昭和31年

年次経済報告

 

経済企画庁


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金融

昭和30年度の金融情勢

金融緩慢化の筋道

 昭和30年度の金融情勢は戦後久しく続いたいわゆる慢性的金詰まりとは対照的に、金融緩慢化の進展であった。金融緩慢化とは現象的には預金が貸出しや有価証券投資などの資金運用を上回って預金超過となることであり、換言すれば貸付資本が過剰に向かうことである。それではなぜ、戦後の慢性的金詰まりが30年度になって急に金融緩慢に変わったのであろうか。

戦後の金詰まりの解消過程

 戦後の金詰まりは、同じく資本の不足といっても、大体動乱までの復興期の不足は資本の蓄積が著しく低かった反面、戦後の生産再開と固定資本の復旧ないし新設のための資金需要が累加したことに基づくものであった。しかし動乱以降過剰生産と滞貨融資が現れ出した27、28年頃のそれは、生産の拡大継続のために必要とされた資本不足の他に、滞貨の増加や商品の値下がりのためにあてにしていた決裁ができなくなって、その決裁資金需要をみたす資金が加わった。このように戦後の金詰まりは、経済復興と発展のためのインフレ政策、それによる現物資本の強制的蓄積、あるいはその後の過剰生産のなかに生まれたものであった。

 28年秋以降のデフレ政策は、以上のような戦後の資金需要が、インフレ・マネーによって賄われ、その結果国際収支の逆調をもたらした反省からとられたものであった。このデフレ政策によってインフレ・マネーの供給がとまり物価が次第に安定ないし低落していくに伴って、一方では、企業のインフレ・マインドが消え去ってゆき、他方では正常な資本の蓄積が促進された。すなわち生産資本は量的にも質的にも拡充され、生産余力の発生、投資の鈍化などに伴い、資金需要は次第に熾烈の度を低め、資金蓄積の進展と相まって、金詰まりの声は漸次薄れていった。

金融緩慢化の背景

 輸出は年度初来増大傾向をたどり、これが景気の回復と上昇のテコになった。

 しかし景気上昇(回復)が始まったからといって、金融はすぐに逼迫するわけではない。なぜなら通常、景気停滞期の場合は経済活動が縮小して生産及び商業にあてられていた資本が遊休化して預金化される。景気回復期の場合には、企業はまだそれほどには銀行信用に依存しないですむ。それができるのは一方で取引が増大し、物価も上昇線上にあるが、他方では商業手形の期間は短期で、流通も円滑だし、また生産には弾力性があり、企業資産は流動化し、在庫の回転率は上昇し、利潤も増加するなどの諸事情がでてくるからである。

 しかしこれだけでは30年度の金融緩慢化、特に景気上昇がはっきりしてきた下期に入って、緩慢化が逆に進行したことは理解できないだろう。

 その基本的原因として見落としてはならないことは、輸出が国内市場の面からだけではなく、海外の好況に強く刺激されて急増し、景気が上昇したのに対して、質的、量的な輸出余力が既に貯えられており、動乱ブーム時のような投資の増大を引き起こさずにすんだからだ。輸出超過が続くということは、物を売って買うのが少ないことであるから、それが投資の増加を引き起こさないとすれば、国内的には貯蓄超過が起こらざるを得ないわけである。

 ちなみに、朝鮮動乱当時の昭和25年度は輸出が急増し、外為会計も巨額の散超であったにもかかわらず、一方で投資が増大し、物価も上昇して貸出しが増加したので、 第86表 にみるように金融緩慢とはならなかった。

第86表 金融緩慢と財政資金・日銀貸出・日銀券増減

外為会計の散超等と金融緩慢化

 この場合外為会計が累増した外貨を日銀から調達した資金によって買い上げ、金融市場に対し大きな資金を供給したことは、輸出超過をそのまま金融緩慢化につなぐ結果となった。さらに豊作に基づく食管会計の散超が金融緩慢化を追加的に大きくした。

 だが、30年度の金融緩慢化は年度間を通じて一様なものではなかった。上半期はいわば潜在的金融緩慢化の時期であった。輸出増大を契機として金融機関には多くの資金のゆとり、つまり余裕金が生まれたが、それは日銀の借入金の返済にあてられたために、表面的には金融緩慢化は進まなかった。

