昭和33年
年次経済報告
―景気循環の復活―
経済企画庁
各論
交通・通信
景気下降と交通・通信
国内輸送
貨物輸送
31年度における経済の急速な拡大の影響は、国内輸送の面においても、空前の貨物輸送需要の膨脹となって現れ、国鉄を基幹とする国内輸送力はこれをカバーすることができず、その結果駅頭在貨が異常に増加して深刻な輸送隘路の表面化を招いたのであった。32年度に入っても、当初は引き続いて出荷は旺益であり、各輸送機関とも前年度を大幅に上回る輸送需要を受け繁忙を呈し、駅頭在貨もほとんど減少の気配をみせなかった。これに対し各輸送機関においては貨車、トラックや内航用小型船舶等の可動施設を急ピッチで新造して輸送力の応急的増強に務めていたが、その後金融引締めによって、鉱工業生産が低下し始めた7月頃より、輸送の面にもその影響が浸透し始め、輸送需要は次第に鈍化するようになったので、駅頭在貨は急激に減少し、隘路の現象はここに一応解消されるに至ったのである。しかし、景気下降が貨物輸送の面に現れた影響の態様は、各々の輸送機関によって区々であった。いま 第100図 のように各機関ごとの月別貨物輸送量を季節変動を除去した指数になおしてその推移をたどってみると、国鉄、内航汽船及び機帆船は鉱工業生産指数と同じく6~7月をピークとしてその後漸減の傾向を示しているのに対し、トラックのみがこれと異なった形となっている。以下これを基として各機関ごとに景気下降の浸透の度合いをみてみよう。
国鉄の輸送量は年度当初は前年に引き続いて好調を示したが、これも6月を絶頂として、その後下降を始めた。まず鉄鋼、工業薬品等に始まった輸送量の減少は第3・四半期に入って他の多くの製造業製品に及び、第4・四半期に入っては、鉱産品、木材等の大宗貨物にいたるまで、押しなべて減少し、33年1月から総輸送量も前年同月を大幅に下回るに至った。243万トンで31年度末を越した駅頭在貨も32年5月を境に減少の一途をたどり、前年のごとく秋冬繁忙期における増加もなく、下半期には平常在貨(80万トン)を割るに至り、33年5月末には40万トンとなっている。
年度間の総輸送量はトン数、トンキロメートルのいずれもが前年の2.8%増となっているが、これを品目別にみると、全般的に国内需要の大きかった石炭(生産108%、輸送106%)、セメント(118%、111%)や米(105%、120%)がかなり伸びているのに対し、繊維類(104%、94%)、木材類(101%、99%)が減少しているのが目立っている。
トラックについては、前年度の好況の影響を受けて、車両数、特に自家用車や小型車の数が急激に増加し、そのため全般的に輸送量の膨脹が著しく、上半期には前年同期に比べ22%の増加と、従来にない高いペースを示し、下期に入っても、依然として増加の趨勢はかわらずわずかに鈍化した程度であった。これは、車両数、特に小型車を主とする自家用車の増加によって、新規輸送需要が開拓されたことや、自動車の輸送物資中に、景気下降に対する弾力性の乏しい消費物資の占めるウエイトが高いこと、さらには32年4月の国鉄運賃の値上げが若干影響していること等によるものと考えるほかはない。しかし営業車についてみると第4・四半期頃になって、その輸送需要がかなり下がったため、一部には集荷競争や、運賃ダンピングが現れるようになって、この部門における車両過剰が問題とされるに至った。
年度間を通じての輸送量の伸びは、対前年度比19.7%とかなり大きく、物資別には、石炭、鉱砿石類、セメント、機械類等の鉱工業品の伸びが、農林水産品のそれを上回り、鉱工品のトラック輸送に占める比重が次第に高まりつつある。
内航汽船については、31年度に引き続く荷動きの増大と陸上輸送力の逼迫、国鉄運賃の値上がりによる海送転移の伸長等によって足かけ3年にわたって上昇してきた内航輸送の好況にさらに拍車がかけられ、内航稼動船腹の不足と相まって、運賃市況は31年度末から32年度初頭にかけ強調を示した。しかし、これも6月頃を絶頂として、その後金融引締による荷動きの緩慢化や、外航の不振による中型船の内航復帰と好況時に着工された新造船の就航による船腹需給の軟化(あわせて約10万重量トン以上の船腹増加)等の理由により、市況は急激に下向きに転ずるに至った。輸送量も7月をピークとして減少し、例年のごとく冬場に増大することもなく、また年度末には炭労ストの影響もあるなどして、1月より前年同期の輸送量を大きく下回るに至った。年度間の総輸送量は対前年度比11.8%増であったが、なかでも石油製品に対する需要が年間を通じて高かったため、内航タンカーの輸送量の伸びが18.6%と貨物船の10.2%を上回っているのが注目される。
