昭和33年
年次経済報告
―景気循環の復活―
経済企画庁
総説
戦後経済の成長と循環
戦後経済における循環の特性
以上の説明によって戦後我が国の経済が高い成長率を達成しえた事情がほぼ明らかになったであろう。上昇局面における強い浮揚力と下降局面における下支え、すなわち下方硬直性とは両々相まって日本経済の戦前をはるかに上回る高い成長趨勢をもたらした。下方硬直性については 第24図 にみる通り、戦前は設備投資においても賃金においても景気下降期には前年に比べて相当大幅に後退しているのに戦後はほとんど大きな低下を示していない。一方戦争直後の特殊事情の影響が薄れるにつれて有効需要の浮揚力には若干の変化が認められる。戦後の成長率をしさいに検討すれば、 第25図 のように27年までは年平均12%であったものが、それ以降8%に低下して27年を境として屈折を示している。同図に示す通り、欧米諸国においても26年を境に成長率の一段の低下が看取されるがこれは主として復興建設のための需要が一応充足されたことに基づくものである。
屈折点を経た後、戦後経済の第二段階において復興需要に代って経済成長を高く支えた浮揚力は技術革新のための投資であった。しかし、投資ブームの反動過程としてこの技術革新に基づく浮揚力が若干弱まったのではないかと考えられるが、このことについては後にもう一度ふれることにしよう。
自動調節作用の効目が悪くなったことも戦後の循環の特性であろう。戦前は金本位制であったから国際収支の良否は金の流出入になって現れ、これに基づいて通貨発行高が伸縮するから、何らかの経済政策を用いずして国際収支の自動調節が行われた。しかしその反面景気の大幅な変動が避けられなかったのである。昭和6年、金本位制からの離脱によって管理通貨制になった後は、国際収支の順逆は一応外国為替資金特別会計の対民間収支を通じて、金本位制のときと同じような働きをするにもかかわらず、銀行貸出、あるいはその元となる日銀貸出による相殺作用が行われて、自動調節作用が働かなくなった。同じことは物価や金利の働きにもみられる。往年はいわゆる価格機構のみえざる手によって需給の調節がはかられ、金利の上昇と資本効率との比較によって投資を抑制する機能が働いた。しかし戦後は前にも述べた通りこれらの機能は、はやりにはやる企業者の投資意欲を抑制することができず、景気上昇の抑制要因が次々に現れたにもかかわらず、これをハードルを突破するように次々と乗越えてついに国際収支の悪化という固い壁に乗りかけ、引締政策によってねじ伏せられるまでは拡大が進んだのである。
戦後の経済変動において輸出、在庫投資、設備投資が国民所得の変動に寄与した比重を示したものが 第26図 である。これによってみれば在庫投資は変動率こそ諸外国に比して少ないが、国民所得に対する比率が大きいために景気動向に与える影響の大きいこと、設備投資は変動率も比重もともに大であるため、景気変動に及ぼす影響が顕著であること、また総体として輸出よりも国内投資の方が大きな影響をもっていたことがわかる。景気転換の原因が、世界景気によって左右されやすい輸出の動向よりも、国内でコントロールできるはずの投資にあることは考慮すべき点であろう。 第27図 にみる通り、輸入と設備投資、在庫投資の合計額の推移は、驚くべきほど高い相関関係をもっている。今後国際収支の動向をぼくするためには設備投資、在庫投資の動向に注目しなければならない。