 しかし下半期になると、景気がはっきり上昇過程に入って企業の資金需要は漸次増えてきたために金融機関の余裕資金は幾分減少傾向を示しはじめた。しかし、一方で日銀借入金返済が底をついてきたので、余裕資金は後に述べるように、次第に運用の方途を失った過剰資金となり、金融緩慢化が表面に現れてきた。それはコール資金のだぶつき、金融機関の短期証券購入及び日銀預け金の増加などの他、金利の急激な低下にみられた。

金融緩慢化の様相

 まず数字的にみると、 第87表 のように金融緩慢化を現す余裕資金(実質預金、債券増-貸出、有価証券投資増)は、前年度から30年度に入ってさらに拡大した。すなわち全国銀行の実質預金は上半期に2,927億円、下半期に3,695億円増加した。これに対して貸出し及び有価証券投資は上半期に2,927億円、下半期に3,695億円増加した。これに対して貸出し及び有価証券投資は上半期1,504億円、下半期2,983億円の増加にとどまった。かくて余裕資金は上半期に1,423億円、下半期に712億円増加した。次にこれらの中味について、それぞれ検討してみよう。

第87表 金融緩慢化の実態(全国銀行)

貸出し

資金需要の内容

 まず貸出し内容についてみると、30年度の資金需要の性格は、それ以前の資金需要に対比して対照的である。28年当時までの資金需要は、経済の拡大に必要な増加運転資金、設備拡張資金と、こうして拡大された経済を支えるために必要とされた滞貨救済資金や決済資金需要などが累積されたものであった。29年度には、主として決済資金と継続設備資金需要がこれに代わった。これに対し、30年度の資金需要においては、商業資金需要が特徴的である。

 これを映じて貸出しの種類も、 第88表 のように28年度は割引手形も増加したが、貸付金はさらに増加し、29年度は貸付金は前年度同様に増加したが、割引手形は微増にとどまった。これに対して30年度の貸付金の増加額は前年度の約8割にとどまっているが、割引手形の増加額は商取引の増加を背景にかなりの増加を示し、29年度の傾向と逆転している。しかもこの割引手形の増加も主として夏から秋にかけて集中したものであった。

第88表 全国銀行貸出増減額の推移

 また貸出増加額の使途を設備資金と運転資金に分けてみると、運転資金が全体の92%を占め、設備資金の割合はわずか8%と少なかった。金額でいっても、銀行の設備資金貸出は30年度は271億円の増加にとどまり、29年度の増加459億円の6割に過ぎない。しかし日本開発銀行の調べによる、内部資金を含めた30年度の産業設備資金供給総額は5,989億円で、29年度より12.9%増加している。これは主として内部資金が減価償却や社内留保の増加によって28%も増加したからである。その他、外資による設備資金調達も増加している。また投資が増加した部面においても、30年度にはまだ発注段階にあるものが多く、支払のための資金調達は相当部分31年度に繰り延べられた。こうしたことが設備資金の貸出し増加が多くなった主な原因であると思われる。

 次に第90表によって企業規模別の貸出し増加額をみると、資本金1,000万円未満のいわゆる中小企業に対する全国銀行の貸出しは30年度に1,912億増加し、それ以上の大企業向けは1,189億円の増加にとどまった。このことは29年度が主として大企業向けの貸出しに限られ、中小企業向けが161億円の微増に過ぎなかったのに対し、対照的であり、この点も30年度の貸出しの大きな特徴の一つであった。なお中小金融機関の貸出しも30年度は29年度に対して2割4分の増加となっている。このように、中小企業向け貸出しが30年度に増加したのは、景気の回復に伴う中小企業の在庫の調整及び設備投資の増加によることの他、大企業の資金需要の停滞から、銀行の中小企業への貸出態度が次第に積極化したことによるものと思われる。銀行の中小企業向け貸出増加に伴い、その口数も30年度には7万5千口増加している。反面大企業では、資金繰り緩和、銀行依存の相対的減少、取引先銀行の整理などの事情から企業の銀行に対するいわゆる逆選択すら行われるようになり、大企業向け貸出口数は1万6千口減少した。

第89表 産業施設資金業種別供給実積

第90表 企業規模別貸出増加額の推移

業種別の運転資金の貸出し

 全国銀行の業種別貸出(運転資金)をみると、前年度において製造工業では1,280億円の増加であったが、商業部門は19億円減少した。これに対し30年度は商業部門が1,508億円増加し、製造工業は879億円の増加にとどまった。