機帆船については、従来は景気の下降に対して最も敏感である限界供給者的性格を有するものといわれていたが、今回の景気後退にあっては荷主の金詰まりとデフレによる取引単位の小口化によって、割安で小口輸送を主とする機帆船に対する需要が比較的減少しなかったので、運賃市況においても輸送量にしてもその落勢のテンポが内航汽船に比べて遅く、また第4・四半期に入ってからの輸送量もほぼ前年同期の水準にとどまったことが注目される。
各輸送機関を通じての国内貨物総輸送量は 第79表 のごとく1011億トンキロメートルで前年度より、8%の増加であるが、なかんずく、トラック、海運が国鉄に比し大幅に伸長し、その分担率が高まったことが注目される。
旅客輸送
32年度の国内旅客総輸送量は、 第80表 のごとく、1946億人キロメートルと対前年度比7%の増加を示した。貨物輸送が大きく景気下降の影響を受けたのに対し、旅客には比較的それがなく、季節変動を除いた月別輸送量指数をみても、 第101図 のごとく、各機関とも年度を通じて一様に増加の趨勢を示している。これは、雇用者数、学生数によって左右される定期旅客輸送においても、消費的なもののウエイトが高い定期外旅客の輸送にしても、景気下降に対して弾力性が小さいうえに、時間的ずれがあるため、いまだその影響が現れていないからである。
機関別にみると、国鉄及び私鉄においては、定期旅客は雇用者、学生数の増加によって前年度に引き続いて伸長を示していたが、その後景気下降の現象が深まるに従って、第4・四半期頃にはわずかに鈍化を示した。一方定期外旅客は年度当初においては、国鉄の運賃値上が一時的に作用したことと、この時期における異常な悪天候の影響とによって、輸送量は伸び悩みを示していたが、その後の景気後退はほとんどこれには影響がなく、むしろ旅行シーズンの到来と相まって、季節的行楽客増大の現象が激化した。年間の輸送人員の伸びは、定期外が対前年度比国鉄1.2%、私鉄2.7%増であったのに対し、定期旅客がこれを上回り、国鉄7.3%、私鉄6.4%の増加を示している。
バス輸送は、下半期にわずかに増勢が鈍化したかにみえる程度で、全般的に新規路線の開拓、施設の増強、国鉄、私鉄よりの転移等によって好調に15.5%の増送を行った。
乗用車輸送量は、対前年度比16.9%増にとどまったが、この部門では、ハイヤー、タクシーが比較的伸び悩みを示したのに対し、自家用車が、小型低廉車の普及によって大きく伸長したのが目立った。しかし、いまだ大衆化の度合は低く、これらの自家用車のうちいわゆるオーナードライバーはごくわずかで、大部分が社用、商用のものによって占められている。
また航空輸送は、この年も好調に前年度に比し20%の増送を行った。
旅客輸送の全般的問題点としては、第2節で述べるように、輸送需要の都市集中と季節的集中が激化しており、この面におけるサービスの質の問題は、ますます深刻化している。
海外輸送
世界の海運市況は 第102図 (1)及び(2)の運賃指数の推移にみられるようにスエズ動乱時をピークとしてその後急下降を始め、昨年後半から下げ足をややゆるめはしたが、今日においても依然として低迷を続けている。この根本原因としては昨年より世界の景気が全般的に後退し、貿易の伸びが停滞を始めたことと、30年来大量に発注された新造船が相次いで竣工し船腹の増加がめざましくなり(32年における1000総トン以上の船腹増加量は約710万総トンで戦後最高)、しかも今後しばらくその勢いが衰えそうもないことの二点が挙げられる。一方邦船の最大の輸送対象となる我が国の貿易量も32年度前半はなお上昇を続けたが、年度初頭における一連の輸入引締政策の実施により9月頃から急速に輸入量の下降が始まった。また我が国外航船腹も一二次船や自己資金船の大量竣工により32年度間に実に72万総トン(戦後最高)と31年度末船腹に対し23%の増加を示した。
