昭和33年

年次経済報告

―景気循環の復活―

経済企画庁


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各論

金融

金融引締めの波及過程

引締めによる金融の逼迫--32年度上期

 31年度下期以降金融情勢は繁忙化していたが、引締政策の実施によってついに著しい逼迫状態を呈するに至った。すなわち銀行の資金難は激化し、企業経営面にも金詰りの圧力が加わった。すなわち引締めを契機として景気局面がひとたび天井を打つと、物的な投資の過剰が露呈し企業資本の固定化傾向が強まり、そのことから資金需要は異常な強さを示すに至ったが、他方資金の供給がこれに伴わなかった。そして金融市場においては次のような要因が作用していた。

金融市場の逼迫

金融市場における逼迫要因と日銀貸出の意義

 金融逼迫の背景として上期には税収の著増と輸入超過によって財政資金の揚超が2,790億円の巨額に達していた( 第119図 参照)。

第119図 金融逼迫の要因

 財政の揚超は、銀行の資金不足をもたらすから銀行としては外部資金の調達を必要とする場合が多いのであるが、引締前には同じく資金不足が生じても日銀依存はやむ得ないものとして格別抑えられなかったから、金融は繁忙化したものの、なお企業に対する資金の供給に支障はなかった。ところが引締めによって日銀依存が厳重に抑えられるに至ると、銀行としては日銀依存に先立ってあらゆる資金調達方法を講ずる必要に迫られ、市場資金の需給が逼迫した( 第102表 参照)。

第102表 都市銀行資金需給

 もっとも市場資金は金融機関相互の融通に過ぎないのであって、財政の揚超は結局は金融機関全体の資金不足をもたらすから、最後には日銀貸出によって埋められざるを得なかった。これは金融機関の支払準備がもともと少ないうえ金融繁忙化の過程で底をつき、また日銀券も引締めによって弾力的に収縮する余地が小さいことなどの事情があったからである。このような事情のもとでは日銀貸出の増加は資金供給の潤沢さを示すというよりはむしろ資金不足の切実さを示すものといえる。そしてこれをてことして銀行貸出の抑制がはかられたのであった。なお日銀貸出が抑えられていたことは、全国銀行の手許現金の切詰めが、5月に64億円、6月55億円と異例に大きく行われたことからも察知することができる。

金融逼迫の様相

 都市銀行は日銀依存が極度に困難となってきたので争ってコール資金を求め、そのためコール市場は5月以降超繁忙状態に陥り、コール・レートも6月には最高6銭2厘にまで上った。他方コール資金の出し手としては、地銀をはじめ中小企業金融機関や投資信託資金までが出動し、資金残高は増大した( 第120図 )。かくしてコール市場は金融機関相互の一時的な余裕金の融通市場から貸出資金の調達市場、投資市場と化した。

第120図 コール市場の繁忙

 他方、金融の逼迫から起債が困難となった。すなわち、銀行の社債消化能力低下に加えて、銀行以外の資金もコール市場に振り向けられるものが多かったからである。かくて利回り引上げにもかかわらず消化は進まず、また資金供給を抑える趣旨もあって、発行額が圧縮された( 第103表 )。特に事業債が強く抑えられ、年度間を通じても、電力、鉄鋼以外は新規発行が不可能であった。

第103表 起債額及び事業債利回

 金融逼迫によって市中金利も上昇した。もちろん前述のごとくに政策的にこれが認められたからでもあるが、短期預金金利は5月13日から引き上げられ、貸出金利も上昇に向った。優良企業に対する市中銀行の優遇金利は5月下旬から7月にかけて1厘(日歩2銭から2銭1厘へ)引き上げられ、9月までにさらに1厘の引上げをみた。貸出平均金利も5月以降9月まで急上昇している。

 また長期金利は7月1日から平均1厘引き上げられたが、それでも公社債の利回りは相対的に低く、特に前述のごとき高騰をみせたコール・レートとの間には著しい不均衡が存在した( 第121図 及び前掲 第120図 参照)。

第121図 金利の上昇

銀行貸出の抑制

銀行貸出の抑制の要因と貸出の増加

 引締めによる異常な資金不足のために、銀行は一面で採算上大きな圧迫を受けた。すなわち都市銀行は日銀借入を仰ぐにしても、その金利は高率適用を受ける部分がかなり大きく、コール・マネーをとるときには異常な高レートを忍ばなければならなかった。従ってこれらの外部資金によって貸出しを行うことは、大きな損失を免れなかった。しかも前述のごとく日銀は窓口規制を通じて毎月の各銀行の貸出枠を申出額よりはるかに低く抑えた。

