昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

各論

金融

昭和31年度の金融情勢

金融情勢の特徴

 昭和31年度の金融情勢の特徴は、当初の緩慢が5月から小締りになり、さらに暮以降繁忙に転じたことである。30年度の特徴が一貫した緩慢化基調であったのに対しこの変化は、誠に対照的であり、かつ急激であった。

 この変化を数字によってみると、市中金融機関の日銀借入金は、30年度には2,248億円減少し、年度末にはごく低金利の借入金を273億円残すのみとなったのに対し、31年度は逆に2,490億円増加し、年度末残高は2,763億円に達したのである。

 しかしこの変化は偶然に起こったものでない。30年度の金融緩慢化をつくりだした景気の回復と上昇局面が31年度には好況に発展し、これが金融を繁忙化させることになったのである。30年度の日本経済は世界景気の好況という環境で輸出増大の場を与えられたが、当時はまだ29年度のデフレからの立ち直り過程にあり、国内投資は緩慢なテンポで増加したにとどまり、資金需要も低調であった。従って輸出の増大は国際収支の受取超過となり、それが外為会計の支払超過を通じて金融緩慢をもたらした。しかも30年度には大豊作による食糧管理特別会計の大幅な支払超過も加わり、これが金融緩慢をさらに促進した。

 これに反し、31年度は、輸出も増加したが、景気の主役は増大した投資に移り、物価の強調、企業収益の増大、賃金雇用の増加等にみるように景気は好況の様相を深めた。また投資の増大は輸入を激増させ、31年度第4・四半期には、国際収支も大幅な支払超過となった。こうした経済実体面の動きは金融面に当然反映するわけで、銀行の貸出しは投資増大に伴って膨脹し、一方預金も増加したが、好況による一般財政の引揚超過、輸入超過による外為会計の引揚超過(「財政」の項参照)、及び所得、消費の増加を映ずる現金(日銀券)需要増大の結果、銀行の日銀借入は急増し、金融は著しく繁忙となった。

 以上のように金融情勢の変化は景気局面の変化に基づいているが、その反面、銀行間の競争、金利の低下、金融政策の運用のなかには弾力的でない面もあったことなど金融側の事情が、企業の投資を助長し、景気の展開を急速化したことも無視できない。

 かくて32年にはいって急速に露呈した国際収支の悪化に対処するため3月から金融引締政策が実施されることになった。

金融繁忙の様相

 金融が繁忙となるのは、企業がその増大した資金需要を銀行に依存したため銀行の貸出しが増加し、銀行は貸出しを預金の範囲内で賄えず、手許資金の不足を生じ、市場資金や中央銀行の貸出金に依存するようになることである。そこで、まず銀行の貸出しからみることとしよう。

貸出しの膨脹

投資の増大と銀行貸出

 昭和31年度の銀行貸出は、 第112表 のように1兆428億円増加し、前年度の3,318億円に比し3.1倍となった。このうち都市銀行は6,946億円で前年度の4.2倍、長期信用銀行は723億円で1.7倍、地方銀行は2,348億円で2.1倍であった。このように貸出しが大幅に増えたのは、企業の資金需要が旺盛であったからである。これらの資金需要を個々に分析してみると、そこには各種各様の要因を見出すことができよう。しかし、年度間の企業全体の資金需要をまとめてみると、結局、投資が急増し、しかもその外部資金調達の割合が増大したことの一事に尽きるのである。