このような需要停滞と供給力増加により我が国貿易物資の運賃は、 第102図 (3)に示すように世界の市況の動きとはややタイム・ラグをおいて下落の道をたどった。この運賃低落が輸入量の減少、輸入価格(FOB)の低下とともに32年度後半における輸入額の激減をもたらし、国際収支好転の要因となったことは既に「貿易」の項に指摘した通りであるが、この輸入額の減少過程において運賃部分がどのような変化をたどったかをみてみると 第81表 の通りとなる。すなわち32年度の上期から下期にかけて通関輸入額はおよそ690百万ドル縮小したが、このうち輸入商品額(ただし保険額を含む)の低下でその3分の2の470百万ドルが減少したのに対し運賃の低落で3分の1の220百万ドルが減少した。これを輸入物資のトン当たり単価で比べてみると商品単価は4%の低落に過ぎないのに対し運賃単価は実に27%の低下を示しており、これが輸入量の減少(23%)と相まって国際収支好転に重要な役割を果たしたことが理解できよう。
次に邦船の輸送活動における不況の波及の模様について概説してみよう。32年度間の実績は輸送量において34.4百万トン、運賃収入において484百万ドルと31年度をそれぞれ11%、及び12%上回ったが、これを上期と下期に分けて見ると景気が転回した様が極めて明瞭となる。すなわち、上期においては、輸入が31年度に引き続き激しい増勢をたどったことと、運賃市況の低落にもかかわらず、石油、鉱石等大量貨物の長期運送契約及び定期船積貨物の運賃協定等の理由により実収運賃率がただちに下がらなかったことのため、 第82表 にみられるように輸送量は17.2百万トン、運賃収入は269百万ドルと対前年度下期比それぞれ9%及び15%の増加を示した。ところが下期においては、引締政策の効果が現れ輸入が激減したのに加え、輸出が伸び悩みを続け全体として貿易量が減少したが、就航船腹量が上期に比べ11%増加し積取比率が上昇(上期42%、下期51%)したことと、後に述べるように三国間輸送が増加したこと等の要因によって相殺され、輸送量は17.2百万トンと上期と同水準となったが、運賃収入は、運賃市況下落の影響が実収運賃面に波及してきたため、216百万ドルと上期に比べ実に20%の減少を示した。
また、32年度の貨物輸送活動の内容について特徴的な動きを拾ってみると、定期船の配船増加と定期船、不定期船の三国間進出を挙げることができる。32年度後半においては一般的に運賃率の低落がはなはだしくなってきたが、定期船運賃は比較的その程度が小さいため、遠洋三国間を主体とする航路に対して定期船の就航がめざましくなり、33年4月の定期船就航船腹量は前半ヵ年の間に33万重量トン増加し、同期間の全就航船腹の増加率10%をはるかにしのぐ16%の増加を示した。不定期船においても本邦貿易の減少と増加する船腹の圧力のもとに、かなりの船腹が三国間へ推し出され、33年度初頭においてはこの地域への就航量は34万重量トンに達し、1年前の6万重量トンに比べ大幅に増加した。ただ、タンカーについてはスエズ動乱時における荷主の長期用船が原因して実質的に船腹余剰が生じたにもかかわらず、この用船契約にしばられて三国間へあまり進出することはできなかった。以上の結果、32年度における三国間輸送の総量は31年度に比し16%と高率の伸びを示したが、運賃収入面ではわずかに3%の伸びに過ぎなかった。
最後に旅客輸送面についてふれてみよう。最近における我が国の出入国者数は逐年増加しているが、世界的に景気の後退した32年度においてもその傾向は衰えず、これを正規出入国者数についてみると年度間307千人に及び前年度に比べ52千人の大幅増加を示した。この結果32年度の本邦輸送機関の旅客輸送量は航空機42千人、船舶42千人(三国間輸送を除く)とそれぞれ対前年度比19%及び27%と高率の伸びを示した。一方、32年における外国人の来訪者数は、 第103図 にみられる通り128千人と31年に比べ13%の増加を示したが、中でも観光客の伸びがめざましく最近における経年増加傾向をそのまま受け継いでいる。
これら事実を総合するに外人来訪者を中心とする出入国者数は、景気の波動にそれほど影響されることなく今後とも伸びるものと思われ、さらにそれは新航空路線の開拓、ジェット航空機の採用、英国POライン太平洋横断客船の就航等によって拍車をかけられるものと予想される。最近外人来訪者の増加に対してホテルや国際空港等受入設備の不備が目立ちつつあるが、将来の需要増大に備え今後この方面への配慮が必要となろう。
通信