 また銀行の運転資金貸出残高は平均で11.6%(前年度7.6%)増加した。そのうち商業部門は18.1%増加(前年度0.2%減少)し、製造工業は、6.7%(前年度10.8%)の増加率で、製造工業は平均以下であった。

 主要業種別に特徴をみると、第一には景気好転に伴い、商業部門の在庫投資需要の増加に応じて同部門への貸出しが目立って増加した。

 第二に、製造工業では区々の動きをしているが、それを三つのグループに分けてみると、(a)まず前年度にも業積不振で貸出増加がみられた一般機械や電気機械では、30年度は販売増加による増産のための貸出しがかなり増加した。また前年度に在庫減少のため貸出しが減少した織物、皮革でもかなり増加した。業積が安定している化繊で貸出しが増加しているのは、積極的増産資金の借入に基づくものと思われる。(b)これに対して鉄鋼、化学肥料、紙、パルプなどでは、前年度も比較的経営が安定していたために貸出しは微増にとどまったが、30年度は生産在庫の増加にかかわらず、輸出好調による販売の増加とユーザンスの活用を主因に鉄鋼は減少し、その他は微増にとどまった。(c)一方、前年度は在庫の増加に伴って貸出し増加がみられた紡積、石炭などでは、繰短と業積好転のために貸出しが減少した。

 第三に、その他金融保険、サービス部門、不動産などでは貸出し増加率が高くなっている。なお前年度に著増した地方公共団体への貸出しは30年度も約2割増加した。

第91表 昭和30年度全国銀行運転資金貸出増減率

貸出しがあまり増えなかった理由

 上半期の貸出しが鈍化したのは、次の諸事情によると思われる。

 第一に、上半期に生産活動が活発化したのは、主として輸出の増加した産業を中心とするものであって、その他の部面では全体的に景気の回復過程の域を脱せず、これに伴って資金需要も停滞的であったことである。第二に輸出関係の産業では、輸出増加によって滞貨が資金化し、また輸出代金はその回収が速く、収入面が好転した反面、支出面では操業度を上昇するだけで雇用賃金の増加や設備投資をする必要はまだあまりなく、また輸入原材料についてはユーザンスなどの利用も増えたこと、その他企業の拘束されていた預金が解除されたことによって、所要資金が少なくてすんだからである。

 また下半期の貸出しも輸出に加え、投資や消費の増加によって景気が上昇した割には伸びていない。その理由としては上昇期の通例として、商取引の円滑化によって企業間の信用が上半期よりさらに増加し、受取手形が増加した割にこれを手持する余裕があって割引に持込む必要が少なかったこと、企業の設備投資は増加傾向をみせたが、前述のように自己資金で賄われる割合が高かったこと、生産企業の在庫残高は目立った増加を示さず、在庫の回転率の上昇することによって資金の節約が可能であったことなどが考えられ、また総体として、数量景気の拡大に伴って企業利潤が増加し、企業資産が流動化したこと、さらにこれに伴い金融の緩慢化と相まって企業自体にいつでも借りられるとの一種の安心感も生じてきたこと、また一方物価の上昇も小幅にとどまったこと、などの事情によるものと思われる。( 第92表 参照)

第92表 企業経営指標と手形割引

預金

 昭和30年度の全国銀行実質預金は6,209億円増加し、29年度の増加(3,983億円)、28年度の増加(3,073億円)を著しく上回った( 第87表 参照)

 全国銀行預金種類別の動きをみると第93表のように、短期預金が強く伸びているのに対して長期預金の伸びはやや鈍化している。

第93表 全国銀行預金種類別対前期増減率

預金増加の源泉

 このような預金増加はどうして起こったのであろうか。預金の源泉は次の図に示すように第一は年々の所得でそれは賃金、賞与、利子、地代など個人の所得と追加投資さるべき企業の所得に分けられる。第二は所得と関係のない資本部分からの預金化で、過去に余分の在庫があったり、十分な固定資産を持ち差し当たって再投資の必要のない場合、これらが資金化されて預金となることが考えられる。このように預金の源泉は二つの部分からなっているが、預金が全体として増加するのは経済の規模が拡大し、年々の所得が増加する場合である。