 このようにあらゆる面から銀行貸出の抑制が余儀なくされたが、資金需要は異常な強さを示していたため、引締めの圧力を最も強く受けた都市銀行でも前年以上の貸出増加となった。

 すなわち 第122図 にみるごとく都市銀行の場合計数上第1・四半期の貸出純増は1,062億円で前年同期の90%にとどまったが、これは日銀の窓口指導が強力であったために、月末の計数が帳簿上の操作によって実勢より約900億円も低く抑えられたからで、この分を含めると前年同期を大幅に上回る。計数上の貸出月末残高と貸出実勢との差がいわゆる含み貸出である(含み貸出は引締後数ヵ月にわたり行われ、この間1,200~1,300億円にのぼったと推定される)。

第122図 都市銀行貸出四半期別増加額

資金需要の内容

 では引締めが強力であったのになぜ貸出しが大幅な純増を続けたのであろうか。基本的には後述のごとく物的な投資が高水準を保っていたことが資金需要を高めた要因であったが、企業は過去の発注あるいは買掛債務などの決済その他必要な支払を行うために借入に依存する必要が特に大きかった。

 第一に金融引締直後に運転資金貸出のうちで著増したのは輸入関係資金である。石油、石炭、鉄鉱石、鉄鋼くず、非鉄金属鉱など主要原材料と燃料の輸入は32年度上半期がピークであり( 第123図 参照)、これらの決済のために輸入手形決済資金貸(輸入貿手)が行われ、ついで輸入のはね返り融資が行われた( 第124図 参照)。

第123図 主要原材料と燃料の輸入推移

第124図 輸入原材料と銀行貸出の関係

 また繊維の場合は原材料輸入は1~3月に著増し、その決済のための貸出しもその時に増加したわけであるが、当時は既に過剰気味であったために製品の売れ行きは不振で、この結果さきの貸出しも回収が難しく、つなぎ、再つなぎの形で書換えられ、いわゆる滞貨融資となって、貸出残高は累積していった。

 これらに加えて外貨金融の引締措置(ポンドユーザンスの期間短縮、品目制限、預託外貨の引上げなど)がとられたため、銀行貸出はそれをカバーするためさらに膨張せざるを得なかった。

 次に運転資金のうちでは決算資金の貸出の増加が著しかった。これは主に3月ないし4月決算の会社の納税資金であった。31年下期の企業の利益は戦後最高であったが、企業はその利益の大部分を既に物的投資に注ぎ込んでしまっていたうえ、4月以降はようやく売れ行きも頭打ちとなったために、予定通り利益を上げられなくなって、納税資金の借入依存度が高まったのである。

 一方設備資金貸出も引締以降依然として増加を続け、しかも上期の増加額は前年同期を56%上回った。このうち資本金1,000万円以下に対する貸出しは、7月以降純減しているので、この増加額はほとんど大企業向けの貸出しである。ところで大企業に対する設備資金貸出は設備計画が変更されない限り、容易に削減したり打切ることができなかった。

貸出抑制の影響

 右のようにして貸出しが増えたとはいえ、決して十分な資金供給が行われたわけではなかった。銀行貸出の計数のうえでは中小企業向け、あるいは国内問屋向けの貸出しが抑えられたが、大企業の場合でも資金需要の水準に比して借入は不十分であった。

 貸出しの増加が大幅であったにもかかわらず資金不足が生じた事情としては、一方で企業の手許資金が大きく吸い上げられたことも見逃せない。第一に前述のごとき輸入代金決済は外為会計を通じ、また法人税はもちろん、配当賞与などの一部も税金として、国庫に吸上げられ、はじめにみた通り巨額の財政資金の揚超が生じた。第二に個人の貯蓄は極めて好調で、その多くが金融機関、特に銀行に預金された。(個人貯蓄については「国民生活」の項参照、また銀行預金の概況は後述する)。以上の二つの面から企業の支払った金が企業以外の部面に流出し、他方銀行貸出はこれらを埋め合わすに至らなかったから、企業の手許資金は減少を余儀なくされた。手持現金の状況は明らかでないが、個人所得あるいは消費が増加していたにもかかわらず日銀券の月末発行高が上期には減少したことからみて、先にみたごとき銀行の場合と同じく企業の手許現金も切詰められたものと考えられる。同様に企業の営業性預金(預金通貨)も、引締後減少傾向をたどった。これらのことは企業の資金繰りが困難となったことを示すものである。

