気回復と今後の課題

経済企画庁


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総説

経済構造の近代化とその問題点

金融の景気調整機能

 戦後我が国の経済の成長と経済構造近代化はめざましいものがあった。その原動力が企業の旺盛な設備近代化の投資であったことは、これまで述べてきたところからも明らかになったであろう。しかしその反面我が国は世界各国に比べても非常に大幅な最気変動をくり返してきた。それは設備投資が一時的に集中し過ぎたことと、それに輪をかけて在庫需要が大きく動いたためで、そのためともすれば投資額が国民経済全体からみて過大となり物価騰貴や国際収支の危機を招きがちであった。

 このことは企業にとっても過重な負担とならざるを得ない。例えば32年のときのように投資が一時的に集中し過ぎると、資本財の価格は急騰し、投資効率は低下する。さらに企業は投資資金を主として借入に依存したために資本構成は悪化し、金利支払をはじめとして資本費負担は増大する。 第49図 にみるように今回の景気後退期にはこうした傾向が激しく、もし原材料価格の低落によって救われなければ企業経営の受けた痛手はもっと大きかったに違いない。

第49図 企業原価構成の変化

 今までの金融政策も国際収支の危機に対処する手段としては効果をおさめてきたが、今後は、予防的な政策を早目に実施して景気変動の波をできるだけなだらかにすることがその課題となろう。それが長期的視点の下に経済構造の近代化を進める前提条件でもある。

 もちろん景気変動の幅を小さくする手段は金融政策だけに限るものではない。しかし企業の投資行き過ぎを招いた背後には、銀行が過度の信用膨張を行って、企業に資金を供給したという事情があったことを思うと、経済安定のためにはまず金融政策の強化を考えるべきであろう。

 では今後予防的な金融政策を行ううえにはどのような点が問題となるであろうか。一般に金融政策のおもな手段としては公定歩合政策、準備預金率操作、公開市場政策の三つが挙げられる。我が国でも今度の景気の一循環の間に、公開市場政策以外については政策手段の整備が一段と進んだ。公定歩合政策の弾力性が増したこと、標準金利制度の採用によって公定歩合と市中貸出金利とが平行して動く慣行ができたこと、日銀預け金を増やすことによって準備預金制度を発動する素地ができつつあることなどがそれである。従って今後の景気変動に対する金融政策の手段は以前よりも豊富となったといえよう。それにしても金融政策がより効果的に景気調整機能を果たすためには、銀行が資産の流動性をより重んじ、金利機能の働く余地がひろがることが必要である。しかしこれまでのように銀行が企業に密着して過度の信用膨張に走るような状態では、そのようなことは容易には望めないであろう。

 戦後の異常な高い経済成長の中で銀行と企業との結びつきが強まってきた。ドッヂ・ライン以降財政面からのインフレ的な資金供給がやむと、企業の必要とする資金は主として銀行に集る預金とこれをもととした信用拡張によって賄われてきた。我が国では減価償却や内部留保など企業の自己資金調達の割合が少なく、この反面個人部門での貯蓄の比重が大きい。この個人部門の貯蓄が証券に対する直接投資ではなく、銀行を通ずる間接投資の形で企業に供給されていた。我が国の企業の設備投資率は高く、在庫投資率の変動は非常に激しい。それは資金源の多くを銀行借入に依存していることとも関連している。投資率を安定させるためにはこのような資本蓄積方式を変えていくことが必要である。

 しかし最近になって我が国の資本蓄積方式にも変化の兆しが現れてきている。その第一は企業側の動きで、景気循環を通じて一貫して自己資金が増えていることと長期信用銀行の貸出増加からもわかるように企業が設備資金については、長期安定資金を求める傾向が強くなっている点である。第二は貯蓄する側の動きで、 第50図 のごとく最近の傾向として預貯金よりも保険、年金などの長期貯蓄及び金融債、貸付信託、投資信託など証券投資に向う傾向がみられる。このことは個人やいわゆる機関投資(年金基金などの資金運用)による直接投資の萠芽といえよう。こうした傾向を一層促進するために、企業をめぐる諸制度を整備することによって企業の内部資金を充実させ、増資を容易にし、また社債市場の育成、証券市場の改善を通じて直接投資の基盤をつくる時期に至ったと考えられる。最近の西ドイツにおける資本市場の発展もまた我が国にとって他山の石ともなろう。

 もちろん資本蓄積方式を改めることは短時日のうちにできることではない。しかしそれが金融の景気調整力を高める基盤をつくる方策であることも忘れてはならない。

第50図 形態別個人貯蓄の伸び

第51図 事業債消化状況日独比較


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