昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

各論

交通・通信

増加した国際旅客

 世界的な好況を反映すると同時に航空機の就航回数の増加、新造旅客船の就航による交通手段の増備、運賃割引率の引上げないし運賃分割後払旅行制度の実施等によって、国際的な旅行者数は著しく増加した。国際旅行者数の増加は欧州諸国間、北米、中米諸国間等の各地域においてもみられたが、大西洋及び太平洋横断旅行において顕著なものがあった。各国がドル収入の貴重な財源(1955年における米国人旅行者の欧州における消費額427百万ドル)として重視し、かつ我が国の来訪外国人旅行者の50%以上を占める米国人の1956年における海外旅行者数は760千人で、前年に比べて14%の増加を示した。

 我が国を中心とする国際旅行者の動きをみると、31年における我が国の出入国者数は332千人で、30年の308千人に比べて8%の増加となっており、このうち外国人入国者数は113.5千人(対前年比112)であった。この増加は世界的な旅行者の増加傾向と軌を一にするものであるが、主として太平洋における輸送力の増加、国際的催物の本邦における開催並びに旅行市場における訪日熱の高まり等によってもたらされたものである。

 旅客輸送実績を輸送機関別にみると、航空機167千人、船舶165千人となっており両者の分担率は、航空機53%、船舶47%でほぼ同率であるが、これを国際旅行のメインルートとなっている太平洋横断輸送についてみると航空機70%、船舶30%となっており、数年来航空機の割合が増加する傾向が示されている。これは船舶の輸送力が戦後ほとんど増強されていない反面、航空機のそれは逐時増加しているためである。31年における太平洋横断の船舶の輸送力は、片航年間約26千人であるのに対して、航空機のそれは、約46千人であるが、その旅客搭載率はともに80%程度で、大西洋における航空機の62%、船舶の65%に比べて著しく高水準にある。31年には12社の外国航空会社が我が国に乗り入れ、年間2854往復の輸送を行った。同年における我が国航空機の利用者数は36千人(対前年比153)であり7767千ドルの運賃収入をあげたがその総輸送人員に占める割合は15%(前年実績13%)であった。太平洋横断旅行者輸送においては16千人を輸送し、総輸送人員の21.5%(前年実績18.7%)を占めた。同年にバンコック線(週2便)の開設、サンフランシスコ線の週1便増発等我が国航空網、航空輸送力の増強が行われたが、新機材の購入に立ち遅れ、外国会社では既にDC-7C等の新鋭機を就航せしめているにもかかわらず、我が国では在来機種であるDC-6Bを使用している状況である。また同年における邦船の旅行者輸送量は、23千人(対前年比109)で2,892千ドルの運賃収入をあげたが、その過半数は沖縄航路の旅客及び南米向移民であった。他方太平洋の国際旅行者輸送に従事した我が国の旅客船は移民船4隻を含めて5隻(定員6004人)で、その輸送人員は78千人で、外国旅客船による輸送人員の37%に当たり、移民輸送を除くとわずか13%を占めるに過ぎなかった。

 このような輸送量の増大は、同時に来訪外国人旅行者数、すなわち国際観光客数の増加を意味するものである。31年には一時上陸客43.8千人、滞在客、69.7千人を数えたが、30年に比べて前者が2%減少したのに対して、後者は19%増加し滞在客の増加が顕著であった。

 滞在客中の51%、35.6千人は米国人旅行者であったが、これは極東向米国人旅行者の36%、欧州向米国人旅行者の6%に当たっているに過ぎない。また31年における外国人旅行者の推定消費額は55百万ドルであり、これは29年の38百万ドル、30年の45百万ドルに比べて、各々45%、22%の増加を示している。

 世界的な好況の持続並びに米国の海外旅行奨励策とによって、国際旅行者は年々増加し、今後もこの傾向が継続するものと考えられるが、前述のごとく我が国を中心とする国際旅行者輸送に占める我が国の輸送力は著しく劣勢であり、この増強が今後の課題となっている。しかしながら多数の旅客船を戦時中に喪失し、現存するのは老朽船1隻という状況で、これが海上輸送力の増強を著しく困難なものとしており、航空輸送力の拡大については、ジェット機時代への布石も一応なされているが、この分野では航空搭乗員の不足とその養成並びに空港整備の問題が輸送力拡大の癌となりつつある。また来訪外国人旅行者の増加は、同時に国内受け入れ施設の整備と近代化を要請するが、既に宿泊施設の不足が露呈されつつあると同時に、一般的な国際旅行者数の増加傾向にかかわらず、太平洋における旅行経費の割高などが、米国における潜在的旅行者の我が国への誘致を阻害していることは見逃せない。

第79図 国際観光客数推移


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]