昭和32年
年次経済報告
速すぎた拡大とその反省
経済企画庁
各論
金融
産業資金供給と銀行の役割
供給の状況
昭和31年度の産業資金供給実績(内部資金を含む)は、2兆5,817億円で前年度の1兆3,730億円に対し約9割の大幅増加を示した。そのうち設備資金が1兆2,359億円、運転資金は1兆3,458億円で、それぞれ前年度の8割、9割の増加であった。
次に設備資金の業種別供給をみると、電力2,010億円、化学1,013億円、繊維991億円、機械818億円等が目立ち、石炭鉱業を除けば、軒なみ前年度より増加している。このうち大幅に増えたのは、機械、繊維、鉄鋼、化学で、前年度の倍以上の増加であった。( 第128表 参照)
供給の源泉
次に、供給源泉をまず、内部資金と外部資金にわけてみると、内部資金は7,686億円、外部資金が1兆8,131億円、内部資金は前年比4.5割増、外部資金は15割増と外部資金の増加が大きい。
右のうち設備資金の供給では、内部資金が6,406億円(そのうち減価償却3,840億円)、財政資金789億円、株式1,889億円、社債662億円、貸出2,413億円、外資284億円の構成で前年度に対比してみると、株式、社債、貸出しの増加率が大きい。財政資金は「財政」の項でみたような事情から微増にとどまった。
銀行の役割
銀行は短期の運転資金の供給に最も大きな比重を占めたが、それだけではなく長期の設備資金の貸出し、あるいは株式社債の消化によって長期資金の供給にも顕著な役割を果たした。
設備資金の貸出し
先にみた産業設備資金の貸出し2,413億円のうち、銀行はその66%の1,589億円を占めた。しかし銀行の設備資金供給における役割をみるためには、貸出残高の増加でみるよりも、新規貸出でみた方がよりはっきりする。新規貸出は30年度に1,767億円、31年度3,387億円にのぼった。
社債の銀行消化
社債の消化状況をみると、個人その他の消化割合は漸次増加しているが、それでも 第129表 のように金融期間による事業債消化は31年度において全体の83.9%、なかでも全国銀行は64.5%を占めた。
株式
金融期間の持株は31年度に1,043億円増加しこのうち銀行は402億円を占めた。こういう銀行の株式保有の増加は、産業資金の株式による調達を円滑にする一つの支えとなった。しかも銀行は持株増加の他証券業者向貸出、証券投資資金貸出によっても株式消化に参加している。前者は年度間110億円、後者は114億円増加している。
銀行の役割を大ならしめた理由
産業資金供給における銀行の大きな役割は、31年度だけの特色ではなく、戦後一貫した特徴であった。ただ31年度は、それが特にはっきり現れたといえよう。次に、銀行の役割を大ならしめた理由をみよう。
貯蓄の銀行への集中と貸出の有利
その第一の理由は、国民の貯蓄の大きな部分が銀行に集中していることである。先にみたように31年度の個人の銀行預金増加額は4,471億円にのぼったが、同じ個人の貯蓄でも直接投資である株式は、約1,500億円(推定)、社債消化は186億円に過ぎない。このように国民の貯蓄が銀行に集中する理由としては、次の点を挙げることができよう。すなわち、我が国では戦前から直接投資の比重は低かったが、戦後、財産税、インフレーションによるいわゆる財産生活者の地位の低下と、一般的な所得平準化により、利子配当を目当てとする貯蓄の割合が減り、反面消費の繰り延べ、不時の支出等を見合とした貯蓄が増加したことである。また企業の金融的資産(主として株式)としての貯蓄は、最近やや回復する傾向を示してはいるものの、いまださほどの重要性をもたない。これは、戦後財閥解体が行われる一方企業は精一杯の伸び方をしたので、これらの貯蓄を増やす余裕がなかったことによる。なお右のような貯蓄の金融機関への集中は、信用組織の発達によって可能となっている。
以上のようにして貯蓄は預貯金の形態に集中しているが、これを受け入れた銀行はその運用方法として、株式保有の法的制限は別としても、株式は安全性の点で、社債は利回りの点で、貸出しより劣っているため、貸出しに運用することが最も有利といえる。もっとも企業としては資本構成の是正のため増資により、また資金の長期安定性の点で社債によって所要資金を賄うことを有利とする面があり、また銀行としても資産の流動性という点から社債を保有する必要もあり、そのことが、31年度にこれらの方法による資金調達を拡大したのであるが、採算面では企業としても借入が有利である場合が多い。それは増資の場合に配当負担を考慮しなければならないことと、借入金に対する支払利子が税法上損金とみなされることに基づく。また増資は、市場の状況によって難易の差が大きいので、まず借入によって所要資金を賄う場合が多いことも銀行の役割を大きくしている。
銀行の信用創造機能
銀行は以上にみたごとく、自己の手許に集中した資金を、貸出しを通じて企業に供給することによって、産業資金供給上最も重要な地位を占めているが、その資金は、本源的貯蓄だけによるものではない。貸出すことによって預金ができ、こうしてできた預金は引出されるが、他の銀行の預金となる。従って銀行全体としてみれば無から有を生ずるわけである。そしてこのような形で預金ができるのは、信用組織の発達にもよるところが大きい。しかしいずれにしてもこのいわゆる信用創造は支払準備の点で限度があるのが普通であるが、31年度には、銀行は最後には日銀信用に依存することによって、右の限度をこえて貸出しを行うことができた。そのようにして信用膨張が行われた事情は後述するが、このことが31年度の銀行の役割を極めて大きいものにしたことは争えない。特に31年度に都市銀行の日銀信用依存が増大したことは、信用創造による貸出しの大きさを物語るものといえる。