第112表 全国銀行資金需要

 第97図 にみるように、31年度の法人企業の投資は前年度に比較してはもちろん投資景気といわれた28年度のそれよりもはるかに大きかった。そして投資が大きければ大きいだけその外部資金の依存額も増大したのである。30年度に比較してみると、投資の総量は2倍、そのうち外部資金依存額は3.2倍の増加となった。そしてこの外部資金の大部分が銀行貸出によって調達されたのである。従って銀行貸出の増大の理由を明らかにしようとすれば、投資とその外部資金依存増大の理由にさかのぼる必要がある。既に「鉱工業生産、企業」の項で述べたように、投資の増大は、次のようにしておこった。すなわち、第一に設備投資は30年度の輸出景気から必然的に発展した投資増大に、技術革新のための投資が重なり、これらの投資が電力、鉄鋼の基礎財への需要を増大させこれら部門の投資をも増大させ、これが逆に投資財部門への需要増加ととその投資を呼ぶというように全般化し、しかも、技術革新、基礎財部門の投資にみられるように大規模かつ長期化したので投資は大量化したのである。またこのような投資需要の増大は投資財の価格騰貴をもたらし、設備建設費も上昇した。第二に設備投資の増大に伴って原材料、仕掛品の在庫投資も増加した。第三に好況による消費需要の増加は、流通部門の製品在庫投資を増大させた。こうして31年度の法人企業の設備投資は前年度に比し96%増加して1兆1,860億円、在庫投資は124%増加して5,950億円となった。

第97図 法人企業投資と銀行貸出の増加

 投資の外部資金依存の増大は、このような投資の増大の当然の結果であるが、さらに投資の大規模化、長期化による設備建設期間の延長、機械受注輻輳による納期の遅れ、設備完成の不均衡等によって、投資資金のねている期間が長くなり、操業が不十分であったり、遅れたりしたために予定した減価償却、収益をあげ得ずに、外部資金に依存したままになったという事情が加わっている。

 以上のごとく、31年度の貸出しの膨脹は投資とその外部資金依存の増大によるものであったが、銀行は個々の企業のその都度の資金需要に応じて貸出すので、全体の投資の状況によって貸出しを審査するわけではない。従って個々の貸出しが全体の投資にどのように寄与していったかを次にみることにしよう。

貸出増加の具体相

 先にもふれたように個々の企業のその都度の資金需要は各種各様であった。もちろん31年度は投資が大幅に増加したので、直接そのための貸出しも目立って増えたがその他決算資金貸出、内需増大に伴う資金、現金決済資金、問屋金融資金などの形で貸出しが増加し、これが間接に投資を増大させた役割も無視できない。

1)設備、原材料購入の資金需要

 設備の新増設や、これに伴う増産のための原材料購入資金の貸出しは直接に投資のための貸出しであり、主として貸付金の形で貸出される。31年度の貸出しをみると、 第98図 のように貸付金の増加は、前年度の2,322億円から6,747億円に増えたが、これはこうした資金需要の増加を一因としている。設備資金貸出が271億円から1,618億円に増加したのはそのよい例である。また主として原材料輸入のための輸入手形決済資金の貸出しも前年度の130億円の減少とは逆に366億円の増加に転じた。

第98図 全国銀行貸出、使途、形態別増減

2)決算資金需要

 企業収益の増大に伴う法人税、賞与、配当等の決済資金需要が増大し、これは、5、6、11、12月の貸出しの大幅な増加の一因となった。企業の収益はその都度追加資本として経営資本の循環に組込まれ、次の循環における収益の増加に役立っているのだから、資本の循環を円滑に行うためには、これらの決算資金を銀行からの借入金に依存しなければならないわけである。銀行も収益を増大している企業に対しては積極的に貸応じた。こうして企業は収益をあげれば投資にあて、決算資金は銀行から借りるという形で、一方では投資が増加し、他方では決算資金を媒介にして銀行借入が増加したのである。

3)内需増大による資金需要

 好況により内需は投資、消費ともに増加し、企業の売上げはそれによって増大した。同じ売上げでも輸出の場合は船積後2、3週間以内に決済されるが、国内では信用による売買が主である。従って売掛債権が増加する。その場合、仕入、生産などのための資金は買掛で賄えない限りその一部を銀行に依存せざるを得ない。こうした資金需要による貸出しは直接に投資に金がついたわけではないが、買掛によって賄った企業の投資の増加に見合っているわけである。

4)現金決済のための資金需要

 好況になって原材料に対する需要が強まるとともに、鋼材、原糸などのメーカーの販売条件がよくなり、需要者は期間の短い手形や現金で買う必要が生じ、またそうした方が金利の関係で有利ともなった。そのため銀行から借入をして現金決済資金にあてることとなった。一方メーカー側は売上代金の回収が増大したため、投資の一部を銀行に依存しないでも賄うことができた。

