昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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財政

地方財政

財政規模の膨張と赤字の現状

 緊縮政策の実施に当たって、国家財政規模は従来の膨張傾向から一転して29年度においては縮小に向かった。しかし地方財政規模は国の緊縮政策にもかかわらず、依然として増大を続け、 第68表 にみるごとく昭和29年度歳出総額は9,804億円と前年度計画額に比して約660億円の膨張となり、今やその規模は国家財政にほぼ匹敵するほどである。

第68表 地方財政規模の推移

 しかも財政規模の膨張に加えて毎年歳出が歳入を超過し、翌年度歳入の繰上充用、事業の繰越及び支払の繰り延べを合計したいわゆる実質的赤字額は自治庁で調査したところによると、 第69表 にみられるように28年度決算においては総額462億円に達し、毎年200億円に近い累増を続けてきた。また赤字団体数をみても総数では27年度の2,632団体から28年度の1,724団体へと減少しているが、これは主として「町村合併促進法」による町村合併が盛行した結果であって、都道府県では46団体中実に39団体が赤字となっている。

第69表 地方団体の赤字状況

 また29年度においては後述のように地方財源強化の諸措置がとられたが、29年年初の給与引き上げの平年度化、災害関係、あるいは財政能力をこえた事業の執行等を主因とする歳出の増大から実質的赤字額は前年度をかなり上回るものと予想されている。

 かように地方財政は今やまさしく危機的症状を露呈するに至ったので、その再建策が焦眉の問題となっている。

地方財政の現状

膨張をたどる歳出面

 まず歳出款別に戦前と比較してみると 第70表 に示すごとく議会費庁費、生活保護、住宅、労働関係の社会労働施設費、農林水産関係の産業経済費及び教育費が著しく増加し、その他はほぼ戦前並みである。ただ公債費は、戦前より減少してはいるが、累増傾向にあって後述のような問題をはらんでいる。

第70表 地方財政歳出の款別分類

 これら地方経費膨張の原因として考えられるものは、第一に地方行政事務の量的増加と複雑化である。これらのうちには地方公共団体の放漫化によるものもあるが、他面国が法令または一部国庫補助金制度を通じて統制しているために教育、厚生、労働、経済等の諸分野にわたって実施しなければならないものがかなり多い。第二に地方自治の原則による行政機構の拡充、複雑化が挙げられる。戦後の行政改革においては行政能率の点よりもむしろ民主化にその重点がおかれ、首長の公選制、各種委員会の設置、諮問機関の増加等が行われたため、議会費庁費等の顕著な増加を招く結果となっている。

 次に歳出を経費別にみると、 第71表 に示すごとく消費的支出が全体の60%以上で、しかも人件費が35%を占めており、また投資的経費では国の施策として行われている公共事業費が歳出の26%を占めているので、歳出が著しく弾力性に乏しいものとなっている。

第71表 地方財政歳出の経費別分類

 以上のように地方財政が弾力性を喪失し、経費膨張の傾向にあるのは、結局、戦後の地方行政制度の全面的な改革により、機構、人員が膨張したこと及び占領下における国地方を通ずる各種の行政施策に伴って歳出が増大したことによるものである。

貧困な財源面

 次に最近の財源構成及び戦前との比較は 第72表 に示す通りである。

第72表 地方財政の財源

 まず、歳入のうち最も自主的な財源である地方税の歳入総額中に占める比率は、28年度では31%とかなり貧弱ではあるけれども、戦前の23%に比べれば相当改善されている。しかし使用料、財産収入などのその他財源が戦前の40%から戦後は20%に低下してきているため、歳出膨張にみ合う不足財源はもっぱら国家財政からの補充という形式で増大してきているのがその特色である。地方税と地方財政平衡交付金を合わせたいわゆる一般財源の歳入総額中に占める比率は戦前の23%から28年度には44%へと大幅に上昇しその自主性が強化されてきた。それにもかかわらず、赤字団体数及び赤字額が漸次増加傾向にあるのは、結局、地方行財政制度にその大きな原因があるといわざるを得ない。

 なお29年度においては、地方財源をさらに強化するために煙草消費税、不動産取得税などの創設をみたほか、地方団体間の財源不均衡を是正するために入場譲与税、道路整備事業に対する財源として揮発油譲与税及び従来の平衡交付金制度を改正してその交付金を一定率で国税にリンクした地方交付税制度が設けられた。

地方団体の資金繰り─短期資金融通状況

 地方財政規模の膨張、これに伴う赤字の累増と関連して注目すべきは、地方公共団体の借り入れているいわゆる短期資金(年度内に償還すべき政府及び民間からの一時借入金)の動向である。