第69図 預金の源泉

 もちろん預金の分析は上記の図式によって完全に説明しつくせない。なぜなら、例えば銀行の貸出しや有価証券投資が増加しその銀行またはどこかの銀行の預金の増加を生む場合があるからである。しかし、こうした振替は一般的景気の回復に伴って多少増える傾向にあったともいえるが、一応ここではこれを考慮外としておこう。

30年度の預金増加

 (上半期)上半期の個人所得は景気の停滞を背景に伸び悩みの状態であったので、貯蓄性向は若干上昇したとはいえ、個人所得からの預金増加は鈍化した。ちなみに全国銀行個人預金の増加は、第94表のように長期預金を中心に30年度上半期は前年同期に比して頭打ちとなっている。

 一方、産業及び商業部門の一部では、遊休資金が次のような諸事情で発生した。第一は、メーカー製品在庫の減少及び棚卸資産の回転率の上昇による運転資本部分の節約である。いままで製品在庫に固定していた資金が製品の販売によって流動化した他、棚卸資産の回転率が上昇したため、従来充用されていた資本部分が節約されて企業の余裕金となったことである。

 第二は、利潤率の上昇(売上高純利益率、29年度下期3.06%、30年度上期3.28%)によって、特に企業利得中の社内留保が増加したが、上半期には投資も全般的に低調であったから、一部の産業では、社内留保が余裕金となった例もみられた。

 なお大企業の余裕金の増加についていえば、企業間の信用の増加のなかで、大企業では買掛が売掛に対して相対的に増加していることも一つの源泉となっている。これらはそれだけ資本の節約を意味することになるだろう。もっとも、このように一部の大企業にみられた遊休資金は直接預金化される部分よりも借入金返済に向かったものが多かったと思われる。

 これに対して中企業以下の層では売上高の増加に伴ってかなりの預金増加をみたようであって総じて上半期についていえば、預金増加の主力はむしろ中小企業や個人所得の預金化にあったといえるであろう。

 (下半期)下半期に入ると一層の輸出増加を背景に、産業及び商業部門では引き続き棚卸資産の回転率の上昇が目立ち、また減価償却も増加し、利潤もさらに上昇傾向をたどった。これに伴って、大企業の預金も次第に増加してきた。

 一方中小企業では内需の増加に伴い売上利益が増え、その一部が預金化された。

 また個人預金は景気上昇によって一般に所得が増え、豊作に伴って農家所得も増大したので、銀行の個人預金は上半期の増加より約400億円増加した( 第94表 参照)。しかし、増加した農家所得のかなりの部分は、農業協同組合や郵便貯金に向けられたものが多かった。このように下半期の預金増加は中小企業や個人の他、上半期には微弱であった大企業についてもみられるようになり、総じて一般化する傾向を示したのである。

第94表 全国銀行個人預金増加額(億円)及び増加率

第95表 企業の在庫回転率と企業間の信用

預金超過

 金融機関の余裕資金、すなわち預金超過は、このような預金及び貸出しの趨勢に見合って起こったのである。もともと預金超過(貸出増加に対する預金増加の超過)が起こり得るのは、第一に不況期のように資本が遊休化する場合、第二は輸出超過によって追加的に通貨が供給される場合、あるいは一般に財政資金が日銀から調達されて、民間に散布される場合である。

 30年度では、端的にいえば前に述べたように、輸出の増加と豊作を主因に経済規模が拡大して企業や個人の所得からの預金が大幅に増え、また一部には資本部分からの預金化も行われる反面、企業の資金需要はそれほど活発ではなかったので預金超過となったのである。

金融緩慢化の所産

 以上のようにして生まれた預金超過-金融緩慢化が波及するところ、次のような一連の金融現象がうまれた。

日銀貸出の減少とオーバー・ローンの改善

 余裕資金の増加を背景に日銀貸出は29年度下期以降急速に減少傾向に転じた。この結果、日銀貸出残高は29年3月27日の4,374億円をピークとして31年3月末には273億円にまで減少した。

 一方オーバー・ローンの状態は、 第97表 のように26年3月には11大銀行で122%という状態に達していたが、これも29年度下期から解消の傾向をたどり始めた。30年3月にはオーバー・ローンの中心であった11大銀行のオーバー・ローンも104%にまで低下し、続いて7月にはついに100%を割った。年度末には92%となり、全国銀行平均は89%となって長年続いた銀行のオーバー・ローンは著しく改善された。