5)問屋資金貸出の増加

 31年度の貸出しのなかには、商社が問屋機能を果たすための貸出しや、商社の系列メーカーに商社を通じて金を流す貸出しも増加した。これらの貸出しは商社の設備投資や在庫投資にはならないが、その系列メーカーの投資の増加に寄与した。

 このように、銀行貸出はその都度の企業の資金需要に応じてでていき、それが結果的には大量の投資をもたらしたのである。

部門別貸出状況

 31年度の貸出しは、増加率でみると、前年度の11%に比して31%と大幅の上昇を示した。次にどの部門で貸出しが伸びたかをみよう。

 まず製造工業と卸小売業をみると、製造工業は前年度にわずか7%しか伸びなかったのが、31年度は投資需要の増大を反映して31%も増加し、貸出増加合計の47%を占めた( 第113表 参照)。卸小売業では、前年度も輸出景気のため、資金需要が比較的強く18%の伸びを示したが、31年度は好景気を反映してさらに著しい36%の増大となり、その構成比は前年度よりは低下したが、なお35%に達した。この増加要因には、百貨店の増設競争、商社の問屋機能及び系列化のための資金、商品在庫や売掛の増加に伴なう運転資金需要が挙げられる。商社の借入金は、既に31年9月末で1社当たり100億円以上のものが9社にのぼった。

第113表 主要部門別貸出増加額及び同構成比

 次に運輸公益部門では23%増加した。これは海運、電力の設備資金の他、私鉄の設備つなぎ資金の増加によるものである。

 さらに製造工業の主要業種をみると、化学肥料、機械工業、紙パルプなどの業種の増加率が著しく、ついで繊維、食料品もかなりの伸びを示した。これらの業種では主として合理化や新技術導入の設備投資が、大量にのぼり、さらに綿紡のように、いわゆる駆け込み増設も行われ、また原材料、仕掛品あるいは製品在庫も増加したので所要資金が増えた。反面、鉄鋼では、売上収益が増加し、販売条件も改善され、資金の回転が円滑であったので、貸出しは微増にとどまった。( 第99図 参照)石炭でも同様の理由から貸出しは減少した。

第99図 全国銀行貸出年度別増減率

 次に企業規模別に、資本金1,000万円以上の大企業と未満の中小企業に分けて貸出増加額をみると 第114表 のように31年度は好況の浸透により、大企業も中小企業も資金需要は旺盛で、大企業で6,690億円、中小企業で3,623億円と両方とも前年度に比し、5.5倍、1.9倍と著増し、この点過去2年の動きに比して特徴的である。すなわち、29年度は大企業への決済資金、継続設備資金貸出を反映して92対8と大企業への融資が圧倒的に集中し、30年度は逆に大企業の資金需要は停滞し、わずかに中小企業の手形割引需要の増加があったにとどまったので38対62と中小企業への比率が大きくなった。それが31年度には65対35となった。31年度を半期別にみると上半期には前年度の金融緩慢下の貸出競争の余波があり、全体の42%が中小企業向け貸出しにあてられ、大企業は58%にとどまった。それが下期になって大企業の資金需要は激増したので、大企業は全体の70%を占めるに至った。こうした大企業の資金需要の増大が、先にみたように都市銀行の貸出しを大幅に増加させることになったのである。

第114表 全国銀行貸出規模別増加額及び同構成比

 なお好況の進展は中小企業の資金需要の増大を通じて中小金融機関の貸出しをも活発化せしめた。相互銀行、信用金庫、同組合の融資の増加額は、30年度の985億円から31年度には1,469億円に5割増加し、また中小企業公庫、国民金融公庫、商工中金の貸出しも30年度の255億円増から4割増えた、356億円増となった。かくて銀行貸出を含めた中小企業金融増加額合計は30年度の3,153億円から5,448億円へ7割増加した。( 第115表 参照)