 民間資金を含めた総額について昭和27年度以降の経過をみると 第73表 に示すように、各年度とも12月がそのピークに達しているが、特に28年度においては全般的に前年同月を大幅に上回ったのに対し、29年度においてはその増加傾向が鈍化して9月以降は前年同月を若干下回っている。なおこの間短期資金の総額が各4月末において(年度末の3月は制度上政府短期資金が全部引き揚げられる建前から4月をとる)、27年171億円、28年300億円、29年425億円と、それぞれ26年度末の地方財政決算上の赤字(繰上充用)の63億円、27年度末の155億円、28年度末の256億円とその金額が互いに併行して増加しているのは、民間資金を含め短期資金として地方公共団体に融通されたものの下積みの部分が赤字の反映であることを示す一つの資料であろう。

第73表 地方公共団体に対する短期資金融通状況

 次に借入先別にみると、29年度に入ってからの資金運用部の引締めは顕著で資金需要最盛期の12月でも前年同月の約半分である。しかし今までのところ資金運用部の引締めはその他からの融資増加によって補われている形となっている。今後もさらに政府資金の引締めが続いた場合に、民間金融機関がどこまでこれに応じ得るかも問題であり、結局それから生ずる資金繰り難によって地方財政は健全化、緊縮化の方向へ向かわざるを得ないものとも予想される。

 ちなみに地方銀行の貸出総額中に占める地方公共団体向けの比率をみると、27年3月末1.9%、28年3月末2.7%、29年3月末3.7%、30年3月末4.5%と累増して、銀行資金繰りを圧迫しつつあるのが現状である。

地方財政調整制度をめぐる問題点

地方財政計画の検討

 現在の地方財政計画は元来平衡交付金の総額を決める目的で作られたものである。平衡交付金制度では一応標準的な行政を地方公共団体に対して保障するため、基準財政支出が基準財政収入を上回る場合にはその差額を交付金として国の予算に計上しようとする見地から、地方財政計画で地方財政全体の収支見積もりが作られた。この意味で地方財政計画はあくまでも交付金制度上の一つの技術的手段であった。ところが29年度から地方交付税制度に切り替わり、従来のように国が地方の歳入不足額を補填するという建前から法人税、所得税、酒税の一定割合を地方に交付し、この歳入の範囲内で、換言すれば「量入制出の原則」に立って地方財政の自主的運営を期待する建前に変わった。従ってこの際、国の財源といえども無限でなく地方公共団体の住民である国民によって負担されるのであるから、従来のように財政計画を基にして歳出増加にみ合う財源補填を万事国に求めるという安易な態度を捨てて可能な歳入の範囲内で行政内容の充実を図りながら歳出を調整してゆくという健全財政の態度に向かうべきであると思われる。

第74表 資金運用部引受地方債の金額別による件数の割合

地方債計画の検討

 地方財政計画においては、公共事業その他地方団体において支出を必要とする金額に対し、国からの補助金や地方団体の一般財源で、不足する分の穴うめ財源として地方債による収入が形状されている。従って補助事業をすれば、地方債が自動的につくことから地方側も補助金の獲得に懸命となるため、補助金は総花的に細分化され、これに伴って地方債も第73図のように細分化されている。その結果、資金運用部引受地方債の一件当たり100万円以下の件数が全体の約半分を占めるという現状で、その効率場の点からも問題となっている。加うるに、歳入総額中に占める地方債の比率は、既に述べたように戦後累増し、28年度には10%にも達している。これは戦前の27%に比べればまだよい。しかし、現在のように毎年1,000億円ずつ発行してゆけば、昭和36年には元利償還額が起債額を上回るというようなゆゆしい事態に陥り、起債の増加--公債費の過重という戦前の状態へ再び復帰することになる。こうした弊害を除くためには、地方債計画を地方財政計画のバランスのための補いとしてではなく、財政投融資の効率的運用の見地から決定する必要があろう。具体的には、第一に国と地方との間で事業費の分担制度となっている補助金制度を重点的に整理し、補助金のあるところ必然的に地方債がつくという傾向を是正して、地方財政規模の圧縮の方向へ向かうようにすべきである。第二に、地方債の零細化を是正して効率化を図るために、零細な額の事業は元来地方公共団体の自主財源で行うべきであるという観点から、従来の一件当たり30万円という最低限度は30年度から70万円に引き上げられたが、さらに引き上げる必要があろう。

第75表 地方債及び公債費の推移


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