企業金融への圧力

企業の資金難の実態

 銀行貸出の抑制によって企業は異常な資金難に直面した。その状況を資金需要要因としての物的な投資あるいは売掛信用供与の必要と、これを賄う資金源泉との両面からみていくことにしよう。資金需要を高めた第一の要因としてあげられることは、上期の在庫投資が非常に大きかったことである。なかでも輸入原材料が多く、その資金負担は前述のごとく商社段階に集中していた。すなわちこの時期の商社の貿易関係の資金需要は自己の在庫投資のためよりは、メーカーに売掛信用を与えるためのものであった( 第125図 参照)。これに対し輸入金融の引締措置は、金繰り難と金利負担の増加という二面から圧力を加えた。そのほか商社の国内取引面では、引締前の手持商品の増加と系列強化のための資金供与によって資本が固定していたため、値下がり損や回収難から資金面に穴をあける結果となった。また特に繊維、鉄鋼等の中小問屋で、強気の仕入態度をとっていたものは、売れ行きの不振と借入難から資金的な行き詰まりを生じ、その中には投売りを余儀なくされたり、あるいは倒産に追いこまれるものもみられた。

第125図 企業の投資と資金調達(卸売業)

 他方メーカー段階では、一般に上期に輸入物資が多量に入着したにもかかわらず、なおその引取資金の必要は小さかった( 第126図 )。しかし、既に生産過剰の様相を示し始めた産業もかなり多く、中小繊維、鉄鋼メーカーなどをはじめ資金難が拡大していった。

第126図 企業の投資と資金調達(製造業)

 もう一つの資金需要要因として設備投資をみると、大メーカーは概して工事を継続しようとする意欲をもっていたといえる。これに対し資金面では社債発行難によって電力や鉄鋼などのように社債への依存度の高い産業に資金不足が生じた。また売上代金回収の低下、前受金の減少などによって入金が予定を下回ったり、あるいは借入の予定に対して実行がおくれたりしたこともかなり資金面に影響を与えた。

資金調達面の諸対策

 それでは以上のような資金不足に対処するため企業はどのような方法をとったかをみると、まず大メーカーは回収を強化しようとしたが、現実には効果があがらず、むしろ回収が低下した。そこで鉄鋼、化繊等をはじめ軒並みに支払の引きのばしを行った。支払の引きのばしと回収の低下とは産業相互間において、互いに原因となり、また結果となり合っているが、取引上の地位の弱い部面に多くしわ寄せられていった。

 次に資金調達の方法として増資が活発となった。すなわち海運、造船、鉄鋼、電機等の産業が盛んに増資を行った結果、32年7、9月の増資規模は32年1月につぐものであった。1月の場合は資本充実法及び増資免税措置の期限接近という特殊の原因によるものであるから、このような要因を除けば7、9月が戦後最高であった。

 また銀行以外の金融機関から資金供給を受けようとする動きも盛んとなりこれに応じて生保、損保の貸付が増大した。

物的投資の抑制

 これらの資金調達方法のほか、重点産業の設備資金確保のため政府並びに金融機関側においても対策が講ぜられたが、所要資金の手当は十分には行われず、特に引締めの進行とともに借入の見込がますます難しくなったので、企業は資金需要の根源である物的投資そのものを抑えるに至った。もっとも輸入成約ずみの原材料の買付けや設備の継続工事については抑えることも困難であったが、期中後半に入ると可能な限り在庫仕入れの手控えを行い、また設備投資についても資金難から繰り延べを余儀なくされるメーカーも少なくなかった。商社の場合は手持商品吐き出しの動きがきわめて急速に進行した結果、第2・四半期に棚卸資産が大幅な減少をみせたことは 第125図 にみるごとくである。

 なお中小企業に対しては金融疎通のための対策が実施されたが全体としての資金調達は不足がちであったから、手許の現金預金の切詰めと設備や在庫など物的投資の手控えを余儀なくされた。法人企業統計によると中小企業の現金預金は32年以降大幅に減少していることから、前述のごとき預金通貨の減少のかなりの部分が、中小企業の預金について生じたものと考えられる。これは一面において中小企業が大企業ほど資本を固定させとおらず、従って、現金預金の吐き出しの余地が相対的に大きかったことを示すといえよう。このようにして決済上の破たんが生じないですんだ面もあったが、他方決済が困難となる場合も多く、不渡手形( 第127図 )、倒産件数などは引締後急増を示した。

第127図 不渡手形対交換高比率

引締効果の進展--32年度下期

 上期において企業が引締めに対して次第に順応する態度を示した結果、下期に入ると、経済基調はデフレの様相を強めていった。もちろんこの背景には政策当局が下期にも引締態度を維持していたこと、また海外の景気後退がいよいよ顕著になったことも大きく影響している。