第115表 中小企業金融の増加状況

 このように中小企業向け貸出が増加したのは好況が末端まで浸透し、中小企業の経営が好転し投資意欲が増大したからではあるが、その反面原料高やその購入条件の悪化による資金需要も増加した。

第100図 鉄鋼会社の売上回収状況

預金の増加

 31年度の銀行預金は1兆789億円増加した。しかし銀行手許小切手手形を差引いた実質預金は8,375億円の増加で、これは前年度の6,209億円を35%上回った。このうち都市銀行は5,424億円で前年度比26%増、地方銀行は2,671億円で60%増であった。

 預金増加を預金種類別にみると 第101図 のように短期性預金も長期性預金もともに増加しているが、銀行小切手手形の増加も著しいので、これに見合うだけの短期預金を差引いてみると、実質預金のなかでは短期預金は2,927億円の増加で長期性預金の増加4,957億円の方が大であった。短期性預金のなかでも一般の貯金が行われる。普通預金の伸びは1,623億円と大きい。 第116表 によって上、下期別にみると、長期性預金は下期にも順調に伸びたが短期性預金は鈍化の兆しをみせている。一般に貯蓄性預金の増加は順調であったといえよう。従って金融繁忙化は、貯蓄が悪かったためではなく、貯蓄はよかったが、それ以上に投資、貸出しが増加したからである。

第101図 全国銀行預金増加状況

第116表 全国銀行預金種類別増加状況

 次に預金の増加を法人と個人に分けてみよう。

法人預金

 第102図 にみるように、法人預金は30年度上期を底に、30年度下期に2,374億円(小切手手形を調整せず)、31年度上期に3,131億円、下期に3,246億円と増勢をたどっている。種類別にみると、その大部分は短期性預金の増加である。

第102図 法人、個人預金増加状況

 法人預金の増加のうち特に短期性預金の増加が大きいのは、一部に小切手手形との両建もあるが、企業の経営規模が拡大し、企業の商取引に必要な預金通貨が増加したことが大きな要因となっている。

個人預金

 個人預金も 第102図 のように30年度上期の961億円増を底として以後増勢に転じ、31年度上期に1,913億円、下期に2,568億円増加した。

 個人預金では短期性預金も増えているが、法人預金とは逆に長期性預金の比重が高い。31年度下半期においては増加分の約4分の3は長期性預金であった。このような個人預金の伸びの好調は主として個人の貯蓄の増加によるものであろう。貯蓄の増加は個人の可処分所得が増加する一方、消費者物価が比較的安定していたので、貯蓄性向が高かったからである。( 第117表 参照)

第117表 個人可処分所得に対する貯蓄性向

 なお、個人所得の貯蓄化傾向は、郵便貯蓄等の好調にも現れている。郵便貯金および簡易保健年金の31年度の増加額は1,211億円で、前年度の32%増であった。

 しかし、さらにさかのぼって個人所得がなぜ増えたかをつきつめていくと、投資増大によって有効需要が増加し、これに伴って生産が増え、賃金雇用が増加し、一般の所得もこれに潤ったからで、投資増大が個人所得増大の窮極的背景となっていることが見逃されない。そして投資の増大は貸出しの増加に支えられた。従って、預金が増加する前提には貸出しの増加があったわけである。そして貸出した資金は、現金通貨の増発や財政の揚超ともなって、全部が全部預金には戻らなかった。従って銀行の手許は逼迫せざるを得なくなった。

銀行資金の逼迫要因

 31年度には、こうした銀行資金の逼迫は大別して二つの面からおこった。 第103図 にみるように一つは財政面から、二つは通貨流通面(日銀券増発)からである。財政の揚超は、一般財形と、外為会計の二つからなっている。前者は、好況による企業収益、個人所得の増加などの結果であり、後者は輸入増大による国際収支悪化の反映である。これらの揚超は市中の預金を引き出し政府の預金として日銀に預入れることだから、再び市中の預金には戻ってこない。31年度の一般財形は1,000億円、外為会計は634億円の揚超となった。

