昭和33年

年次経済報告

―景気循環の復活―

経済企画庁


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各論

国民生活

経済と国民の均衡的発展

 経済の安定的成長には経済発展の三つの要素である輸出、国内投資、個人消費が均衡を保っていくことが必要である。過去2ヵ年の我が国経済は投資のみが過大に伸び過ぎ、外においては、国際収支の逆調をまねき、内においては国内消費需要と生産能力との差を著しく拡大せしめたが、今後は国民生活の均衡的発展が考慮されなければならない。

 国民生活の均衡的発展にあたっては三つのことが必要である。その第一は後進的産業部門の所得水準の引上げである。我が国の経済は二重構造と呼ばれ、近代産業に対して著しく遅れた農業、零細小企業の前近代部門が広範に存在している。これ等の部門の所得水準、労働条件は近代産業に比して低く、その格差は拡大の傾向にあるが、これを放置すれば社会的緊張を醸成するおそれもある。このような遅れた部門を近代化し、産業活動自体からの所得水準を引き上げることが第一に必要である。そのためにはこれ等部門の生産性を高めるための諸施策や、最低賃金制の実施等が望まれよう。

 第二は財政、社会保障を通ずる所得の再配分である。遅れた産業部門の近代化による所得水準の引上げと並んで重要なことは、低所得者世帯に対する直接的な生活水準引上げの施策である。これは租税政策及び社会保障を通じて高額所得層の所得の一部を低所得層に再配分することを意味するが、さしあたり一連の社会保障強化政策の推進とそれに必要な国庫負担の増加等によって達成されよう。

 第三は国際収支との関係である。消費生活の向上も国際収支によってその上限が劃されることはいうまでもない。しかし、消費財の大きな部分が農産物及び国内産原料による中小企業等の製品、サービス等によって占められているので、個人消費、特に低所得層の消費が直接輸入を増加させる程度は低いことが推定される。

 例えば、当庁調査課の試算によると全都市勤労者世帯の消費を3,000円引き上げるに必要な直接の輸入原料は中位層では205円、上層では190円の増加となるが、下層世帯では156円の増加とかえって低いので、前述したような社会保障の強化や低所得層の消費生活の引上げは国際収支に許容される範囲においても相当これを実現する余地があろう。


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