 ところでこのような景気の後退は、一方で資金需要を減退させ、他方輸入の減少、税収の鈍化を招いて、財政の払超過化要因を生み出し、この結果金融市場も上期の逼迫状態を脱し、引緩み傾向をみせるに至った。

企業の順応態勢の進行

 下期における企業の順応態勢はどのように進展しそれは資金需要面にいかなる変化を与えたであろうか。

 在庫投資の面では、輸入はもちろん国内での在庫手当も減少し、他面生産者製品在庫の増加は免れなかったが、生産調整の進展によってその増勢も次第に衰えた。かくて第4・四半期の在庫投資は、大企業では大幅の純減を示すに至り、それが資金需要の減少をもたらした(前掲 第118図 )。

 ただ流通段階と生産段階ではかなり様相を異にしていた。まず商社は前掲 第125図 にみるごとくメーカーからの原材料代金の回収を進め、しかも自己の在庫はなお減らしていたため、借入の返済が可能であった。他方メーカーをみると、商社に対する輸入原材料の決済期に当ったため上期とは反対に、投資規模に比して相対的に大きな資金の負担がかかっていた。しかも下期には滞貨の圧迫から減産が進み、売上や利益の減少による資金不足が生じた。いわゆる滞貨減産資金はこのような事情によって必要となったのである。

 設備投資は下期に入ると一般産業ではかなりの減少をみせたが、資金源としての内部資金もこれに劣らず減ってきた。しかも電力、鉄鋼等設備投資をなお盛んに行っている重点産業の場合にも、一部には内部資金の減退がみられ、また株式社債による調達も限られたため、長期借入金を含めても、設備投資にあてる資金の不足が大きくなった。ただ一般産業のうち比較的好況なセメント、電機等は第3・四半期まで長期資金の調達が潤沢で、第4・四半期には長期借入金を大幅に返済している( 第128図 )。

第128図 設備資金の不足

貸出増勢の鈍化と内容の変化

 以上のような企業の状況に対応して、銀行貸出がどのように変化したかをみよう。

 第3・四半期の全国銀行貸出は3,035億円と大幅に増加したが、このうちには含み貸出しの吐き出しがかなり含まれていた。従ってこれを除いてみれば、貸出増加は年末の決済資金需要に応じてかなり高かったとはいえ、前年を大幅に下回っていた。そして第4・四半期に入ると1,242億円と前年同期の約半分の増加にとどまった。

 他方、資金需要の質的変化にも注目すべきものがあった。まず輸入の減少によって、輸入貿手の残高は8月以降収縮し、下期を通じて373億円の減少となった。また割引手形も下期に302億円の増加にとどまり、特に1月、2月には季節的要因もあるにせよ純減した( 第104表 参照)。このことは一面で輸入のはね返り融資の増勢の衰えを反映するともに、国内商取引の減少によるところが大きい。その反面メーカーに対する手形貸付がかなりの増加をみせたが、これは主にいわゆる滞貨減産資金貸出の増加によるものである。

第104表 全国銀行貸出の形態別使途別内訳

 滞貨融資に加えて設備資金の不足分が運転資金で埋められ、これが下期の運転資金需要の主体となった。従って全国銀行運転資金貸出の増加のうち、業種別には、鉄鋼、化繊、紙等不況産業の比重が高まった( 第129図 )。また設備資金貸出については、新規貸付は減少したにもかかわらず回収が遅延し、そのため残高は漸増した( 第104表 )。こうして銀行貸出はデフレの進行とともに次第に流動性を失い、質的に悪化してきたが、その極端な形として赤字融資も1~3月には非鉄金属、繊維関係などでぼつぼつ現れた。

第129図 全国銀行運転資金貸出純増分業種別構成比

 このような事態に対処して銀行も選別を強化したが、ただ注目すべきことには12月や3月にも不渡倒産は予想されたほどの増加をみせなかった。これは中小企業対策など政策面での配慮に加えて過去の好況期を通じて企業の経営基盤が強化されたこと、地方銀行並びに中小企業金融機関に比較的資金の余裕があったことによるのである(「中小企業」の項参照)。