第96表 日銀貸出残高の推移

第97表 オーバー・ローン状況

コール資金の増加とコール・レートの低下

 日銀貸出の減少の反面、コール資金は29年度下期から増大した。しかしコール・レートは後述するように、30年の5月までは日銀2次高率にさや寄せされて下げしぶっていたが、6月に日銀の指導によって日歩2厘の引下げが行われ、その後さらに公定歩合の改訂と市場資金の増加によってコール・レートの実勢は急速に低下傾向をたどった。

第98表 コール資金月中平均残高及びコール・レート

貸出金利の低下

 さらに銀行貸出金利をみると、30年6月10日、銀行の並手形貸出金利の引下げ(日歩一厘)を契機として、その後長短金利の低下が続いている。なかでも興、長銀の電力向け長期貸出金利は30年7月、11月、31年1月及び4月と4回にわたって引き下げられ、この間日歩3銭1厘から2銭5厘と6厘方低下した。また30年10月から銀行の歩積、両建預金の自粛が強化され、預金担保貸出(1件300万円以上)の金利は、日歩1銭8厘から1銭7厘となった。

 表面基準金利が下がる一方、特に優良企業への貸出金利は実際的にはかなり低下しており、31年3月末の全国銀行貸出平均金利は日歩2銭3厘6毛で、30年5月(金利引下げ直前)に比べて日歩1厘強の低下となり、そのなかでも長期信用銀行の貸出金利の低下が著しい。また全国銀行中心金利は31年5月末日歩2銭4厘台から31年3月末には2銭2厘台に移っている。

社債、株式の利回り低下

 この間社債の発行者利回りは30年1月の11.39%から次第に低下し、31年4月には8.80%に引き下げられこれと平行して社債発行市場は漸次活発化するとともに、社債流通市場も再開されたのである。

 一方金融機関の株式投資も増加した。すなわち金融機関の株式保有は30年度中334億円の増加(29年度は193億円の増加)、全国銀行についてみても274億円の増加(29年度は92億円の増加)となった。

 また株式相場は企業収益の好転や金利の低下傾向を背景に、上述のような金融機関の買出動もあって夏頃から上昇し、東京証券取引所のダウ式平均株価は30年6月の354円から30年12月には409円となり、さらに31年に入ってからも続騰し、6月には500円の大台を突破した。

 その結果株式の平均利回りは、30年6月末の8.35%から31年6月末には6.05%に低下した。

日銀預け金、短期証券購入等の増加

 一方、緩慢化の拡大と日銀貸出の減少に伴って金融機関の日銀預け金や短期証券購入等が下半期から次第に増加している。

第99表 日銀預け金及び短期証券購入残高

金融機関に対する影響

 各種金融機関に対する金融緩慢化の影響は同一ではなかった。

 金融機関の資金ポジションは、総じて預金超過となり、大きく緩んだが、その影響が最も強く表にでたのは、従来から日銀借入の少なかった地方銀行であり、また農林金融系統機関の頂点に立つ農林中央金庫であった。都市銀行においても金繰りが楽になったことから貸出先の確保に異常な関心をみせるようになり、従来預金獲得競争に限られていた感のあった銀行間の競争は、貸出面、為替面にまで現れるに至り、いわゆる取引先の逆選択というような現象まででてきた。そうしてそのような競争のなかで地方銀行は次第に優良大企業取引先から締め出されるようになり、農林中央金庫は銀行引受手形の再割引などの余裕資金の運用先は狭められ、新しい苦労が生まれてきた。一方長期信用銀行や信託銀行は貸出金利の低下によって高いコストに見合う資金運用に困難を感じ、相互銀行などは貸出しを受けることの魅力の低下によってやや資金吸収力の弱化をきたしたようにみ受けられる。総じて金融の緩慢化は金融機関相互間の競争の激化を生み、また各種金融機関についてそれぞれ違った意味での資金繰りの悩みを発生することになったのである。

 他方、金融機関の収益についてみれば、貸出金利の低下に伴って金融機関の利鞘は総じて縮小傾向を示したが、その度合いは金融機関の種類によって同一ではなく、またそれを吸収する力にも違いがあった。都市銀行においては日銀借入金の返済、預金の増加や合理化による経費率の引下げなどによる資金のコストの低下によって利鞘の縮小に比較的楽に対処することができたが、日銀借入が少なく、コストの高い定期預金の増加率が大きかった地方銀行や、高い利回りの債券に資金源を求める長期信用銀行においてはより大きい苦労があった。さらに資金吸収に経費がかかり資金コストが高い相互銀行などにおいてもその悩みは同様であった。

