昭和30年
年次経済報告
経済企画庁
金融
産業資金供給と国民貯蓄
産業資金供給状況
昭和29年度の産業資金供給は1兆10億円で前年度の1兆3,812億円を3,802億円下回った。
これを設備、運転資金別にみると、設備資金の割合が全体の60%を占め、前年度に比して比率が増大したが、その反面運転資金は全体の40%に圧縮された。
設備資金供給
設備資金供給総額は6,016億円で、前年度の7,079億円の85%に減少した。その調達源泉内訳をみると内部資金は、法人収益が減少したが減価償却が増加したため、前年度より6%増加し全体に占める比率では前年度の44%に対し55%となった。
外部資金調達では財政投資は前年度の82%に低下したが、金融引締めによってその他の資金供給も減少したので、全体に占める比重としては、16%とかなり高い率を示している。金融機関貸出は前年度の61%に、株式、社債による調達もかなり減少した。
以上のように設備資金供給は前年度の15%減にとどまったが、これは主として前年度から継続工事があったためで、新規投資は少なかった。
次に業種別資金調達額をみてみよう。
第86表 (開発銀行調)によれば、全体の設備資金は前年度の88%に減り、
(イ)そのうち電力、海運、鉄鋼、石炭の四大産業は85%に減少し、特に後の三者は70%以下に低下した。
(ロ)前年度に比し増加したものは、化学工業(化学肥料、石油精製、合成繊維)、窯業(セメント)、ガスの業種に過ぎず、これらはガスを除いて前年度からの継続として新増設工事が主要なものであった。
(ハ)これに対しその他はほとんど前年度に比し減少した。これら部門では一部に新設投資がみられたが規模としては前年度を下回った。
運転資金供給
運転資金供給は3,994億円で、前年度の60%に減少した。
運転資金の業種別供給金額を銀行貸出の面についてみると、前年度は製造工業と卸売及び小売業がそれぞれ1,440億円、1,550億円増加した。これに対し、29年度は製造工業は1,280億円増加し、卸及び小売業は19億円減少した。
運転資金の供給をさらに検討するため、年度間の増加率を業種別にみると、若干類型的な動きを見出すことができる。
銀行の運転資金貸出残高は平均で8%増加したが、
(イ)金融引締によって、流通在庫特に卸売在庫が圧縮され、卸売部門への貸出が減少するほか、織物、皮革などでも在庫の減少に伴って貸出しが減少した。
ロ)また、紙パルプ、化学肥料、化繊、医薬品のように比較的経営が安定していた業種においては借入も比較的微増にとどまった。
(ハ)しかしながら一般機械、電気機械、自動車、セメント、紡積、電気機具卸売、百貨店などには、在庫の増加や、業積の不振からかなり顕著な貸出増加がみられた。
(ニ)石炭、鉄鋼では年度の途中で在庫の増加や価格の低落のため借入がかなり増加したが、その後生産の縮小、或いは輸出の増加から在庫が減少したので、年度間としての貸出増加率は目立たなかった。なお造船は計画造船の遅延のため夏頃まで資金繰りに苦しんだが、その後輸出船の増加により資金繰りは緩和された。しかしその支払期間が長いので、貸出増加率はかなり高くなっている。
(ホ)最後に地方公共団体への貸出しは「財政」の項でもみたごとく地方財政の支出の増大と資金繰りの逼迫を反映して著増した。
国民貯蓄
29年度の国民貯蓄は8,604億円で、前年度のそれより245億円減少した。このような減少は法人貯蓄が緊縮政策の影響で、前年度の1,835億円から1,200億円に35%減少したためである。
しかし個人貯蓄は前年度の7,014億円から7,404億円に6%増加した。28年度の個人貯蓄も前年度のそれを7%上回ったが、しかしそれは個人所得が2割増加したことが背景となっていた。ところが29年度は個人所得は微増にとどまった。このような背景の差異を考えると、29年度の個人貯蓄はかなりの好成積だったということができよう。
このように個人貯蓄が増加したのは、「総説」でみたように、緊縮政策に即応して家計でも節約体制がとられたためである。
次に貯蓄形態別にみると、有価証券投資の比重が、前年度の16%から17%に上昇し、預金の比重が前年度の70%から69%に下がった。しかし保険の比重は12%から14%に上昇した。これらのうち大部分が個人の貯蓄とみられる郵便貯金、簡易保険、郵便年金及び生命保険は前年度の増加額を19%も上回った。また銀行預金も個人の定期性預金の増加額は前年度のそれに対し、23%上回った。
ただし中小企業金融機関の預金は中小企業の不振から前年度の増加額をかなり下回ることとなった。