金融逼迫度の緩和

金融緩和の要因

 下期には上述のごとく資金需要の増勢が衰え、金融の逼迫度は弱まってきたが金融市場における緩和の要因としては、財政収支と現金需要の二つを挙げることができる。

 まず財政収支は税収の伸び悩みと国際収支の改善によって揚超減、払超増の傾向をみせた。特に第3・四半期には季節的に大幅の払超を生ずる見込であったので、引締基調を維持するために資金運用部保有債権の市中売戻し(700億円)が行われたが、なお2,031億円と前年を上回る払超となった。これに対し日銀は銀行に日銀借入の返済を要求し、これを通じて銀行貸出の増加を抑えることに努めた。第4・四半期に入ると財政資金は季節的な要因から1,836億円の揚超となったがその額は前年をはるかに下回った。

 財政資金の払超にもかかわらず日銀券の増勢はむしろ衰えた。すなわち日銀券は第3・四半期には季節的な増加(1,836億円)をみせたが、第4・四半期には1,484億円の大幅な還流を示し、期中の還流率は80.8%と例年を上回った。これは所得消費の伸び悩みを反映するもので、日銀券の月中平均残高と消費支出とを対比させてみるとこのことが明らかである( 第130図 参照)。

第130図 日銀券の伸び悩みと消費の鈍化

 かくて年度間の日銀券増発は3.4%と前年(16%)を大きく下回った。

金融緩和の様相

 金融緩和への基調的な動きを背景に、第3・四半期には季節的な財政の払超も加わったため金融市場は小緩みをみせた。コール市場では既に7月に自粛レート(最高日歩3銭5厘)を設けて実施に移していたが、10月にはその引下げ(最高3銭5厘から3銭へ)が行われた。第4・四半期は逆に季節的な財政資金の揚超によって1月を除くとコール市場は再び繁忙化したが、上期のごとき逼迫とは趣きを異にした。

 なお金融緩和によって企業や銀行の手持現金や預金にゆとりが生まれた。預金通貨は季節的な取引決済の増加によって年末に大幅に増加し、第4・四半期には再び縮小に転じたが、取引高に比べると相対的に高水準を保った( 第131図 )。

第131図 預金通貨と取引高

 金融緩和の方向は33年4月以降一層はっきりしてきた。それは基本的には在庫投資の減少が底をつき需要が下げどまった反面、生産調整が進んで滞貨が減少しだしたことを反映するものであるが、財政収支面で大幅な払超がみられたことも一因となっている。

32年度の貸出しと預金

 32年度間の全国銀行貸出をみると、純増額は8,474億円で前年度を約2,000億円下回った。銀行別に年度間の純増額を前年度と比較すると、都市銀行が23.5%(1,635億円)の減少、地方銀行が10.9%(257億円)の減少で、都市銀行の低下が顕著であるが、これは前年度における都市銀行の貸出純増が特に高かったうえに、地方銀行が32年度においても預金の好調に支えられて資金繰りも比較的楽で引締政策の影響を受けることが少なかったためである( 第105表 参照)。

第105表 銀行別貸出増減

 次に32年度間の全国銀行の実質預金をみると、増加額は、5,038億円にとどまり、前年度の8,376億円を大幅に下回った。

 銀行別にみると、地方銀行が2,366億円と前年度を若干下回る程度の増加をみせたのに対し、都市銀行の増加額は2,559億円にとどまり、前年度に対し半減した。

 預金種類別にみると、短期性実質預金は前年度2,927億円をみせているのに対し、32年度は431億円の減少となった。これはいうまでもなく財政の大幅な揚超と引締めに伴う貸出抑制の結果である。

 これに対し貯蓄は引締下にあっても依然として順調な増加を示し、長期性預金は5,166億円と前年度を上回る増加となった( 第106表 参照)

第106表 全国銀行預金、銀行別種類別増加状況

 年度間の全国銀行預金増加額は、貸出増加に対して3,436億円不足し、その結果日銀貸出は年度間、3,118億円の増加となった。しかしそのうちでは上期が2,866億円と圧倒的に大きく、下期には252億円にとどまった( 第107表 )。しかも下期には資金運用部による債権の売戻しと中小企業向融資見返分の金融債買上げとによって差引約500億円の財政資金が引き上げられ、もしこれがなければ銀行の日銀依存は起らなかったといってよい。このようにオーバーロンは基調的には改まってきたことが明らかである。

第107表 日銀貸出の増減

 だが他面において年度末の日銀貸出残高は5,881億円にのぼり、4月以降減少したとはいえ30年の場合のごとく国内に固定化された資本が輸出によって大幅に流動化することは望めないから、日銀貸出を解消することは容易でない情勢にある。従って、金融の基調としては、緩和の方向をとるにしても、銀行が日銀借入の返済を必要とする間は、急速な緩慢化をもたらすことはないといえよう。


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