国内電気通信における景気変動の影響を電話事業収入についてみるならば、32年度も第1・四半期においては、前年度に引き続く好況を反映して前年同期比17%増と好調であった。しかし、金融引締政策の実施以降、収入の伸びは鈍化の傾向をみせ、前年同期と比較すれば、第2・四半期15%増、第3・四半期11%増、第4・四半期においては9%増となっている。加入者数が依然順調に増加しているにもかかわらず、このように収入増加率が鈍ったのは、電話の利用度が、5、6月を頂点として減勢に転じているためであって、第1・四半期には対前年同期比8%増であったものが、第2・四半期6%増、第3・四半期1%増、第4・四半期においては3%減と漸次減少する結果となっている。一方、加入電話は32年度24万架設されて、年度末における加入数は264万(電話機数にして389万個)となり、対前年度比10%の増加をみた。しかし、電話に対する需要は依然として旺盛で本年度中における新規の加入申込数は40万にのぼり、前年度より持ち越された加入申込積滞を加え、年間需要は88万を数えるにいたったが、供給はわずかにその27%程度を満たしたに過ぎず、ここ数年来増加を続けてきた供給不足数は、年度末ついに58万を超えるにいたった。また、公衆電話も対前年度比22%増と大幅に増加して、66千個となったが、その利用度は極めて高く、さらにその増設が強く要望されている。次に最近急速に即時化が進められている市外電話関係では、前年度札幌-福岡間の縦貫ルートを完成したマイクロウエーブが、32年度さらに南日本、裏日本への支線網を拡充し同軸ケーブルの新増設数が進んだこと等と相まって長距離即時区間は88区間(対前年度41区間増)、短距離即時区間1180区間(710区間増)となり、著しい増加をみせた。しかし、この即時化も一部大都市相互間またはその近郊諸都市間が主となっている状況でありその他では、今なお数時間の待ち合わせを要する区間が少なからず残されている。電話の年間総利用度数は144億度と前年度に比べ12%程度増加しているのに対して、電報通数は85百万通と前年度とほとんど変わらないが、オートメーション化に伴う会計事務の機械化等のための電信専用線の急増が目立ち、各種企業における近代化、合理化計画進展の一半を物語っている。また、へき地農山漁村の無電話部落に対する電話の架設計画も進んで、32年度中にはこの中約39百ヵ所に新設が行われた。
国際電気通信についてみると、商用通信を大宗とする国際電報は、戦後最高の通信量を記録した31年度に続いて32年度も4、5月は引き続く好況を反映して前年同期を上回る通信量を示したが、金融引締政策の実施により貿易活動が急激に縮小するや、通信量も急減し、さらに年度後半著しい伸びをみせた国際テレックスへの転移もあって以後回復せず結局年間対前年比7%減の370万通にとどまった。国際テレックスは31年9月に開始されたが、その経済性の認識が高まるにつれ利用も増加し、32年度は欧米方面の回線の新増設もあって7万7千コールと飛躍的に増大した、国際電話は電報同様年度前半やや活況を呈したが後半不振で前年度並みの17万度に終わった。
郵便事業については、景気後退の影響は少なく、各種とも年間を通じて増加し、国内の郵便物数は対前年度比7%増の55億通となった。特に業務用通信を主とする、第五種が対前年度比18%増を示したのは各企業のPR、販売活動が活発であったためとみられる。外国郵便物数は対前年度比13%増と順調に増加しており、戦後の経年的増加の傾向は変わらない。
次にテレビジョン放送は、32年度において、全国的なチャンネルプランの決定に基づき、予備免許が与えられ、全国49地区で108局の放送局が開設されることとなったが、これに伴い、マイクロ中継網の整備の促進が強く要請されている。現在全国でNHK19局、民間放送7局が放送を実施し、全国世帯の60%が聴視可能となっているが、35年度末全局完成の暁には、これが82%に及ぶ見込みである。受信契約者数も景気の後退にかかわりなく前述のごときサービスエリアの拡大及び受信網の価格の低下に伴い、増加傾向は著しく、ついに33年5月放送開始5年にして、100万台を突破し、対世帯普及率は5.5%となった。これを世界主要国に比較するならば、総数では第6位であるが普及状態はいまだ低位にある。なおカラーテレビジョンも実験放送の段階に入っている。ラジオ放送受信契約者数は、今年も約60万増加して1460万に達し、全国世帯の81.2%と高度の普及率を示している。これに対して放送施設の近代化がおくれているため、国際的な混信、難聴地域の増加、その他放送中断等の障害を惹き起こして、十分な放送サービスを提供し得ない現状にあるので、これが改善が望まれている。なお混信の防止、音質等の伝達上の利点を有する超短波放送が32年12月から実験放送を開始したがその普及は将来の問題に残されている。