第103図 銀行資金の逼迫要因の年度間累積状況

 第二に、通貨需要も増大した。しかし、商品流通が企業間の取引に限られているときには預金通貨の増大で十分である。それが日銀券の需要となるのは、大きくいって賃金雇用等が増加し、豊作等による農家所得が増え、消費が増加する場合である。給与の支払、消費支出、小売取引は大部分が現金で行われるからである。

 31年度には、個人所得が好況によって増加し、そのうちそのうち貯蓄に回った分も大きかったことは既にみた通りである。しかし以上のような事情から現金通貨も増加せざるを得ず、日銀券の年度間の増発は914億円にのぼった( 第118表 参照)

第118表 通貨の状況

 以上のように、財政の揚超、現金需要増大によって銀行の金繰りは逼迫し、銀行は日銀信用に依存することになった。

銀行の金繰り

 金融繁忙の度合 第104図 にみるように都市銀行に特に強く現れた。これは都市銀行の貸出しが都市銀行と密接な取引関係のある大企業の資金需要を反映して最も大幅に増加したことに基本原因があるが、さらになお二つの事情も無視し得ない。第一に一般財政にしても外為会計としても、その引上げは都市銀行の民間預金の引上げになる部分が大きいのに対し、地方銀行では、地方財政費、公共事業費、義務教育国庫負担金等の財政支出によって間接、直接に預金が潤される度合が大きいこと、第二に、大企業と取引関係がうすい地方銀行では貸出しも自ら預金の範囲内で行うのに対し、都市銀行はその全国的支店網と取引先企業の系列化によって貸出した金が自己の支配網の間を転々流通している限り信用創造が可能であると同時に、貸出競争に陥りやすく、その結果手許資金の限度を越えて貸出す傾向があったことである。

第104図 31年度銀行別資金需要

 次に都市銀行を中心として銀行の金繰りをみよう。

市場資金の調達

コール資金の調達

 都市銀行のコール資金月中平均取入残高は、東西両市場で31年3月の534億円から32年3月には917億円に増加した。

手形再割引の増加

 手形再割引(都市銀行の割引手形を農中や地方銀行で再割引)による資金調達も増加した。農中の手形再割引残高は31年3月末の509億円から9月末563億円、12月末834億円に増加した。もっとも農中の余裕金は季節性が強いので、3月末には、その再割残高も、337億円に減少した。

第119表 コール資金出手、取手別月中平均残

日銀信用による調達

政府短期証券の売却

 30年度の金融緩慢によって日銀借入金急速に減少し、30年末には外国為替引当貸付、輸出前貸手形再割引のごとき低利の借入を残すのみとなり、都市銀行も他の金融機関と同様にその過剰資金を利率の低い政府短期証券の買入れにあてた。

 しかし31年5月頃から企業の資金需要が増大してくると、銀行はまず採算上不利な政府証券を売却して、資金を捻出したため、市中手持政府短期証券は、31年6月にほとんど手放された。( 第120表 参照)

第120表 市中銀行の政府短期証券保有状況

日銀借入金の増加

 日銀貸出は 第121表 のように31年度に2,490億円増加したが、そのうちの2,139億円は都市銀行に対するものであった。銀行が日銀借入を増加させる場合、二つの面からの制約がある。一つは金利、一つは担保である。金利については基準公定歩合が日歩2銭であったが、二次高率は基準歩合の4厘高で市中貸出しと逆鞘になった。30年8月に金融の正常化をはかるため原則として例外的なものとされた高率適用は、31年8月に改正され、基準歩合及び第一次高率適用限度額の圧縮がはかられた一方、担保制度についても同時に改正され、従来担保扱いにされていた優良大企業の並手形等が扱いを例外的にされた。従って金融が繁忙化するにつれて、日銀借入が増え、銀行の借用金コストを増大させたが、下期に貸出しの急増したメーカーの輸入原材料の取引資金などの手形が日銀借入の担保とならなくなったので、担保繰りがより切実な問題となった。銀行が異常な高レートをおかしても市場資金の調達に奔走したのはこうした担保事情によるものである。