第100表 経常純益及び利回りコスト

金利低下の過程

 金利低下の過程をたどるに先立ち、景気の局面を下降-不況-上昇-好況-下降の諸段階に分け、そのなかに現れている金利の推移をみると、金利は大体下降期に高くなって、不況期に最低点に落ちこんで以後上昇期の大半は完全な横ばいに推移し、その後好況局面に向かってやや急速に上昇傾向に移るのを常とするようである。

 下降期の高金利は好況期と違い、利潤率は低下しているが、滞貨、救済融資などの決済手段として貨幣需要が増加するからである。次に不況期には、低い利子率が経済活動の収縮と一致し、上昇期には一般に利潤率も漸増傾向にあって資金需要も商業を中心に増加するが、当初は銀行信用はまだ十分に拡大しないですんでいるので、金融は依然緩慢であり、金利も当分低い水準にとどまっており、上昇が相当進行するとともにやっと上向きの傾向をとり始める。

 ところが現状はどうかといえば、先にみたように金利低下の自然的傾向は上半期にはさして現れずに、皮肉にも景気上昇が明らかになった下半期以降になって現れてきている。このような金利の動きは何に基因しているだろうか。

 第一に、昭和30年6月の銀行並手形の1厘引下げや、その後の社債条件の改訂などは直接的に金利低下のキッカケとなった。だが、それがキッカケをつくるようになったのは次に述べるような余裕資金の増加という客観的条件があったからだ。

 そこで第二に、余裕資金の内容を検討してみよう。先に第87表でみたように銀行の余裕資金(実質預金-貸出有価証券投資増)は上半期に1,423億円に増加した。これに対し、下半期の余裕資金は 第101表 にみるように9~12月に増大し、ついで31年1、2月には、かなりの減少をみ、3月には再びゆとりがでたが、下半期全体としては余裕資金の増加額は712億円にとどまり、上半期の増加額には及ばなかった。しかしこの間を通じて金融緩慢化は著しく進行した。それは日銀貸出残高が先にみたようにほとんどなくなってきたからである。

第101表 余裕資金と過剰資金の推移(全国銀行)

 日銀借入返済は、もちろん銀行の積極的資金運用ではない。しかし大きな余裕資金を背景とした借入返済は、銀行の収益性からみれば低利回り資金運用に比べると金利負担の減少の点で消極的資金運用ともいえよう。従って同じく余裕資金といっても31年以降こうした日銀借入返済がなくなってきたときの余裕資金は、銀行にとっては収益面から運用先のない過剰資金ともいうべきものであって、それが日銀預け金、政府短期証券購入、コール・ローンなどとなって現れている。先の銀行資金吸収から資金運用を差し引いた余裕資金があっても、日銀借入返済が行われている限り、金融緩慢化は潜在的状態にとどまっているが、日銀借入残高が少なくなり真剣になって積極的に少しでも有利な運用先を考える必要がある資金、すなわち上に過剰資金と呼んだものが、増えるにつれて金融緩慢化は顕在化し、金利低下は急速に進んだ。この関係を大掴みに図式化すれば 第70図 のようになり、また、 第101表 は、この関係を数字的に示したものである。

第70図 余裕資金と過剰資金の推移

 かくて過剰資金がほとんどなかった上半期においては金利が低下せず、その反対に下半期以降は、一般に資金のゆとり(余裕資金)はあまり増えなかったにかかわらず、そのなかでそのままにはほっておけない過剰資金が増加したため、資金需給の最終段階では資金の緩みは痛切となり、金利低下の自然的圧力が加わってきたのである。

 第三に、こうした資金需給の緩みのなかで一方においては銀行の貸出競争が、他方においては企業の金利引下げ要求が強まっていることである。このように金利は次第に低下をみたとはいえ、金利水準の現状は、戦前に比べても、外国に比べてもいまだ高水準である。これは、戦後10年の資本不足のなかで温存され、また経済情勢の不安定性のなかに危険金利も加味されたことによるものであるといえよう。従って一方において据え置かれている預金金利の問題もさることながら貸出金利水準の低下は今後においても経済の正常化の一環として引き続き大きな要請であり、引下げに向かっての圧力は今後なお続くであろう。


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