第121表 日銀貸出の推移

資金運用部の公社債買入

 「財政」の項にみたように、財政の揚超による銀行金繰りの逼迫を緩和するため資金運用部の市中手持金融債及び公社債買入れが31年12月に80億円、32年1~3月に620億円行われた。ただし、これは日銀借入の担保の入っている金融債等の買入も一部にあったのであるから、高率適用の緩和にはなっても全部が担保繰りの緩和になったわけはない。

好況と金融市場

 好景気の資金需要の増大が銀行の金繰りに与えた影響は既にみたところである。次に金融機関相互の短期金融市場及び、長期資金(資本)市場が好景気下にどのような動きをしたかみてみよう。

短期金融市場の動向

 31年度の金融情勢の推移は、コール市場にもっとも敏感に反映し、 第122表 にみるように市場資金月中残高は、31年3月の734億円から次第に増加して32年3月には1,189億円に達した。主要な取手は先にみたように都市銀行であった。出手としては地方銀行の他、信託銀行、相互銀行、信用金庫の増加が目立った。本来コール市場が短期余裕金等支払準備金の運用市場であるが、取手の恒常的資金不足のため、月越もの、期日ものなど長期ものの取引が増加し、出手にとってもコール・レートの異常な高さのため一種の収益市場化するに至った。コール・レートの推移をみると、31年4月には単純無条件レート(中心)は1銭4厘であったが、8月には2銭1厘に上り、12月には2銭5厘、32年3月には2銭9厘となり、市中貸出金利はもちろん日銀二次高率適用金利をもはるかに上回った。先の資金運用部の公社債買入はこうしたコール・レートの暴騰を冷却することをねらいとしていた。

第122表 コール資金残高(合計)及びコール・レート(東京)推移

長期金融市場の動向

株式市場

 株式流通市場は6月頃まで金融相場といわれ、低金利の進行、金融機関の積極的大量株式投資によって大幅な株価の上昇をみた。その後金融の小締りからコール・レートは上昇し相場は一時停滞した。しかし下半期には、スエズ動乱の思惑もあったが、基本的には企業収益の上昇によって業績相場となり、月中ダウ平均株価指数は31年3月の444、6月の502が32年4月には587に上昇した( 第123表 参照)。一方、発行市場は上半期には銀行増資を除けば比較的停滞的であったが、下期には設備投資の増加、企業収益の上昇などにより株式発行が増加した他、増資減税特別措置、資本充実法による増資期限(32年1月及び3月)のために12、1月に集中的な増資が行われた。

第123表 株式売買市場の推移

 31年度の株式保有状況をみると、金融機関(投資信託、信託銀行を除く)と企業の持株が増加したことが特徴的である。このことは、資産運用方法としての保有並びに持株による取引系列の強化を反映するものといえよう。

第124表 株式発行高

第125表 株式所有者別分布状況

社債市場

 上半期の起債(1,982億円)は、金利の低下を反映して借替えや、借入金返済の事業債が多かったが、下半期には新規設備投資のための事業債発行が著増した(2,202億円)。起債条件は4月、8月に改訂され、応募者利回りで30年12月末の8.2%から31年8月に7.4%に低下した。8月の改訂に際しては、起債条件の自由化が18年ぶりに実現された。従って金融が繁忙となり、最近は金利も上昇したことが起債条件に反作用を及ぼすことも考えられるが、32年まで発行条件は変っていない。社債の消化状況をみると、下半期には従来の大きな消化先であった地方銀行よ相互銀行、信用金庫はコール市場への資金放出増大を反映して、その比重が低下し、反面大銀行の消化が増大することとなった。

 また、社債売買市場も31年4月に11年ぶりに再開されたが、個人の社債消化がなお不十分で、本券発行が少ないことなど売買必要な条件にめぐまれていないため、金融機関の一方的な買(金融緩慢時)あるいは、売(金融繁忙時)になるので市場の成立が難しく、一日平均の売買高は1ないし2,000万円に過ぎない。

第126表 起債額及び事業債利回

第127表 産業資金供給状況(純増)


[次節] [目次] [年次リスト]